1. 幼少期と柔道の始まり
サンネ・ファン・デイケは、幼少期から柔道競技の才能を発揮し、ジュニア時代から国内外の大会で実績を積み重ねてきた。この期間の経験が、その後のシニアキャリアにおける成功の基盤となった。
1.1. 出生と背景
サンネ・ファン・デイケは、1995年7月21日にオランダの北ブラバント州ヘースウェイク・ディンターで生まれた。彼女の氏名は、日本のメディアでは「サネ・ファンダイケ」や「サネ・ファンダイク」、「サンエ・ファンダイク」といった表記も見られる。彼女は主に女子70kg級で競技を行っている。
1.2. ジュニアおよびU23キャリア
ファン・デイケは、早い時期から柔道選手としての頭角を現した。
- 2011年には、ヨーロッパユースオリンピックフェスティバルの70kg級で3位に入賞したものの、同年の世界カデ柔道選手権大会では7位にとどまった。
- 2013年には、ベルギージュニア国際大会で2位の成績を収めた。
- 2014年には、ベルギージュニア国際大会で優勝し、さらにヨーロッパジュニア柔道選手権大会でも優勝を果たした。しかし、同年の世界ジュニア柔道選手権大会では再び7位に終わった。また、U23ヨーロッパ選手権では優勝を飾った。
- 2015年には、グランプリ・デュッセルドルフで3位となり、ヨーロッパジュニアでは2位に後退した。世界ジュニアでは個人戦で5位、団体戦では3位という結果を残した。
- 2016年には、ヨーロッパオープン・マドリードで優勝し、シニアへの移行期においても安定した成績を見せた。
2. シニアキャリア
サンネ・ファン・デイケ選手は、シニアの舞台に参入してからも、主要な国際大会で一貫して高いパフォーマンスを維持し、数々のメダルを獲得してきた。その活躍は、国際柔道界において彼女の地位を確固たるものにしている。
2.1. シニア初期の活躍 (2015年-2019年)
サンネ・ファン・デイケがシニア選手に転向した初期には、国際舞台で目覚ましい活躍を見せ、その実力を世界に示した。
- 2017年には、グランドスラム・パリで3位に入賞し、同年のヨーロッパ柔道選手権大会ワルシャワ大会では優勝を飾った。さらに、グランドスラム・エカテリンブルグでも優勝を果たすなど、国際大会での存在感を高めた。また、グランプリ・ハーグで2位となった。
- 2018年は、グランドスラム・デュッセルドルフで3位、グランプリ・フフホトで優勝、グランプリ・ブダペストで2位、グランプリ・ハーグで2位、ワールドマスターズ広州で3位と、安定して上位入賞を続けた。
- 2019年には、グランプリ・テルアビブで3位、ヨーロッパ競技大会(ヨーロッパ柔道選手権大会を兼ねる)ミンスク大会で2位、グランプリ・ザグレブで3位、グランドスラム・アブダビで2位の成績を残した。特にワールドマスターズ青島では、決勝でチームメイトのキム・ポリングに敗れ2位となった。
2.2. オリンピックと世界選手権 (2020年-2022年)
2020年から2022年にかけての期間は、ファン・デイケにとってオリンピックと世界選手権という柔道界の最高峰の舞台でメダルを獲得する重要な時期となった。
- 2020年には、ヨーロッパ柔道選手権大会プラハ大会で2位に入賞した。
- 2021年には、グランドスラム・テルアビブで3位となり、同年のヨーロッパ選手権リスボン大会では再び優勝を果たした。この活躍が、国内のライバルであるキム・ポリングを上回り、東京オリンピック代表に選出される決定打となった。世界選手権ブダペスト大会では、準決勝で大野陽子に逆転負けを喫したものの、最終的に3位となった。同年7月に日本武道館で開催された東京オリンピックでは、準決勝でミヒャエラ・ポレレスに敗れたが、銅メダルを獲得した。また、混合団体戦では5位だった。
- 2022年には、グランドスラム・テルアビブで2位、ヨーロッパ選手権ソフィア大会で2位となったが、グランドスラム・トビリシでは優勝を飾った。世界選手権タシケント大会では、準々決勝で敗れたものの、その後の3位決定戦で田中志歩が足を負傷したため棄権勝ちとなり、銅メダルを獲得した。この際、田中を抱き上げて畳から降りる姿が注目された。また、グランドスラム・バクーで優勝し、ヨーロッパ柔道混合団体選手権大会ではチーム・オランダの一員として2位となった。
2.3. さらなる成功と世界ランキング (2023年-現在)
2023年以降もサンネ・ファン・デイケは国際大会で輝かしい成績を残し、その実力は世界ランキングにも反映されている。
- 2023年には、グランドスラム・トビリシで2位、世界柔道団体選手権大会ドーハ大会では3位に入賞した。さらにグランドスラム・アスタナで2位、ヨーロッパ競技大会クラクフ大会の混合団体戦でも3位となった。ワールドマスターズブダペストでは、準決勝で世界チャンピオンの新添左季に反則勝ちするなどして優勝を果たした。ヨーロッパ選手権モンペリエ大会で3位となり、グランドスラム・東京では決勝で田中志歩を裏投で破り優勝した。
- 2024年には、グランドスラム・トビリシで2位となった。
- 国際柔道連盟(IJF)の世界ランキングでは、現在5041ポイントを獲得し、1位にランクされている(2024年9月16日現在)。
2.4. 2024年パリオリンピックと関連する出来事
サンネ・ファン・デイケは、2024年パリオリンピックの女子70kg級に出場したが、惜しくも銅メダルマッチで敗れ、5位に終わった。
準々決勝では新添左季を技ありで破る勝利を収めた。しかし、この試合の直後、ファン・デイケは礼をせずにすぐに観客を煽るようなジェスチャーを見せた。この行為は柔道の精神である「礼」に反するとして、柔道界内外から批判的な声が上がった。その後、準決勝でクロアチアのバルバラ・マティッチに敗れた。
パリオリンピック後、ファン・デイケは階級を78kg級に上げた。同年にはグランプリ・ザグレブで優勝を飾っている。
3. 私生活
サンネ・ファン・デイケは、自身のLGBTQ+としてのアイデンティティを公にしている。彼女はウェールズの柔道選手であるナタリー・パウエル(女子78kg級)と2018年から交際しており、パートナーシップを築いている。
4. 主な戦績
サンネ・ファン・デイケが柔道キャリアを通して参加した主要な国内外の大会における具体的な成績とメダル記録は以下の通りである。
70kg級での戦績
- 2011年 - ヨーロッパユースオリンピックフェスティバル 3位
- 2011年 - 世界カデ柔道選手権大会 7位
- 2013年 - ベルギージュニア国際 2位
- 2014年 - ベルギージュニア国際 優勝
- 2014年 - ヨーロッパジュニア柔道選手権大会 優勝
- 2014年 - 世界ジュニア柔道選手権大会 7位
- 2014年 - U23ヨーロッパ選手権 優勝
- 2015年 - グランプリ・デュッセルドルフ 3位
- 2015年 - ヨーロッパジュニア柔道選手権大会 2位
- 2015年 - 世界ジュニア柔道選手権大会 個人戦 5位、団体戦 3位
- 2016年 - ヨーロッパオープン・マドリード 優勝
- 2017年 - グランドスラム・パリ 3位
- 2017年 - ヨーロッパ柔道選手権大会 優勝
- 2017年 - グランドスラム・エカテリンブルグ 優勝
- 2017年 - グランプリ・ハーグ 2位
- 2018年 - グランドスラム・デュッセルドルフ 3位
- 2018年 - グランプリ・フフホト 優勝
- 2018年 - グランプリ・ブダペスト 2位
- 2018年 - グランプリ・ハーグ 2位
- 2018年 - ワールドマスターズ広州 3位
- 2019年 - グランプリ・テルアビブ 3位
- 2019年 - ヨーロッパ競技大会 2位
- 2019年 - グランプリ・ザグレブ 3位
- 2019年 - グランドスラム・アブダビ 2位
- 2019年 - ワールドマスターズ青島 2位
- 2020年 - ヨーロッパ柔道選手権大会 2位
- 2021年 - グランドスラム・テルアビブ 3位
- 2021年 - ヨーロッパ選手権 優勝
- 2021年 - 世界柔道選手権大会 3位
- 2021年 - 東京オリンピック 3位
- 2021年 - 東京オリンピック混合団体 5位
- 2022年 - グランドスラム・テルアビブ 2位
- 2022年 - ヨーロッパ選手権 2位
- 2022年 - グランドスラム・トビリシ 優勝
- 2022年 - 世界柔道選手権大会 3位
- 2022年 - グランドスラム・バクー 優勝
- 2022年 - ヨーロッパ柔道混合団体選手権大会 2位
- 2023年 - グランドスラム・トビリシ 2位
- 2023年 - 世界柔道団体選手権大会 3位
- 2023年 - グランドスラム・アスタナ 2位
- 2023年 - ヨーロッパ競技大会 団体戦 3位
- 2023年 - ワールドマスターズブダペスト 優勝
- 2023年 - ヨーロッパ選手権 3位
- 2023年 - グランドスラム・東京 優勝
- 2024年 - グランドスラム・トビリシ 2位
- 2024年 - パリオリンピック 5位
78kg級での戦績
- 2024年 - グランプリ・ザグレブ 優勝
5. 評価と影響
サンネ・ファン・デイケ選手のキャリアは、競技成績のみならず、柔道界およびより広範な社会に多大な影響を与えている。その行動は功績として称賛される一方で、時には批判や論争の対象となることもある。
5.1. 功績と貢献
サンネ・ファン・デイケは、長年にわたり柔道女子70kg級の世界トップランカーとして活躍し、オリンピックでの銅メダルや世界選手権での複数回のメダル獲得など、安定して高い競技力を維持している。彼女の consistentなパフォーマンスは、オランダ柔道界に大きく貢献している。
また、彼女が公にレズビアンであることを表明していることは、スポーツ界におけるLGBTQ+アスリートの可視性を高め、多様性と包容性の重要性を社会に訴える上で重要な役割を果たしている。彼女の存在は、多くの若いアスリート、特に性的少数者である人々にとって、希望と勇気の象徴となっている。
2022年世界柔道選手権大会の3位決定戦で、対戦相手の田中志歩が負傷棄権した際に、田中を抱き上げて畳から降りるというスポーツマンシップに則った行動を見せたことは、柔道が重んじる礼節と相手への敬意を体現するものとして、国内外から高い評価を受けた。
5.2. 批判と論争
サンネ・ファン・デイケは、2024年パリオリンピックの女子70kg級準々決勝で日本の新添左季に勝利した際、試合直後に礼をせずにすぐに観客を煽るようなジェスチャーを行った。この行動は、柔道の精神である「礼」や「尊重」に反するとされ、日本の柔道関係者や多くのファンから強い批判を浴びた。柔道は単なる格闘技ではなく、精神修養と礼節を重んじる武道であるため、このような振る舞いは特に注目され、議論の対象となった。この一連の出来事は、国際的な競技においてスポーツマンシップがどのように解釈され、実践されるべきかという問いを提起する一例となった。
6. 関連項目
- 柔道家一覧
- 2020年東京オリンピックの柔道競技
- LGBT
- ナタリー・パウエル