1. 概要
ヨルディ・クラーシは、1991年6月27日にオランダのハールレムで生まれたプロサッカー選手である。主にミッドフィールダーとしてプレーし、現在はエールディヴィジのAZアルクマールに所属している。身長は169 cm、体重は69 kgで、右利きである。クラーシは、フェイエノールトのユースアカデミーで育ち、SBVエクセルシオールへのローン移籍を経て、フェイエノールトのトップチームで頭角を現した。その後、プレミアリーグのサウサンプトンFCに移籍し、クラブ・ブルッヘへのローン移籍を経験した後にフェイエノールトに復帰。最終的にAZアルクマールへ完全移籍した。オランダ代表としても活躍し、2014 FIFAワールドカップでは3位入賞に貢献した。そのプレースタイルから「オランダのシャビ」と称され、ゲームマネジメント能力と正確なパスが特徴である。
2. 生い立ちとサッカーへの道のり
ヨルディ・クラーシは1991年6月27日にオランダのハールレムで生まれた。彼のサッカーキャリアは故郷のハールレムで始まり、HVV DSKでサッカーを始め、その後HFC EDOを経て、2000年に11歳で参加した大会でフェイエノールトのスカウトの目に留まり、同クラブへの移籍が決まった。
クラーシのサッカーへの道のりには、家族、特に父親の強い支えがあった。彼はフェイエノールトのユースチームに入った後、毎日ハールレムからロッテルダムまで電車で通学するか、息子をプロサッカー選手にしたいと願う父親の運転する車で通った。クラーシ自身も父親と同様に家族を大切にする人物であり、兄弟と特に父親が彼にとって全てに近い存在であることから、彼らの名前をタトゥーにして体に刻んでいる。
また、クラーシの才能は幼い頃から見抜かれていた。彼の父親の友人であり、元オランダ代表のレジェンドであるウィレム・ファン・ハネヘムは、ハールレムの路上でフットボールをする小さなクラーシを度々見かけ、彼に最初のサッカーシューズを贈ったという。ファン・ハネヘムは、その時すでにクラーシが大きなポテンシャルを秘めていることを見抜いていた。
2.1. ユースキャリア
2000年の夏に9歳でフェイエノールトのユースアカデミーに入団したクラーシは、そこで才能を開花させていった。ユース時代には、その小柄な体格からトップ選手になれるか疑問視する声も多かったが、育成責任者であるステンリー・ブラルトが彼のフットボール能力を高く評価し、クラーシのための特別メニューを組むなど尽力した。
クラーシはU-17チームへ昇格し、そこではレロイ・フェル、ルク・カステグノス、ステファン・デ・フライ、エルヴィン・ムルデル、リッキー・ファン・ハーレン、シャビル・イソフィといった多くの才能ある選手たちと共にプレーした。特に、ファン・ハーレンとイソフィと共に中盤を形成した。クラブの財政難により、Aユニオールの多くの選手がトップチームへ昇格していたため、クラーシは2008-09シーズンにA1とA2の両チームでキャプテンとしてプレーし、シーズン中に2枚のカンピューン・スハール(リーグ優勝盾)を掲げた。
3. クラブキャリア
ヨルディ・クラーシは、プロサッカー選手として複数のクラブで活躍し、そのキャリアを通じて重要な役割を担ってきた。
3.1. SBVエクセルシオール
2010年の夏、クラーシはフェイエノールトからSBVエクセルシオールにローン移籍した。彼は同年8月15日にプロデビューを果たし、フェイエノールトとのロッテルダムダービーで先発出場し、3-2の勝利に貢献した。その1週間後にはNECナイメヘンを相手にプロ初ゴールを記録。エクセルシオールでは不動の先発選手となり、リーグ戦で32試合に出場し2得点を記録した。
3.2. フェイエノールト
2011年の夏にフェイエノールトに復帰したクラーシは、新監督ロナルド・クーマンのもとでプレシーズンからすぐに先発の座を掴んだ。7月31日にはマラガCFとの親善試合でフェイエノールトでのデビューを飾り、エクセルシオール戦で公式戦デビューを果たした。その後、FCフローニンゲン戦でフェイエノールトでの初ゴールを決めると、シーズンを通じてわずか1試合の欠場に留まり、エールディヴィジ屈指のミッドフィールダーへと成長した。その活躍が認められ、De Telegraafなどが主催するエールディヴィジ年間最優秀選手ランクで2位となり、シルバーブーツを受賞。この賞を彼に授けたのは、幼い頃から彼を指導してきたウィレム・ファン・ハネヘムだった。
2012-13シーズンには、背番号を前シーズンの「16」から「6」に変更し、ステファン・デ・フライに次ぐ第2キャプテンを任された。デ・フライが負傷で離脱した期間はキャプテンマークを巻いてチームを牽引した。このシーズンは足首、肩、鼻の負傷に苦しみ、決して最高のパフォーマンスではなかったものの、33試合に出場し、チームで2番目に長い出場時間を記録した。2013年7月6日にはフェイエノールトと4度目の契約延長に合意し、2016年まで契約を延長した。
2013-14シーズンもチームが不安定な中で本来のパフォーマンスを発揮できない時期があったが、次第に調子を取り戻し、3月9日のFCフローニンゲン戦からキャプテンに就任した。このシーズンもアルヘメーン・ダッハブラットとフットボール・インターナショナルの年間最優秀選手ランクでどちらも2位と高い評価を得た。
2014年夏の移籍市場ではFCポルトから強い関心を受けたが、移籍金で合意に至らず、フェイエノールトが6年ぶりにUEFAヨーロッパリーグのグループステージ進出を決めたことで残留を選択した。同年8月29日、クラーシはフェイエノールトがヨーロッパリーグのグループステージ進出を決めた翌日に、2018年までの契約延長に合意した。彼は、チーム全体と共に選手として成長していくことを望んでいると説明した。このシーズン、名実ともにリーダーへと成長し、ピッチ内外でチームを牽引。シーズン序盤の低迷期にあったチームを落ち着かせた。2014 FIFAワールドカップからわずか1週間の休暇でチームに合流するという過酷なスケジュールにもかかわらず、次第に調子を上げ、第10節のカンブール戦ではフットボール・インターナショナルで週間最優秀選手に選ばれ、第19節のアヤックス戦でも好パフォーマンスを見せ、再びフットボール・インターナショナルで週間最優秀選手に選出された。さらに、アルヘメーン・ダッハブラッドからは10月と1月の月間最優秀選手に選ばれた。シーズン終盤にはチームの失速と呼応するように自身も調子を落としたが、シーズン全体ではアルヘメーン・ダッハブラッドとフットボール・インターナショナルの年間最優秀選手ランクでどちらも2位と高い評価を得た。
3.3. サウサンプトンFC

2015年7月15日、クラーシはサウサンプトンFCに5年契約で移籍した。移籍金は推定約800.00 万 GBP(約1500.00 万 EUR)と報じられており、これにより彼は再びロナルド・クーマン監督のもとでプレーすることになった。フェイエノールトはボーナスを除いて約1280.00 万 EURを受け取り、そのうちエクセルシオールが5%、タレントプールが18.33%を受け取った。2017年夏にはクラーシがボーナス条件を満たしたことで、移籍金の総額が1500.00 万 EURに達し、フェイエノールトのクラブ史上最高額と報じられた。
2016年夏にフランス人監督クロード・ピュエルがサウサンプトンを率いることになった。クラーシは2016年11月30日、EFLカップのアーセナル戦でクラブ初ゴールを記録し、2-0の勝利に貢献した。彼の創造性は、サウサンプトンが2017年のリーグカップ決勝に進出する上で重要な役割を果たしたが、チームは準優勝に終わった。2017年4月8日には、プレミアリーグでの初ゴールをウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン戦で決め、1-0の勝利に貢献した。しかし、次第に出場機会を失っていった。
3.4. クラブ・ブルッヘ
2017年8月30日、クラーシは2017-18シーズン期間中、クラブ・ブルッヘにローン移籍した。
3.5. フェイエノールト(ローン復帰)
サウサンプトンで出場機会を失ったクラーシは、2017-18シーズン後半のクラブ・ブルッヘへのローン移籍を経て、2018年夏にフェイエノールトへの復帰を強く要望した。サウサンプトン側はクラーシを留めようとしたが、本人の意向を尊重し、フェイエノールトもカリム・エル・アフマディの移籍を受けて代役としてクラーシの帰還を望んだため、7月25日にローン移籍が発表された。以前の背番号「6」が埋まっていたため、エル・アフマディが付けていた「8」に決定した。
3.6. AZアルクマール

2019年7月22日、クラーシはAZアルクマールと2年契約を結び、サウサンプトンを自由移籍で退団した。
4. 代表経歴
ヨルディ・クラーシは、オランダの各年代別代表チームでプレーした後、A代表に招集され、主要な国際大会にも出場した。
4.1. オランダU-21代表
SBVエクセルシオールでのプロデビューから2ヶ月後の2010年11月、クラーシはオランダU-21代表に選出された。
4.2. オランダ代表
2012年2月、オランダA代表の監督であったベルト・ファン・マルワイクはクラーシへの関心を示し、彼をユーロ2012の予備登録メンバーに含めた。
クラーシはルイス・ファン・ハール監督率いる2014 FIFAワールドカップのオランダ代表23名に選出され、ブラジルでの本大会に出場した。オランダは同大会で前回王者スペインや開催国ブラジルを破り、3位という好成績を収めた。クラーシは大会中に2試合に出場した。準決勝のアルゼンチン戦ではナイジェル・デ・ヨングとの交代で途中出場し、3位決定戦のブラジル戦では先発出場し、オランダが3-0で勝利するのに貢献した。
国際Aマッチには通算17試合に出場している。
5. プレースタイルと評価
ヨルディ・クラーシは主に守備的ミッドフィールダーとしてプレーし、そのプレースタイルは「オランダのシャビ」と称される。これは、彼の闘争心溢れるミッドフィールダーとしての能力と、ゴールへの嗅覚を併せ持つことに由来する。また、アンドレア・ピルロの後継者としても比較されることがある。
彼は中盤の底でゲームをコントロールする役割を得意としており、小柄な体格(身長169 cm、体重69 kg)ながらも競り合いに負けないフィジカルと、前線への守備のタイミングを見極める視野の広さで相手からボールを奪う。密集地帯でもボールを奪われないボールコントロールの技術と、数十メートル先へ正確なパスを送るキックテクニックを兼ね備えている。利き足は右足である。
元オランダ代表のレジェンドであるウィレム・ファン・ハネヘムは、クラーシを自身のかつてのチームメイトであるビム・ヤンセンに例え、「彼も繋ぎ役の選手だ。多くのものが見えており、テクニックを備えているから競り合わなくてもボールを奪うことができる。そして何より重要なのは、常に前を見て、ボールを前へと運ぼうとする選手だということ」と評した。ファン・ハネヘムは、クラーシがオランダ代表デビュー戦のトルコ戦で低調な出来だった際にも、「彼は司令塔(spelverdeler)ではなく、黄金の繋ぎ役(verbindingsspeler)だ。だから彼のプレーは周りの選手たちの能力に大きく影響されるんだ」と擁護し、チームメイトの支援を受けられなかったクラーシの状況を説明した。その言葉の通り、クラーシは数日後のハンガリー戦では活躍を見せた。
フェイエノールトの監督であったロナルド・クーマンもクラーシをチームに欠かせない重要な選手と認めつつ、「彼の存在が効果を発揮するのは、チームがコンパクトなプレーでスペースを狭められている時だ。そういう時には彼は最高の力を発揮し、常にフリーマンを見つけることができる。しかし、スペースが大きくなると彼にはまだそれを上手く埋めるだけの能力が無いため、彼は難しい状況になるんだ」と、彼のプレーがチームの状況に大きく左右されることを指摘している。
6. 成績
6.1. クラブ
クラブ | シーズン | リーグ | カップ | 欧州 | その他 | 合計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
エクセルシオール (ローン) | 2010-11 | エールディヴィジ | 32 | 2 | 1 | 0 | - | 2 | 0 | 35 | 2 | |
フェイエノールト | 2011-12 | エールディヴィジ | 33 | 3 | 0 | 0 | - | - | 33 | 3 | ||
2012-13 | 33 | 2 | 2 | 0 | 4 | 0 | - | 39 | 2 | |||
2013-14 | 32 | 1 | 3 | 0 | 2 | 0 | - | 37 | 1 | |||
2014-15 | 31 | 2 | 1 | 0 | 12 | 0 | 2 | 0 | 46 | 2 | ||
合計 | 129 | 8 | 6 | 0 | 18 | 0 | 2 | 0 | 155 | 8 | ||
サウサンプトン | 2015-16 | プレミアリーグ | 22 | 0 | 2 | 0 | 1 | 0 | - | 25 | 0 | |
2016-17 | 16 | 1 | 6 | 1 | 2 | 0 | - | 24 | 2 | |||
合計 | 38 | 1 | 8 | 1 | 3 | 0 | - | 49 | 2 | |||
クラブ・ブルッヘ (ローン) | 2017-18 | ベルギー・プロリーグ | 20 | 0 | 5 | 1 | 0 | 0 | - | 25 | 1 | |
フェイエノールト (ローン) | 2018-19 | エールディヴィジ | 33 | 1 | 5 | 0 | 2 | 0 | - | 40 | 1 | |
AZ | 2019-20 | エールディヴィジ | 18 | 0 | 3 | 0 | 11 | 0 | - | 32 | 0 | |
2020-21 | 8 | 1 | 1 | 0 | 2 | 0 | - | 11 | 1 | |||
2021-22 | 30 | 1 | 4 | 0 | 8 | 1 | 4 | 1 | 46 | 3 | ||
2022-23 | 33 | 3 | 2 | 0 | 18 | 0 | - | 53 | 3 | |||
2023-24 | 28 | 2 | 3 | 0 | 8 | 0 | - | 39 | 2 | |||
2024-25 | 21 | 0 | 3 | 0 | 8 | 1 | - | 32 | 1 | |||
合計 | 138 | 7 | 16 | 0 | 55 | 2 | 4 | 1 | 213 | 10 | ||
キャリア通算 | 390 | 19 | 41 | 2 | 78 | 2 | 7 | 1 | 517 | 24 |
6.2. 代表
代表チーム | 年 | 出場 | 得点 |
---|---|---|---|
オランダ | 2012 | 2 | 0 |
2013 | 4 | 0 | |
2014 | 5 | 0 | |
2015 | 2 | 0 | |
2016 | 4 | 0 | |
合計 | 17 | 0 |
7. 受賞歴
ヨルディ・クラーシは、そのキャリアを通じて以下のチームおよび個人の受賞歴を誇る。
- フェイエノールト
- ヨハン・クライフ・スハール: 2018
- サウサンプトン
- EFLカップ準優勝: 2016-17
- クラブ・ブルッヘ
- ベルギー・プロリーグ: 2017-18
- オランダ
- FIFAワールドカップ3位: 2014
8. 個人的なエピソード
- クラーシが11歳の時、アヤックスも彼に関心を示し、獲得を打診する手紙を送ってきた。距離的にはアヤックスの方が近かったかもしれないが、クラーシは後に「普通ならアヤックスを選ぶのが当然だろうけど、僕にはそうは感じられなかった。僕の心には最初の瞬間からフェイエノールトがマイン・クラブとして刻まれていたんだ」と語り、フェイエノールトを選んだ。
- クラーシは18歳の時に右腕に家族の名前と共に「You mean everyting in my life」という文字をタトゥーで入れたが、2012年にオランダのテレビ番組に出演した際にネットに流れた画像から「everyting」が「everything」のスペルミスであることが指摘され、何年も経って初めてその間違いに気付いた。この件は新聞などのメディアでも話題になったが、クラーシは「僕の注意が足りなかった」とタトゥーを入れてくれた相手を責めず、後日同じ彫り師に正しいスペルに修正してもらった。
- フェイエノールトの文化である「不言実行」を彼自身も大切にしており、大口を叩くことはほとんどない。その一方で、感情的な人間であることを本人も認めており、2012年のフットボール・ガラでシルバーブーツを受賞した際のスピーチや、2014 FIFAワールドカップ前にウィレム・ファン・ハネヘムからビデオメッセージをもらった際、フェイエノールトでの2013-14シーズン最後のロナルド・クーマンとの別れのセレモニーの際、そしてサウサンプトンの選手として2015年のプレシーズンにデ・カイプでフェイエノールトとのお別れ試合を行った際など、度々涙を堪えきれない姿を見せている。
- 2015年のプレシーズン、サウサンプトンがデ・ルテでトレーニングキャンプを行っていた際、ホテルに帰るために用意されたマウンテンバイクにアヤックスのステッカーが貼ってあったため(デ・ルテの施設はアヤックスも伝統的に使用している)、クラーシは乗るのを拒否した。結局、スタッフがステッカーを剥がしてくれた後に乗車した。
- 彼のファミリーネームのアクセントは第1音節にあるが、日本では「クラシー」と表記されることもあり(-ieは通常長音では発音されない)、その場合は本来の発音には存在しない母音にアクセントが置かれることになる。
9. 外部リンク
- [https://www.southamptonfc.com/news/2019-07-22/announcement-jordy-clasie-southampton-az-alkmaar-transfer サウサンプトンFCによるAZアルクマール移籍発表]
- [https://www.feyenoord.nl/nieuws/nieuwsoverzicht/ras-feyenoorder-jordy-clasie-keert-terug-in-de-kuip フェイエノールトによるローン復帰発表]
- [https://www.ad.nl/nederlands-voetbal/clasie-blij-met-contract-bij-az-ik-wilde-per-se-naar-nederland~a4ee4ae8/ AD.nlによるAZアルクマール契約記事]
- [https://eu-football.info/_player.php?id=27910 EU-Football.infoにおけるヨルディ・クラーシのプロフィール]
- [https://www.national-football-teams.com/player/48492/Jordy_Clasie.html National-Football-Teams.comにおけるヨルディ・クラーシのプロフィール]
- [https://www.vi.nl/spelers/jordy-clasie/profiel Voetbal Internationalにおけるヨルディ・クラーシのプロフィール]
- [https://www.onsoranje.nl/team-statistieken/teams/speler/11/50a3c219-cf77b158-673392 OnsOranjeにおけるヨルディ・クラーシのプロフィール]