1. Biography
カレル・ヤロミール・エルベンは、その生涯を通じて学問への深い情熱と才能を示し、チェコ文化と民族の発展に尽くした。幼少期からの健康上の課題を抱えながらも、彼は広範な学問分野を修め、チェコの国民的機関で重要な役割を担った。
1.1. Birth and Early Life
エルベンは1811年11月7日に、ジチーン近郊のミレティーンで生まれた。彼は生まれつき体が弱く、生涯にわたって肺血管障害や、それに伴う発声および言語障害に苦しんだ。しかし、このような健康上の困難にもかかわらず、彼は学問に対する並外れた熱意と才能を示した。
1.2. Education
彼はまずフラデク・クラーロヴェーの神学校に進学し、その後1831年にプラハへ移り、カレル大学で哲学、法学、文学、文献学などを修めた。プラハでの学生時代には、当時のチェコ民族復興運動やロマン主義運動の主要な代表者であったヨーゼフ・カエタン・ティルやカレル・ヒネク・マーハらと出会い、「詩人-愛国者」という典型的な道を歩むことになった。
1.3. Career
1843年、エルベンはフランティシェク・パラツキーの指導のもと、国民博物館の研究員として働き始めた。1848年にはプラハの新聞の編集者に転身したが、1850年には国民博物館に復帰し、古文書保管所の秘書となった。彼はこの職務を通じて、チェコの歴史的文書の保存と研究に貢献した。
1.4. Death
エルベンは1870年11月21日に肺結核のため死去した。彼の死は、チェコ文化と学術界にとって大きな損失であった。
2. Literary and Academic Activities
エルベンは、多岐にわたる文学的および学術的活動を通じて、チェコ文化の発展に計り知れない貢献をした。彼の作品は、後世の芸術家たちにも大きな影響を与えている。
2.1. Poetry and Kytice
エルベンの文学者としての最も有名な業績は、詩集『詩の花束』(Kytice z pověstí národníchチェコ語、初版1853年、改訂版1861年)である。この詩集は、伝統的な民話や伝説を題材とした13篇の文学的バラッドから構成されており、チェコ文学におけるロマン主義の重要な作品とされている。収録されている主要なバラッドは以下の通りである。
- 花束(エルベンによる序詞)Kyticeチェコ語
- 財宝 Pokladチェコ語
- 花嫁衣装 Svatební košileチェコ語
- 昼霊(真昼の魔女)Poledniceチェコ語
- 金の糸車 Zlatý kolovratチェコ語
- クリスマス・イヴ Štědrý denチェコ語
- 野鳩 Holoubekチェコ語
- ザーホシュのベッド Záhořovo ložeチェコ語
- 水の精(河童)Vodníkチェコ語
- 柳 Vrbaチェコ語
- 百合 Lilieチェコ語
- 娘の呪い Dceřina kletbaチェコ語
- 巫女 Věštkyněチェコ語
これらの詩は、後のアントニン・ドヴォルザークの晩年の交響詩やズデニェク・フィビフのメロドラマの題材となるなど、チェコの音楽や芸術に多大な影響を与えた。
2.2. Folklore Research and Collections
エルベンは、チェコの民俗学および民族誌学の創始者の一人として、その学問体系の構築に大きく貢献した。彼は生涯を通じて、チェコの民謡、童謡、童話、説話、伝説、神話、ことわざなどの収集と研究に尽力した。彼の主な民俗学関連の出版物には以下のものがある。
- 『チェコにおける民族詩』(Písně národní v Čecháchチェコ語、1842年 - 1845年):500の民謡を収録。
- 『素朴な民族の小唄とわらべ歌』(Prostonárodní české písně a říkadlaチェコ語、1864年):チェコの民話を5部にまとめたもの。
- 『スラヴ諸語の百の素朴な民話と伝説』(Sto prostonárodních pohádek a pověstí slovanských v nářečích původníchチェコ語、1865年):副題の『スラヴ読本』(Čitanka slovanskáチェコ語)としても知られ、グリム兄弟の童話集に影響を受けている。この中には、アルバート・ヘンリー・ラティスラフによって英語に翻訳された「長身、広身、鋭い目」などの作品が含まれる。この全巻はW. W. ストリックランドによって翻訳され、『汎スラヴ民俗学』(Panslavonic Folk-lore英語)として1930年に出版された。
- 『スラヴ諸民族の民話と伝説選集』(Vybrané báje a pověsti národní jiných větví slovanskýchチェコ語、1869年)
- 『チェコの童話』(České pohádkyチェコ語)

2.3. Translations and Other Writings
エルベンは、民俗学研究や詩作の他にも、翻訳作業、歴史研究、ジャーナリズム活動など、多岐にわたる学術的および言論活動を行った。彼は言語学者としても知られ、スラヴ諸語への深い関心から、スラヴ民族の物語や伝説の収集・出版に尽力した。彼の学術的な貢献は、チェコ中世文学の研究と出版にも及び、この分野の基礎を築いた。
3. Ideology and National Movement
カレル・ヤロミール・エルベンは、19世紀中盤のチェコにおける重要な思想的・文化的運動に深く関与し、その推進に貢献した。
3.1. Czech National Revival
エルベンは、チェコ民族復興運動の熱烈な支持者であり、その第三期を代表する人物の一人であった。彼は「詩人-愛国者」という理想を体現し、チェコ語の復興と民族的アイデンティティの確立のために尽力した。彼の民俗学研究や作品は、チェコ民族の豊かな文化遺産を保存し、国民意識を高める上で不可欠な役割を果たした。彼は学術者として民族への奉仕を最優先し、その活動を通じてチェコ文化の独自性と価値を国内外に知らしめた。
3.2. Slavophilism and Pan-Slavism
エルベンは、イリュリア運動やロシアのスラヴ主義に共感を抱くなど、スラヴ民族全体への深い関心を持っていた。彼は、スラヴ諸国の定着した人口に対するスラヴ主義の理念に共鳴し、その理想の実践者として、スラヴ諸語の民話や伝説を原語のまま収集し、『スラヴ諸語の百の素朴な民話と伝説』を出版した。この活動は、スラヴ民族の文化的連帯を促進し、汎スラヴ主義的な思想の一端を担うものであった。
4. Evaluation and Legacy
カレル・ヤロミール・エルベンの業績は、チェコ文化と学術界に永続的な遺産を残した。彼の貢献は、文学、音楽、そして学問分野の基礎を築く上で極めて重要である。
4.1. Foundation of Folklore and Ethnology
エルベンは、チェコ民俗学および民族誌学の先駆者として、これらの学問分野の体系構築に決定的な貢献をした。彼の民謡、童謡、童話、伝説、神話などの広範な収集と研究は、チェコの口承文学の貴重な記録となり、後世の研究の基礎を築いた。また、彼はチェコ中世文学の研究と出版にも大きく貢献し、失われつつあった歴史的文書の保存と普及に尽力した。彼の学術的厳密さと民族への奉仕の精神は、多くの学者に影響を与えた。
4.2. Impact on Literature and Music
エルベンの代表作である詩集『詩の花束』は、チェコ文学史における不朽の古典として高く評価されている。この作品は、その文学的価値だけでなく、後世の芸術家たちにも大きなインスピレーションを与えた。特に、アントニン・ドヴォルザークが『詩の花束』に収められた詩を題材に交響詩を創作したことや、ズデニェク・フィビフがメロドラマの題材としたことは、エルベンの作品が音楽分野に与えた影響の大きさを示している。彼の作品は、チェコ文化全般にわたる芸術的表現の源泉となり、国民的アイデンティティの形成に寄与し続けている。