1. 概要

シロ人アヒヤ(אֲחִיָּה הַשִּׁילֹנִיʾĂḥīyyā hašŠīlōnīヘブライ語、Achiasアキアスラテン語)は、旧約聖書の『列王記』に登場するレビ人の預言者である。彼はソロモン王の時代にシロで活動し、イスラエル王国の歴史における重要な転換点に深く関わった。アヒヤは、後に北イスラエル王国の初代王となるヤロブアム1世に対し、イスラエル王国が分裂し、ヤロブアムが10部族を統治することを預言したことで知られる。また、ヤロブアムの息子の死や、ヤロブアム家の滅亡、そしてイスラエルの捕囚をも予言した。
聖書には、彼が著したとされる『シロ人アヒヤの預言』(『ソロモン行録』とも呼ばれる)という書物が言及されているが、これは現存しない非正典の書物である。ラビ文学においては、アヒヤは非常に長寿であったとされ、アダムやメトシェラのような古代の族長たちと並び、神聖な知識の伝承者の一人として位置づけられている。また、マイモニデスは彼をモーセの弟子であり、ダビデの法廷の一員、そしてエリヤの師であったと記している。
2. 聖書における役割
シロ人アヒヤは、旧約聖書において、イスラエル王国の運命を左右する重要な預言者として登場する。彼の預言と象徴的な行動は、王国の分裂とヤロブアム家の興亡に直接的な影響を与えた。
2.1. 預言と活動
アヒヤは、ソロモン王の治世末期に、まだ臣下であったヤロブアム1世に対して、神からのメッセージを伝えた。彼はヤロブアムが将来、北イスラエル王国の王となることを明確に預言した(『列王記上』11章29節)。この預言は、ソロモンが神の律法から離れたことに対する神の審判として告げられたものであった。
アヒヤの預言は二つの主要な出来事に関係している。一つは、イスラエル王国が分裂することである。『列王記上』11章31節から39節にかけて、アヒヤはヤロブアムに対し、ソロモンの統一王国から北部の10部族が分離し、北イスラエル王国を形成すると告げた。これは、ソロモンが異国の妻たちのために偶像礼拝を許したことへの神の裁きであったが、ダビデとの契約ゆえに、ユダ族だけはダビデの子孫の支配下に残されることも預言された。
二つ目の預言は、ヤロブアムの息子アビヤの死と、ヤロブアム家の滅亡、そしてイスラエルの「河の向こう」(ユーフラテス川の東の土地を表す慣用表現)への捕囚に関するものである。『列王記上』14章6節から16節には、ヤロブアムの妻が病気の息子のためにアヒヤのもとを訪れた際、アヒヤが神の啓示によって彼女の正体を見破り、ヤロブアム家に対する神の怒りを告げた様子が記されている。この預言は、ヤロブアムが神の命令に背き、偶像を崇拝したことへの罰として、彼の家系が根絶やしにされ、イスラエル全体が苦難に遭うことを宣言した。
2.2. 象徴的行為
アヒヤは、ヤロブアムへの預言を伝える際に、象徴的な行為を用いた。彼はヤロブアムと野外で出会った際、自分が着ていた新しい衣を12の切れ端に引き裂き、そのうちの10切れをヤロブアムに与えた。この行為は、神がソロモンの王国を12部族から引き裂き、そのうちの10部族をヤロブアムに与え、彼が北イスラエル王国の王となることを示すものであった。残りの2部族(ユダ族とベニヤミン族)は、ダビデの子孫が統治するユダ王国として存続することが示された。この象徴的な行為は、神の意志が明確に示された預言として、ヤロブアムの即位と王国分裂の正当性を裏付けるものとなった。
3. 著作
聖書には、シロ人アヒヤが著したとされる書物について言及がある。『歴代誌下』9章29節には、「シロ人アヒヤの預言」という書物が存在し、その中にソロモンの治世に関する情報が記載されていると記されている。また、『列王記上』11章41節では、この書物は「ソロモン行録」とも呼ばれている。
しかし、これらの書物は現存しておらず、聖書の中で言及されているものの、正典には含まれない書物の一つとされている。このことは、古代イスラエルの歴史や預言に関する多くの情報が失われたことを示唆している。
4. ラビ文学と伝承
ラビ文学において、シロ人アヒヤは聖書に記された以上の、より豊かな伝承と解釈の対象となっている。特に彼の並外れた長寿と、聖なる知識の伝承者としての役割が強調されている。
4.1. 長寿と関連性
ラビの伝承によれば、アヒヤは非常に長生きしたとされており、その寿命は600年を超えたとされる。彼の長命は、ノアの洪水以前の族長であるアダムやメトシェラといった、並外れた寿命を持つ聖なる人物たちと関連づけられている。ラビ文学では、アヒヤは人類の歴史全体にわたって連続的に生きたとされる「7人の長命な聖人」の一人に数えられている。これらの聖人は、それぞれが前任者から後継者へと神聖な知識や伝承を受け継ぎ、その敬虔さによって当時の世代を保護したと信じられている。この7人には、アダム、メトシェラ、セム、ヤコブ、そしてモーセの父アムラムまたはアシェルの娘セラ、シロ人アヒヤ、そしてメシアの到来まで生き続けるとされる預言者エリヤが含まれる。
アヒヤは、モーセの父アムラム、あるいはアシェルの娘セラから「知恵」を受け継いだとされる。セラはダビデの時代まで400年以上生きたとされており、もしセラから知恵を受け継いだのであれば、アヒヤの年齢はそれよりは若かったことになる。アヒヤがこれほど尋常ではない長寿を達成したと見なされた理由の一つは、『歴代誌下』9章29節によれば、ソロモンの治世の歴史が彼によって書かれたとされているためである。また、彼はダビデ王によって神殿の宝物と奉納された宝物を管理する職に任命されたレビ人アヒヤと同一人物であると考えられていた。
4.2. ラビ的解釈
ラビ文学では、シロ人アヒヤはサウル王の時代にシロで神託を与えた祭司アヒトブの息子アヒヤと同一視されることがある。これは、『歴代誌下』9章29節や『列王記上』14章4節において、アヒヤがヤロブアムの時代には非常に高齢であったこと、そして彼の家系図が明記されていないことに基づく解釈である。
シモン・ベン・ヨハイは、「世界にはその柱となる義人が30人いなければならない。私と息子もその一人に数えられる......もしアブラハムがその功績によって過去の世代を引き継いでくれるなら、私はメシアの出現まで将来の世代を引き継ぐだろう。そして、もしアブラハムがそうしないなら、私はシロのアヒヤを私と一緒に数え、私たちは力を合わせて世界を担うだろう」と述べたと伝えられている。これは、アヒヤが世界の精神的な支柱の一人として高く評価されていたことを示している。
しかし、アヒヤが義の柱の一人であるにもかかわらず、偶像崇拝の王国を樹立するよう促す神のメッセージとともにヤロブアムに送られたことについては、ラビによって次のように説明されている。彼らは、アヒヤがヤロブアムの偶像崇拝の友人たちの策略にはめられたと述べている。友人たちは、ヤロブアムが王になったらダンとベテルに金の子牛を置くという条件をつけた文書を回覧し、アヒヤはヤロブアムが自分の信頼を裏切らないと固く信じて、この文書に署名してしまったという。ここでアヒヤは自身の生徒を見誤ったとされる。ヤロブアムは偉大な知恵と学問を示し、アヒヤがエルサレムから出てくるのを見たとき、アヒヤには「着ていた新しい衣のように清らか」に見えた(『列王記上』11章29節)という。さらに、彼は他の生徒たちよりも優れていたため、アヒヤによって律法の最も奥深い秘密を教え込まれていた。
「イサクの目は暗くて見えなかった」(『創世記』27章1節)という言葉が、彼が邪悪な息子エサウを寵愛したために霊的な盲目を示唆すると解釈されるように、「アヒヤは、年齢のせいで目が衰えていたので、見ることができなかった」(『列王記上』14章4節)という言葉は、邪悪な生徒を寵愛し統治者に据えてしまったアヒヤの霊的な盲目を暗示しているとラビは解釈する。この理由から、アヒヤは疫病に打たれたのだとも伝えられている。

5. マイモニデスの見解
中世の著名なユダヤ教の学者であるマイモニデスは、その著書『Yad ha-ḤazaḲah』の序文において、シロ人アヒヤを高く評価している。マイモニデスはアヒヤについて次のように述べている。
「アヒヤはレビ人で、モーセの弟子であり、エジプト脱出を経験した人々の一人である。レビ族は荒野での死という神の布告に含まれていなかった。また、彼はダビデの弟子でもあった(ただし、ポスキエールのアブラハム・ベン・ダヴィドはこれを訂正し、「ダビデの司法裁判所の一員」と述べている)。そして最終的に、彼は死ぬ前に預言者エリヤの教師となった。」
この記述は、アヒヤがモーセからエリヤへと続く預言者たちの系譜における重要な中間者であり、神聖な知識の伝承において極めて重要な役割を担っていたというラビ文学の伝統的な見解を補強するものである。
6. 歴史的評価
シロ人アヒヤは、古代イスラエル史において、その預言と象徴的な行動を通じて、王国の分裂という決定的な出来事を予見し、神の意志を人々に伝える重要な役割を果たした。彼の預言は、ヤロブアムの即位と北イスラエル王国の成立、そしてその後のヤロブアム家の滅亡とイスラエルの捕囚という、歴史の大きな流れを形作った。
聖書に言及されるものの現存しない『シロ人アヒヤの預言』は、彼の著作活動を示唆し、失われた古代の知見に対する関心を呼び起こす。また、ラビ文学におけるアヒヤの評価は、彼を単なる預言者にとどまらず、アダムやメトシェラといった古代の族長たちと並ぶ、神聖な知識と伝統の長きにわたる伝承者として位置づけている。彼の並外れた長寿の伝承は、彼が世代を超えて知恵を伝え、信仰の柱として機能したという信仰を反映している。
マイモニデスによるアヒヤへの言及は、彼がモーセからエリヤへと続く預言者たちの系譜における重要な人物として認識されていたことを示しており、ユダヤ教の伝統における彼の精神的な権威と影響力の大きさを物語っている。総じて、シロ人アヒヤは、イスラエル史の転換点において神のメッセージを伝え、後世のユダヤ教思想に深い影響を与えた、多面的な意義を持つ人物として歴史的に評価されている。