1. 概要
ギリシア神話に登場するアガメデスは、オルコメノスの王エルギノスの息子、あるいはエラトスの息子スティムパロスの息子でありアルカスの孫とされます。彼は兄弟である(あるいは義兄弟、子とされる)トロフォニオスと共に、古代ギリシアで優れた建築家および土木技術者として知られていました。彼らはデルポイのアポロン神殿やボイオーティアのヒュリアのヒリエウス王の宝物庫など、数々の重要な建築物を手がけました。しかし、その才能ゆえに神々の寵愛を受け、「神に愛された者は若くして死ぬ」という言葉を体現する結末を迎える神話や、宝物庫を巡る悲劇的な出来事によって、その生涯を終えました。トロフォニオスはアガメデスの死後、地下の神として神格化され、アガメデス自身も神託所に関連する重要な存在として崇拝されました。
2. 家族関係
アガメデスの父親は、最も一般的な伝承ではエルギノスであるとされます。しかし、一部の記述ではエラトスの息子スティムパロスの息子であり、アルカスの孫であったとも伝えられています。
アガメデスはエピカステとの間にケルキュオンという息子をもうけました。また、エピカステはトロフォニオスをアガメデスの許に連れてきたことから、トロフォニオスはアガメデスの継息子であったとされます。トロフォニオスについては、アポロンの息子であったという説もあります。
さらに、別の伝承ではアガメデス自身がアポロンとエピカステの息子であったり、ゼウスとイオカステの息子であり、トロフォニオスの父親であったりするという複雑な系譜も存在します。しかし、最も広く語られる伝承では、トロフォニオスはアガメデスの兄弟であったとされています。アガメデスとトロフォニオスは、共に卓越した建築技術を持つ兄弟として知られています。
3. 主要な活動と神話
アガメデスとトロフォニオスは、その優れた建築技術と土木技術で名を馳せ、数々の重要な神殿や宮殿の建設に携わりました。彼らが関わった主要な神話的出来事には、神々への奉仕と、それに伴う栄光と悲劇が密接に結びついています。
3.1. デルポイのアポロン神殿の建築
アガメデスとトロフォニオスは、ギリシア世界で最も重要な神託所の一つであるデルポイのアポロン神殿を建造しました。この神殿の完成後、彼らはアポロン神に、その労苦に対する最良の褒賞を授けるよう祈願しました。神託は兄弟に対し、7日後に褒賞が与えられるので、それまでは自由に過ごすように告げました。兄弟はその通りに行動し、7日目の夜、彼らはそれぞれの寝台で安らかに息を引き取っているのが発見されました。
この出来事は、ピンダロスの記述によれば7日後、キケロの記述では3日後と日数は異なるものの、神に愛された者は若くして死ぬというメナンドロスの言葉、すなわち「神々に愛される者は若死にする」という格言を具現化したものとされています。
3.2. ヒリエウスの宝物庫とアガメデスの死
アガメデスとトロフォニオスは、ボイオーティアのヒュリアのヒリエウス王のために宝物庫を建設しました。この宝物庫の建設において、彼らは巧妙な仕掛けを施しました。それは、宝物庫の壁に石材を一つだけ、外部から簡単に取り外せるように配置するというもので、これによって誰にも気づかれずに宝物庫内部へ侵入できる入り口を作り出したのです。
完成後、アガメデスとトロフォニオスはこの秘密の入り口を利用して、定期的に宝物庫から宝物を盗み続けました。ヒリエウス王は、錠前や封印は無傷であるにもかかわらず、宝物が絶えず減少していることに気づきました。そこで王は、ダロスの助言に従って、盗人を捕らえるための罠を仕掛けました。
罠にかかったのはアガメデスでした。深い悲しみに暮れたトロフォニオスは、アガメデスの身元が露見しないように、彼の首を切り落とし、その場から逃走しました。しかし、直後に大地が裂け、トロフォニオスはそのまま地中に飲み込まれてしまいました。
3.3. その他の建築物
アガメデスとトロフォニオスは、上記の大規模な建築物以外にもいくつかの建造物を手がけたと伝えられています。彼らが建設したとされるものには、アルクメネの婚礼の寝室(初夜の寝室)や、マンティネイアからテゲアへと続く道沿いにあったポセイドン神殿などが挙げられます。
また、ヒリエウス王の宝物庫の物語には、別の伝承も存在します。ペルガモンのカラックスの説によると、彼らはアウゲイアース王のために宝物庫を建てたとされており、この宝物庫の物語も同様の盗難の逸話を含んでいます。
4. トロフォニオスの神格化とアガメデスの洞窟
アガメデスが悲劇的な死を遂げた後、彼の兄弟であるトロフォニオスは、地中に飲み込まれることで不死の地下神へと変貌しました。この出来事が起こったとされる場所には、後にレバデイアの聖なる森の中に、いわゆる「アガメデスの洞窟」と呼ばれる場所ができました。その洞窟の傍らには柱が立てられていました。
この場所は、トロフォニオスを祀る神託所としても知られるようになりました。神託を求めて訪れる人々は、まずアガメデスに雄羊を捧げ、神格化された彼を呼び出す儀式を行いました。これは、アガメデスが神託において重要な役割を果たす存在として崇拝されていたことを示しています。
5. 神話の歴史的背景と解釈
ヒリエウスの宝物庫の神話は、古代エジプトのラムシニトス王の宝物庫の物語と驚くほど類似していることが、ヘロドトスの著書によって指摘されています。この類似性から、現代の学者たちは、この物語がギリシアで生まれたのか、それともエジプトからギリシアへ伝播したのかについて活発な議論を交わしてきました。
例えば、ミュラーは、この伝承が元来はミニャイ族の間で生まれ、その後アウゲイアースへと伝えられた可能性が非常に高いと主張しています。そして、プサムティコス1世の治世中に両国間の交流が始まるはるか以前から、この物語がギリシアで知られていたと推測しています。この学説は、神話が異なる文化間でどのように形成され、伝播していくかを探る上で重要な示唆を与えています。
6. 大衆文化における登場
アガメデスは現代の大衆文化作品においても言及されることがあります。
例えば、リック・ライアダンによるアポロンの試練シリーズの第2巻『The Dark Prophecy』では、アガメデスは「アガメトゥス」という名のオレンジ色の幽霊として登場します。彼はウェイステーション(中継地)に住み、主人公であるアポロンを物語全体にわたって助けます。物語の終盤で、アガメデスは異母兄弟であるトロフォニオスを探すためにウェイステーションを去る姿が描かれています。