1. 概要
キャスリーン・バリー(Kathleen Barry英語、1941年1月22日生まれ)は、アメリカ合衆国の社会学者であり、急進フェミニストである。彼女は国際的な人身売買、特に性的人身売買に関する研究と著作を通じて、この問題を女性運動の中心的課題として提起した。バリーは女性人身売買反対連合(CATW)の共同設立者であり、国際連合のNGOとして、性暴力や性的搾取に反対する活動を主導した。彼女の主要な著作では、現代社会における「同意」の概念を批判的に分析し、それがどのように抑圧を永続させるかについて深く考察している。1985年には、女性のエンパワーメントへの貢献が認められ、ワンダーウーマン財団賞を受賞した。
2. 生涯と学歴
2.1. 出生と初期の人生
キャスリーン・バリーは1941年1月22日に生まれた。
2.2. 学歴
バリーはカリフォルニア大学バークレー校で、社会学と教育学の二つの博士号を取得した。
3. 学術活動と社会運動
キャスリーン・バリーは、学術的な教職活動と並行して、女性の人権擁護と性的搾取の撲滅を目指す活発な社会運動を展開し、その功績により数々の栄誉を受けている。
3.1. 教職活動
バリーは、ブランダイス大学やペンシルベニア州立大学で教鞭を執り、教育および研究活動を行った。
3.2. フェミニスト運動と活動
国際的な人身売買、特に性的人身売買に関する綿密な研究と著作活動の後、バリーは国際連合のNGOである女性人身売買反対連合(CATW)を共同で設立した。彼女は性売買や人身売買の問題をフェミニスト運動の中心的課題として位置づけ、女性の人権保護と性的搾取の廃止に向けた積極的な社会運動を展開した。
3.3. 受賞歴と評価
1985年、バリーは女性のエンパワーメントへの多大な貢献が認められ、ワンダーウーマン財団賞を受賞した。この賞は、彼女の活動が社会に与えた肯定的な影響を象徴するものである。
4. 主要著作と思想
キャスリーン・バリーの著作は、性売買、性的搾取、そして「同意」の概念に対する彼女の鋭い批判的分析を特徴としている。彼女の思想は、これらの問題が女性の人権と社会正義に深く関わることを示している。
4.1. 書籍
バリーの最初の著作である『女性の性的奴隷化』(Female Sexual Slavery英語, 1979年)は、性的人身売買に対する国際的な意識を高めるきっかけとなり、6つの言語に翻訳された。
『セクシュアリティの売春化』(The Prostitution of Sexuality英語, 1995年)は、『女性の性的奴隷化』の続編として発表され、自由主義的な現代アメリカの言説における「同意」の概念を深く掘り下げている。この著作でバリーは、抑圧されている集団や階級が自らの搾取に「同意」しているように見えることで、「あらゆる形態の抑圧が維持されている」と結論付けている。彼女は、性売買における女性の「同意」に基づく性売買の正常化や受容は、暴力には同意できないという人権の原則を無視すると主張する。バリーは、家父長制の下で抑圧された階級の一員である女性たちは、資本家に協力するよう強いられる労働者と同様に、社会によって自らの性的搾取に「同意」するよう強いられていると述べている。この著作は、政治哲学と女性主義理論に重要な貢献をした。なお、この書籍は2002年に『セックスの売春化』として日本語にも翻訳されている。
その他の主要著作には、『ベトナムの移行期の女性たち』(Vietnam's Women in Transition英語, 1995年)、『スーザン・B・アンソニー: 異色のフェミニストの伝記』(Susan B. Anthony: A Biography of a Singular Feminist英語, 2000年)、『戦争をなくし、男性を作り直す: 共感が私たちの政治、兵士、そして私たち自身をいかに再形成できるか』(Unmaking War, Remaking Men: How Empathy Can Reshape Our Politics, Our Soldiers and Ourselves英語, 2010年)などがある。
4.2. その他の著作
バリーは、書籍以外にも多様なテーマに関するエッセイや論文を発表している。これらには、「裁判にかけられた膣」(The Vagina on Trial英語, 1971年)、『サドマゾヒズムに反対する: ラディカル・フェミニスト分析』に収録された「文化的なサディズムの歴史について」(On the History of Cultural Sadism英語, 1982年)、『ポルノグラフィの女性たち』に収録された「ポルノグラフィを超えて: 防御的政治からビジョンの創造へ」(Beyond Pornography: From Defensive Politics to Creating a Vision英語, 1980年)、1993年のフェミニスト法学に関する基調講演、そして『私たちが払う代償: 人種差別的言論、憎悪プロパガンダ、ポルノグラフィに対する訴訟』に収録された「ポルノグラフィとグローバルな性的搾取: フェミニスト人権のための新しい課題」(Pornography and Global Sexual Exploitation: A New Agenda for Feminist Human Rights英語, 1995年)などがある。また、『ラディカルに語る: 再び主張されるフェミニズム』には「脱構築主義を脱構築する(あるいは、フェミニスト研究に何が起こったのか?)」と「ポルノグラフィと女性のグローバルな性的搾取」が収録されており、1999年には「男性が女性の歴史を語るとき」という意見記事も発表している。これらの著作は、彼女の思想の深さと広範な関心を示している。
5. 影響と評価
キャスリーン・バリーの著作と活動は、フェミニスト理論、人身売買反対運動、そして性的搾取に関する社会的な言説に多大な影響を与え続けている。特に、性売買における「同意」の概念に対する彼女の批判的分析は、人権侵害の根源を問い直し、女性の権利と尊厳を守るための議論を深めた。彼女の提唱した性的人身売買の廃止と女性のエンパワーメントへの取り組みは、国際的な政策形成やNGOの活動に大きな指針を与え、学術界および社会からの高い評価を得ている。