1. 概要
ウィリアム・クリストファー・カーター(William Christopher Carter英語、1982年9月16日 - )は、アメリカ合衆国カリフォルニア州出身の元プロ野球選手(外野手、内野手)。現役時代は、ボストン・レッドソックスとニューヨーク・メッツでMLBの試合に出場し、日本プロ野球では埼玉西武ライオンズに所属した。
彼は卓越した学業成績を持つことでも知られ、スタンフォード大学を3年間で卒業している。また、ニューヨーク・メッツの監督であったジェリー・マニュエルからその献身的な姿勢と強い労働意欲を評価され、「Animalアニマル英語」というニックネームが与えられた。引退後も野球界との繋がりを保ち、特に古巣である埼玉西武ライオンズの熱心なファンであることを公言している。
2. 幼少期とアマチュア時代
2.1. 高校時代
カーターはカリフォルニア州コンコードにあるデ・ラ・サール高校に通い、2001年に卒業した。高校時代は野球で目覚ましい活躍を見せ、最終学年時には打率.571を記録し、本塁打数でリーグトップに立った。この功績により、チームのMVPに選出された。また、2001年には『ベースボール・アメリカ』誌のプレシーズン・ファーストチーム・オールアメリカンに、2001年にはベイバレー・アスレチックリーグのMVPにも選ばれた。2000年には2度にわたりノースコーストセクション高校スポーツフォーカス・スカラーアスリート・オブ・ザ・イヤーに選出され、ジュニア時代の2000年には『USAトゥデイ』からオールアメリカンの名誉賞も受賞している。
彼の父親であるビル・カーターは、高校時代の彼の野球部コーチを務めていた。
2.2. 大学時代
カーターはスタンフォード大学に進学し、わずか3年間で卒業した。大学では人間生物学を専攻し、医学大学院進学準備コース(Pre-Medプレメド英語)に在籍していた。
大学野球では2002年にスタンフォード大学の最優秀フレッシュマン賞を受賞。2002年のカレッジ・ワールドシリーズと2003年のカレッジ・ワールドシリーズでは、カーディナルズ(スタンフォード大学のスポーツチームの愛称)がベスト8に進出するのに貢献した。彼は主に指名打者としてチームに貢献し、一部の試合では外野手としてもプレーした。2002年と2003年には、ケープコッド・ベースボールリーグのヤーマス=デニス・レッドソックスで大学サマーリーグ野球を経験している。
3. プロ野球キャリア
ウィリアム・クリストファー・カーターは、学業での優秀な成績を収めながらも、幼少期から野球選手を目指し、MLBから日本プロ野球(NPB)、そしてメキシカンリーグに至るまで、様々なリーグでその才能を発揮した。
3.1. マイナーリーグ時代 (MLB傘下)
カーターは2004年のMLBドラフトにおいて、アリゾナ・ダイヤモンドバックスから17巡目(全体506位)で一塁手および外野手として指名され、入団した。
2004年には、ルーキー級のヤキマ・ベアーズとA級のサウスベンド・シルバーホークスでプレー。2005年にはA級のランカスター・ジェットホークスとAA級のテネシー・スモーキーズに所属した。2006年と2007年には、AAA級のツーソン・サイドワインダーズでプレーを続けた。
トレードを希望したカーターは、2007年8月21日にワシントン・ナショナルズへエミリアーノ・フルートとのトレードで移籍した。その後、8月17日にレッドソックスからナショナルズへウィリー・モー・ペーニャがトレードされた際の「後日発表選手」として、ボストン・レッドソックスに送られた。このトレード後、カーターはAAA級のポータケット・レッドソックスに配属され、2007年11月20日にはレッドソックスの40人枠入りを果たした。

3.2. メジャーリーグベースボール (MLB)
3.2.1. ボストン・レッドソックス
カーターは2008年6月5日にメジャーリーグデビューを果たした。この試合では、2回にココ・クリスプが退場処分を受けた後、代走として途中出場し、3打数2安打2得点と好成績を収めた。しかし、レッドソックスがクリスプの出場停止処分やジャコビー・エルズベリー、マニー・ラミレスの負傷に直面していたため、カーターは翌6月6日にはブランドン・モスに代わって再びポータケットへ降格された。
2009年シーズンには、レッドソックスの開幕ロースター入りを果たし、マーク・コッツェイが故障者リストから復帰するまで控え野手として最終枠を埋めた。
3.2.2. ニューヨーク・メッツ
2009年10月7日、カーターはビリー・ワグナーとのトレードにおける後日発表選手としてニューヨーク・メッツへ移籍し、40人枠に登録された。メッツでのスプリングトレーニング中、監督のジェリー・マニュエルは、カーターの弛まぬ努力と献身的な仕事ぶりを評価し、「The Animalジ・アニマル英語」というニックネームを与えた。
2010年5月10日、メッツはフランク・カタラノットのロースター枠を埋めるため、カーターをAAA級のバッファロー・バイソンズから昇格させた。メッツでの初打席となった5月11日のワシントン・ナショナルズ戦では、8回裏に勝ち越しとなる二塁打を放った。
2010年6月11日、カーターは指名打者として出場したボルチモア・オリオールズ戦で、相手投手ジェレミー・ガスリーから自身初のメジャーリーグ本塁打を記録した。その2日後、再び指名打者として出場したオリオールズ戦では、ケビン・ミルウッドから自身2本目となる本塁打を放った。この年、彼は右投手先発時の出場を中心に、自己最多の100試合に出場した。
3.3. MLB以降のキャリアと海外リーグ
3.3.1. タンパベイ・レイズとアトランタ・ブレーブス傘下
2011年1月6日、カーターはタンパベイ・レイズとマイナー契約を結んだ。しかし、同年6月16日には契約を解除し、FAとなった。
その後、2011年6月18日にはアトランタ・ブレーブスとマイナー契約を結んだ。ブレーブス傘下のAAA級グウィネット・ブレーブスでは23試合に出場し、打率.338、4本塁打、OPS.974という好成績を残したものの、メジャー昇格には至らなかった。
3.3.2. 日本プロ野球 (NPB)
3.3.3. メキシカンリーグ
2014年4月24日、カーターはメキシカンリーグのアセレロス・デ・モンクローバと契約した。同球団では27試合に出場し、打率.384、出塁率.410、長打率.485を記録し、2本塁打、14打点を挙げた。しかし、6月13日に契約解除された。
その後、2014年6月14日には同じくメキシカンリーグのバケロス・ラグナと契約したが、7月1日に再び契約解除された。バケロス・ラグナでは13試合に出場し、打率.269、出塁率.321、長打率.404、1本塁打、8打点という成績を残した。この後、彼は現役を引退した。
4. 選手としての特徴
カーターは、マイナーリーグ通算で9.8パーセントという高い四球率が示すように、優れた選球眼と長打力を持ち味としていた。メジャーリーグではシーズン15本塁打を期待できるパワーヒッターとして評価されていた。しかし、左投手を苦手としていたため、メジャーリーグでは主に対右投手で起用されることが多かった。
彼は打席ごとに打つ方向を決めるという極端な「決め打ち」スタイルを持っていたとされる。この打撃スタイルは、NPBで外野守備の名手として知られる岡田幸文をして、「ある程度球種とコースで打球を予測できるけど、カーターはできない。気持ち悪い打者」と畏怖させるほどであった。
守備面では、マイナーリーグでは主に一塁手と左翼手として起用され、メジャーリーグでは右翼手と左翼手での出場経験があるものの、守備には難を抱えていた。日本プロ野球の西武ライオンズ在籍時には、右膝手術の影響もあり、一軍での試合は全て代打か指名打者として出場し、一度も守備につくことはなかった。ただし、二軍では2013年に一塁手として出場している。
5. 人物像と性格
クリス・カーターは、その学術的な背景と人間性でも注目される人物である。彼はスタンフォード大学を飛び級で3年間で卒業しており、人間生物学を専攻し、学部卒業後の医学大学院志望コース(pre-med英語)に在籍していた。医師の家系に生まれたが、子供の頃から野球選手を目指していたという経緯を持つ。
日本プロ野球の埼玉西武ライオンズに所属していた時期には、都内から本拠地である西武ドームまで電車で通勤していた。彼は非常に熱血漢な一面も持ち合わせており、2012年8月23日の福岡ソフトバンクホークス戦前ミーティングでは、怪我でキャプテンの栗山巧が離脱しチームが2連敗中の状況で、「勝者と敗者の間には、1センチの差しかない。俺たちはチャンピオンを目指すチームだ。今日はチャンピオンのように闘おう。チャンピオンは、あきらめない。」と熱弁を振るってナインを鼓舞し、チームを勝利に導いた逸話が残っている。
6. 引退後
クリス・カーターは、2014年にプロ野球選手を引退した後、新しいキャリアを歩み始めた。2014年12月29日付の『日刊スポーツ』の報道によると、彼はアメリカのヘッジファンド会社「BridgeWater Associatesブリッジウォーター・アソシエイツ英語」でプロジェクトマネージャーとして働いていた。
その後、2018年時点ではアメリカ合衆国ジョージア州アトランタに拠点を置く「iFOLIO」社で、スポーツ奨学金のサポート業務に従事している。
引退後も野球界、特に古巣である埼玉西武ライオンズへの強い愛着と関わりを持ち続けている。2018年に西武が優勝マジックを5にまで減らした際には、自身が2012年に着用していたユニフォームを見せるパフォーマンスとともに、ライオンズとファンに向けて激励のコメントを寄せた。また、元チームメイトである秋山翔吾がシンシナティ・レッズと契約した際には、Twitterを通じて「Ganbatte!!!!ガンバッテ!!!!英語」とエールを送るなど、その交流は続いている。
7. 年度別成績と記録
7.1. 打撃成績
年 度 | 試 合 | 打 席 | 打 数 | 得 点 | 安 打 | 二 塁 打 | 三 塁 打 | 本 塁 打 | 塁 打 | 打 点 | 盗 塁 | 盗 塁 死 | 犠 打 | 犠 飛 | 四 球 | 敬 遠 | 死 球 | 三 振 | 併 殺 打 | 打 率 | 出 塁 率 | 長 打 率 | O P S | |
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2008 | BOS | 9 | 20 | 18 | 5 | 6 | 0 | 0 | 0 | 6 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 5 | 0 | .333 | .400 | .333 | .733 |
2009 | 4 | 6 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | .000 | .000 | .000 | .000 | |
2010 | NYM | 100 | 180 | 167 | 15 | 44 | 9 | 0 | 4 | 65 | 24 | 1 | 2 | 0 | 0 | 12 | 0 | 1 | 17 | 2 | .263 | .317 | .389 | .706 |
2012 | 西武 | 59 | 138 | 126 | 9 | 37 | 8 | 0 | 4 | 57 | 27 | 0 | 0 | 0 | 1 | 10 | 0 | 1 | 22 | 3 | .294 | .348 | .452 | .800 |
2013 | 14 | 34 | 30 | 0 | 4 | 0 | 0 | 0 | 4 | 3 | 0 | 0 | 0 | 1 | 3 | 0 | 0 | 11 | 2 | .133 | .206 | .133 | .339 | |
MLB:3年 | 113 | 206 | 190 | 20 | 50 | 9 | 0 | 4 | 71 | 28 | 1 | 2 | 0 | 1 | 14 | 0 | 1 | 26 | 2 | .263 | .316 | .374 | .689 | |
NPB:2年 | 73 | 172 | 156 | 9 | 41 | 8 | 0 | 4 | 61 | 30 | 0 | 0 | 0 | 2 | 13 | 0 | 1 | 33 | 5 | .263 | .320 | .391 | .715 |
7.2. NPBでの記録
- 初出場:2012年6月23日、対オリックス・バファローズ6回戦(西武ドーム)、6回裏に星秀和の代打で出場
- 初打席:同上、6回裏に小松聖から三飛
- 初安打・初打点:2012年7月1日、対北海道日本ハムファイターズ11回戦(西武ドーム)、7回裏に宮西尚生から左前適時打
- 初先発出場:2012年7月2日、対福岡ソフトバンクホークス7回戦(東京ドーム)、5番・指名打者で先発出場
- 初本塁打:2012年8月7日、対千葉ロッテマリーンズ13回戦(QVCマリンフィールド)、9回表にカルロス・ロサから左越ソロ
7.3. 背番号
- 51 (2008年)
- 54 (2008年 - 2009年)
- 23 (2010年)
- 2 (2012年)
- 7 (2013年)
- 10 (2013年)
7.4. 独立リーグでの打撃成績
年 度 | 球 団 | 試 合 | 打 数 | 得 点 | 安 打 | 二 塁 打 | 三 塁 打 | 本 塁 打 | 塁 打 | 打 点 | 三 振 | 四 球 | 死 球 | 犠 打 | 犠 飛 | 盗 塁 | 失 策 | 併 殺 打 | 残 塁 | 打 率 | 長 打 率 | 出 塁 率 | O P S |
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2013 | 石川 | 29 | 91 | 11 | 31 | 2 | 0 | 3 | 47 | 17 | 8 | 25 | 2 | 0 | 1 | 1 | 0 | 2 | 29 | .341 | .516 | .487 | 1.003 |
通算:1年 | 29 | 91 | 11 | 31 | 2 | 0 | 3 | 47 | 17 | 8 | 25 | 2 | 0 | 1 | 1 | 0 | 2 | 29 | .341 | .516 | .487 | 1.003 |