1. 幼少期と背景
クリス・バムステッドは、カナダのオンタリオ州オタワで生まれ育った。彼は幼少期から多様なスポーツに熱中し、運動能力を発揮していた。
1.1. 幼少期と学生時代
バムステッドは小学生の頃から、アメリカンフットボール、野球、バスケットボール、アイスホッケー、陸上競技など、様々なスポーツに取り組んでいた。学生時代にはすでに身長が185 cmを超え、同年代の友人たちよりもはるかに強い身体能力を持っていた。10代の頃には、すでに200 kgを超えるスクワットやデッドリフトをこなすことができるほどのパワーリフティングの能力を発揮しており、重量物を持ち上げるトレーニングを趣味としていた。高校1年生の時には、体重が77 kg (170 lb)から102 kg (225 lb)へと増加し、特に脚の成長が顕著だった。彼はダルハウジー大学に進学した。
1.2. ボディービルディングとの出会い
バムステッドがボディービルディングに興味を持つようになったのは、彼の姉であるメリッサ・ヴァリエールと、そのパートナーであるイアン・ヴァリエールの影響が大きかった。メリッサもまた女性ボディービルダーであり、イアンはミスター・オリンピアのオープン部門に出場するプロボディービルダーである。イアンはバムステッドの潜在能力を見抜き、彼がボディービルディングの競技に出場できるよう手助けし、直接コーチングを行った。
バムステッドは19歳だった2014年に、カナダの地域大会で競技デビューを果たした。彼はその大会で、19歳という年齢からは信じられないほどの肉体を披露し、ジュニア部門で優勝するとともに、全階級を通じた総合優勝(オーバーオール)を達成した。この最初の大会を経験した後、彼はボディービルディングというスポーツに深く魅了され、それまで好きだった飲酒やパーティーを断ち、肉体づくりに専念するようになった。トレーニングに集中した結果、彼は21歳にして2016年のIFBB北米ボディービルディング選手権に出場し、ヘビー級で1位を獲得し、IFBBプロカードを瞬く間に手にした。
2. プロボディービルディング経歴
クリス・バムステッドのプロボディービルダーとしてのキャリアは、IFBBプロカードの獲得から始まり、ミスター・オリンピアでの圧倒的な支配を経て、劇的な引退へと至った。
2.1. プロデビューと初期の成功
2016年に21歳でIFBBプロカードを獲得した後、バムステッドは自身の最初のプロショーで3位に入賞した。翌2017年には、IFBBピッツバーグ・プロとIFBBトロント・プロ・スーパーショーで優勝し、プロとして初の勝利を収めた。
同年、彼は初めてミスター・オリンピアに出場し、クラシックフィジーク部門で2位という驚異的な成績を収めた。これはミスター・オリンピアデビューとしては非常に高い実績であり、観客と審査員に強い印象を与えた。しかし、2018年のミスター・オリンピア大会の4週間前には、重度の水分貯留により入院を余儀なくされた。腎臓の問題によるカリウム排出のため、強力な利尿剤を投与され、3晩救急治療室で過ごした。退院後もトレーニングを続けたものの、これは彼にとって大きな setback となった。それでも2018年のミスター・オリンピアでは前年と同じ2位の成績を収めたが、彼のコンディションは前年よりも悪かったとされている。
2.2. ミスター・オリンピア クラシックフィジークでの支配
2019年、バムステッドは初めてミスター・オリンピアクラシックフィジークのタイトルを獲得した。この優勝を皮切りに、彼は2024年まで6年連続で優勝を飾り、同部門における圧倒的な支配を確立した。2019年の優勝時には、2年連続でチャンピオンの座を守っていたブレオン・エンスリーを破り、24歳という若さでミスター・オリンピアの頂点に立った。
2021年9月13日、バムステッドはサプリメント会社RAWニュートリションと契約を結び、後にプレワークアウトやプロテインパウダーなどの自身のシグネチャーシリーズ製品を販売するようになった。2022年10月19日には、彼を初期からコーチしてきたイアン・ヴァリエールが、自身もオープン部門でミスター・オリンピアに出場することに集中するため、バムステッドへのコーチングを正式に終了すると発表した。これを受けて、バムステッドは2022年からは、著名なボディービルディングコーチであるハニー・ランボッドの指導を受けることになった。
2024年9月6日、バムステッドは自身のInstagramリールで重要な発表を予告し、9月9日にはアパレルブランドのジムシャークの共同オーナー兼アスリートになったことを明らかにした。
2.3. 引退と最後の大会
2024年10月13日に開催された2024年のミスター・オリンピアで6度目のミスター・オリンピアクラシックフィジーク部門のタイトルを獲得した後、バムステッドは引退することを発表した。
しかし、2024年10月28日、バムステッドは2024年EVLSプラハ・プロで男子オープン部門デビューを果たすことを発表した。彼はこれを、2024年ミスター・オリンピア直後の現在のコンディションを生かした「もう一度だけ、皆さんが望むものを提供する、楽しむための挑戦」と表現し、引退前に最後の舞台と位置づけた。彼はEVLSプラハ・プロ決勝に出場し、2位という成績を収めた。この大会の後、彼は以前に発表した引退を改めて表明し、プロボディービルダーとしてのキャリアを終えた。
3. 私生活
クリス・バムステッドは、2018年から2016年のビキニ・オリンピアチャンピオンであるコートニー・キングと交際を始めた。二人は2022年9月26日に婚約し、2024年4月22日には娘のブラッドリーが誕生した。
ボディービルディング以外では、バムステッドはフィットネス業界におけるステロイドなどの議論の的となる話題に対して率直な姿勢で知られている。また、彼は自身のサプリメントブランドも展開している。2024年11月現在、彼のInstagramフォロワー数は2,500万人を超え、YouTubeのチャンネル登録者数は400万人を超えている。彼は舞台裏では謙虚で地に足の着いた性格で有名であり、ファンとの良好な関係を築き、健康的なライフスタイルやポジティブな思考を積極的に奨励している。彼は常に個人としてもアスリートとしても成長を追求している。
4. 哲学と影響
クリス・バムステッドは、そのボディービルディングに対する哲学と、フィットネス業界全体に与えた影響力によって高く評価されている。彼のトレーニングは、単なる筋力増強だけでなく、美学と古典的なフィジークの理想を追求する点で特徴的である。彼は、厳しいトレーニングと献身的な生活習慣を通じて、自身の肉体的な潜在能力を最大限に引き出すことを重視している。
彼の人気は、現代のボディービルディングというスポーツを世界的に大衆に広めることに大きく貢献したとされている。彼は若くして端正な容姿、185cmを超える長身、そしてアーノルド・シュワルツェネッガーを彷彿とさせる美しい体型を兼ね備えており、そのカリスマ性は多くの人々を魅了した。彼は新しい世代の古典的なフィジーク競技者を代表する存在となり、業界内での彼の活動範囲と影響力は拡大し続けている。ボディービルディング審査員のテリック・エル・ギンディーは、「クリス・バムステッドは、このスポーツを爆発的に広めた。彼の道のりは非の打ちどころがなく、私たちは彼をアーノルド・シュワルツェネッガーと同じように記憶するだろう」と述べている。
彼はまた、フィットネス業界内でしばしば議論されるテーマ、例えばステロイドの使用などについてもオープンな姿勢を示しており、自身の見解を率直に述べることで、業界の透明性を高めることにも貢献している。彼の誠実で地に足の着いた人柄は、ファンとの強固な絆を築き、健康的なライフスタイルとポジティブな思考を奨励する活動に繋がっている。
5. 評価と遺産
クリス・バムステッドは、ボディービルディング界における彼の遺産と歴史的評価において、極めて高い位置を占めている。彼は、クラシックフィジーク部門のミスター・オリンピアで史上最多となる6回の連続優勝を達成した、この部門において最も成功した競技者である。
8度のミスター・オリンピア優勝者であるロニー・コールマンは、「クリス・バムステッドは史上最高のクラシックボディービルダーだと思う。間違いなく、私がクラシックフィジークでこれまで見た中で最高の肉体だ。これまで見た中で最高の肉体と言っても過言ではない」と彼の肉体を絶賛している。また、ボディービルディング審査員のテリック・エル・ギンディーは、「クリス・バムステッドはこのスポーツを爆発的に広めた。彼の道のりは非の打ちどころがなく、私たちは彼をアーノルド・シュワルツェネッガーと同じように記憶するだろう」と述べ、その影響力を評価している。
彼の成功は彼に数多くのスポンサーシップと支持をもたらした。彼は複数のフィットネスブランドと協力し、様々なフィットネス雑誌やオンライン出版物で紹介された。バムステッドは、その競技成績だけでなく、ソーシャルメディアを通じて何百万人ものフォロワーを獲得し、ボディービルディングの魅力をより広い層に伝えたことで、このスポーツの主流化と大衆化に決定的な役割を果たした。彼の謙虚な人柄と、ファンとの交流を大切にする姿勢は、彼の遺産をさらに強固なものにしている。
6. 大会成績
クリス・バムステッドの主要なボディービルディング大会成績は以下の通り。
年 | 大会名 | 部門 | 成績 |
---|---|---|---|
2014 | カナダ・ボディービルディング選手権 | ヘビー級ジュニア部門 | 1位 |
2015 | カナダ・ボディービルディング選手権 | ヘビー級ジュニア部門 | 1位 |
2015 | カナダ・ボディービルディング選手権 | ヘビー級一般部門 | 3位 |
2016 | IFBB北米選手権 | ヘビー級 | 1位(IFBBプロカード獲得) |
2016 | IFBBダヤナ・カドー・クラシック | クラシックフィジーク | 3位 |
2017 | IFBBピッツバーグ・プロ | クラシックフィジーク | 1位 |
2017 | IFBBトロント・プロ・スーパーショー | クラシックフィジーク | 1位 |
2017 | 2017年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 2位 |
2018 | 2018年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 2位 |
2019 | 2019年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 1位 |
2020 | 2020年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 1位 |
2021 | 2021年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 1位 |
2022 | 2022年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 1位 |
2023 | 2023年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 1位 |
2024 | 2024年のミスター・オリンピア | クラシックフィジーク | 1位 |
2024 | IFBB EVLSプラハ・プロ | 男子オープン | 2位 |