1. Overview
マヌエル・バデネス・カルドゥチは、20世紀半ばのスペインサッカー界を代表するフォワードとして活躍した選手です。彼はそのキャリアを通じて特に得点能力で名を馳せ、「ゴールを愛する者」とも評されました。初期のキャリアはCDカステリョンでスタートし、その後、FCバルセロナでリーグ優勝を経験しました。そして、バレンシアCFでは中心選手として目覚ましい得点記録を残し、その卓越した能力を確立しました。キャリアの頂点では、レアル・バリャドリード在籍中の1957-58シーズンにラ・リーガ得点王であるピチーチ賞を獲得するなど、個人としても輝かしい功績を残しました。また、スペインB代表では歴代最多得点者としての記録を保持し、国際舞台でもその才能を発揮しました。本記事では、彼の生涯とキャリアの主要な段階、クラブおよび国際レベルでの業績、そしてサッカー界に残した遺産について詳しく掘り下げます。
2. 生涯と初期キャリア
マヌエル・バデネス・カルドゥチのサッカーキャリアは、故郷のクラブで始まり、すぐに国内の強豪クラブへとステップアップしていきました。
2.1. 幼少期とプロデビュー
マヌエル・バデネス・カルドゥチは、1928年10月31日にスペインのカステリョンで生まれました。幼少期からサッカーに親しみ、地元クラブのCDカステリョンのユースで育成されました。18歳を迎えた1946年、彼は当時1部リーグに所属していたCDカステリョンでプロデビューを果たしました。1946-47シーズン、プロ1年目ながらリーグ戦11試合に出場し4ゴールを記録する活躍を見せましたが、残念ながらこのシーズン終了後にチームは2部リーグへの降格が決まりました。
2.2. FCバルセロナとレアル・サラゴサ時代
CDカステリョンでの活躍が認められ、バデネスは1947年に強豪FCバルセロナへ移籍しました。バルセロナでの1シーズン目(1947-48シーズン)にはリーグ戦13試合に出場し6ゴールを挙げ、チームのラ・リーガ優勝に貢献しました。翌1948-49シーズン、バルセロナはカップ、コパ・エバ・ドゥアルテ、そしてラテン・カップを含むカップトレブルを達成しましたが、バデネスの出場機会はリーグ戦1試合に留まり、その中でゴールを記録することはありませんでした。
その後、1949年から1950年にかけてレアル・サラゴサへ期限付き移籍し、この期間中に24試合出場23ゴールという目覚ましい得点能力を発揮しました。
3. 主要クラブキャリア
バデネスのプロサッカーキャリアにおいて最も輝かしい時期は、主にバレンシアCFとレアル・バリャドリードでの活躍に見られます。
3.1. バレンシアCF時代
レアル・サラゴサへの期限付き移籍を終えたバデネスは、1950年にバレンシアCFに加入しました。彼はバレンシアのレジェンド的ストライカーであるエドムンド・スアレスの後継者として期待され、合計6シーズンにわたってクラブに在籍しました。この期間中、彼は1953年から1954年のシーズンを除き、全てのシーズンでリーグ戦2桁ゴールを記録する安定した得点力を披露しました。特に1954年から1955年のシーズンにはキャリアハイとなる22ゴールを挙げましたが、このシーズンのラ・リーガ得点王はセビージャFCのフアン・アルサが記録した29ゴールでした。バレンシアでの通算成績は、リーグ戦97試合出場90ゴールという驚異的なもので、クラブの主要な得点源として大いに貢献しました。また、この時期にスペイン代表からの初招集を受けましたが、トップチームでの出場機会は得られませんでした。
3.2. レアル・バリャドリードとピチーチ賞
1956年、バデネスはバレンシアを退団し、レアル・バリャドリードに移籍しました。ここでは2シーズンにわたりプレーし、ストライカーとしての役割を継続しました。レアル・バリャドリードでの通算成績はリーグ戦59試合出場35ゴールでした。特に1957年から1958年のシーズンは彼のキャリアのハイライトとなり、リーグ戦で19ゴールを記録し、29歳にして念願のラ・リーガ得点王であるピチーチ賞を獲得しました。このシーズンには、彼を含め、レアル・マドリードのアルフレッド・ディ・ステファノと古巣バレンシアCFのリカルド・アロスの3選手がピチーチ賞を分け合うという珍しい出来事がありました。
3.3. 晩年と引退
レアル・バリャドリードでの成功後、バデネスは1958年にスポルティング・デ・ヒホンに移籍し、2シーズンにわたってプレーしました。この期間中にリーグ戦21試合に出場し6ゴールを記録しました。そして1960年、プロキャリアのスタートを切った古巣のCDカステリョンに復帰しました。復帰後の1960-61シーズンには24試合に出場し11ゴールを挙げましたが、このシーズンを最後に現役を引退しました。
4. 国際キャリア
マヌエル・バデネスは、スペインB代表として短期間ながらも非常に印象的な国際キャリアを築きました。
4.1. スペインB代表での活躍
バデネスはスペインB代表において、歴史に残る得点記録を樹立しました。彼はわずか2試合の出場で8ゴールという驚異的な記録を達成し、スペインB代表の歴代最多得点者となりました。これは1試合あたり4ゴールという比類なき得点率を誇ります。これら2試合はいずれも1953年から1958年までの地中海カップでのもので、ギリシャ戦では4ゴール、エジプト戦でも再び4ゴールを決めました。この活躍により、彼は同大会の得点王に輝きました。しかし、B代表での傑出した得点能力にもかかわらず、彼はA代表の公式試合に出場することはありませんでした。
5. キャリア統計
マヌエル・バデネスのプロキャリア全体にわたるパフォーマンスは、以下の統計データを通じて包括的に示されます。
5.1. クラブ別出場・得点記録
彼のキャリアにおいて様々なクラブで記録された出場試合数と得点数の詳細な統計です。
| クラブ成績 | リーグ | |||
|---|---|---|---|---|
| シーズン | クラブ | リーグ | 出場 | ゴール |
| スペイン | リーグ | |||
| 1946-47 | カステリョン | ラ・リーガ | 11 | 4 |
| 1947-48 | バルセロナ | ラ・リーガ | 13 | 6 |
| 1948-49 | 1 | 0 | ||
| 1949-50 | サラゴサ (期限付き) | セグンダ | 24 | 23 |
| 1950-51 | バレンシア | ラ・リーガ | 21 | 20 |
| 1951-52 | 24 | 18 | ||
| 1952-53 | 19 | 16 | ||
| 1953-54 | 6 | 4 | ||
| 1954-55 | 16 | 22 | ||
| 1955-56 | 11 | 10 | ||
| 1956-57 | バリャドリード | ラ・リーガ | 30 | 16 |
| 1957-58 | 29 | 19 | ||
| 1958-59 | スポルティング・ヒホン | ラ・リーガ | 21 | 6 |
| 1960-61 | カステリョン | セグンダ | 24 | 11 |
| 通算 | スペイン | 251 | 195 | |
5.2. 国際試合での得点記録
スペインB代表として出場した国際試合で記録された特定のゴールを詳細な表形式でリストアップします。スペインB代表のスコアを先に記載しており、スコアの欄はバデネスの各ゴール後のスコアを示します。
| No. | 日付 | 会場 | 対戦相手 | スコア | 結果 | 大会 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1955年3月13日 | エスタディオ・サンティアゴ・ベルナベウ、マドリード、スペイン | ギリシャ | 1-0 | 7-1 | 1953-58地中海カップ |
| 2 | 3-0 | |||||
| 3 | 4-1 | |||||
| 4 | 5-1 | |||||
| 5 | 1955年11月27日 | エジプト | 2-1 | 5-1 | ||
| 6 | 3-1 | |||||
| 7 | 4-1 | |||||
| 8 | 5-1 |
6. タイトルと記録
マヌエル・バデネスは、そのキャリア全体で数々のタイトルと個人記録を達成しました。
6.1. クラブタイトル
- FCバルセロナ
- ラ・リーガ : 1947-48、1948-49 (2回)
- ラテン・カップ : 1949
- コパ・エバ・ドゥアルテ : 1948
- バレンシアCF
- スペイン・カップ : 1953-54
6.2. 国際タイトル
- スペインB代表
- 地中海カップ : 1953-58
6.3. 個人タイトルと記録
- ピチーチ賞 : 1957-58
- 地中海カップ得点王 : 8ゴール(1953-58)
- スペインB代表歴代最多得点者 : 8ゴール
- 地中海カップ歴代最多得点者 : 8ゴール
7. 死去
マヌエル・バデネス・カルドゥチは、2007年11月26日に彼の故郷であるカステリョンで永眠しました。享年78歳でした。
8. 評価と遺産
マヌエル・バデネスは、その類稀な得点能力でスペインサッカーの歴史に名を刻みました。特に、バレンシアCFでの影響力ある時期や、レアル・バリャドリードでピチーチ賞を獲得した功績は、彼のキャリアのハイライトとして記憶されています。彼は「ゴールを愛する者」と称されるほど、常にゴールへの嗅覚を研ぎ澄ませたフォワードであり、そのプレースタイルは多くのファンを魅了しました。
また、スペインB代表でのわずか2試合で8ゴールという驚異的な記録は、彼の得点能力の高さを示すだけでなく、その効率性と決定力がいかに突出していたかを物語っています。彼はトップチームでの出場機会は得られなかったものの、B代表での記録は彼をスペインサッカー史における特別な得点者の一人として位置づけています。バデネスの遺産は、彼の残した数々のゴールとタイトル、そして彼の得点への飽くなき情熱を通して、後世の選手たちに影響を与え続けています。