1. 概要

十三代目 市川團十郎 白猿(十三代目 市川 團十郎 白猿じゅうさんだいめ いちかわ だんじゅうろう はくえん日本語、1977年12月6日生)は、日本の歌舞伎役者、俳優、舞台演出家であり、歌舞伎名跡「市川團十郎」の当代である。本名は堀越 寶世(ほりこし たかとし)。屋号は成田屋、定紋は

、替紋は杏葉牡丹。俳名は栢筵(はくえん)、雷(かみなり)、寿海(じゅかい)。愛称は「海老さま」や「海老ちゃん」。
彼は十二代目市川團十郎の長男であり、伝統ある成田屋の芸を継承する者として、特に男性役を専門とする立役者、中でも荒事の演目に秀でている。荒事は、17世紀に彼の祖先で成田屋の創始者である初代市川團十郎によって確立された、市川家に代々伝わる重要な芸系である。過去には、七代目市川新之助(七代目 市川 新之助しちだいめ いちかわ しんのすけ日本語)そして十一代目市川海老蔵(十一代目 市川 海老蔵じゅういちだいめ いちかわ えびぞう日本語)として活動し、2022年10月31日に十三代目市川團十郎白猿を襲名した。彼は歌舞伎だけでなく、映画、テレビドラマなど多岐にわたる分野で活躍し、国内外で高い評価を受けている。また、株式会社成田屋の代表取締役も務めている。
2. 生い立ちと家族
幼少期より歌舞伎の世界で育ち、その伝統と重責の中で成長してきた市川團十郎は、厳しい稽古と経験を通じて自身の芸を確立していった。
2.1. 出生と家族
市川團十郎は1977年12月6日に東京都で、父である十代目市川海老蔵(後の十二代目市川團十郎)と母の希実子(旧姓・庄司)の長男として誕生した。祖父は「海老さま」の愛称で親しまれた十一代目市川團十郎、外祖父は巽興業株式会社代表取締役社長の庄司隆雄である。妹には四代目市川翠扇がいる。本名は堀越孝俊として生まれたが、後に堀越寶世に改名している。
2.2. 教育と成長
幼少期から歌舞伎役者としての厳しい訓練が始まり、歌舞伎独特の発声法を習得するための発声練習や、様式化された動きとポーズに備えるための身体訓練を積んだ。幼稚園から高等部まで青山学院で過ごし、高等部からは堀越高等学校に転校し、1年間の留年を経て1997年3月に同校を卒業した。
1983年5月、5歳で歌舞伎座での『源氏物語』の春宮役で初お目見得を果たす。さらに1985年には七代目市川新之助を襲名し、歌舞伎座での『外郎売』の貴甘坊役で正式な初舞台を踏んだ。
2.3. 襲名歴と名前の変遷
市川團十郎はこれまでに複数の芸名を襲名してきた。
- 七代目 市川新之助**:1985年3月に父の十二代目市川團十郎襲名披露興行で初舞台とともに襲名し、2004年までこの名を名乗った。
- 十一代目 市川海老蔵**:2004年5月、歌舞伎座での『助六由縁江戸桜』の花川戸助六役や『暫』の鎌倉権五郎役などで十一代目市川海老蔵を襲名した。この襲名披露は同年4月4日に成田山新勝寺での奉告のお練りから始まり、京成上野駅から京成成田駅間を運行する特別列車「海老蔵号」に乗車した。同年6月30日には成田山大阪別院明王院でも奉告が行われ、京阪本線でも「海老蔵号」が運行された。
- 十三代目 市川團十郎 白猿**:父の十二代目市川團十郎の死後、2019年1月14日に、2020年5月に十三代目市川團十郎を襲名すると発表された。この際、祖父や父の芸に及ばぬため、さらなる精進の意を込めて俳名「白猿」も名乗ることが明かされた。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて襲名披露興行は延期となり、2022年10月31日に正式に十三代目市川團十郎白猿を襲名した。同時に長男の堀越勸玄が八代目市川新之助を襲名し、初舞台を踏んだ。これは市川家にとって重要な親子同時襲名となった。
3. 経歴
市川團十郎は、幼少期からの厳しい稽古と、伝統を重んじつつも革新的な挑戦を続ける姿勢によって、歌舞伎界の第一線で活躍している。
3.1. 初期の活動とデビュー
市川團十郎は、5歳で初お目見得を飾った後、1985年の七代目市川新之助襲名と『外郎売』での正式な初舞台を皮切りに、歌舞伎俳優としてのキャリアを本格的にスタートさせた。1994年には、NHK大河ドラマ『花の乱』でテレビドラマに初出演し、父である十二代目市川團十郎との共演を果たした。2000年には、歌舞伎座での『源氏物語』で光君役を務め、連日満員、チケットは発売初日に完売するほどの人気を博した。この頃、五代目尾上菊之助、二代目尾上辰之助とともに「平成の三之助」と呼ばれ、新たな歌舞伎ブームを巻き起こした。2003年には、再びNHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』で主人公の宮本武蔵役を演じ、その存在感を広く知らしめた。
3.2. 歌舞伎での主要な活動
歌舞伎座、大阪松竹座、南座など、日本の主要な劇場で数多くの公演に出演している。彼は「歌舞伎十八番」に代表される成田屋のお家芸の継承に力を入れ、今日ではあまり上演されなくなった演目の復活上演にも積極的に取り組んでいる。
主な当たり役としては、『助六由縁江戸桜』の花川戸助六実は曽我五郎時致、『毛抜』の粂寺弾正、『暫』の鎌倉権五郎景政、『外郎売』の外郎売、『鳴神』の鳴神上人、『勧進帳』の武蔵坊弁慶・富樫左衛門、『源氏物語』の光君、『極付幡随長兵衛』の幡随院長兵衛、『連獅子』の親獅子の精、『石川五右衛門』の石川五右衛門、『若き日の信長』の織田上総介信長、『夏祭浪花鑑』の団七九郎兵衛、『雪月花三景』の仲国、『源平布引滝』の斎藤実盛などが挙げられる。
2019年11月28日には、スター・ウォーズを題材とした歌舞伎『スター・ウォーズ歌舞伎~煉之介光刃三本~スター・ウォーズかぶき れんのすけ こうじん さんぼん日本語』でカイロ・レンをモチーフにした魁煉之介(かい・れんのすけ)役を演じ、息子である八代目市川新之助が若い魁煉之介を演じた。
2020年東京オリンピックの開会式では、ジャズピアニストの上原ひろみの演奏と共に伝統的な衣装で歌舞伎の動きを披露し、日本の文化を世界に発信する役割を担った。2022年5月22日には、東京スカイツリー開業10周年を記念して、その屋上で歌舞伎の「睨み」を披露する特別公演を行った。
3.3. 映像作品出演
市川團十郎は、歌舞伎の舞台活動に加えて、映画やテレビドラマなど、様々な映像作品にも出演し、幅広い層にその名を知らしめている。
2011年には映画『一命』で主演を務め、第64回カンヌ国際映画祭で初公開された。2013年には、千利休の生涯を描いた映画『利休にたずねよ』で主演を務め、第37回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を受賞した。その後も2014年に映画『喰女-クイメ-』で主演、2017年には第70回カンヌ国際映画祭でプレミア上映された日本映画『無限の住人』で助演を務めるなど、映画界でも活躍している。
3.4. 国際的な活動
市川團十郎は、日本の伝統芸能である歌舞伎を世界に広めるため、積極的に海外公演を行ってきた。
- 2004年10月には、フランス・パリのシャイヨ宮劇場で「市川新之助改め十一代目市川海老蔵襲名披露フランス公演」を実施。現地メディアからも「17世紀末以来の日本の伝統的演劇の中で名をとどろかせてきた一族の出身」「26歳のスター」「若く美男で特に『必殺の視線』を持っている」と報じられ、大きな話題となった。この公演により、彼はシャイヨ宮劇場で記念公演を行った初の歌舞伎役者となった。
- 2006年5月から6月にかけては、ロンドンとアムステルダムで訪欧歌舞伎公演を行い、ロンドン公演では権威あるローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされた。
- 2007年3月には、パリ・オペラ座で父とともに歌舞伎初の公演を実現し、『勧進帳』の弁慶役を演じた。この功績により、同年、フランス政府より芸術文化勲章のシュヴァリエ(Chevalier)を受章した。
- その他にも、2009年9月にはモナコ・オペラ座、2010年6月にはロンドンとローマ、2014年11月と2015年10月にはシンガポール、2016年2月にはアラブ首長国連邦(UAE)での公演を成功させている。
- 2016年3月には、ニューヨークのカーネギー・ホールでも能や狂言とのコラボレーション公演を行い、日本の古典芸能の魅力を世界に発信した。
- 2009年には、父である十二代目市川團十郎とともにフランス広報大使に就任している。
3.5. 企画・特別公演
市川團十郎は、伝統的な歌舞伎の枠を超え、現代の観客にもアピールする革新的な企画や特別公演にも積極的に取り組んでいる。
- 「古典への誘い」シリーズ**:2012年から「古典への誘い」と題した公演シリーズをプロデュースし、地方都市でも歌舞伎をより身近なものにすることを目指している。
- 「ABKAI」シリーズ**:2013年、2015年、2017年には、「ABKAI」という革新的なプロジェクトを自らプロデュースし、現代歌舞伎の新たな形式を導入した。
- 「STAR WARS歌舞伎」**:2019年11月28日には、世界的な人気を誇る映画シリーズ『スター・ウォーズ』を題材とした歌舞伎『スター・ウォーズ歌舞伎~煉之介光刃三本~スター・ウォーズかぶき れんのすけ こうじん さんぼん日本語』で魁煉之介役を演じ、その創造性が注目を集めた。
- 東京オリンピック開会式**:2020年の東京オリンピック開会式では、伝統的な歌舞伎のパフォーマンスを披露し、国際的な舞台で日本の文化を象徴する役割を果たした。
- 東京スカイツリーでのパフォーマンス**:2022年5月22日、東京スカイツリーの開業10周年を祝い、その屋上から歌舞伎の「睨み」を披露するという異例のパフォーマンスを行った。
4. 人物
市川團十郎は、伝統的な歌舞伎の担い手としての顔を持つ一方で、現代社会に生きる一人の人物としての多面的な顔も持ち合わせている。身長は176 cm、体重は80 kg、血液型はAB型である。
4.1. 芸に対する姿勢と哲学
10代の頃、七代目新之助(当時)は、幼少期から続く厳しい稽古と、名門・市川家の重責に耐え切れず反発を繰り返していた。しかし、偶然フィルムで観た祖父である十一代目市川團十郎が『勧進帳』の弁慶を演じる姿の美しさと勇姿に感動し、それが彼を立ち直らせるきっかけとなったと語っている。祖父の芸を目標に掲げているものの、その理想を追うがゆえに苦しみ、現在も試行錯誤を続けているという。
以前は舞台に上がることが苦痛であったが、歌舞伎に真剣に打ち込むようになった今は、プライベートの方が苦痛に感じると述べている。この異様な感覚について五代目坂東玉三郎に相談したところ、「あら、それは当たり前よ」と返され、安心したという。また、坂東玉三郎とこのような感覚を共感できたことを喜ばしいと感じたとも語っている。
彼は本格的な筋力トレーニングやヨガを日常的に行っており、雑誌『ターザン』の表紙を飾ったこともある。成田屋のお家芸である「歌舞伎十八番」のうち、今日ではあまり上演されなくなった演目の復活上演にも積極的に取り組んでいる。
4.2. 趣味と嗜好
市川團十郎の特技はバスケットボールで、学生時代にはバスケットボール部に所属していた。趣味は相撲鑑賞である。
かつては月50回も寿司を食べに行ったり、1日4箱もの煙草を吸ったり、酒を浴びるように飲むなど、不健康な生活を送っていた。しかし、2004年の十一代目海老蔵襲名を機に禁煙し、「歌舞伎をやるとき、神様に捧げることも意識しなくちゃいけない。だから、心と体を清くしなくちゃ」という思いから、2008年11月頃からは不規則な食生活や肉、魚、酒も控えるようになった。ただし、妻の小林麻央との結婚後は酒、肉、魚は再開している。2016年には、成田山新勝寺で真言宗の僧侶として得度を受けている。
自身のブログでは、ゲスト出演も果たした『名探偵コナン』や『ONE PIECE』など、好きな漫画やアニメ作品について度々言及しており、その造詣の深さをうかがわせる。モンキー・パンチの他界後には、『ルパン三世』のファンであったことも明かしている。また、スタジオジブリのアニメ作品の大ファンでもあり、『崖の上のポニョ』の非売品の人形と宮﨑駿が同作制作時に使用した鉛筆をプレゼントされ、涙ぐんで喜んだエピソードもある。宮﨑本人と対談した際には、自身が実践しているたわしで体をなでる健康法を宮﨑も行っていることが分かり、共通点があったことに感動したという。
2013年4月9日にブログを開始して以来、1日に10回以上更新するほどの高い頻度で情報を発信しており、2014年4月にはアメーバMVB(Most Valuable Blog)の初代受賞ブログとなり、2019年2月にはアメーバの「BLOG of the year 2018」最優秀賞を受賞している。ドラえもんのポーチを愛用しており、ポケットに漢方薬を入れていることを明かしたこともある。また、くまモンの大ファンであり、長女・麗禾の初舞台でくまモンに出演オファーを行い、共演を果たした。
4.3. その他の側面
五代目尾上菊之助とは幼馴染で同級生である。小学生の頃、菊之助の家の別荘でいたずらをしようとして、菊之助の母である富司純子に叱られたのが、家族以外の人に叱られた初めての経験だったという。また、菊之助の妻(父の従兄弟である二代目中村吉右衛門の四女)は再従姉妹にあたるため、十三代目團十郎とは親戚関係でもある。
他にも、再従兄弟には四代目尾上松緑、十代目松本幸四郎がおり、再従姉妹には松本紀保(十代目幸四郎の姉)や松たか子(同妹)がいる。
伊藤英明とは親友であり、互いを本名で呼び合う間柄である(伊藤は十一代目海老蔵〈当時〉の結婚披露宴で祝辞を述べる際に「新郎を本名でしか呼んだことがない」と紹介された)。
2013年の正月、新春浅草歌舞伎において、十一代目市川海老蔵の「睨み」を見れば無病息災であるとのアナウンスが行われた。また、14年ぶりの出演となった新春浅草歌舞伎の初日には、共演者らと東京浅草公会堂前で鏡開きを行った。2015年からは千葉県成田市の観光大使「御案内人」を務めている。2020年9月にはセイコーグループのグループアンバサダーに就任した。
5. 家族関係
市川團十郎は、妻の小林麻央との間に二人の子供をもうけた。また、歌舞伎役者としての活動において、父である十二代目市川團十郎との関係も深く、その影響を強く受けている。
2009年11月19日、フリーアナウンサーの小林麻央との交際が報じられ、同日中に結婚を前提とした婚約を発表した。年が明けた2010年1月29日に正式な婚約記者会見を執り行い、同年3月3日に婚姻届を提出、7月29日にザ・プリンス パークタワー東京で結婚式と披露宴を執り行った。
2011年7月25日、妻の麻央との間に第一子となる長女・麗禾(れいか、後の四代目市川ぼたん)が誕生した。さらに2013年3月22日には、第二子となる長男・勸玄(かんげん、後の八代目市川新之助)が誕生した。
彼の父である十二代目市川團十郎が健在であった当時、海外公演などで共に舞台に上がる際には、演出のことで意見が衝突することも度々あった。父が七代目新之助や十一代目海老蔵(当時)の意見を聞き入れることもあったが、そのような時の家庭内の空気は良くなかったという。しかし、反発していた時期も常に優しく見守ってくれていた父に対し、市川團十郎は常に感謝の言葉を述べている。
2003年には、当時1歳だった嫡出でない長女の存在が明らかになったが、彼は認知し養育費を支払っていることを会見で説明した。この件についても、父である十二代目團十郎は寛大な態度を示していた。しかし、2007年7月に十一代目海老蔵(当時)が大阪松竹座内の風呂場で転倒し、右足の裏を切る大けがを負い歌舞伎公演を降板した際には、さすがに激怒し「公演に穴を空けたんだから、自己管理がなっていない。今回は同情できん」とコメントした。
2016年6月9日、妻の麻央が乳がんを患っていることを公表し、闘病生活を支えた。しかし、2017年6月22日に麻央は死去した。翌日の緊急記者会見で、市川團十郎は自身の携帯電話に麻央の危篤を知らせるメッセージがあったことから急遽帰宅し、義姉の小林麻耶らとともに妻の最期を看取ったことを報告した。麻央が意識が朦朧とする中で「愛してる」と言ったのが最期の言葉だったと明かし、「自分を変えてくれた奥さん。こんなにも最後まで愛してくれていたということに...感謝しかない」と涙ながらに語った。
6. 受賞歴
市川團十郎は、その卓越した演技と多岐にわたる活動に対し、数々の賞と栄誉を受けている。
- 1995年:『仮名屋小梅』の濱本清で眞山青果賞新人賞、『鏡獅子』で松竹会長賞を受賞。
- 1997年:『吉原雀』で松竹会長賞を受賞。
- 2000年:『勧進帳』の弁慶役、『天守物語』の図書之助役で読売演劇大賞の杉村春子賞を受賞。
- 2001年:松尾芸能賞新人賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
- 2005年:重要無形文化財(総合認定)に認定され、伝統歌舞伎保存会の会員となる。
- 2006年:ロンドンでの舞台公演においてローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされた。
- 2007年:フランス政府より芸術文化勲章のシュヴァリエ(Chevalier)を受章。同年、ベストドレッサー賞特別賞を受賞。
- 2014年:映画『利休にたずねよ』での演技により、第37回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。また、「Yahoo!検索大賞2014」の俳優部門を受賞。
- 2021年:文化庁長官表彰を受賞。この表彰は、「永年にわたり、歌舞伎俳優として活躍するとともに、海外公演の実施や、2020年東京オリンピック競技大会開会式への出演など、我が国の伝統文化の発信に多大な貢献をしている」ことが理由とされた。
7. 評価と論争
市川團十郎は、歌舞伎界の第一人者として高く評価される一方で、そのキャリアの中でいくつかの論争に巻き込まれたこともある。
7.1. 肯定的な評価
市川團十郎は、歌舞伎界の伝統と革新を体現する存在として高く評価されている。彼は、成田屋に代々伝わる「歌舞伎十八番」を継承し、その型を忠実に守る一方で、現代の観客にも歌舞伎の魅力を伝えるための新たな試みを積極的に行ってきた。例えば、「古典への誘い」や「ABKAI」といった自主プロデュース公演は、歌舞伎の新たな可能性を広げ、地方の観客や若い世代に歌舞伎を普及させることに貢献した。
また、スター・ウォーズ歌舞伎や東京オリンピック開会式でのパフォーマンス、東京スカイツリーでの「睨み」披露など、異分野とのコラボレーションや公共の場での活動を通じて、歌舞伎の魅力を幅広い層に発信している。海外公演を積極的に行い、フランス芸術文化勲章を受章するなど、国際的な文化交流における彼の貢献も大きい。特に、彼の持つ「睨み」は、観客を魅了する象徴的な芸として、国内外で知られている。
7.2. 批判と論争
市川團十郎は、その公的な立場や影響力から、いくつかの批判や社会的な論争に巻き込まれることもあった。
2003年には、当時1歳だった嫡出でない長女の存在が明らかになり、会見で認知と養育費の支払いを説明した。この件は当時のメディアで報じられ、彼のプライベートな側面が公になるきっかけとなった。また、2007年7月には大阪松竹座内の風呂場で転倒し、右足の裏に大けがを負い、歌舞伎公演を降板せざるを得なくなった。この際、父である十二代目市川團十郎は「自己管理がなっていない」と厳しく批判し、事件に対する責任を問う姿勢を示した。
7.2.1. 2010年暴行事件
2010年11月25日早朝、市川團十郎(当時十一代目市川海老蔵)は西麻布の飲食店で他の客とトラブルになり、頭部と顔面に重傷を負った。左眼の血管が破裂するなどの大けがであった。帰宅後に妻の小林麻央が救急と警察に通報し、虎の門病院に緊急搬送された。警視庁目黒署は傷害事件として捜査を開始し、加害者の暴走族関係者が逮捕・収監された。
しかし、市川團十郎は11月25日午後に予定されていた公演の記者会見を体調不良を理由にキャンセルしたにもかかわらず、実際には11月24日夜から飲みに出ていたことが発覚した。この事態を受け、11月25日夜に成田屋後援会主催の「後援会の集い」開催後に急遽、父である十二代目市川團十郎が記者会見を開き、「本人の自覚のなさに怒りを感じる」「大変失礼な行動で、当人の自覚のなさがなせるわざ。憤りを感じている」と謝罪するとともに、息子である市川團十郎を突き放すコメントを発表した。
この事件により、2010年11月30日から出演予定だった京都市東山区・南座での「吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」を急遽降板した。市川團十郎自身も12月7日に都内のホテルで記者会見を行い、「日ごろの自分のおごりが招いたことだと思います」と謝罪した。会見に同席した松竹の社長は、市川團十郎の歌舞伎出演を無期限で自粛することを発表した。この無期限謹慎に伴い、「初春花形歌舞伎」は中止となり、名古屋・御園座での「二月大歌舞伎」(2011年2月公演)も降板となった。
この事件は、市川團十郎の知名度から広く報道され、彼の活動に長期的な影響を与えただけでなく、彼が出演していたCMの広告キャンペーンが中止されるなど、経済的な影響も大きかった。また、日本の芸能界と暴力団関係者とのつながりが公に露呈するきっかけとなり、社会に大きな波紋を呼んだ。
8. 死没
十三代目市川團十郎は現在もご存命です。本項目は、将来的な記述のために用意されています。
9. 出演作品
市川團十郎は、歌舞伎の舞台に加えて、映画、テレビドラマ、テレビアニメ、CMなど、多岐にわたる分野で活躍している。
9.1. 歌舞伎・その他の舞台
- 源氏物語(1983年) - 春宮 役
- ライル(1990年) - ジョッシュ 役
- スタンド・バイ・ミー(1991年) - 主演・クリス 役
- 天守物語(1999年、2006年) - 図書之助 役
- 鳴神(2000年) - 鳴神上人 役
- 疾風のごとく(2002年) - 鈴木猪平 役
- 宮本武蔵(2003年) - 主演・宮本武蔵 役
- 助六由縁江戸桜(2004年) - 花川戸助六実は曽我五郎時致 役
- 暫(2004年) - 鎌倉権五郎 役
- 信長(2006年) - 主演・織田信長 役
- 海神別荘(2006年、2009年) - 公子 役
- ドラクル(2007年) - 主演・レイ 役
- 勧進帳(2007年) - 弁慶 役
- オイディプス(2019年) - オイディプス 役
- STAR WARS歌舞伎(2019年) - 魁煉之介 役
- 外郎売(1985年) - 貴甘坊 役
9.2. 映像作品
9.2.1. 映画
- 出口のない海(2006年、松竹) - 主演・並木浩二 役
- 一命(2011年、松竹) - 主演・津雲半四郎 役
- 利休にたずねよ(2013年、東映) - 主演・千利休 役
- 喰女-クイメ-(2014年、東映) - 主演・長谷川浩介 役
- 無限の住人(2017年、ワーナー・ブラザーズ映画) - 閑馬永空 役
9.2.2. テレビドラマ
- 大河ドラマ(NHK総合)
- 花の乱(1994年) - 足利義政(青年時代) 役
- 武蔵 MUSASHI(2003年) - 主演・宮本武蔵 役
- おんな城主 直虎(2017年) - 織田信長 役
- 麒麟がくる(2020年 - 2021年) - ナレーション
- 豊臣秀吉 天下を獲る!(1995年、テレビ東京) - 吉法師 役
- 炎の奉行 大岡越前守(1997年、テレビ東京) - 大岡市十郎 役
- 忠臣蔵うら話 仲蔵狂乱(2000年、朝日放送) - 中村仲蔵 役
- MR.BRAIN 第1話・第7話・第8話(2009年、TBS) - 武井公平 役
- 松本清張ドラマスペシャル「霧の旗」(2010年、日本テレビ) - 主演・大塚欽也 役
- 長谷川町子物語~サザエさんが生まれた日~(2013年、フジテレビ) - 九代目市川海老蔵 役
- 弱くても勝てます ~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~(2014年、日本テレビ) - 谷内田健太郎 役
- 石川五右衛門(2016年、テレビ東京) - 主演・石川五右衛門 役
- SUITS/スーツ 第10・11話(2018年、フジテレビ) - 澤田仁志 役
- BG~身辺警護人~ 第2章 最終話(2020年、テレビ朝日) - 本人 役(特別出演)
- 十三代目市川團十郎白猿襲名記念特別企画 桶狭間 OKEHAZAMA~織田信長 覇王の誕生~(2021年、フジテレビ) - 主演・織田信長 役
9.2.3. 声優活動
- 名探偵コナン コナンと海老蔵 歌舞伎十八番ミステリー(2016年1月9日・16日、読売テレビ) - 市川海老蔵(本人) 役
- オール・イズ・ロスト ~最後の手紙~(2014年、ポニーキャニオン) - 我らの男 役(ロバート・レッドフォード)※吹き替え
- ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー(2018年、ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ) - ストームトルーパー 役※吹き替え
9.3. CM・その他のメディア出演
- 伊藤園「お~いお茶」(2000年 - )
- ヤマキ(2000年 - 2010年)
- 明治製菓「ショコラクール」(1995年)
- 三井生命保険(1998年)
- NEC「Expressワークステーション」(1998年)
- ミズノ「スーパースター」(2003年)
- 野村不動産「プラウド」(2004年)
- セイコーウオッチ「BRIGHTZ PHOENIX」(2008年)
- TSUTAYA DISCAS(2009年 - ) - テレビショッピング番組の司会者 役
- ロッテリア「えびバーガー」(2010年)
- ピップ「ピップエレキバンZ」(2009年 - 2010年)
- サイバーエージェント「アメーバブログ」(2014年)
- 飯田グループホールディングス(2014年 - )
- ソフトバンクモバイル(2015年)
- ライオン「贅沢Care」(2015年)
- ジェイテクト(2016年)
- DR.C医薬
- 「花粉を水に変えるマスク」(2018年 - )
- 「ハイドロ銀チタン®マスク」(2020年 - )※長女・ぼたん、長男・勸玄と共に出演
- ユニクロ「エアリズムインナー」(2019年)
- タイガー魔法瓶「タイガー土鍋炊飯ジャー<炊きたて>」(2020年 - )
その他のメディア出演:
- クイズ$ミリオネア(2006年9月7日、フジテレビ)
- おしゃれイズム(2007年12月7日、日本テレビ)
- KIRIN ART GALLERY 美の巨人たち「~美術とキャラクター~くまモン誕生!」(2016年9月24日、テレビ東京)
10. 関連項目
- 日本の男優一覧
- 三之助
- 鹿取義隆