1. 概要
清水義範(しみず よしのり)は、1947年10月28日に日本の愛知県名古屋市で生まれた小説家である。彼は、他の作家の文体を模倣するパスティーシュ技法を駆使した独自の作風で知られ、『蕎麦ときしめん』(1986年)や『永遠のジャック&ベティ』(1988年)など、諧謔に富んだ作品を多数発表してきた。その活動は、初期のSF作品から始まり、ユーモアを交えた推理小説、自伝的青春小説、そして名古屋弁を特徴とする「名古屋もの」と呼ばれる地域文化に根ざした作品群へと多岐にわたる。彼は吉川英治文学新人賞を受賞し、直木賞候補にも複数回選出されるなど、文学界で高い評価を得ている。また、NHKの用語委員を務めるなど、日本語表現に関する深い造詣も示している。
2. 来歴・人物
清水義範は、その文学活動を通じて、日本の現代文学に独自の足跡を残してきた。彼の来歴は、幼少期の環境、学生時代の文学への傾倒、そして師との出会いを通じて、その後の作家としての基盤を築いている。
2.1. 出生と幼少期
清水義範は1947年10月28日、愛知県愛知郡天白村(現在の名古屋市天白区)に生まれた。2歳の時に、名古屋市西区笠取町へと移住し、幼少期を過ごした。彼は名古屋市立庄内小学校、名古屋市立名塚中学校で学んだ。
2.2. 学歴と初期の文学的関心
中学時代から熱心なSFファンであり、自らSF同人誌『スーパー・ノバ』を発行するなど、同人作家として活動していた。愛知県立名古屋西高等学校を卒業後、愛知教育大学教育学部国語学科に進学し、ここでも文学への関心を深めた。高校の後輩には作家の高千穂遙がいるが、面識はなかったという。1969年には、自身の同人誌に掲載した短編「冒険狂時代」がSF専門誌『宇宙塵』に掲載され、さらに商業誌『推理界』にも転載されるなど、学生時代からその才能の片鱗を見せていた。
2.3. 上京と師事
大学卒業後、清水は作家の半村良と面識を得た。半村良の勧めを受けて上京し、彼に師事する形で作家活動を本格化させた。半村からは主に食や酒について教わったと後に語っている。1977年からはソノラマ文庫を主な活動の場とし、SF作品を中心に多数の少年向け作品を発表し始めた。
3. 文学活動と業績
清水義範の文学活動は、SF作家としてのデビューから始まり、パスティーシュ技法の確立、多様なジャンルへの挑戦、そして地域文化への貢献へと発展していった。その業績は数々の受賞歴と批評的評価によって裏付けられている。
3.1. デビューと初期の作品群
清水義範は1977年に『エスパー少年抹殺作戦』(朝日ソノラマ)で単行本デビューを果たした。初期はソノラマ文庫を舞台に、『宇宙史シリーズ』をはじめとするSF作品を多数発表し、少年層の読者から支持を得た。1981年には『昭和御前試合』(CBS・ソニー出版)により、一般向けの作家として広く認知されるようになった。
3.2. パスティーシュ技法の確立
彼の名を一躍有名にしたのは、他の作家の文体を模倣するパスティーシュ技法を確立したことである。短編集『蕎麦ときしめん』(1986年)では、司馬遼太郎の文体で猿蟹合戦を叙述した『猿蟹の賦』や、丸谷才一の文体で書かれた『猿蟹合戦とは何か』、さらに『日本人とユダヤ人』とその状況をパロディ化した表題作など、多岐にわたるパスティーシュ作品を発表した。この手法を用いた短編は数百編に及び、彼の文学的独自性を決定づけた。
3.3. 推理小説とシリーズ作品
パスティーシュ作品以外にも、清水義範はユーモア色の濃い推理小説のシリーズを複数手がけている。特に「躁鬱探偵コンビの事件簿シリーズ」は人気を博し、その中の「H殺人事件」と「Y殺人事件」は、TBS系列で2時間ドラマ化され、それぞれ「Hは謎のイニシアル 女子短大生の愛のゆくえ -H殺人事件-」、「Y殺人事件 湯けむりスキーと女子大生!?」のタイトルで放送された。また、自伝的な要素を含む青春小説シリーズも執筆している。
3.4. 「名古屋もの」と地域文化への貢献
加藤清正と北政所が名古屋弁で会話するショートショート『決断』を執筆して以来、清水義範は名古屋や名古屋弁を前面に押し出した「名古屋もの」と呼ばれる作品を多数発表するようになった。これらの作品を通じて、彼は名古屋の地域文化を全国に紹介し、その功績により大須演芸場で「名古屋弁を全国に広める会」の功労賞を受賞し、名古屋市名誉市民にも選ばれている。この「名古屋もの」の集大成ともいえるのが、豊臣氏が存続して名古屋幕府を開き、名古屋弁が標準語となった日本の近代史を描くパラレルワールドSF『金鯱の夢』(1989年)である。
3.5. 受賞歴と文学的評価
清水義範は、その文学的功績が認められ、数々の賞を受賞し、高い評価を受けている。1988年には短編集『国語入試問題必勝法』により吉川英治文学新人賞を受賞した。また、『金鯱の夢』、『虚構市立不条理中学校』、『柏木誠治の生活』の3作品で直木賞候補に選出されたが、いずれも受賞には至らなかった。
文壇においては、作家の丸谷才一が彼を「注目すべきパロディスト」と評し、「パロディを書くことと小説を作ることが両立して、両者は互いに相手を引き立てる、これは賞賛に値する才能」とその独自性を高く評価している。しかし、丸谷は自身の作品である『忠臣蔵とは何か』のパロディである清水の『猿蟹合戦とは何か』については、素直に評価できないと告白している。
また、日本語に関する著作が多いことから、NHKの用語委員を務めるなど、言語に対する深い造詣と専門性が評価されている。現在、小説公募情報誌『月刊公募ガイド』の連載企画「小説の虎の穴」で選考委員を務めており、後進の育成にも貢献している。
3.6. その他の栄誉
文学活動以外の公的な栄誉として、清水義範は2009年に中日文化賞を受賞している。この賞は、「名古屋文化の神髄紹介とユーモアあふれる作風」が評価されての受賞であった。
4. 作品リスト
清水義範は多作な作家であり、SFから推理小説、エッセイ、ノンフィクションまで幅広いジャンルの作品を発表している。
4.1. シリーズ小説
- エスパー少年シリーズ
- エスパー少年抹殺作戦 (ソノラマ文庫、1977年)
- エスパー少年時空作戦 (ソノラマ文庫、1978年2月)
- 伝説シリーズ
- 禁断星域の伝説 (ソノラマ文庫、1979年1月 のちハルキ文庫)
- 黄金惑星の伝説 (ソノラマ文庫、1979年6月 のちハルキ文庫)
- 不死人類の伝説 (ソノラマ文庫、1979年10月 のちハルキ文庫)
- 絶滅星群の伝説 (ソノラマ文庫、1980年4月 のちハルキ文庫)
- 楽園宇宙の伝説 (ソノラマ文庫、1980年11月 のちハルキ文庫)
- 剣闘士シリーズ
- 魔界の剣闘士 (フタバノベルス、1981年11月 のち文庫)
- 惑星の剣闘士 (フタバノベルス、1982年7月 のち文庫)
- エスパー・コネクションシリーズ
- 神界の異端者 (ソノラマ文庫、1981年5月)
- 天空の魔道師 (ソノラマ文庫、1981年12月)
- 異形の渡来神 (ソノラマ文庫、1982年8月)
- 暗黒の破壊王 (ソノラマ文庫、1982年12月)
- ハンター&ウィッチシリーズ
- 妖魔よ翔べ (ソノラマ文庫、1983年5月)
- 妖魔を撃て (ソノラマ文庫、1983年7月)
- 魔獣学園シリーズ
- 魔獣学園 (ソノラマ文庫、1984年2月)
- 魔獣学園2 (ソノラマ文庫、1984年5月)
- 幻想探偵社シリーズ
- 怪事件が多すぎる (ソノラマ文庫、1984年9月)
- ABO殺人事件 (ソノラマ文庫、1984年12月)
- 不透明人間の挑戦 (ソノラマ文庫、1987年1月)
- アリバイ崩しに御用心 (『獅子王』、1986年初夏)
- 不透明人間の挑戦 (『獅子王』、1985年初秋)
- 世にも不思議な他殺死体 (『獅子王』、1986年初冬)
- エイリアン右往左往 (『獅子王』、1986年初夏)
- 新・幻想探偵社 (朝日ソノラマ、1992年6月)
- UWO現る! (『獅子王』、1990年10月)
- 涙なくしては語れない事件 (『獅子王』、1991年1月)
- 怪人千面鬼 (『獅子王』、1991年1月、1991年9月)
- "冬の恋" (『獅子王』、1991年4月)
- ランドルフィ物語シリーズ
- 聖金剛石の秘密 (ソノラマ文庫、1985年2月)
- 隻眼の魔術師 (ソノラマ文庫、1985年4月)
- 冥海の神獣島 (ソノラマ文庫、1985年9月)
- 大迷宮の邪王 (ソノラマ文庫、1986年3月)
- 異境の聖戦士 (ソノラマ文庫、1986年7月)
- 復讐の双生児 (ソノラマ文庫、1987年9月)
- 魔窟の飛兵団 (ソノラマ文庫、1988年7月)
- 高野山伝説シリーズ
- 黄金の空隙 高野山秘宝伝説 (シャピオ、1985年8月)
- 高野山黄金伝説 (双葉文庫、1988年5月)
- 躁鬱探偵コンビの事件簿シリーズ
- H殺人事件 (光文社文庫、1985年9月)
- CM殺人事件 (光文社文庫、1986年9月)
- DC殺人事件戦 (光文社文庫、1987年7月)
- M殺人事件 (光文社文庫、1987年12月)
- Y殺人事件 (光文社文庫、1989年1月)
- W殺人事件 (光文社文庫、1990年9月)
- 霊界魔変録シリーズ
- 霊峰黄金道 (ソノラマ文庫、1987年10月)
- 羽黒冥府道 (ソノラマ文庫、1988年5月)
- 恐山無明道 (ソノラマ文庫、1989年8月)
- 死闘輪廻道 (ソノラマ文庫、1990年3月)
- やっとかめ探偵団シリーズ
- やっとかめ探偵団 (光文社文庫、1988年5月)
- やっとかめ探偵団危うし (光文社文庫、1989年12月)
- やっとかめ探偵団と殺人魔 (光文社文庫、1996年3月)
- やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体 (祥伝社文庫、2000年10月)
- やっとかめ探偵団と鬼の栖 (実業之日本社、2002年8月 のち光文社文庫)
4.2. 単独の長編小説
- 緑の侵略者 (ソノラマ文庫、1978年)
- パステル学園大乱戦 (光風社出版、1987年 のち角川文庫)
- 超・怪盗入門 (フタバノベルス、1987年 のち文庫、角川文庫)
- 金鯱の夢 (集英社、1989年 のち文庫)
- 学問ノススメ 奮闘編 挫折編 自立編 (光文社カッパノベルス、1989年-1990年 のち文庫)
- 超・誘拐入門 (フタバノベルス、1989年 のち文庫、角川文庫)
- ことばの国 (集英社、1990年 のち文庫)
- 虚構市立不条理中学校 正続 (徳間書店、1990年-1991年 のち文庫、講談社文庫)
- 江勢物語 (角川文庫、1991年)
- 柏木誠治の生活 (岩波書店、1991年 のち新潮文庫)
- ナウの水びたし (文芸春秋、1991年 のち文庫)
- スシとニンジャ (講談社、1992年 のち文庫)
- 神々の午睡 (講談社、1992年 のち文庫)
- 青山物語1971 (光文社、1992年 のち文庫)
- ニッポン見聞録 (角川書店、1993年)
- 青山物語1974 スニーカーと文庫本 (光文社、1994年 のち文庫)
- 袖すりあうも他生の縁 (角川書店、1994年 のち文庫)
- 催眠術師 (福武書店、1994年 のち文庫)
- 春高楼の (講談社、1995年 のち文庫)
- 家族の時代 (読売新聞社、1995年 のち角川文庫)
- 名前がいっぱい (新潮社、1996年 のち文庫)
- 新築物語 または、泥江龍彦はいかにして借地に家を建て替えたか (角川書店、1996年 のち文庫)
- まちまちな街々 ニッポン見聞録 (角川文庫、1996年)
- 偽史日本伝 (集英社、1997年 のち文庫)
- 死神 (ベネッセコーポレーション、1998年 のち角川文庫)
- 上野介の忠臣蔵 (文藝春秋、1999年 のち文庫)
- 迷宮 (集英社、1999年 のち文庫)
- みんな家族 (文藝春秋、2000年 のち文庫)
- 二重螺旋のミレニアム (マガジンハウス、2000年 「遺伝子インフェルノ」幻冬舎文庫)
- 尾張春風伝 (幻冬舎文庫、2000年)
- 八つの顔を持つ男 (朝日新聞社、2000年 光文社文庫)
- 銀河がこのようにあるために (早川書房、2000年)
- スタア (幻冬舎、2001年 のち文庫)
- 源内万華鏡 (講談社文庫、2001年)
- 蛙男 (幻冬舎文庫、2002年)
- 幸福の軛 (幻冬舎、2003年 のち文庫)
- 青山物語1979 郷愁完結編 (光文社文庫、2004年)
- バードケージ (日本放送出版協会、2004年)
- イマジン (集英社、2004年 のち文庫)
- 漱石先生大いに悩む (小学館、2004年)
- 福沢諭吉は謎だらけ。心訓小説 (小学館、2006年)
- 冬至祭 (筑摩書房、2006年)
- 疑史世界伝 (集英社、2007年 「シミズ式目からウロコの世界史物語」文庫)
- ドン・キホーテの末裔 (筑摩書房、2007年 のち岩波現代文庫、2013年)
- 幕末裏返史 (集英社、2008年 「ifの幕末」文庫)
- いい奴じゃん (講談社、2008年 のち文庫)
- 愛と日本語の惑乱 (ベストセラーズ、2008年 のち講談社文庫、2014年)
- 川のある街 伊勢湾台風物語 (中日新聞社、2009年)
- 龍馬の船 (集英社文庫、2009年)
- 信長の女 (集英社文庫、2011年)
- 朦朧戦記 (新潮社、2015年)
4.3. 短編集
- 『昭和御前試合』 (CBS・ソニー出版、1981年 のち光文社文庫)
- 『グローイング・ダウン』 (光風社出版、1986年)
- 『蕎麦ときしめん』 (講談社、1986年 のち文庫)
- 『国語入試問題必勝法』 (講談社、1987年 のち文庫)
- 『永遠のジャック&ベティ』 (講談社、1988年 のち文庫)
- 『深夜の弁明』 (実業之日本社、1988年 のち講談社文庫、徳間文庫)
- 『アキレスと亀』 (広済堂出版、1989年 のち角川文庫、広済堂文庫)
- 『青春小説』 (講談社、1989年 のち文庫、中公文庫)
- 『イエスタデイ』 (徳間書店、1989年 のち文庫、講談社文庫)
- 『ビビンパ』 (講談社、1990年 のち文庫)
- 『動物ワンダーランドーヒト特集』 (実業之日本社、1990年 のち文春文庫)
- 『秘湯中の秘湯 「ことば」の前衛喜劇全11編!』 (大陸書房、1990年 のち新潮文庫)
- 『河馬の夢』 (祥伝社、1990年 のち新潮文庫)
- 『ムイミダス』 (毎日新聞社、1991年 のち文春文庫)
- 『お金物語』 (朝日新聞社、1991年 のち講談社文庫)
- 『単位物語』 (朝日新聞社、1991年 のち講談社文庫)
- 『黄昏のカーニバル』 (徳間書店、1991年 のち文庫、講談社文庫)
- 『主な登場人物』 (実業之日本社、1991年 のち角川文庫)
- 『ジャンケン入門』 (天山出版、1991年 のち角川文庫)
- 『清水義範本人の愛好本 自選傑作集』 (講談社、1991年)
- 『人生うろうろ』 (中央公論社、1992年 のち文庫、講談社文庫)
- 『世界文学全集』 (集英社、1992年 「普及版世界文学全集」文庫)
- 『ダムとカンナとシンシロシテン』 (文芸春秋、1992年 「酒とバラの日々」文庫)
- 『世界衣裳盛衰史』 (角川書店、1992年 のち文庫)
- 『日本文学全集』 (実業之日本社、1992年 「普及版日本文学全集」集英社文庫)
- 『発言者たち』 (文藝春秋、1993年 のち文庫)
- 『私は作中の人物である』 (講談社、1993年 のち文庫、中公文庫)
- 『シナプスの入江』 (福武書店、1993年 のち文庫)
- 『バラバラの名前』 (広済堂出版、1993年 のち文庫、新潮文庫)
- 『陽のあたらない坂道』 (新潮社、1993年 のち文庫)
- 『遥か幻のモンデルカ』 (集英社、1993年 「大探検記 遥か幻のモンデルカ」文庫)
- 『黄昏の悪夢 自選恐怖小説集』 (角川ホラー文庫、1993年)
- 『似ッ非イ教室』 (講談社、1994年 のち文庫)
- 『バスが来ない』 (徳間書店、1994年 のち文庫)
- 『戦時下動物活用法』 (実業之日本社、1994年 のち新潮文庫)
- 『バールのようなもの』 (文藝春秋、1995年 のち文庫)
- 『体に悪いことしてますか』 (祥伝社、1995年 「ピンポン接待術」文庫)
- 『日本ジジババ列伝』 (中央公論社、1995年 のち文庫、講談社文庫)
- 『騙し絵 日本国憲法』 (集英社、1996年 のち文庫)
- 『ターゲット』 (実業之日本社、1996年 のち新潮文庫)
- 『茶色い部屋の謎』 (光文社文庫、1997年)
- 『12皿の特別料理』 (角川書店、1997年 のち文庫)
- 『ザ・対決』 (講談社、1998年 のち文庫)
- 『本番いきま~す』 (実業之日本社、1998年 「間違いだらけのビール選び」講談社文庫)
- 『親亀こけたら』 (徳間書店、1998年 のち文庫)
- 『その後のシンデレラ』 (祥伝社、1998年 のち文庫)
- 『永遠のタージ』 (角川文庫、1999年)
- 『大剣豪』 (講談社文庫、2000年)
- 『日本語の乱れ』 (集英社、2000年 のち文庫)
- 『ゴミの定理』 (実業之日本社、2001年 のち講談社文庫)
- 『世にも珍妙な物語集』 (講談社、2001年 のち文庫)
- 『博士の異常な発明』 (集英社、2002年 のち文庫)
- 『ザ・勝負』 (講談社、2002年 のち文庫)
- 『笑う霊長類』 (文藝春秋、2003年)
- 『Money』 (徳間書店、2004年 のち文庫)
- 『首輪物語』 (集英社、2005年 のち文庫)
- 『読み違え源氏物語』 (文藝春秋、2007年)
- 『新アラビアンナイト』 (集英社文庫、2007年)
- 『清水義範パスティーシュ100』全6冊 (ちくま文庫、2008年-2009年)
- 『会津春秋』 (集英社文庫、2012年)
4.4. エッセイ・ノンフィクション
- 『パスティーシュと透明人間』 (実業之日本社、1992年 のち新潮文庫)
- 『映画でボクが勉強したこと ほんとーに素敵だ』 (毎日新聞社、1993年 のち幻冬舎文庫)
- 『清水義範の作文教室』 (早川書房、1995年 のち文庫)
- 『日本語がもっと面白くなるパズルの本 難問、奇問、愚問を解』 (光文社文庫、1997年)
- 『青二才の頃 回想の'70年代』 (講談社、1999年 のち文庫)
- 『今どきの教育を考えるヒント』 (講談社、1999年 のち文庫)
- 『もうなつかしい平成の年表』 (講談社、2000年)
- 『日本語必笑講座』 (講談社、2000年 のち文庫)
- 『目からウロコの教育を考えるヒント』 (講談社、2001年 のち文庫)
- 『作文ダイキライ』 (学研M文庫、2001年)
- 『サイエンス言誤学』 (朝日新聞社、2001年 のち文庫)
- 『清水義範ができるまで』 (大和書房、2001年 のち講談社文庫)
- 『銅像めぐり旅 蘊蓄紀行』 (祥伝社、2002年 のち文庫)
- 『行儀よくしろ。』 (ちくま新書、2003年)
- 『やっとかめ!大名古屋語辞典』 (学習研究社、2003年)
- 『清水義範のほめ言葉大事典』 (白泉社、2004年)
- 『大人のための文章教室』 (講談社現代新書、2004年)
- 『わが子に教える作文教室』 (講談社現代新書、2005年)
- 『「大人」がいない...』 (ちくま新書、2006年)
- 『スラスラ書ける!ビジネス文書』 (講談社現代新書、2006年)
- 『ああ知らなんだこんな世界史』 (毎日新聞社、2006年 のち朝日文庫)
- 『小説家になる方法 本気で考える人のための創作活動のススメ』 (ビジネス社、2007年)
- 『早わかり世界の文学-パスティーシュ読書術』 (ちくま新書、2008年)
- 『幸せになる力』 (ちくまプリマー新書、2008年)
- 『世界文学必勝法』 (筑摩書房、2008年)
- 『身もフタもない日本文学史』 (PHP新書、2009年 「学校では教えてくれない日本文学史」文庫)
- 『夫婦で行くイスラムの国々』 (集英社文庫、2009年)
- 『暴言で読む日本史』 (メディアファクトリー新書、2011年)
- 『夫婦で行くイタリア歴史の街々』 (集英社文庫、2011年)
- 『夫婦で行くバルカンの国々』 (集英社文庫、2013年)
- 『50代から上手に生きる人ムダに生きる人』 (三笠書房・知的生きかた文庫、2013年)
- 『50代から余裕が生まれる人なくなる人』 (三笠書房・知的生きかた文庫、2013年)
- 『考えすぎた人 お笑い哲学者列伝』 (新潮社、2013年 文庫、2015年)
- 『心を操る文章術』 (新潮新書、2014年)
- 『ちょっと毒のあるほうが、人生うまくいく!』 (三笠書房 知的生きかた文庫、2015年)
- 『夫婦で行く旅の食日記 世界あちこち味巡り』 (集英社文庫、2015年)
- 『夫婦で行く意外とおいしいイギリス』 (集英社文庫、2016年)
- 『ウケる!大人の会話術』 (朝日新書、2017年)
- 『日本の異界 名古屋』 (ベスト新書、2017年)
4.5. イラストレーションを伴う作品
イラストレーターの西原理恵子との共著による「お勉強シリーズ」など。
- 『おもしろくても理科』 (講談社、1994年 のち文庫)
- 『もっとおもしろくても理科』 (講談社、1996年 のち文庫)
- 『どうころんでも社会科』 (講談社、1998年 のち文庫)
- 『もっとどうころんでも社会科』 (講談社、1999年 のち文庫)
- 『いやでも楽しめる算数』 (講談社、2001年 のち文庫)
- 『はじめてわかる国語』 (講談社、2002年 のち文庫)
- 『飛びすぎる教室 先生の雑談風に』 (講談社、2003年 のち文庫)
- 『独断流「読書」必勝法』 (講談社、2007年 のち文庫)
- 『雑学のすすめ』 (講談社、2007年 のち文庫)
- 『清水義範のイッキによめる!学校よりおもしろい社会』 (講談社、2010年)
- 『清水義範のイッキによめる!日本史人物伝 古代編 (ヤマトタケル・卑弥呼・聖徳太子・中大兄皇子・大海人皇子)』 (講談社、2012年)
- 『清水義範のイッキによめる!日本史人物伝. 平安時代&武士の誕生編 (桓武天皇・空海・平将門 平清盛・源義経・北条時宗 後醍醐天皇・足利尊氏)』 (講談社、2013年)
- 『清水義範のイッキによめる!日本史人物伝. 戦国時代~幕末激動編 (織田信長・徳川家康・徳川吉宗 井伊直弼・吉田松陰・勝海舟 坂本龍馬・西郷隆盛)』 (講談社、2014年)
4.6. 共編著
- 『笑説大名古屋語事典』 (学習研究社、1994年 のち角川文庫) - 編著
- 『電脳兄弟のパソコン放浪記』 (朝日新聞社、1994年5月 「パソコン・マスターへの道」光文社文庫) - 清水幸範共著
- 『日本の名随筆 別巻 66 方言』 (作品社、1996年)
- 『一日の終わりに50の名作一編』 (成美文庫、2008年)
5. 文学スタイルとテーマ
清水義範の作品は、その独特な文学スタイルと多様なテーマによって特徴づけられる。パスティーシュ技法を核としながらも、ユーモアと風刺、SF的想像力、そして言語表現への深い洞察が彼の作品世界を形成している。
5.1. パスティーシュとパロディ
清水義範の文学スタイルを語る上で最も重要なのが、他の作家の文体を模倣するパスティーシュ技法と、それを用いたパロディ作品である。彼は、単なる模倣に留まらず、模倣した文体で全く異なる物語やテーマを語ることで、新たな文学的価値を創造した。例えば、『蕎麦ときしめん』に収録された『猿蟹の賦』では司馬遼太郎の重厚な歴史叙述を、また『猿蟹合戦とは何か』では丸谷才一の批評的文体をそれぞれ猿蟹合戦の物語に適用し、そのギャップから生まれる諧謔を追求した。さらに、社会現象となった書籍『日本人とユダヤ人』を巡る状況をパロディ化した作品も発表している。このパスティーシュ技法は、彼の短編作品数百編にわたり用いられ、彼の作品群の核となっている。
5.2. ユーモアと風刺
清水義範の作品には、常にユーモア、皮肉、そして風刺といった要素が織り交ぜられている。彼のユーモアは単なる笑いに終わらず、社会や人間の本質を鋭く突く風刺として機能することが多い。例えば、彼の推理小説シリーズでは、事件の解決過程に独特のユーモアが散りばめられ、読者に知的な笑いを提供する。また、パスティーシュ作品における文体と内容のミスマッチも、彼の諧謔精神の表れであり、読者に新たな視点と深い洞察をもたらす。
5.3. SF的要素と想像力
清水義範は、そのキャリアの初期からSF作家として活動しており、彼の作品には常にSF的な要素と豊かな想像力が息づいている。彼のデビュー作である『エスパー少年抹殺作戦』や、初期の『宇宙史シリーズ』は、その代表例である。また、名古屋弁が標準語となったパラレルワールドを描いた『金鯱の夢』は、SF的発想と地域性を融合させた傑作として評価されている。さらに、『博士の異常な発明』や『首輪物語』といった作品にも、現実にはありえない設定や奇妙な出来事が登場し、読者の想像力を刺激する。これらのSF的要素は、物語に深みと意外性をもたらし、彼の作品を単なる現実模倣に留まらせない要因となっている。
5.4. 言語表現と地域性
清水義範は、日本語の表現に対する深い造詣を持つことで知られ、その知識はNHKの用語委員を務めることにもつながっている。彼の作品の大きな特徴の一つは、名古屋弁を積極的に用いた「名古屋もの」と呼ばれる作品群である。彼は、名古屋弁を単なる方言としてではなく、登場人物の個性や物語のリアリティを深めるための重要な文学的要素として活用した。特に『決断』や『やっとかめ探偵団』シリーズ、そして『金鯱の夢』などでは、名古屋弁が物語の基盤となり、地域文化の魅力を全国に発信することに貢献した。彼の著作『やっとかめ!大名古屋語辞典』は、その言語への深い関心と地域性への愛着を示すものである。
6. 影響と評価
清水義範の作品は、その独自のスタイルと多様なテーマによって、日本の文学界と読者に大きな影響を与えてきた。彼の作品は、メディア展開を通じて広く大衆に浸透し、日本の現代文学と日本語表現の多様化に貢献した。
6.1. 批評家・作家からの評価
清水義範は、文壇において「パスティーシュの第一人者」として確固たる地位を築いている。作家の丸谷才一は、彼のパスティーシュ技法を高く評価し、それが小説創作と両立し、互いに引き立て合う「賞賛に値する才能」であると述べている。これは、単なる模倣に終わらない清水の文学的創造性が認められた証である。また、彼が小説公募情報誌『月刊公募ガイド』の選考委員を務めていることは、彼の文学的知見と経験が後進の作家たちに影響を与え続けていることを示している。
6.2. メディア展開と大衆への浸透
清水義範の作品は、そのエンターテインメント性の高さから、様々なメディアで展開され、広く大衆に浸透した。特に「躁鬱探偵コンビの事件簿シリーズ」の「H殺人事件」と「Y殺人事件」はTBSで2時間ドラマ化され、多くの視聴者に親しまれた。また、彼の短編作品は、テレビ番組『ココだけの話』で『バスが来ない』などが、そして『世にも奇妙な物語』では『シャーロック・ホームズの口寄せ』や『もれパス係長』などがドラマ化されている。さらに、落語家の立川志の輔が『バールのようなもの』などの清水作品を落語として口演するなど、ジャンルを超えた展開を見せている。彼の作品『学問ノススメ』もテレビドラマ化されており、これらのメディアミックスは、彼の作品が大衆文化に与えた影響の大きさを物語っている。
6.3. 日本文学・言語への貢献
清水義範は、日本の現代文学、特に言語表現の多様化に大きく貢献した。彼の確立したパスティーシュ技法は、文学における文体の可能性を広げ、新たな表現領域を開拓した。また、名古屋弁を文学作品に積極的に取り入れ、「名古屋もの」というジャンルを確立したことは、日本の地域文化を全国に紹介し、方言の文学的価値を再認識させる上で重要な役割を果たした。彼のNHK用語委員としての活動や、言語に関する多数のエッセイは、日本語の正しい使用と豊かな表現の追求に対する彼の深い貢献を示している。