1. 生涯
イザ・ミランダは、幼少期からの厳しい労働経験を経て、演技の世界へと進んだ。彼女のキャリアはイタリアで始まり、その後ハリウッドでの成功、そして第二次世界大戦後のヨーロッパにおける国際的な活躍へと発展していった。
1.1. 出生と幼少期
イザ・ミランダは、本名をイネス・イザベッラ・サンピエトロとして、1905年7月5日にミラノで生まれた。路面電車の車掌の娘として育った彼女は、10歳で仕立て屋の使い走りとして働き始め、その後は箱工場やハンドバッグ工場でも働いた。
1.2. 教育
15歳になると、モデルとして活動を開始し、その収入で夜間学校に通い簿記とタイピングを学んだ。タイピストとして働きながら、ミラノのアッカデミア・デイ・フィロドラマティチで演劇を学び、舞台女優としての訓練を積んだ。
1.3. 初期キャリア
ローマでイタリア映画の端役を演じることからキャリアをスタートさせた。その後、芸名をイザ・ミランダに改名し、マックス・オフュルス監督の映画『万人の恋人』(La Signora di tuttiイタリア語、1934年)で大きな成功を収めた。この作品で彼女は、男性が恋に落ちずにはいられない有名な映画スターであり冒険家であるギャビー・ドリオを演じ、この演技がハリウッドからのオファー、特にパラマウント映画との契約へと繋がった。
2. 活動と業績
イザ・ミランダのキャリアは、イタリア映画界での飛躍的な成功からハリウッド進出、そして第二次世界大戦後のヨーロッパでの国際的な活躍へと展開した。彼女は多岐にわたる役柄を演じ、その演技力は国内外で高く評価された。
2.1. イタリアでのキャリア
イタリアでの初期のキャリアにおいて、イザ・ミランダは『万人の恋人』(1934年)で一躍脚光を浴びた。この作品での画期的な演技は、彼女をイタリア映画界のスターダムに押し上げた。ハリウッドでの活動後も、第二次世界大戦の勃発を機にイタリアに戻り、舞台や映画での活動を継続した。この時期には、『Senza cieloイタリア語』(1940年)、『A Woman Has Fallenイタリア語』(1941年)、『Malombraイタリア語』(1942年)、『Zazàイタリア語』(1944年)、『La carne e l'animaイタリア語』(1945年)、『My Widow and Iイタリア語』(1945年)など、数多くのイタリア映画に出演した。

2.2. ハリウッドでのキャリア
『万人の恋人』での成功後、イザ・ミランダはハリウッドのパラマウント映画と契約を結んだ。ハリウッドでは「イタリアのマレーネ・ディートリヒ」として売り出され、『ホテル・インペリアル』(1939年)や『Adventure in Diamonds英語』(1940年)などの映画で、ファム・ファタールの役柄を多く演じた。これらの役柄は、当時の映画産業における女性の理想像と挑戦的な側面を反映していた。
2.3. 国際的なキャリア
第二次世界大戦後、イザ・ミランダはヨーロッパでのキャリアをさらに発展させた。1949年にはルネ・クレマン監督の映画『鉄格子の彼方』で主演を務め、この作品は1950年のアカデミー外国語映画賞を受賞した。ミランダ自身も、この作品での演技によりカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(女優賞)を獲得し、国際的な評価を不動のものとした。この時期のもう一つの成功作は、再びオフュルス監督と組んだ『輪舞』(1950年)である。
彼女のキャリアはフランス、ドイツ、イギリスへと広がり、テレビ映画にも頻繁に出演した。特にイギリスのテレビシリーズ『おしゃれ(秘)探偵』にも出演している。その他の注目すべき国際的な映画出演作には、アンナ・マニャーニ、アリダ・ヴァリ、イングリッド・バーグマンらと共演したオムニバス映画『われら女性』(1953年)、キャサリン・ヘプバーン主演の『旅情』(1955年)、『Gli Sbandatiイタリア語』(1955年)、『黄色いロールス・ロイス』(1964年)、『栄光の座』(1968年)、そしてリリアーナ・カヴァーニ監督の『愛の嵐』(1974年)などがある。
3. フィルモグラフィー
イザ・ミランダの主な出演作品は以下の通りである。
年 | 邦題(原題) | 役柄 |
---|---|---|
1933 | The Haller Case英語 | Badwoman |
1934 | Cardinal Lambertini英語 | Anna |
1934 | 万人の恋人(La Signora di tuttiイタリア語) | ガブリエラ・ムルジェ(ギャビー・ドリオ) |
1934 | Tenebreイタリア語 | Vera |
1934 | Creatures of the Night英語 | Una gigolette |
1935 | Red Passport英語 | Maria Brunetti |
1935 | Like the Leaves英語 | Irene "Nennele" Rosani |
1936 | The Love of the Maharaja英語 | Mira Salviati |
1936 | A Woman Between Two Worlds英語 | Mina Salviati |
1936 | Thou Art My Joy英語 | Mary Hofer & Bianca Monti |
1937 | 生けるパスカル(The Man from Nowhere英語) | ルイーズ・パレアリ |
1937 | シピオネ(Scipio Africanus: The Defeat of Hannibalイタリア語) | ヴェリア |
1937 | The Lie of Nina Petrovna英語 | Nina Petrovna |
1938 | Like the Leaves英語 | Nennele |
1939 | ホテル・インペリアル(Hotel Imperial英語) | Anna Warschawska |
1940 | Adventure in Diamonds英語 | Felice Falcon |
1940 | Senza cieloイタリア語 | Regina |
1941 | A Woman Has Fallenイタリア語 | Dina |
1942 | Document Z-3イタリア語 | Sandra Morini |
1942 | Malombraイタリア語 | Marina di Malombra |
1944 | Zazàイタリア語 | Zazà |
1945 | La carne e l'animaイタリア語 | Katrin detta "Stella" |
1945 | My Widow and Iイタリア語 | Maria, sua moglie |
1948 | L'aventure commence demainフランス語 | Clarence Holbane |
1949 | 鉄格子の彼方(Les murs de Malapagaフランス語) | マルタ・マンフレディーニ |
1950 | I'm in the Revueイタリア語 | Isa |
1950 | Pact with the Devil英語 | Marta Larocca |
1950 | 輪舞(La Rondeフランス語) | シャルロット |
1951 | Cameriera bella presenza offresi...イタリア語 | Angela Leonardi |
1952 | 七つの大罪(Les Sept Péchés capitauxフランス語) | アルヴァロ夫人 |
1952 | Gli uomini non guardano il cieloイタリア語 | The countess |
1953 | われら女性(Siamo donneイタリア語) | イザ |
1954 | 洪水の前(Avant le délugeフランス語) | フランソワーズ・ブッサール夫人 |
1954 | The Secret of Helene Marimon英語 | Hélène Marimon |
1954 | 怪僧ラスプーチン(Raspoutineフランス語) | アレクサンドラ皇后 |
1955 | 旅情(Summertime英語) | フィオリーニ夫人 |
1955 | The Abandoned英語 | Contessa Luisa |
1955 | 海底の争奪(Il tesoro di Rommelイタリア語) | フィッシャー夫人 |
1956 | I pinguini ci guardanoイタリア語 | |
1957 | I colpevoliイタリア語 | Lucia Rossello |
1957 | Arrivano i dollari!イタリア語 | Caterina Marchetti |
1957 | 女は一回勝負する(Une manche et la belleフランス語) | ベティ・ファーンウェル |
1959 | Le secret du Chevalier d'Éonフランス語 | エリザヴェータ・ペトロヴナ女帝 |
1963 | 堕落(La corruzioneイタリア語) | マットーリ夫人 |
1963 | 禁じられた抱擁(La noiaイタリア語) | セシリアの母 |
1964 | Hardi Pardaillan!フランス語 | カトリーヌ・ド・メディシス |
1964 | 野獣ども地獄へ行け(Dog Eat Dog英語) | ベノワ夫人 |
1964 | Do You Know This Voice?英語 | マロッタ夫人 |
1964 | 黄色いロールス・ロイス(The Yellow Rolls-Royce英語) | アングレーム公爵夫人 |
1964 | Una storia di notteイタリア語 | ペッピーノの妻 |
1966 | 恋人たちの世界(Un monde nouveauフランス語) | 助産師 |
1967 | Hell Is Empty英語 | イザ・グラント |
1968 | Darling Caroline英語 | ブッセ公爵夫人 |
1968 | 栄光の座(The Shoes of the Fisherman英語) | マルケッサ |
1969 | 彼女と彼(L'assoluto naturaleイタリア語) | 母 |
1969 | La donna a una dimensioneイタリア語 | エレナ |
1970 | The Syndicate: A Death in the Family英語 | Tenutaria bordello |
1970 | ドリアン・グレイ/美しき肖像(Dorian Gray英語) | ラクストン夫人 |
1970 | Roy Colt and Winchester Jack英語 | マモラ / ヴァイオレット |
1970 | Un estate con sentimentoイタリア語 | スーの母 |
1971 | Martaイタリア語 | エレナ |
1971 | 血みどろの入江(Reazione a catenaイタリア語) | フェデリカ・ドナーティ伯爵夫人 |
1972 | Lo chiameremo Andreaイタリア語 | 教師 |
1974 | 愛の嵐(Il portiere di notteイタリア語) | スタイン伯爵夫人 |
1974 | I'll Take Her Like a Fatherイタリア語 | Lorè |
1977 | La lunga strada senza polvereイタリア語 | 妻 |
1982 | Apocalisse di un terremotoイタリア語 | チーロの母 |
4. 私生活
イザ・ミランダは、イタリアの映画監督兼プロデューサーであるアルフレード・グァリーニと1939年に結婚した。二人はグァリーニが1981年に死去するまで婚姻関係にあった。
5. 死別
イザ・ミランダは、夫の死から約1年後の1982年7月8日にローマで死去した。彼女の最後の映画出演は、死去した年に公開された『Apocalisse di un terremotoイタリア語』であった。
6. 評価と遺産
イザ・ミランダは、その国際的なキャリアと多様な役柄を通じて、映画史に名を刻んだ女優である。彼女の演技は、特に女性の描写において、同時代および後世の映画に大きな影響を与えた。
6.1. 肯定的な評価
イザ・ミランダは、その圧倒的な存在感と多様な演技力で高く評価された。特に、初期の『万人の恋人』でのファム・ファタールとしての演技は、彼女の国際的なイメージを確立した。また、『鉄格子の彼方』でのカンヌ国際映画祭女優賞受賞は、彼女の演技が世界的に認められた証である。彼女は、ハリウッドで「イタリアのマレーネ・ディートリヒ」と称されるなど、国際的な舞台で活躍した数少ないイタリア人女優の一人として、映画界における女性の表現の進化に貢献した。彼女の演じた自立した女性像や複雑な内面を持つ役柄は、当時の社会における女性のステレオタイプを打ち破るものであった。
6.2. 批判と論争
イザ・ミランダのキャリアや私生活に関して、特筆すべき批判や論争は公には記録されていない。彼女は主にその演技力と国際的な成功によって評価されている。
6.3. 影響
イザ・ミランダの国際的な成功と、特にファム・ファタールや複雑な女性像の描写における彼女の演技は、同時代の俳優たちに影響を与えた。彼女は、イタリア映画が国際市場で存在感を示す上で重要な先駆者の一人であり、そのキャリアは、後続のイタリア人女優が国際的な舞台に進出する道を開いた。また、彼女が演じた力強く、時には反抗的な女性の役柄は、映画における女性像の描写に多様性をもたらし、女性のエンパワーメントという観点からもその遺産は評価されるべきである。