1. 概要
エミリオ・「ザ・ウルフ」・バルジニ(Emilio "The Wolf" Barzini英語)は、マリオ・プーゾの1969年の小説『ゴッドファーザー』およびフランシス・フォード・コッポラ監督による1972年の映画『ゴッドファーザー』に登場する架空の人物であり、物語における主要なアンタゴニスト(敵役)である。映画ではリチャード・コンテによって演じられた。バルジニ一家は、実在のジェノヴェーゼ一家に着想を得て創造された。
2. 背景と地位
エミリオ・バルジニは、ニューヨークのファイブ・ファミリーの一つを率いるマフィアのボスであり、ヴィトー・コルレオーネに次いで国内で二番目に強力なドンである。彼の犯罪事業は麻薬取引、賭博、売春など多岐にわたり、マフィアにとって利益の大きいカジノ事業を利用するため、ラスベガスへの勢力拡大を野望としている。
3. 『ゴッドファーザー』における役割
バルジニは、『ゴッドファーザー』の物語において、コルレオーネ一家を壊滅させ、自らの影響力を拡大しようと画策する主要な黒幕として、物語の展開に決定的な影響を与えた。
3.1. 初期取引と対立
ドン・バルジニは、コニー・コルレオーネの結婚式の来賓として初めて登場する。彼は、表面的にはヴィトー・コルレオーネと友好的な関係を維持していたものの、コルレオーネ一家の継続的な勢力拡大を警戒していた。その後すぐに、彼は部下である麻薬王バージル・ソロッツォを使い、フィリップ・タッタリアと共にヴィトー・コルレオーネに麻薬取引への参加を持ちかける。特にソロッツォは、ヴィトーの政治的コネクションを利用しようと目論んでいた。コルレオーネ一家の副ボスであるソニーはこの取引に興味を示すが、ヴィトーは麻薬事業を「汚い仕事」と見なし、その提案を拒否する。
これを受け、バルジニはヴィトーを殺害するソロッツォの計画を承認し、ヴィトーの後継者となるソニーが麻薬事業を受け入れることを期待した。しかし、ヴィトーが暗殺未遂から生還した後もソニーがヘロイン取引への参入を拒否すると、バルジニはタッタリア、クネオ、ストラッチの各一家と秘密裏に共謀し、コルレオーネ一家に対して大規模な抗争を仕掛ける。これにより、コルレオーネ一家に和平を強制し、彼らの縄張りを麻薬密売のために開放させようとした。
3.2. ソニー・コルレオーネ暗殺と勢力拡大
数年間にわたる抗争の後、バルジニはヴィトーの苦々しい義理の息子であるカーロ・リッツィを抱き込むことに成功し、彼と共謀してソニーを罠に誘い込んだ。ソニーが妹の家に向かう途中、バルジニ一家のヒットマンによって待ち伏せされ、殺害される。この事件を機に、ヴィトー・コルレオーネは麻薬事業への協力と、息子の死の責任を負う他の一家への許しを約束せざるを得なくなった。
この結果、コルレオーネ一家の多くの利権が、バルジニ一家やタッタリア一家などに事実上分配された。当初はドン・フィリップ・タッタリアが反コルレオーネ同盟の首謀者であるかのように見えたが、ヴィトーはすぐにバルジニこそが真の黒幕であると見抜いた。バルジニは、コルレオーネ一家が屈服したことに満足せず、彼らの縄張りに少しずつ食い込みながら、コルレオーネ一家の利権を吸収していくという、より大きな計画を開始した。
3.3. マイケル・コルレオーネとの対立と最期
ヴィトー・コルレオーネの死後、その組織を末息子のマイケル・コルレオーネが引き継ぐと、バルジニはコルレオーネ一家内の内通者であるカポレジメのサルヴァトーレ・テシオと共謀し、マイケルを会合に誘い出すことで彼を排除し、コルレオーネ組織を完全に解体しようと目論んだ。
しかし、バルジニが知る由もなかったのは、マイケルが既に彼の計画を察知していたことである。ヴィトーは生前、息子に対し、敵がまさにこの方法、すなわち和平会合を装って彼を殺害しようとし、その提案を持ちかける者が裏切り者であると明示的に警告していた。マイケルはかねてよりバルジニを含む他のドンたちを排除する計画を立てており、バルジニを油断させるために意図的にコルレオーネ一家の勢力を弱めることを許していた。
その後間もなく、バルジニは他の共謀者たちと共に暗殺される。コルレオーネ一家の執行人であるアル・ネリは、警官に変装し、バルジニの車の駐車違反切符を切るふりをして、ニューヨーク州最高裁判所のフォリー・スクエア庁舎の外でドンを待ち伏せした。バルジニが建物から出てくると、ネリは彼のボディーガードと運転手を銃殺し、逃げようとするバルジニの背中を2発撃ち抜いた。バルジニの遺体は階段を転げ落ち、ネリは逃走用の車に飛び乗った。
4. 影響源
エミリオ・バルジニというキャラクターは、複数の実在のマフィアの重鎮たちに着想を得ている。ニューヨークのマフィアを完全に掌握しようとする彼の野心は、1950年代に同様の試みを行い、壊滅的なアパラチン会議で終わったヴィトー・ジェノヴェーゼに影響を受けている。
バルジニの立ち居振る舞いや経営手腕、そしてファイブ・ファミリーに対する巧みな陰謀や影響力は、フランク・コステロとラッキー・ルチアーノから着想を得ている。これら三者の実在の人物は、いずれもジェノヴェーゼ一家のボスを務めた経歴を持つ。
5. メディアでの描写
フランシス・フォード・コッポラ監督による映画版『ゴッドファーザー』では、バルジニはリチャード・コンテによって演じられた。コンテは以前、ドン・ヴィトー・コルレオーネ役の候補でもあった。
2006年のビデオゲーム『ザ・ゴッドファーザー』では、バルジニの役割が拡張されている。1930年代、彼はコルレオーネ一家の台頭するカポレジメであったアルド・トラパニの父親が、公衆の面前で残忍に殺害される待ち伏せを自ら指揮している。息子のアルドはドンへの復讐を誓う。ゲーム内では、アル・ネリではなくアルドが、裁判所の階段でバルジニを射殺する暗殺者として描かれている。