1. 概要
スウェイ・リー(Swae Lee英語、本名: Khalif Malik Ibn Shaman Brown、1993年6月7日 - )は、アメリカ合衆国のラッパー、歌手、ソングライターである。彼は、兄のスリム・ジミーと共にヒップホップデュオであるレイ・シュリマーの一員として広く知られ、その活動を通じて数々のヒット曲を生み出してきた。スウェイ・リーはまた、ソロアーティストとしても成功を収め、独自のボーカルスタイルとジャンルを超えた音楽性で批評家や大衆から高い評価を得ている。
彼のキャリアは、マイク・ウィル・メイド・イットのイアードラマーズ・レコード(インタースコープ・レコード傘下)との契約を機に飛躍し、「No Flex Zone」、「No Type」、「Black Beatles」(グッチ・メインをフィーチャー)といった楽曲でメインストリームでの認知を獲得した。「Black Beatles」はBillboard Hot 100で首位を獲得した。ソロ活動では、フレンチ・モンタナの2017年のシングル「Unforgettable」に客演参加し、自身初のソロ作品としてのトップ10入りを果たした。また、ビヨンセのシングル「Formation」を共同で作曲し、グラミー賞にノミネートされている。2018年には、ポスト・マローンとのシングル「Sunflower」がBillboard Hot 100で首位に輝き、RIAA史上初のダブルダイヤモンド(20xプラチナ)認定を受けた。彼は広範なボーカルレンジとジャンルを横断する音楽性で知られ、現代のヒップホップシーンにおいて影響力のあるアーティストの一人として位置づけられている。
2. 来歴
スウェイ・リーの生い立ちから初期の音楽活動に至るまで、彼の成長過程を詳細に追跡する。
2.1. 幼少期と教育
カリフ・マリク・イブン・シャーマン・ブラウンことスウェイ・リーは、1993年6月7日にカリフォルニア州イングルウッドで生まれた。彼の母親はナイジェリア出身のシングルマザーで、アメリカ陸軍で戦車整備の仕事をしていた。リーは、ミシシッピ州テューペロで育ち、高校時代に音楽活動を始めた。
2.2. 初期音楽活動
スウェイ・リーは高校時代に、兄のスリム・ジミーと地元のラッパーであるリル・パンツと共に「Dem Outta St8 Boyz」というグループを結成し、音楽活動をスタートさせた。高校卒業後、リーと兄は一時的にホームレス状態を経験し、廃屋に不法滞在していた時期もあった。2013年には、兄と共にマイク・ウィル・メイド・イットが設立したイアードラマーズ・エンターテイメントと契約を結び、レイ・シュリマーを結成した。
3. 音楽キャリア
スウェイ・リーの音楽キャリアは、レイ・シュリマーのメンバーとしての活動とソロアーティストとしての成果に大別される。
3.1. レイ・シュリマーとしての活動
2013年にマイク・ウィル・メイド・イットが主宰するイアードラマーズ・エンターテイメントと契約を結び、兄のスリム・ジミーと共にヒップホップデュオ「レイ・シュリマー」として活動を開始した。彼らはこれまでに『SremmLife』、『SremmLife 2』、『SR3MM』の3枚のスタジオアルバムをリリースしている。2014年にはデビューシングル「No Flex Zone」とセカンドシングル「No Type」がヒットし、広く知られるようになった。2016年9月にリリースされた「Black Beatles」(グッチ・メインをフィーチャー)は、インターネット・ミームである「マネキンチャレンジ」で多用されたことにより、Billboard Hot 100で12週連続で1位を記録する空前の大ヒットとなった。
3.2. ソロ活動と主なコラボレーション
レイ・シュリマーとしての活動と並行して、スウェイ・リーはソロアーティストとしても数多くの成功を収めている。
- 2015年3月には、マイク・ウィル・メイド・イットの楽曲「Drinks on Us」にFutureとザ・ウィークエンドと共にフィーチャリング参加し、これが彼にとってソロアーティストとしての初のシングルとなった。
- 同年9月には、ウィズ・カリファの楽曲「Burn Slow」にフィーチャリングされ、Billboard Hot 100で83位を記録し、ソロアーティストとして初のチャートインを果たした。
- 2017年4月には、フレンチ・モンタナの楽曲「Unforgettable」に客演で参加。この曲はBillboard Hot 100で3位に達し、スウェイ・リーにとってソロアーティストとして初のトップ10シングルとなった。
- 2018年5月4日、スウェイ・リーはソロデビューアルバム『Swaecation』をリリースした。これは、レイ・シュリマーのサードアルバム『SR3MM』と、スリム・ジミーのソロデビューアルバム『Jxmtro』を含む3枚組のアルバムセットの一部として発表された。
- 同年9月には、ジェネイ・アイコの楽曲「Sativa」にフィーチャリング参加した。
- 2018年10月18日、ポスト・マローンとのコラボレーション楽曲「Sunflower」をリリース。この楽曲は映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の主題歌として世界的な大ヒットを記録し、スウェイ・リーにとってソロ名義で初の全米ナンバーワン・シングルとなった。この曲は、RIAA史上最高売上のシングルとなり、史上初のダブルダイヤモンド(20xプラチナ)認定を獲得した。さらに、第62回グラミー賞では年間最優秀レコード賞と最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞にノミネートされた。
- 同年10月には、エリー・ゴールディングとディプロの楽曲「Close to Me」にフィーチャリング参加し、この曲はアメリカのAdult Top 40エアプレイチャートで首位を獲得した。
- また、2018年にはトラヴィス・スコットのシングル「Sicko Mode」にクレジットなしで客演参加し、この曲もBillboard Hot 100で首位を獲得、グラミー賞に2部門でノミネートされた。
- XXXTentacionが死去した後の2018年10月には、リル・パンプとマルーマと共に「Arms Around You」でコラボレーションした。
- ニッキー・ミナージュの2018年のアルバム『Queen』にも参加している。
- 2019年5月、マドンナのアルバム『Madame X』収録曲「クレイヴ」でコラボレーションした。
- 2019年8月には、カナダ人ラッパーのドレイクをフィーチャーした「Won't Be Late」をリリース。
- 2019年10月には、88risingの楽曲「Walking」にジョージ、ジャクソン・ワン、メジャー・レイザーと共にフィーチャリング参加した。
- 2020年には、トラヴィス・スコットの「Sicko Mode」へのフィーチャリングを基にした楽曲「Someone Said」をリリース。
- クロイ・x・ハリーのアルバム『Ungodly Hour』からの楽曲「Catch Up」でもコラボレーションした。
- アリゾナ・ザーヴァスのヒット曲「Roxanne」のリミックスにも参加している。
- 2020年6月18日には、シングル「Reality Check」をリリースした。
- また、2020年にはポップ・スモークの遺作アルバム『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』にも参加している。
- 2021年には、アリシア・キーズとのシングル「Lala」で2021 MTV Video Music Awardsに出演し、パフォーマンスを披露した。
- 2020年以降、自身のアルバム『Human Nature』の制作に取り組んでいる。
3.3. 芸術的特徴

スウェイ・リーは、そのキャッチーなフックと独創的なメロディで知られており、マドンナ、エリー・ゴールディング、アニッタ、フレンチ・モンタナ、ポスト・マローンなど、多くのアーティストとのコラボレーションでその才能を発揮している。彼が音楽業界で「我々の世代の歌い手」と評されるほど、そのボーカル能力は同業者や批評家から高く評価されている。2017年のインタビューでは、自身をラッパーというよりもシンガーであると語っている。彼は広いボーカルレンジとジャンルを横断する音楽的試み、そして優れた作曲能力を持ち、その革新的なアプローチが彼の芸術的特徴を形成している。
4. 私生活
スウェイ・リーの私生活に関する情報。
4.1. 家族関係
2020年1月、スウェイ・リーの継父であるフロイド・サリバンが射殺される事件が発生した。この事件に関して、彼の異母兄弟であるマイケル・サリバンが容疑者として警察に拘束され、2023年10月に第二級殺人で有罪を認めた。
スウェイ・リーには子供がおり、2020年にはブラジル人モデルのアリーネ・マルティンスとの間に娘が誕生した。2022年、彼はマルティンスと破局し、娘の共同親権を申請した。同年、彼はガールフレンドのヴィクトリア・クリスティーンとの間に息子を授かっている。
4.2. 健康およびその他の見解
スウェイ・リーは注意欠陥・多動性障害(ADHD)を抱えていることを公表しており、2023年にはレイ・シュリマーとしてこの神経多様性に敬意を表した楽曲「ADHD Anthem (Too Many Emotions)」をリリースしている。
2024年7月、彼は自身のXアカウントを通じて、カマラ・ハリス副大統領に対する不支持を表明し、ファンに対して2024年アメリカ合衆国大統領選挙での彼女への投票をしないよう促した。この発言は一部のファンから反発を受けることになった。
5. ディスコグラフィ
スウェイ・リーが発表したソロアルバムと主要な作品は以下の通りである。
- 『Swaecation』(2018年)
- 『Human Nature』(発売予定)
6. 受賞とノミネート
スウェイ・リーが受賞およびノミネートされた主要な音楽賞は以下の通りである。
年 | 楽曲/人物 | 部門 | 結果 |
---|---|---|---|
2017 | 「Formation」(ソングライターとして) | 最優秀楽曲賞 | ノミネート |
2019 | 「Sicko Mode」(トラヴィス・スコット、ドレイク、ビッグ・ホークとの共同作品) | 最優秀ラップ・パフォーマンス賞 | ノミネート |
最優秀ラップ・ソング賞 | ノミネート | ||
2020 | 「Sunflower」(ポスト・マローンとの共同作品) | 年間最優秀レコード賞 | ノミネート |
最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞 | ノミネート | ||
2017 | スウェイ・リー | ソングライター・オブ・ザ・イヤー | 受賞 |
2016 | 「Formation」(ソングライターとして) | アッシュフォード&シンプソン・ソングライターズ・アワード | 受賞 |
2019 | 「Sunflower」(ポスト・マローンとの共同作品) | チョイスR&B/ヒップホップ・ソング | 受賞 |
チョイス・ソング・フロム・ア・ムービー | 受賞 |
7. 評価と影響
スウェイ・リーの音楽は、現代のヒップホップおよび大衆文化に多大な影響を与えており、その評価は多岐にわたる。
7.1. 肯定的評価

スウェイ・リーは、その革新的なボーカルスタイルとジャンルを融合させる能力により、音楽シーンで高く評価されている。特に、彼の特徴的なフックとメロディセンスは、数々のヒット曲を生み出す原動力となっており、コラボレーションしたアーティストたちからも絶賛されている。「Sunflower」がRIAA史上初のダブルダイヤモンド認定を受けるなど、彼の楽曲は商業的にも大きな成功を収めている。批評家や同業者からは「我々の世代の歌い手」と称され、そのボーカル能力が特に評価されている。彼の音楽は、単なるヒップホップの枠を超え、ポップミュージック全般に影響を与え、新しいサウンドの方向性を示している。
7.2. 批判と論争
スウェイ・リーのキャリアは概ね順調に進んでいるが、彼の個人的な発言や身辺で起こった出来事には一部で批判や論争も存在する。例えば、2024年7月にカマラ・ハリス副大統領に対する不支持を表明し、ファンに投票しないよう促した際には、一部のファンから反発を受けることになった。これは、彼の政治的見解が公になったことで、支持層の一部で意見の相違が生じた例である。また、彼の継父が殺害され、異母兄弟が有罪判決を受けた事件は、彼の家族に起きた悲劇として報じられている。