1. 概要
セルジョ・カステリットは、1953年にローマで生まれたイタリアの俳優、映画監督、脚本家である。シルヴィオ・ダミーコ国立演劇芸術アカデミーを卒業後、演劇界でキャリアをスタートさせ、ウィリアム・シェイクスピア作品などで活躍した。1983年に映画デビューし、その後数々のイタリア映画や国際的な作品に出演。特に『かぼちゃ大王』、『明日を夢見て』、『マーサの幸せレシピ』、そして妻マルガレート・マッツァンティーニの小説を原作とした監督・主演作『赤いアモーレ』で高い評価を受け、数多くの賞を受賞している。監督としても『リベロ・ブッロ』や『ある愛へと続く旅』などの作品を手がけ、多岐にわたる活動を展開している。
2. 経歴
セルジョ・カステリットのキャリアは演劇から始まり、その後映画やテレビへと活動の場を広げ、俳優、監督、脚本家として多岐にわたる業績を残している。
2.1. 生い立ちと教育
セルジョ・カステリットは1953年8月18日にローマで生まれた。彼の両親はイタリア南部のモリーゼ州とアブルッツォ州の出身である。1978年にシルヴィオ・ダミーコ国立演劇芸術アカデミーを卒業した。
2.2. 初期キャリア(演劇)
アカデミー卒業後、カステリットはイタリアの公共劇場で演劇キャリアを開始した。ローマ劇場でのウィリアム・シェイクスピアの『尺には尺を』に出演したほか、ベルトルト・ブレヒトの『ラ・マードレ』、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』、ジョルダーノ・ブルーノの『カンデライオ』などの作品で役を演じた。ジェノヴァ劇場では、アントン・チェーホフの『三人姉妹』でトゥーゼンバッハ役、アウグスト・ストリンドベリの『令嬢ジュリー』でジャン役を演じ、いずれもオトマール・クレイチャの演出によるものだった。その後の数年間は、スポレート二つの世界フェスティバルで『望まざる不幸』や『小さな誤解』といった演劇作品にも出演した。また、ニール・サイモンの『裸足で散歩』にも出演している。演劇界での活動中、彼はルイージ・スクアルツィーナ、アルド・トリオンフォ、エンツォ・ムッツィなど、多くの著名な俳優たちと共演した。
2.3. 映画・テレビ界への進出
カステリットは1983年に映画界でのキャリアをスタートさせ、ルチアーノ・トヴォリ監督の『死んだ軍隊の将軍』でマルチェロ・マストロヤンニやミシェル・ピコリと共演した。その後、『死んだように見えるが、ただ気絶しているだけ』(フェリーチェ・ファリーナ監督)、『小さな誤解』(リッキー・トニャッツィ監督)、『アリーチェの家で今夜』(カルロ・ヴェルドーネ監督)など、多くの映画に出演した。フランチェスカ・アルキブージ監督の『かぼちゃ大王』や、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『明日を夢見て』でその名声を高めた。
1980年代後半には、数々のイタリアのテレビミニシリーズに出演した。これには『シチリアのシチリア人』(1987年)、『五つの不穏な物語』(1987年)、『ナヴォーナ広場』(1988年)、『シネマ』(1988年)、『彼らはどれほど仲が良いか』(1989年)などが含まれる。また、2000年にはミニシリーズ『ヴィクトワール、あるいは女性たちの痛み』にも出演している。
3. 主な活動と業績
セルジョ・カステリットは、俳優としても監督としても、数多くの重要な作品を手がけ、その多才な才能を発揮している。
3.1. 俳優としての活動
カステリットは、『ラ・ファミリア』、『最後のキス』、『カテリーナ・イン・ザ・ビッグ・シティ』、『母の微笑』、『マーサの幸せレシピ』といった作品で成功を収めた。特に、妻マルガレート・マッツァンティーニが脚本を手がけた『赤いアモーレ』での演技は高く評価された。
その他にも、マルコ・ベロッキオ監督の『ウェディング・ディレクター』やジャンニ・アメリオ監督の『行方不明の星』などに出演している。フランスでは、2001年のジャック・リヴェット監督作品『恋ごころ』でジャンヌ・バリバールの相手役を務めた。彼の俳優としてのキャリアにおける決定的な役柄の一つは、『パードレ・ピオ:奇跡の人』でのパードレ・ピオ役である。
また、映画『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子のつのぶえ』では悪役のミラース王を演じた。近年では、2024年公開の映画『コンクラーベ』で枢機卿テデスコ役を演じ、その演技は映画評論家から広く称賛された。
3.2. 監督としての活動
カステリットが初めて監督を務めた映画は1999年の『リベロ・ブッロ』である。これに続き、2004年には自身も主演した『赤いアモーレ』を監督した。この作品は彼の妻であるマルガレート・マッツァンティーニの小説が原作であり、高い評価を得た。
監督としての最新作は2012年の『ある愛へと続く旅』で、トロント国際映画祭で上映された。この作品もまた、妻マルガレート・マッツァンティーニの小説を原作としている。
3.3. テレビドラマ・ミニシリーズへの出演
カステリットは映画だけでなく、テレビ分野でも精力的に活動している。彼はイタリアのテレビシリーズ『イン・トリートメント』でジョヴァンニ役を演じた。
また、以下の主要なテレビミニシリーズやテレビ映画に出演している。
- 『シチリアのシチリア人』(1987年)
- 『五つの不穏な物語』(1987年)
- 『ナヴォーナ広場』(1988年)
- 『シネマ』(1988年)
- 『彼らはどれほど仲が良いか』(1989年)
- 『ヴィクトワール、あるいは女性たちの痛み』(2000年)
- 『パードレ・ピオ:奇跡の人』(2000年、テレビ映画)
- 『フェラーリ』(2003年、テレビ映画)
- 『メグレ警視:罠』(2004年、テレビ映画)
- 『メグレ警視:中国の影』(2004年、テレビ映画)
- 『自由への逃亡:飛行士』(2008年、テレビ映画)
- 『教授』(2008年)
4. 私生活
4.1. 結婚と家族
セルジョ・カステリットは女優で作家のマルガレート・マッツァンティーニと結婚している。彼らには4人の子供がおり、その中には自身も俳優・映画監督であるピエトロ・カステリットが含まれる。カステリットは流暢な英語とフランス語を話すことができる。
5. 受賞歴
セルジョ・カステリットは、その俳優および監督としてのキャリアを通じて、数多くの国内外の映画賞を受賞している。
- 1990年:ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 最優秀助演男優賞(『トレ・コロンネ・イン・クロナカ』)
- 1993年:ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 最優秀主演男優賞(『かぼちゃ大王』)
- 1993年:イタリアン・ゴールデン・グローブ賞 最優秀男優賞(『かぼちゃ大王』)
- 1995年:ヴェネツィア国際映画祭 パシネッティ賞 最優秀男優賞(『明日を夢見て』)
- 1996年:イタリア映画批評家協会賞 銀のリボン賞 最優秀男優賞(『明日を夢見て』)
- 2000年:モンス国際映画祭 グランプリ(『リベロ・ブッロ』)
- 2002年:ヨーロッパ映画賞 男優賞(『マーサの幸せレシピ』)
- 2002年:フライアーノ映画祭 観客賞 最優秀男優賞(『母の微笑』)
- 2002年:イタリアン・ゴールデン・グローブ賞 最優秀男優賞(『母の微笑』)
- 2002年:イタリア映画批評家協会賞 銀のリボン賞 最優秀男優賞(『母の微笑』)
- 2002年:モンス国際映画祭 最優秀男優賞(『マーサの幸せレシピ』)
- 2003年:フライアーノ国際賞 ゴールデン・ペガサス賞 最優秀テレビ俳優賞(『フェラーリ』)
- 2003年:サン・ジョルディ賞 最優秀外国語男優賞(『マーサの幸せレシピ』、『アンフェア・コンペティション』、『恋ごころ』)
- 2004年:ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞 最優秀主演男優賞(『赤いアモーレ』)
- 2004年:フライアーノ映画祭 観客賞 最優秀映画賞(『赤いアモーレ』)
- 2004年:イタリアン・ゴールデン・グローブ賞 最優秀映画賞(『赤いアモーレ』)
- 2005年:イタリア映画批評家協会賞 銀のリボン賞 最優秀脚本賞(『赤いアモーレ』)
- 2006年:ヴェネツィア国際映画祭 パシネッティ賞 最優秀男優賞(『行方不明の星』)
- 2007年:イタリア映画批評家協会賞 ヨーロッパ銀のリボン賞(カンヌ国際映画祭でのマスタークラスに対して)
- 2009年:ローマ国際映画祭 最優秀男優賞(『頭を上げて』)
- 2020年:イリス賞 最優秀助演男優賞(『マフィア・インク』)
- 2024年:全米映画俳優組合賞 映画部門キャスト賞(『コンクラーベ』)
6. フィルモグラフィー
セルジョ・カステリットが参加した作品を、俳優としての出演作と監督作品に分けてリストする。
6.1. 俳優としてのフィルモグラフィー
年 | タイトル | 役柄 | 備考 |
---|---|---|---|
1981 | 『三人の兄弟』 (Three Brothers) | テロリスト | クレジットなし |
1981 | 『カルチェラート』 (Carcerato) | スカプリッチアティエッロ | |
1983 | 『死んだ軍隊の将軍』 (The General of the Dead Army) | エキスパート | |
1984 | Western di cose nostre | テレビ映画 | |
1984 | Il momento magico | ロベルト | |
1986 | Carefree Giovanni | ジョヴァンニ・センツァペンシエリ / カンテルモ公爵 | |
1986 | Sembra morto... ma è solo svenuto | ロマーノ・デュランティ | |
1987 | 『ラ・ファミリア』 (The Family) | カルレット(成人時) | |
1987 | Dolce assenza | ヴィットリオ | |
1987 | Non tutto rosa | ||
1987 | Il mistero del panino assassino | ||
1988 | 『愛と恐怖』 (Love and Fear) | ロベルト | |
1988 | 『グラン・ブルー』 (The Big Blue) | ノヴェリ | |
1989 | 『小さな誤解』 (Little Misunderstandings) | パオロ | |
1990 | Un cane sciolto | マジストラート・デ・サンティス | テレビ映画 |
1990 | 『トレ・コロンネ・イン・クロナカ』 (Tre colonne in cronaca) | クイント・チェッコーニ(ジャーナリスト) | |
1990 | 『アルベルト・エクスプレス』 (Alberto Express) | アルベルト・カプアーノ | |
1990 | I taràssachi | ||
1990 | Una fredda mattina di maggio | ルッジェーロ・マンニ | |
1990 | 『アリーチェの家で今夜』 (Stasera a casa di Alice) | フィリッポ | |
1991 | Un cane sciolto 2 | ダリオ・デ・サンティス | テレビ映画 |
1991 | 『肉体』 (The Flesh) | パオロ | |
1991 | 『ロッシーニ! ロッシーニ!』 (Rossini! Rossini!) | 若き日のジョアキーノ・ロッシーニ | |
1992 | Un cane sciolto 3 | マジストラート・デ・サンティス | テレビ映画 |
1992 | 『ネロ』 (Nero) | フェデリコ | |
1992 | Nessuno | エリオ・トロピア | |
1993 | 『かぼちゃ大王』 (The Great Pumpkin) | アルトゥーロ | |
1993 | 『可愛いだけじゃダメかしら』 (Toxic Affair) | ミスター・レイバン | |
1994 | 『目を閉じて』 (With Closed Eyes) | アルベルト | |
1995 | 『明日を夢見て』 (The Star Maker) | ジョー・モレッリ | |
1995 | Il grande Fausto | ファウスト・コッピ | テレビ映画 |
1996 | 『絹の叫び』 (Le cri de la soie) | ガブリエル・ド・ヴィルメール | |
1996 | 『恋人たちのポートレート』 (Portraits chinois) | グイド | |
1996 | Hotel paura | カルロ・ルッジェーリ | |
1996 | 『沈黙...生まれる』 (Silenzio... si nasce) | イル・フォルテ | |
1997 | 『カドリーユ』 (Quadrille) | カール・ヘリクソン | |
1997 | Pronto | トミー・"ザ・ジップ"・バックス | テレビ映画 |
1997 | Don Milani: Il priore di Barbiana | ドン・ロレンツォ・ミラーニ | テレビ映画 |
1998 | 『光よあれ』 (Que la lumière soit) | 神(観光客) | |
1998 | 『フォー・セール』 (For Sale) | ルイージ・プリモ | |
1999 | 『リベロ・ブッロ』 (Libero Burro) | リベロ・ブッロ | |
2000 | 『パードレ・ピオ:奇跡の人』 (Padre Pio: Miracle Man) | パードレ・ピオ / フランチェスコ・フォルジョーネ | テレビ映画 |
2001 | 『最後のキス』 (The Last Kiss) | エウジェニオ・ボネッティ教授 | |
2001 | 『アンフェア・コンペティション』 (Unfair Competition) | レオーネ・デッラロッカ | |
2001 | Laguna | ジョー / トーマスの叔父 | |
2001 | 『恋ごころ』 (Who Knows?) | ウーゴ | |
2001 | 『マーサの幸せレシピ』 (Mostly Martha) | マリオ | |
2002 | 『母の微笑』 (My Mother's Smile) | エルネスト・ピッチアフオッコ | |
2003 | 『フェラーリ』 (Ferrari) | エンツォ・フェラーリ | テレビ映画 |
2003 | 『カテリーナ・イン・ザ・ビッグ・シティ』 (Caterina in the Big City) | ジャンカルロ・イアコヴォーニ | |
2004 | 『赤いアモーレ』 (Don't Move) | ティモーテオ | |
2004 | Ne quittez pas! | フェリックス・マンデル | |
2004 | Maigret: La trappola | ジュール・メグレ | テレビ映画 |
2004 | Maigret: L'ombra cinese | ジュール・メグレ | テレビ映画 |
2006 | 『ウェディング・ディレクター』 (The Wedding Director) | フランコ・エリカ | |
2006 | 『パリ、ジュテーム』 (Paris, je t'aime) | 夫 | (「バスティーユ」篇) |
2006 | 『行方不明の星』 (The Missing Star) | ヴィンチェンツォ・ブオナヴォロンタ | |
2006 | 『アーサーとミニモイの不思議な国』 (Arthur and the Invisibles) | 駅長 | フランス語版、声の出演 |
2008 | Fuga per la libertà: L'aviatore | マッシモ・テリオ | テレビ映画 |
2008 | 『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子のつのぶえ』 (The Chronicles of Narnia: Prince Caspian) | ミラース王 | |
2008 | O professore | ピエトロ・フィロドミーニ | |
2009 | 『イタリア人』 (Italians) | フォルトゥナート | (最初のセグメント) |
2009 | 『ジェーン・バーキンのサーカス・ストーリー』 (Around a Small Mountain) | ヴィットリオ | |
2009 | 『賭けとウェディングドレス』 (Bets and Wedding Dresses) | フランコ・カンパネッラ | |
2009 | 『頭を上げて』 (Raise Your Head) | メロ | |
2010 | 『ロバの美』 (Love & Slaps) | マルチェロ・シニバルディ | |
2012 | 『ある愛へと続く旅』 (Twice Born) | ジュリアーノ | |
2012 | 『完璧な家族』 (A Perfect Family) | レオーネ | |
2013-2015 | 『イン・トリートメント』 (In Treatment) | ジョヴァンニ・マリ | 37エピソード |
2014 | La buca | オスカー | |
2017 | Piccoli crimini coniugali | ||
2017 | 『フォルトゥナータ』 (Fortunata) | 看護師 / カラビニエリ | |
2018 | Il tuttofare | トーティ・ベッラステッラ | |
2018 | 『ドリームフールズ』 (Dreamfools) | セルジョ | |
2020 | 『マフィア・インク』 (Mafia Inc.) | フランク・パテルノ | |
2020 | 『悪しき詩人』 (The Bad Poet) | ガブリエーレ・ダンヌンツィオ | |
2022 | 『ダンテ』 (Dante) | ジョヴァンニ・ボッカッチョ | |
2023 | 『私の人生で最高の世紀』 (The Best Century of My Life) | グスタヴォ・ディオタレッヴィ | |
2023 | 『エネア』 (Enea) | チェレステ | |
2024 | 『ロメオ・イズ・ジュリエット』 (Romeo Is Juliet) | フェデリコ・ランディ・ポリーニ | |
2024 | 『コンクラーベ』 (Conclave) | テデスコ枢機卿 |
6.2. 監督としてのフィルモグラフィー
年 | タイトル | 備考 |
---|---|---|
1999 | 『リベロ・ブッロ』 (Libero Burro) | |
2004 | 『赤いアモーレ』 (Don't Move) | |
2010 | 『ロバの美』 (Love & Slaps) | |
2012 | 『ある愛へと続く旅』 (Twice Born) | |
2015 | 『あなたは一人では救えない』 (You Can't Save Yourself Alone) | |
2017 | 『ラッキー』 (Lucky) |
7. 外部リンク
- [https://www.imdb.com/name/nm0144812/ Sergio Castellitto - IMDb]
- [https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Sergio_Castellitto ウィキメディア・コモンズには、セルジョ・カステリットに関連するメディアがあります。]