1. 概要
デレク・ジョゼフ・フィッシャー(Derek Joseph Fisher英語、1993年8月21日 - )は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州レバノン出身の元プロ野球選手(外野手)。右投左打。メジャーリーグベースボール(MLB)では、ヒューストン・アストロズ、トロント・ブルージェイズ、ミルウォーキー・ブルワーズに所属した。
フィッシャーはバージニア大学で大学野球をプレーした後、2014年のMLBドラフトでヒューストン・アストロズから指名されプロ入りした。マイナーリーグで着実に実績を積み、2017年にメジャーデビューを果たすと、同年にはアストロズのワールドシリーズ優勝に貢献した。特に、デビュー戦で記録した1イニング2安打は、メジャー史上でも稀な記録として注目を集めた。
アストロズで一定の活躍を見せた後、トロント・ブルージェイズ、ミルウォーキー・ブルワーズとチームを渡り歩いたが、レギュラー定着には至らず、最終的にはミネソタ・ツインズ傘下のマイナーリーグを経て、2022年に現役引退した。彼のキャリアは、プロスポーツにおける挑戦と適応の連続を示しており、メジャーリーグの頂点に立つチームで重要な役割を果たした一方で、厳しい競争環境の中で常に自身の能力を証明し続ける必要性があったことを物語っている。
2. プロ入り前
デレク・フィッシャーはプロ選手としてデビューする前の学生時代に、野球選手としての才能を育んだ。
2.1. 高校時代
フィッシャーはペンシルベニア州レバノンにあるシダークレスト高校(Cedar Crest High School英語)に通学し、野球チームでプレーした。3年時には打率.440、9本塁打を記録し、オールステートのファーストチームに選出された。また、全国的なショーケース大会にも出場し、自身の才能を披露した。
権威ある野球専門誌『ベースボール・アメリカ』は、フィッシャーを2011年のMLBドラフトにおいて、高校生プロスペクト全体で9位、ペンシルベニア州のプロスペクトでは最高の評価を与えた。最終学年では、打率.484、11本塁打、28打点という優れた成績を残し、ペンシルベニア州のゲータレード年間最優秀選手賞に選ばれた。2011年のMLBドラフト6巡目(全体204位)でテキサス・レンジャーズから指名されたものの、契約せずにバージニア大学へ進学することを決めた。
2.2. 大学時代
バージニア大学では、バージニア・キャバリアーズ野球チームの一員としてプレーした。1年時には打率.288、7本塁打、50打点を記録し、ルイビルスラッガー社のフレッシュマン・オールアメリカンに選出されたほか、カレッジ・ホームランダービーにも招待された。
2013年にはケープコッド・ベースボールリーグのハーウィッチ・マリナーズ(Harwich Mariners英語)で大学夏季リーグ野球をプレーし、リーグのオールスターに選ばれた。2014年にはプレシーズン・オールアメリカンに指名され、同年2月にはアトランティック・コースト・カンファレンスの週間最優秀選手に選出されるなど、大学野球界での評価を不動のものとした。しかし、2014年3月17日に右有鉤骨(hamate bone英語)の除去手術を受け、このシーズンは25試合を欠場した。
3. プロ経歴
デレク・フィッシャーのプロ野球キャリアは、複数のチームを渡り歩き、成功と挑戦を経験するものであった。
3.1. ヒューストン・アストロズ時代

2014年のMLBドラフトにおいて、ヒューストン・アストロズから全体37位(戦力均衡ラウンドA)で指名された。アストロズと契約し、契約金として153.41 万 USDを受け取った。
プロデビューはA-級のニューヨーク・ペンリーグに属するトリシティ・バレーキャッツ(Tri-City ValleyCats英語)であった。その後、ルーキー級のガルフ・コーストリーグ・アストロズでもプレーし、2球団合計で42試合に出場し打率.310、2本塁打、18打点、17盗塁を記録した。
2015年はA級のクァッドシティ・リバーバンディッツ(Quad Cities River Bandits英語)とA+級のランカスター・ジェットホークスでプレーした。クァッドシティでは39試合で打率.305、6本塁打、24打点を記録し、ランカスターに昇格した。ランカスターでの初戦では、3本塁打(うち2本は満塁本塁打)を放ち、カリフォルニアリーグ記録となる12打点を挙げる鮮烈なデビューを飾った。この年、2球団合計で123試合に出場し、打率.275、22本塁打、87打点、31盗塁を記録した。オフシーズンにはアリゾナ・フォールリーグに参加し、グレンデール・デザートドッグス(Glendale Desert Dogs英語)に所属した。
2016年はAA級のコーパスクリスティ・フックスとAAA級のフレズノ・グリズリーズでプレーした。コーパスクリスティでは打率.245、16本塁打、23盗塁、59打点を記録し、8月にフレズノに昇格した。2球団合計で129試合に出場し、打率.255、21本塁打、76打点、28盗塁を記録した。2017年には、スプリングトレーニングに招待選手として参加し、同年も開幕をAAA級フレズノで迎えた。
2017年6月14日、フィッシャーはメジャー契約を結んでアクティブ・ロースター入りし、メジャーリーグに昇格した。同日のテキサス・レンジャーズ戦で「8番・左翼手」として先発出場し、メジャーデビュー。6回裏にジェレミー・ジェフレスからメジャー初安打となるソロ本塁打を放った。さらに、この6回裏には2打席が巡ってきて、2打席目でも適時打を放ち、メジャーデビュー戦で同じイニングに2安打を記録した最初の選手となり、これは2004年のアトランタ・ブレーブスのアダム・ラローシュ以来の快挙であった。この試合は3打数2安打2四球で終えた。翌日のボストン・レッドソックス戦では自身初の盗塁を記録した。その後、マイナーリーグに降格したが、オールスター・フューチャーズゲームのアメリカ合衆国選抜に選出された。
フィッシャーは2017年のアストロズのプレーオフロースターにも入り、主にピンチランナーとして出場した。10月30日(現地時間10月29日開始)の2017年のワールドシリーズ第5戦では、決勝点となる得点を挙げた。アストロズは最終的にワールドシリーズを制覇し、フィッシャーもその一員として優勝を経験した。
2018年3月24日、アストロズはフィッシャーが2018年の開幕ロースター入りしたことを発表した。しかし、打撃面で苦戦し、MLBで42試合に出場して打率.165、4本塁打、11打点、OPS.602と低迷したため、最終的にAAA級フレズノに降格した。2019年にはアストロズでわずか17試合の出場にとどまり、打率.226、OPS.675を記録した後、7月31日のトレード期限にトロント・ブルージェイズへトレードされた。
3.2. トロント・ブルージェイズ時代
2019年7月31日、フィッシャーはアーロン・サンチェス、ジョー・ビアジーニ、カル・スティーブンソン(Cal Stevenson英語)とのトレードで、金銭と共にトロント・ブルージェイズへ移籍した。ブルージェイズでは40試合に出場し、打率.161、6本塁打を記録した。
2020年のブルージェイズでは、16試合で打率.226、1本塁打、7打点を記録した。2021年2月11日、デビッド・フェルプスの加入に伴い、DFA(指定譲渡)となった。
3.3. ミルウォーキー・ブルワーズ時代
2021年2月15日、ブルージェイズはフィッシャーをミルウォーキー・ブルワーズへトレードし、後日発表選手と金銭を受け取った。ブルワーズでは4試合に出場し、8打数2安打の成績を残したが、同年6月22日にDFAとなった。その後、6月28日にマイナー契約で傘下のAAA級ナッシュビル・サウンズへ配属された。オフの11月7日にFAとなった。
3.4. ミネソタ・ツインズ傘下時代
2021年12月16日、フィッシャーはミネソタ・ツインズとマイナー契約を結び、翌日にはAAA級セントポール・セインツに配属された。2022年のスプリングトレーニングに参加したが、アピールできず開幕はマイナーで迎えた。同年6月11日にツインズから自由契約となり、その後どの球団にも所属することはなかった。
4. 主な記録
デレク・フィッシャーのプロキャリアにおける主な記録は以下の通りである。
- オールスター・フューチャーズゲーム選出:1回(2017年)
5. 詳細情報
5.1. 年度別打撃成績
年度 | 球団 | 試合 | 打席 | 打数 | 得点 | 安打 | 二塁打 | 三塁打 | 本塁打 | 塁打 | 打点 | 盗塁 | 盗塁死 | 犠打 | 犠飛 | 四球 | 死球 | 敬遠 | 三振 | 併殺打 | 打率 | 出塁率 | 長打率 | OPS |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2017 | HOU | 53 | 166 | 146 | 21 | 31 | 4 | 1 | 5 | 52 | 17 | 3 | 3 | 0 | 0 | 17 | 1 | 3 | 54 | 1 | .212 | .307 | .356 | .663 |
2018 | 42 | 86 | 79 | 13 | 13 | 2 | 2 | 4 | 31 | 11 | 2 | 0 | 0 | 2 | 5 | 0 | 0 | 42 | 0 | .165 | .209 | .392 | .601 | |
2019 | 17 | 60 | 53 | 9 | 12 | 2 | 1 | 1 | 19 | 5 | 4 | 1 | 0 | 0 | 7 | 0 | 0 | 14 | 0 | .226 | .317 | .358 | .675 | |
TOR | 40 | 107 | 93 | 14 | 15 | 2 | 0 | 6 | 35 | 12 | 1 | 0 | 0 | 0 | 14 | 0 | 0 | 43 | 3 | .161 | .271 | .376 | .647 | |
'19計 | 57 | 167 | 146 | 23 | 27 | 4 | 1 | 7 | 54 | 17 | 5 | 1 | 0 | 0 | 21 | 0 | 0 | 57 | 3 | .185 | .287 | .370 | .657 | |
2020 | 16 | 39 | 31 | 5 | 7 | 2 | 1 | 1 | 14 | 7 | 0 | 1 | 0 | 1 | 7 | 0 | 0 | 11 | 0 | .226 | .359 | .452 | .811 | |
2021 | MIL | 4 | 8 | 8 | 1 | 2 | 0 | 1 | 0 | 4 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | .250 | .250 | .500 | .750 |
MLB:5年 | 172 | 466 | 410 | 63 | 80 | 12 | 6 | 17 | 155 | 53 | 10 | 5 | 0 | 3 | 50 | 1 | 3 | 165 | 4 | .195 | .285 | .378 | .663 |
- 2022年度シーズン終了時
5.2. 年度別守備成績
年度 | 球団 | 左翼手(LF) | 中堅手(CF) | 右翼手(RF) | |||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
試合 | 刺殺 | 補殺 | 失策 | 併殺 | 守備率 | 試合 | 刺殺 | 補殺 | 失策 | 併殺 | 守備率 | 試合 | 刺殺 | 補殺 | 失策 | 併殺 | 守備率 | ||
2017 | HOU | 38 | 52 | 2 | 0 | 0 | 1.000 | 3 | 5 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | 12 | 19 | 0 | 1 | 0 | .950 |
2018 | 26 | 28 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | 9 | 9 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | 3 | 6 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | |
2019 | 11 | 8 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | - | 5 | 5 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | ||||||
TOR | 27 | 48 | 1 | 2 | 1 | .961 | 3 | 8 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | 4 | 0 | 0 | 1 | 0 | .000 | |
'19計 | 38 | 56 | 1 | 2 | 1 | .966 | 3 | 8 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | 9 | 5 | 0 | 1 | 0 | .833 | |
2020 | 5 | 2 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | - | 10 | 11 | 0 | 1 | 0 | .917 | ||||||
MLB | 107 | 138 | 3 | 2 | 1 | .986 | 15 | 22 | 0 | 0 | 0 | 1.000 | 34 | 41 | 0 | 3 | 0 | .932 |
- 2020年度シーズン終了時
6. 背番号
デレク・フィッシャーがプロキャリア中に着用した背番号は以下の通りである。
- 21 (2017年 - 2019年7月30日)
- 20 (2019年8月1日 - 同年終了)
- 23 (2020年)
- 7 (2021年)
7. 現役引退後
デレク・フィッシャーはミネソタ・ツインズ傘下を2022年6月11日に自由契約となって以来、どのプロ野球チームにも所属することなく、現役を引退した。