1. 概要
ニザール・ハメド・マフルース(نِزَار حَمَد مَحرُوسニザール・ハメド・マフルースアラビア語、1963年3月12日生まれ)は、「アブ・ハメド」の通称で知られるシリアの元サッカー選手であり、著名なサッカー監督である。彼は、中東地域の多様なクラブチームやシリア代表チームを率いてその指導者としての手腕を発揮してきた。現在、彼はアル・ワフダの監督を務めている。マフルースは、選手時代にもシリア代表として活躍し、その後は国内外の多くのクラブで監督を務め、特にヨルダンやイラクのリーグで数々のタイトルを獲得している。
2. 選手経歴
ニザール・マフルースは、選手時代にはシリア代表のサッカー選手として活動していた。彼の選手としてのキャリアの詳細は不明な点が多いものの、1988 AFCアジアカップでは、シリア代表の一員として出場し、国際舞台を経験している。この代表選出は、彼が当時のシリアサッカー界において重要な選手の一人であったことを示している。
3. 監督経歴
ニザール・マフルースの監督としてのキャリアは広範にわたり、シリア国内だけでなく、中東地域の様々なクラブや代表チームを率いてきた。彼の指導は、各チームに多くの成功をもたらし、その手腕は高く評価されている。
3.1. 代表チーム監督
マフルースは、シリア代表チームの監督を二度務めている。一度目は2011年5月に就任し、2014 FIFAワールドカップ・アジア予選での指揮を執った。しかし、この予選中にシリア代表は不適格な選手を起用したことが判明し、FIFAによって失格処分を受けた。この事態を受け、彼は2011年8月24日に監督を辞任した。
その後、マフルースは2021年7月7日に再びシリア代表チームの監督に就任し、2022 FIFAワールドカップ・アジア3次予選に挑んだ。彼の二度目の任期は2021年11月まで続いた。
3.2. クラブチーム監督
マフルースは、シリア国内外の様々なクラブチームで監督を務めてきた。彼の指導した主要なクラブとそれぞれの在籍期間は以下の通りである。
- アル・ファイサリーSC(2009年2月~2009年4月)
- アル・ワフダSC(2009年11月~2011年12月)
- アルビールSC(2012年1月~2012年12月)
- ナジランSC(2014年1月~2014年6月)
- ザート・ラスSC(2014年6月~2014年8月)
- アル・ファイサリーSC(2015年1月~2015年4月)
- ACトリポリ(2016年1月~2016年5月)
- アル・ジャジーラSC(2016年9月~2017年9月)
- ハッタ・クラブ(2017年10月~2018年3月)
- エミレーツ・クラブ(2018年3月~2018年5月)
- アル・ジャジーラSC(2018年7月~2018年12月)
- アル・アンサルFC(2019年6月~2020年1月)
- アルビールSC(2021年12月~2022年10月)
彼はこれらのクラブで、リーグ優勝やカップ戦優勝など、数多くの成功を収めている。特にヨルダン・プロリーグやイラク・プレミアリーグでの優勝経験は、彼の指導者としての能力の高さを裏付けている。
4. 監督成績
ニザール・マフルースが監督として指揮した各チームにおける公式戦の統計データを以下に示す。
チーム | 就任 | 退任 | 成績 | 勝率 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
試合数 | 勝利 | 引き分け | 敗戦 | ||||
アル・ファイサリーSC | 2009年2月6日 | 2009年4月30日 | 16 | 5 | 5 | 6 | 31.3% |
アル・ワフダSC | 2009年11月9日 | 2011年12月19日 | 48 | 18 | 15 | 15 | 37.5% |
シリア | 2011年5月22日 | 2011年8月18日 | 7 | 5 | 2 | 0 | 71.4% |
アルビールSC | 2012年1月12日 | 2012年12月14日 | 43 | 27 | 13 | 3 | 62.8% |
ナジランSC | 2014年1月10日 | 2014年6月1日 | 10 | 2 | 4 | 4 | 20.0% |
ザート・ラスSC | 2014年6月8日 | 2014年8月26日 | 6 | 2 | 2 | 2 | 33.3% |
アル・ファイサリーSC | 2015年1月27日 | 2015年4月19日 | 8 | 1 | 5 | 2 | 12.5% |
ACトリポリ | 2016年1月25日 | 2016年5月30日 | 19 | 6 | 4 | 9 | 31.6% |
アル・ジャジーラSC | 2016年9月24日 | 2017年9月19日 | 39 | 19 | 13 | 7 | 48.7% |
ハッタ・クラブ | 2017年10月7日 | 2018年3月5日 | 21 | 4 | 5 | 12 | 19.0% |
エミレーツ・クラブ | 2018年3月30日 | 2018年5月28日 | 5 | 2 | 2 | 1 | 40.0% |
アル・ジャジーラSC | 2018年7月20日 | 2018年12月20日 | 14 | 9 | 1 | 4 | 64.3% |
アル・アンサルFC | 2019年6月28日 | 2020年1月19日 | 8 | 5 | 1 | 2 | 62.5% |
シリア | 2021年7月8日 | 2021年11月16日 | 7 | 0 | 2 | 5 | 0.0% |
アルビールSC | 2021年12月23日 | 2022年10月16日 | 25 | 11 | 7 | 7 | 44.0% |
合計 | 276 | 116 | 81 | 79 | 42.0% |
5. 栄誉
ニザール・マフルースが監督として獲得した主なタイトルや栄誉は以下の通りである。
5.1. 監督として
- アル・ジャイシュSC
- シリア・カップ 優勝: 1996-97
- シリア・プレミアリーグ 優勝: 2000-01
- アル・ワフダSC
- シリア・リーグ1部 優勝: 1997-98
- シャバブ・アル・オルドンSC
- ヨルダン・プロリーグ 優勝: 2005-06
- ヨルダンFAカップ 優勝: 2005-06、2006-07
- ヨルダン・シールドカップ 優勝: 2006-07
- AFCカップ 優勝: 2007-08
- ヨルダン・スーパーカップ 優勝: 2007-08
- アルビールSC
- イラク・プレミアリーグ 優勝: 2011-12
- AFCカップ 準優勝: 2011-12
- アル・ジャジーラSC
- ヨルダン・プロリーグ 準優勝: 2016-17
- ヨルダンFAカップ 準優勝: 2016-17
- ヨルダン・スーパーカップ 準優勝: 2017-18
- ヨルダン・シールドカップ 準優勝: 2017-18
- アル・アンサルFC
- レバノン・エリートカップ 準優勝: 2019-20
6. 評価と功績
ニザール・マフルースは、その長いキャリアを通じて、中東サッカー界に多大な影響を与えてきた。彼の監督としての評価は、特にチームをタイトル獲得へと導く能力と、困難な状況に直面した際の対応力に基づいている。
6.1. 功績と貢献
マフルースの功績は、その監督キャリアにおける数々のタイトル獲得に明確に表れている。彼はシリア・プレミアリーグ、ヨルダン・プロリーグ、イラク・プレミアリーグで優勝を果たし、特にシャバブ・アル・オルドンSCでは国内の主要タイトルを総なめにし、さらには国際大会であるAFCカップでも優勝を飾った。これは、彼が異なるリーグや国のチームにおいても一貫して成功を収めることができる指導者であることを示している。また、アルビールSCではAFCカップで準優勝に導くなど、国際舞台でもその手腕を発揮した。彼は、選手の才能を引き出し、チーム全体のパフォーマンスを向上させることに貢献し、指導した多くのクラブに歴史的な成功をもたらした。
6.2. 論争と課題
マフルースの監督キャリアには、困難な状況も存在した。最も顕著なのは、2011年にシリア代表監督を務めていた際に発生した出来事である。2014 FIFAワールドカップ・アジア予選において、シリア代表が不適格な選手を起用したことが発覚し、FIFAから失格処分を受けた。この問題は、チームの努力を無に帰すものであり、監督として外部の要因による大きな逆境に直面したことを意味する。マフルースは、この事態の責任を取り、監督を辞任するという形で対応した。これは、彼のキャリアにおける大きな論争点となったが、その後の監督復帰は、彼がそうした課題を乗り越え、再び指導の機会を得る能力を持っていたことを示している。