1. 生涯
プラウトゥスの生い立ちについてはあまり知られていないが、彼の生涯はローマ演劇への重要な貢献と、彼自身の波乱に満ちた経験によって特徴づけられる。
1.1. 幼少期と背景
プラウトゥスは紀元前254年頃に、北イタリアのエミリア=ロマーニャ地方にある小さな町サルシーナで生まれたとされている。初期の伝承によれば、彼は若年期に舞台大工や舞台装置係として働いていたという。この経験が彼の演劇への愛着の源となったと考えられている。その後、航海業に乗り出して失敗し、肉体労働者として働いたという記録も残っている。この期間に、彼は余暇を利用してギリシア演劇、特にメナンダーのギリシア新喜劇を研究したとされる。
1.2. キャリアの始まりと名前
彼の演技の才能はやがて見出され、彼の劇作家としてのキャリアが始まった。彼は「マッキウス」(Macciusラテン語、アテッラ喜劇の道化役「マックース」に由来)というノメンを、そして「プラウトゥス」(Plautusラテン語、「踏みつけられた」「扁平足の」あるいは「耳の平らな」という意味)というアグノーメンを採用した。これは、彼の芸名、または特徴的な身体的特徴を示唆している可能性もある。彼の戯曲は紀元前205年から紀元前184年の間に発表された。
1.3. 後期と死
プラウトゥスは絶大な人気を博し、彼の名前だけで演劇的成功の象徴となるほどだった。彼の墓碑銘には次のように刻まれている。
postquam est mortem aptus Plautus, Comoedia luget,ラテン語
scaena deserta, dein risus, ludus iocusqueラテン語
et numeri innumeri simul omnes conlacrimarunt.ラテン語
「プラウトゥスが死んで以来、喜劇は嘆き、舞台は寂れ、笑い、遊び、機知、そして数えきれないほどの旋律が共に涙を流した。」
2. 作品
プラウトゥスの喜劇作品は、ギリシア新喜劇を基盤としつつも、ローマの観客の嗜好に合わせて独創的に脚色されたことで知られている。
2.1. 一般的な特徴と脚色
プラウトゥスの戯曲創作へのアプローチは、ギリシア新喜劇の要素をローマの観客のために巧みに取り入れている点に特徴がある。彼は、言語の革新的な使用と独特の喜劇スタイルを重視した。彼は単なる翻訳者ではなく、ギリシアの原典をローマの状況や人々の感情に合うように自由に変更した。そのため、学術界では彼の独創性と脚色方法について議論が繰り広げられてきた。ある見解では、彼の作品はギリシア新喜劇の単なる模倣に過ぎないとされる一方、別の見解では、プラウトゥスがギリシアの素材を大胆に再構築し、自身の創造性を注入したと主張されている。例えば、彼はギリシア喜劇の精巧なプロットを解体したり、登場人物の描写を誇張して風刺的にしたり、より活気に満ちたユーモアを導入したりした。
彼は劇を単に面白くするためだけでなく、登場人物のセリフに当時のローマの思想や社会状況を反映させた。これは、ホラティウスが後の時代に「ローマの思想をギリシアの形式に盛り込む」と述べたのと同様の道筋をたどったと解釈できる。プラウトゥスはギリシアの劇を模倣するだけでなく、それらを切り刻み、変形させ、完全にローマ的な作品へと昇華させたと言える。
2.1.1. コンタミナティオ
「コンタミナティオ」(contaminatioラテン語)とは、二つ以上の原典戯曲の要素を混合する技法を指す。プラウトゥスはこの脚色方法を積極的に活用した。例えば、彼の戯曲『バッキス姉妹』は、メナンダーの『Dis Exapaton古代ギリシア語』(「二度だます男」)が原典とされているが、プラウトゥス版では「三度のたくらみ」が描かれている。
2.2. 主要なテーマと登場人物の類型
プラウトゥスの戯曲では、特定のテーマや人物の類型、そしてプロットの仕掛けが繰り返し現れる。彼の作品は、コメディ効果のためにローマ時代の伝統的な道徳観念をひっくり返すことを頻繁に行った。例えば、父親が息子の恋敵になったり、母親が父親を叱責したりする場面など、伝統的な役割の転換が笑いを誘う。
2.2.1. 賢い奴隷
「セルヴス・カリドゥス」(servus callidusラテン語、賢い奴隷)は、プラウトゥス戯曲で中心的な役割を果たすキャラクターである。彼は物語の筋を動かし、ユーモアを提供し、しばしば登場人物間の問題を解決するための巧妙な計画を考案する。ギリシア新喜劇の奴隷キャラクターは、主にコメディ要素や背景説明の役割を担っていたが、プラウトゥスはこの類型をさらに発展させ、主人を出し抜いたり、自らを英雄になぞらえたりするような、より大胆で活発な役割を与えた。この賢い奴隷の存在は、物語に「秩序の転換」という喜劇的要素をもたらし、プロットを効果的に推進する。
2.2.2. 好色な老人
「セネクス・アマトル」(senex amatorラテン語、色好みの老人)は、若い女性に情熱を抱き、それを満たそうとする老人を指す。プラウトゥス作品では、『ロバ物語』のデマエネトゥス、『バッキス姉妹』のフィロクセヌスとニコブルス、『小箱の話』のデミフォ、『カシナ』のリュシダムス、『商人』のデミフォ、『スティクス』のアンティフォといった人物がこれに該当する。彼らの目的は皆、若い女性との関係を築くことだが、そのアプローチは様々である。これらのキャラクターは、彼らの試みが嘲笑され、動物的な情熱に突き動かされている様子が描かれる。また、子供じみた行動や、若かりし頃の恋愛言葉を口にする姿が特徴である。
2.2.3. 女性登場人物
プラウトゥス戯曲における女性キャラクターの呼称や役割分類は、男性キャラクターに比べて安定していない。例えば、既婚女性や未亡人の自由身分の女性は、場面の冒頭で「mulierラテン語」(女)とだけ呼ばれることが多かった。『スティクス』では、二人の若い女性が最初は「sororesラテン語」(姉妹)と呼ばれ、後に「mulieresラテン語」、そして「matronaeラテン語」(夫人)と呼ばれるなど、意味合いの異なる呼称が混在している。
一般的に、「mulierラテン語」は結婚適齢期または既婚の市民階級の女性に与えられ、「virgoラテン語」は性経験の有無にかかわらず未婚の市民階級の少女を指した。女性の家内奴隷は「ancillaラテン語」、高齢の家内奴隷は「anusラテン語」と呼ばれた。社会的身分によって未婚の若い女性は「meretrixラテン語」(遊女)と表現され、彼女たちを所有する養母は「lenaラテン語」と呼ばれた。
2.2.4. 名前のない登場人物
プラウトゥスの現存する20の戯曲には、約220の登場人物が登場するが、そのうち約18%にあたる30のキャラクターが場面の冒頭でも本文中でも名前が記されていない。また、9人ほどのキャラクターは古代の記述には名前があるものの、現代の版では名前が欠落している。主要な登場人物のほとんどには名前が与えられている一方で、重要度の低いキャラクターの多くは名前がない。しかし、『カシナ』の主要人物の一人は本文中に名前が登場しないなど、例外も見られる。プラウトゥスが数言しか話さないキャラクターに名前を与えることもあった。これらの匿名性は、一部は時間の経過とともに名前が失われたため、とも考えられる。
2.3. 現存する戯曲
プラウトゥスの戯曲のうち、約20編が完全な形で現存している。以下にその主要な作品を列挙する。
- 『アンフィトルオ』(Amphitruoラテン語)
:ギリシアのテーベが舞台。将軍アンフィトルオが戦争で留守の間、神ユーピテルが彼の姿に変身して妻アルクメーナと一夜を過ごす。ユーピテルの息子メルクリウスは、アンフィトルオの奴隷ソシアに変身して見張りをし、本物のソシアが勝利の知らせを持って現れると、彼をからかい殴りつける。アンフィトルオが帰宅すると、アルクメーナは彼のあまりの早さに驚き、口論となる。アンフィトルオは彼女を姦通罪で告発するが、ユーピテルがアルクメーナのもとに再び現れ、アンフィトルオが戻ると、メルクリウスが屋根に上り、瓦を投げつけて妨害する。最終的にユーピテルが現れてすべてを説明し、アルクメーナがヘラクレスを含む双子を出産したことが明かされる。
- 『ロバ物語』(Asinariaラテン語)
:アテナイの紳士デマエネトゥスは、息子のアルギュリッポスが遊女フィラエニウムに恋していることを知るが、彼には金がない。そこで、奴隷のリバヌスとレオニダスが、巧妙な策略を用いて金銭をだまし取り、アルギュリッポスに渡す。しかし、その金は父親のデマエネトゥスがフィラエニウムと最初の夜を過ごすという条件付きであった。ライバルであるディアボルスがこれを密告し、デマエネトゥスの妻アルテモナが激怒して夫を連れ戻し、アルギュリッポスが一人でフィラエニウムを楽しむことになる。
- 『黄金の壷』(Aululariaラテン語)
:吝嗇な老人エウクリオは、家で金貨の壷(aulaラテン語)を見つけ、誰にも盗まれないよう常に気にしている。裕福な隣人メガードルスがエウクリオの娘ファエドリアの求婚に来るが、彼女がすでにレイプされ、妊娠していることを知らない。エウクリオは金貨の壷を隠そうとするが、常にメガードルスの甥リュコニデスが差し向けた奴隷ストロビルスに監視されている。金貨が盗まれたと知ったエウクリオは絶望する。リュコニデスはファエドリアをレイプしたことを告白し、結婚を望む。最終的に金貨はリュコニデスの奴隷によって盗まれたことが判明し、金貨がエウクリオに返還され、結婚が成立する。
- 『バッキス姉妹』(Bacchidesラテン語)
:若いムネシロクスは遊女バッキスに恋している。彼が海外にいる間に、友人のピストクレルスもバッキスの双子の姉妹(こちらもバッキス)に恋してしまう。ムネシロクスがエフェソスから帰国し、父ニコブルスから受け取るはずの金貨を賢い奴隷クリュサルスがだまし取り、ムネシロクスがバッキスに使うことができるようにする。しかし、ムネシロクスがピストクレルスにバッキスという恋人がいると聞いて激怒し、金貨を父に渡してしまう。その後、双子のバッキスの存在を知り、クリュサルスに再び父をだまして金貨を取り戻すよう懇願する。クリュサルスは、ムネシロクスが兵士の妻と密通しているとニコブルスをだまし、その解決のために金銭を要求する。最終的に、ニコブルスとピストクレルスの父フィロクセヌスは、二人のバッキス姉妹に魅了され、息子たちと共に宴会を楽しむことになる。
- 『捕虜』(Captiviラテン語)
:ギリシアのアイトーリアが舞台。老齢のヘギオは、自身が捕虜になった息子と引き換えにするため、エーリスの捕虜を買い集めている。その中に、若いフィロクラテスとその忠実な奴隷テュンダルスがおり、フィロクラテスが家族のもとに帰れるよう身分を入れ替える。計画は成功し、フィロクラテスは帰郷する。しかし、別のエーリスの捕虜アリストポンテスがテュンダルスを認識し、ヘギオに事の次第を知らせてしまう。テュンダルスは石切り場の重労働に送られる。後に、ヘギオの息子が港に到着したという知らせが入り、フィロクラテスがヘギオの息子フィロポレムスと共に帰還する。フィロクラテスは逃亡奴隷スタラグムスを連れており、スタラグムスの尋問により、テュンダルスがヘギオの長年行方不明であった息子であることが判明する。テュンダルスは解放され、父と再会を果たす。
- 『カシナ』(Casinaラテン語)
:父リュシダムスと息子エウテュニクスが、共に養女カシナに恋をする。父は息子を海外へ送り出し、妻クレオストラタに知られないようにカシナを農場管理人オリンピオと結婚させ、愛人として利用しようと企む。妻クレオストラタはこの意図を知り、息子エウテュニクスの召使いカリヌスとカシナを結婚させ、エウテュニクスの帰国まで彼女を守る計画を立てる。抽選で妻の計画が失敗すると、彼女はカリヌスをカシナに変装させ、リュシダムスがカシナと一夜を過ごそうとしていた隣家の寝室に送り込む。夫の企みは露見し、カシナはエウテュニクスのために守られる。
- 『小箱の話』(Cistellariaラテン語)
:若い遊女セレニウムは、唯一の恋人である裕福な青年アルケシマルクスに恋しているが、彼が別の女性と婚約したと聞いて絶望する。セレニウムは遊女メラエニスの子だと思っているが、実はアルケシマルクスの婚約者の母ファノストラタの実子であった。偶然メラエニスは、赤子のセレニウムを捨てよと命じられたファノストラタの奴隷ランパディオが、赤ちゃんを拾った老女から、その子が遊女メラエニスに引き取られたと聞いているのを聞いてしまう。メラエニスはすぐに、小箱(cistellaラテン語)に保管していた発見の証拠品を取りに戻る。小箱は偶然侍女によって道に落とされ、ランパディオによって見つけられ、ファノストラタに示される。ファノストラタは証拠品を認識し、アルケシマルクスは愛するセレニウムと結婚できることになり、すべてはうまくいく。
- 『クルクリオ』(Curculioラテン語)
:ギリシアのエピダウロスが舞台。青年ファエドロムスは、ポン引きのカッパドクスが所有する少女プラネシウムに恋しているが、彼女を買う金がない。彼はパラサイト(居候)のクルクリオをカリアへ送り、友人から金を借りさせようとする。クルクリオは金がないことを伝えるが、兵士テラポンティゴヌスがプラネシウムを自分で買うつもりだと耳にする。クルクリオは兵士の印章指輪を盗み、エピダウロスに戻る。変装し偽の手紙を持って、彼は銀行家リュソをだまし、カッパドクスに金を支払わせることで、プラネシウムをファエドロムスのために買うことに成功する。しかし、プラネシウムは指輪がかつて父のものであったと認識し、兵士もまたかつて彼女に与えた指輪を認識する。ファエドロムスはプラネシウムと結婚でき、プラネシウムが自由民であることが判明したため、カッパドクスは彼女の代金を返却せざるを得なくなる。
- 『エピディクス』(Epidicusラテン語)
:奴隷エピディクスの若い主人ストラティッポクレスが、テーベでの戦争から帰還し、恋に落ちた捕虜の少女を連れてくる。彼はエピディクスに40ミナを用意するよう命じる。以前にもストラティッポクレスが別の少女を買うために金を要求し、エピディクスはストラティッポクレスの父ペリファネスをだましてその少女が自分の娘だと信じ込ませることで金を調達したため、エピディクスは困惑する。エピディクスは新たな策略を思いつき、ペリファネスを再びだまし、捕虜の少女を買い取らせることでストラティッポクレスに金を与える。しかし、結局エピディクスは二度もペリファネスをだましたことが露見する。幸運にも、捕虜の少女がペリファネスの長年行方不明であった実の娘であることが判明し、ペリファネスは喜んでエピディクスを許し、彼を解放する。
- 『メナエクムス兄弟』(Menaechmiラテン語)
:ギリシア西部のエピダムノスが舞台。寄生者ペニクルスが食事を求めてメナエクムスの家に現れる。メナエクムスは口うるさい妻と口論し、妻のマントを愛人のエロティウムに贈る計画を立てる。一方、シラクーザから、行方不明になった双子の兄弟を捜して、もう一人のメナエクムスと奴隷メッセニオがエピダムノスに到着する。一連の誤解が生じ、最初のメナエクムスは妻の父と医者に狂ったと思われて縛られるが、メッセニオに救出される。二人の兄弟はついに再会し、最初のメナエクムスは妻を含む全ての財産を競売にかけ、兄弟と共にシラクーザへ帰ることを決意する。メッセニオはメナエクムスを救出したことで自由を得る。
- 『商人』(Mercatorラテン語)
:アテナイの商人デミフォの息子カリヌスは、ロドス島で美しい少女パシコンプサに出会い、彼女をアテナイに連れ帰る。彼は彼女を母の女中と偽るつもりだったが、父デミフォが港でパシコンプサを見かけ、彼女を自分のものにしたいと考える。彼は息子に、パシコンプサは女中には美しすぎると言い、売却するよう主張する。デミフォは友人のリュシマコスに彼女を買い取らせ、リュシマコスの家に連れて行かせる。しかし、リュシマコスの妻が予期せず田舎から帰宅し、料理人が宴会の準備に現れると騒動が起こる。カリヌスの友人であるリュシマコスの息子エウテュクスは、侍女からパシコンプサが家の中にいることを知り、絶望して海外へ行こうとしていたカリヌスを連れてきて、パシコンプサを救出する。その後、エウテュクスはリュシマコスとデミフォに会い、デミフォの恥ずべき行動を非難する。
- 『ほら吹き兵士』(Miles Gloriosusラテン語)
:エフェソスが舞台。自慢好きの兵士ピュルゴポリニケスが、アテナイから遊女フィロコマシウムを誘拐する。しかし、才気煥発な奴隷パラエストリオが偶然同じ屋敷で働くことになり、フィロコマシウムと恋仲の若者プレウシクレスはエフェソスへ彼女を救出に来ていた。パラエストリオは両家間に穴を開け、フィロコマシウムが密会できるようにするが、兵士の召使いスケレドルスに発見される。パラエストリオは、隣の家の少女がフィロコマシウムの双子の姉妹であると偽る計画を考案し、スケレドルスを欺く。さらにパラエストリオは、裕福な女性アクロテレウティウムが兵士に恋していると偽らせ、兵士をだましてフィロコマシウムを解放させる。しかし、兵士が新しい花嫁を迎えに行くと、ペリプレクトメヌスの召使いたちによって徹底的に打ちのめされる。
- 『幽霊屋敷』(Mostellariaラテン語)
:青年フィロラケスは遊女フィレマティウムに恋し、父が不在の間に彼女を買うために金を借りる。父テオプロピデスが突然帰宅すると、奴隷トラニオは皆を家の中に閉じ込め、家が幽霊に取り憑かれていると父をだまし、家に入らせないようにする。次にトラニオは隣人シモをだまし、テオプロピデスに自分の家を売却すると偽って見学させる。トラニオが舞台裏にいる間、テオプロピデスは友人の奴隷に出会い、トラニオにだまされていたことに気づく。彼はトラニオを罰すると決意するが、友人が現れ、フィロラケスとトラニオ両方を許すようテオプロピデスに懇願する。
- 『ペルシャ人』(Persaラテン語)
:主人が留守の間、屋敷を管理している賢い奴隷トクシロスは、隣に住むポン引きドルダルスが所有する遊女レムニセレニスに恋している。彼は友人の賢い奴隷サガリスティオに金を借り、ドルダルスからその金をだまし取ると約束する。一方、別の友人であるパラサイトのサトゥリオを説得し、彼の娘を策略のために貸してもらう。サガリスティオはペルシャ人に変装し、彼女をアラビアの捕虜と偽ってドルダルスに高額で売却する。直後、サトゥリオは娘がアテナイ市民であると主張してドルダルスから娘を取り戻そうとし、ドルダルスを法廷に引きずり出す。売却時に保証がなかったため、ドルダルスは金を返還する必要がなく、トクシロスとサガリスティオは勝利を祝う。
- 『カルタゴ人』(Poenulusラテン語)
:ギリシア中部のカリュドーンが舞台。青年アゴラストクレスは、奴隷商人リュクスが所有する奴隷遊女アデルファシウムに恋している。彼は奴隷ミルフィオと共にアデルファシウムとその姉妹を街中で見つけ、口説こうとするが拒絶される。ミルフィオは、アゴラストクレスの農場管理人コッリュビスクスを金持ちの客と偽ってリュクスの家へ送り込む計画を提案する。アゴラストクレスは証人を連れて行き、コッリュビスクスが大金を持って家に入るのを目撃させる。彼らはリュクスに、金を持った奴隷が家に入ったことを否定させ、アゴラストクレスは彼を法廷に訴えると脅す。リュクスは逃走する。その時、カルタゴの旅人ハンノが町に現れる。彼は幼少期に海賊に捕らえられた二人の行方不明の娘を捜している。ハンノは猿の咬み傷の痕から、アゴラストクレスが亡き従兄弟の息子であることを認識する。さらに、アデルファシウムとその姉妹が自分の娘たちであることも発見する。喜びの再会があり、アゴラストクレスはハンノと娘たちと共にカルタゴへ帰ると宣言する。
- 『プセウドールス』(Pseudolusラテン語)
:青年カリドロスは、愛する奴隷遊女フェニキウムがマケドニアの軍士官に売られてしまったことに心を痛めている。彼は彼女を買い戻すのに必要な20ミナを用意できない。賢い奴隷プセウドールスは彼を助けることを約束する。フェニキウムの主人である奴隷商人バッリオは、全ての奴隷と遊女を通りに連れ出し、誕生日を祝う宴の準備を命じる。後に、プセウドールスはカリドロスの父シモと会い、その日の終わりまでにフェニキウムが自由になっていることに20ミナを賭ける。その時、士官の召使いハルパクスがフェニキウムの残金を支払うために到着する。プセウドールスはバッリオの執事を装い、ハルパクスから士官からの手紙を受け取る。プセウドールスは別の賢い奴隷シミオをハルパクスに変装させ、バッリオに会わせる。計画は成功し、フェニキウムは解放される。本物のハルパクスが戻ってきたとき、シモとバッリオはこれをプセウドールスの新たな策略だと考え、彼をからかう。しかし、手遅れになり、ハルパクスが本物だと気づく。バッリオはシモに賭け金を支払い、シモはプセウドールスに20ミナを支払うことになる。
- 『綱引き』(Rudensラテン語)
:二人の少女、パライストラとアムペリスカが、北アフリカ沿岸での難破の後、海から脱出し、近くのウェヌス神殿に避難する。アムペリスカに恋する若い奴隷トラカリオは、そこで彼女たちを発見する。難破した奴隷商人ラブラクスと、彼のビジネスパートナーであるカルミデスが到着する。ラブラクスは少女たちが神殿にいることを知り、彼女たちを捕らえようと神殿に入る。少女たちはトラカリオと、神殿の隣に住むダエモネスの助けにより救出される。トラカリオは若い主人プレシディップスを連れてくる。プレシディップスはパライストラに恋しており、すでにラブラクスに彼女を買うための手付金を支払っていた。プレシディップスはラブラクスを詐欺で訴えるため、法廷に連れて行く。劇の後半で、ダエモネスの奴隷グリプスが海から救出した籠を引きずって現れる。トラカリオはグリプスを見つけ、籠の中にラブラクスのお金とパライストラが自身の身分を証明できる証拠品が入っていると疑い、グリプスが籠を奪うのを綱を掴んで阻止する。ダエモネスは、証拠品からパライストラが自身の長年行方不明であった娘であることを知り喜ぶ。彼はラブラクスに、グリプスに約束した報酬を支払うよう強制する。ダエモネスはその金でグリプスとアムペリスカの自由を買い、皆を夕食に招待する。
- 『スティクス』(Stichusラテン語)
:二人の姉妹、フィルメナとパンフィラは、夫が3年間も不在であることに不満を漏らし、父に再婚を迫られている。父アンティフォが到着し、まず自分が再婚するにあたっての助言を求め、次に娘たちの再婚について切り出すが、姉妹はきっぱりと拒否する。彼が去ると、フィルメナは寄生者ゲラシムスを呼び出す。彼女は夫の船の便りがあるかどうか尋ねるため彼を行かせたいのだ。ゲラシムスが到着するが、直後に奴隷の少年ピナキウムも現れ、船が到着したという知らせをもたらす。ゲラシムスは夕食の招待を得ようとするが、断られる。フィルメナの夫エピグノムスが間もなく奴隷スティクスと共に到着する。スティクスは一日の休暇を願い、それが許され、祝杯のためのワインも与えられる。三度目の正直でゲラシムスは夕食の招待を狙うが、またも拒否される。今度はパンフィラの夫パンフィリッポスがアンティフォと話しながら到着し、アンティフォは音楽の少女をもらいたいと示唆し、その願いは聞き入れられる。再びゲラシムスは招待を狙うが、拒否される。劇の最終部では、スティクスと友人のサンガリヌスがスティクスの無事の帰還を祝って食事と飲酒と踊りを楽しみ、彼ら共通の恋人ステファニウムも加わる。
- 『三文銭』(Trinummusラテン語)
:アテナイの紳士メガロニデスは、友人のカリクレスが、シリアにいる隣人カルミデスから彼の家を安値で買い取ったことを非難する。カリクレスは、カルミデスの息子レスボニクスの浪費癖から家とそこに埋められた宝物を守るために、誠実な行動として買い取ったと説明する。一方、レスボニクスの友人リュシテレスは父フィルトに、レスボニクスを助けるためにカルミデスの娘と持参金なしで結婚したいと話す。フィルトはレスボニクスにその話を提案するが、レスボニクスが妹を不名誉にさせるとして持参金なしでの結婚を拒否したため、計画は頓挫する。このことを知ったカリクレスは友人のメガロニデスに相談し、メガロニデスはカルミデスの埋蔵金を持参金として使うよう助言する。カリクレスがレスボニクスに宝物のことを話すのをためらうと、メガロニデスは、三文銭(trinummusラテン語)で替え玉を雇い、カルミデスがシリアから金を送ってきたと偽らせることを提案する。カルミデスが帰国し、その替え玉と面白い会話をする。当初、カルミデスは家を買い取ったカリクレスを非難するが、カリクレスがすべてを説明すると、カルミデスは喜び、リュシテレスはカルミデスの娘と結婚することを許され、レスボニクスはカリクレスの娘と婚約する。
- 『トルクレントゥス』(Truculentusラテン語)
:遊女フロネシウムには三人の恋人がいる。若い都市の男ディニアルクス、若い農夫ストラバクス、そして東方からの軍士官ストラトファネスである。海外から戻ったディニアルクスはフロネシウムを訪れるが、入室を許されない。フロネシウムが赤ちゃんを見つけ、それをストラトファネスの子だと偽るつもりらしい。次に兵士ストラトファネスが到着するが、持ってきた贈り物が不十分で入室を拒否される。ディニアルクスの料理人キュアムスが主人からの贈り物を持って到着し、嫉妬深いストラトファネスが彼と口論する。農夫ストラバクスが金を持って到着し、入室を許される。彼の奴隷トルクレントゥスは、父の金を浪費するのを防ぐために彼を追って来たが、彼自身もフロネシウムの侍女アスタフィウムの魅力に屈してしまう。今度はディニアルクスが戻ってくるが、フロネシウムがストラバクスと忙しいため、彼が送った全ての贈り物にもかかわらず、またしても入室を拒否される。この時、老紳士カリクレスが到着し、レイプされて出産した娘の赤ちゃんを探している。罰を恐れた二人の奴隷の少女が、赤ちゃんがフロネシウムに渡され、父親はディニアルクスであると告げる。ディニアルクスはカリクレスに許しを請い、娘と結婚することで償いを申し出る。しかし、彼がフロネシウムに赤ちゃんを求めると、彼女はストラトファネスをだまし続けるためにもうしばらく赤ちゃんを預かってほしいと頼む。ストラトファネスが来ると、家から出てくるストラバクスを見つけ、嫉妬から彼と口論になるが、ストラトファネスがフロネシウムにさらに莫大な金額を支払うにもかかわらず、ストラバクスが勝者となる。
2.4. 断片的な戯曲
プラウトゥスの作品で、タイトルのみが伝わるか、断片的にのみ現存する戯曲には以下のものがある。
- 『アカリスティオ』(Acharistioラテン語)
- 『アッディクトゥス』(Addictusラテン語、「献身的な者」)
- 『アンブロイクス』または『アグロイクス』(Ambroicusラテン語, Agroicusラテン語、「田舎者」)
- 『アヌス』(Anusラテン語、「老女」)
- 『アルタモ』(Artamoラテン語、「メインセール」)
- 『アストラバ』(Astrabaラテン語)
- 『バッカルリア』(Bacchariaラテン語)
- 『ビス・コンプレッサ』(Bis Compressaラテン語、「二度レイプされた女」)
- 『ボエオティア』(Boeotiaラテン語、「ボイオーティア」)
- 『カエクス』(Caecusラテン語、「盲目の男」)または『プラエドネス』(Praedonesラテン語、「略奪者たち」)
- 『カルケオルス』(Calceolusラテン語、「小さな靴」)
- 『カルボナリア』(Carbonariaラテン語、「炭焼き職人」)
- 『クリテラリア』または『アストラバ』(Clitellariaラテン語, Astrabaラテン語)
- 『コラックス』(Colaxラテン語、「お世辞を言う者」)
- 『コンモリエンテス』(Commorientesラテン語、「共に死ぬ者たち」)
- 『コンダリウム』(Condaliumラテン語、「奴隷の指輪」)
- 『コルニクラリア』(Corniculariaラテン語)
- 『デュスコルス』(Dyscolusラテン語、「不機嫌な男」)
- 『フォエネラトリクス』(Foeneratrixラテン語、「女金貸し」)
- 『フレトゥム』(Fretumラテン語、「海峡」)
- 『フリウォラリア』(Frivolariaラテン語、「些細なこと」)
- 『フギティウィ』(Fugitiviラテン語、「逃亡者たち」)
- 『ガストリオン』または『ガストロン』(Gastrionラテン語, Gastronラテン語)
- 『ホルトゥルス』(Hortulusラテン語、「小さな庭」)
- 『カキストゥス』(Kakistusラテン語)
- 『レノネス・ゲミニ』(Lenones Geminiラテン語、「双子のポン引き」)
- 『ネルウォラリア』(Nervolariaラテン語)
- 『パラシトゥス・メディクス』(Parasitus Medicusラテン語、「医者の寄生者」)
- 『パラシトゥス・ピゲル』または『リパルグス』(Parasitus Pigerラテン語, Lipargusラテン語、「怠惰な寄生者」)
- 『ファゴン』(Phagonラテン語、「大食漢」)
- 『プロキオナ』(Plocionaラテン語)
- 『サトゥリオ』(Saturioラテン語)
- 『スキタ・リトゥルグス』(Scytha Liturgusラテン語、「スキタイの公僕」)
- 『シテリテルグス』(Sitellitergusラテン語、「便器掃除人」)
- 『トリゲミニ』(Trigeminiラテン語、「三つ子」)
- 『旅行かばん』(Vidulariaラテン語)
3. 歴史的背景
プラウトゥスの時代は、共和政ローマが勢力と影響力を拡大していた時期であり、彼の劇作品は当時の社会政治的、文化的環境に深く影響を受けている。
3.1. ローマ社会と宗教
プラウトゥスの戯曲には、当時のローマ社会における神々への姿勢や宗教的人物に対する懐疑的な見方が反映されている。彼の作品では、登場人物が神々と比較されたり、神々を軽蔑する発言をしたりすることが珍しくない。例えば、『ほら吹き兵士』のピュルゴポリニケスは、自身の長寿を自慢する際にユーピテルよりも一日遅れで生まれたと述べ、『クルクリオ』ではファエドロムスが「私は神だ」と発言する。『プセウドールス』ではユーピテルがポン引きのバッリオに喩えられ、『カルタゴ人』や『綱引き』では登場人物が神々を軽蔑する場面が見られる。
プラウトゥスは神々への不敬を創作したり奨励したりしたわけではなく、当時の社会にすでに存在していた神々への懐疑的な感情を反映していたと解釈できる。当時の国家は舞台作品を厳しく管理しており、もし彼の劇があまりにも扇動的であれば上演が禁止されたはずである。これは、演劇が社会の変化を映し出し、時にはそれを予見する力を持っていたことを示唆している。
3.2. 同時代の戦争
プラウトゥスの戯曲には、彼が活躍した時代の重要な出来事、特に第二次ポエニ戦争(紀元前218年 - 紀元前201年)や第二次マケドニア戦争(紀元前200年 - 紀元前197年)が微妙に言及されている。
第二次ポエニ戦争では、ハンニバルによるイタリア侵攻がローマ社会に大きな影響を与えた。プラウトゥスの戯曲には、「国家が戦時下にある」ことを示唆する言及が散見される。『ほら吹き兵士』の一節には、第二次ポエニ戦争に対する国民感情を煽るような記述がある。例えば、「敵がすぐそこにいる」という表現は、当時のローマ市民にとって最も切迫した関心事であった戦争を強く意識させるものであった。この時期、スキピオ・アフリカヌス将軍がハンニバルと対決しようとした計画は、プレブス(平民)の間で強く支持されており、プラウトゥスは劇を通じてこの計画の承認を元老院に促すようなメッセージを発信した可能性がある。彼の喜劇は、当時の観客の最も感情的な部分に触れるものであったと言える。
第二次ポエニ戦争終結後、ローマはギリシアでの新たな軍事作戦、特にフィリッポス5世との第二次マケドニア戦争に備えていた。しかし、カルタゴとの最近の激戦のため、多くのローマ市民は新たな軍事作戦に乗り出すことをためらっていた。プラウトゥスの『スティクス』には、このような複雑な社会情勢が反映されていると指摘されている。この劇の登場人物である二人の忠実な娘とその父親は、「正しきことを行う義務」(officiumラテン語)という概念に執着しているように見える。彼らの台詞には「ピエタス」(孝行、敬虔)や「aequusラテン語」(公正な)といった言葉が散りばめられており、父親にその役割を適切に果たさせようと奮闘する。また、寄生者ゲラシムスは、この家族とのパトロン・クライアント関係にあり、生計を立てるためにあらゆる仕事を引き受ける。これは、当時の戦争費用によって多くのローマ市民が経験していた経済的困窮を描写している可能性がある。プラウトゥスは、責任の繰り返しや下層階級の絶望を通じて、平均的なローマ市民の側に立っていることを明確にしている。彼はギリシアとの戦争や以前の戦争に直接言及することは避けているが、政府は他の軍事行動に着手する前に、まず自国民の世話をすべきだというメッセージを暗に示しているようだ。
4. 舞台技術
プラウトゥスの時代の古代ローマにおける演劇環境は、ギリシアとは異なり、彼のコメディの舞台演出に独自の影響を与えた。
4.1. 共和政ローマの劇場環境
プラウトゥスが戯曲を執筆した共和政ローマの時代には、紀元前55年にポンペイウスがマルス広場に恒久的な劇場を建設するまで、常設の劇場は存在しなかった。演劇が公衆に支持され、悲劇も喜劇も楽しまれていたにもかかわらず、恒久的な施設がなかったことは、ローマ演劇、特にプラウトゥスの舞台技術における重要な要素であった。当時、ローマ人はギリシアの石造りの劇場を知っていたが、演劇が「道徳を損なう影響」を持つと信じられていたため、恒久的な劇場の建設には強い抵抗があった。プラウトゥスの戯曲の題材を考慮すると、この懸念は尤もである。彼の作品では、非現実が舞台上で現実となり、社会規範がひっくり返される場所は、本来的に疑わしいと見なされた。貴族階級は演劇の持つ力を恐れており、特定の祭り(ludiラテン語)の期間中に一時的な舞台が建設されるのは、彼らの厚意と潤沢な資源によるものに過ぎなかった。
プラウトゥスの戯曲が上演された木製の舞台は、奥行きが浅く、横に長く、舞台小屋に対して三つの開口部を持っていた。これらの舞台は、現代の学者が知るギリシアのどの劇場構造よりも著しく小さかった。プラウトゥスの時代には演劇が優先事項ではなかったため、劇場構造物は一日で建設され、解体された。さらに実用的な理由として、火災の危険性があったため、迅速に解体された。
4.1.1. ルディの重要性
ローマ演劇、特にプラウトゥスのコメディは、「ルディ」(祭典競技)と呼ばれる祭りの期間中に上演された。『ルディ・メガレンセス』のような祭りは、他のどの定期的な祭りよりも多くの日数を演劇に提供し、その開催場所は特に確かな文学的証拠が残っている。ルディは宗教的な性格を持っていたため、祝われる神の神殿の近くに一時的な舞台を設置するのが適切であった。
プラウトゥスの戯曲が最初に上演された一時的な劇場では、座席が不足することが多く、身分によって立ち見と座席が区別された。下層階級の人々も観劇できたが、おそらく立って観る必要があった。劇は公衆のために公衆の場で上演され、社会の最も著名な人々が最前列に陣取った。
4.1.2. 舞台の地理的配置
しばしば舞台の地理的配置、そしてより重要なことに劇の地理的配置は、都市の実際の地理と一致しており、観客が劇の場所を容易に理解できるようになっていた。これにより、プラウトゥスは劇を現実とある程度一致させて演出していたようである。このため、登場人物たちは自身の社会的地位にふさわしい場所から出入りする必要があった。
舞台の側面を社会的地位や地理と結びつける見方も存在する。例えば、医者の家は舞台の右手に位置し、広場かその周辺に医者がいるのが自然である。また、対立する登場人物は常に逆方向に退場する必要があった。プラウトゥスの空間的な意味論に関する考察では、舞台の異なる空間さえも主題的に意味を持っていたことが指摘されている。例えば、『カシナ』では、男女間の支配を巡る闘いが、登場人物が家の出入りを制御しようとする努力によって表現されている。
舞台上での行動を示す言葉、例えば「abeoラテン語」(私は立ち去る)、「transeoラテン語」(私は渡る)、「fores crepueruntラテン語」(扉が軋む)、「intusラテン語」(内部)などは、登場人物の退場や入場を示す標準的な対話であり、プラウトゥスが明確な舞台指示を残していないため、これらが舞台指示として機能したと考えられる。しばしば、登場人物の交代において次の場面へ移る必要が生じた際、プラウトゥスは「カバー独白」と呼ばれる技法を用いた。これは、長さよりも観客への直接的な語りかけによって時間の経過を示し、対話のセナーリウスからイアンボスのセプテナーリウスへの転換によって生じる雰囲気の変化が、時間の感覚を曖昧にした。
4.2. 演技の慣習と観客との相互作用
狭い舞台は古代ローマ演劇の舞台演出に大きな影響を与えた。限られた空間のため、動きも制限された。ギリシア演劇では、劇場の奥の観客にも届くような大きな身振りや広範な演技が可能であったが、ローマでは俳優は大きな身体性よりも声に頼る必要があった。ギリシアにはあったオーケストラの空間がローマにはなく、これはローマ演劇におけるコーラスの顕著な欠如に反映されている。ギリシア演劇でコーラスの役割を果たす代替キャラクターは、しばしば「プロローグ」と呼ばれた。
これらの変化は、俳優と彼らの演技空間、そして観客との間に異なる関係を育んだ。俳優たちは観客とのより密接な相互作用を強いられ、現代の観客にも馴染み深い特定の演技スタイルが求められた。俳優と非常に近い距離にいたため、古代ローマの観客は俳優からの注意と直接的な承認を求めたであろう。
舞台と客席の間にはオーケストラの空間がなかったため、観客は高くなった木製舞台の目の前に立つことができた。これにより、彼らは俳優を全く異なる視点から見ることができた。俳優の一挙手一投足、言葉の全てを聞き取ることができ、観客は俳優が直接自分たちに話しかけてくれることを望んだ。それは、今日に至るまで演劇の醍醐味の一部である。
4.2.1. 定型的な登場人物
プラウトゥスの登場人物の多様性は、様々な技法、特に定型的な登場人物や状況を繰り返し用いることによって生み出された。彼は同じ定型的なキャラクターを常に登場させた。例えば、『ほら吹き兵士』の題名にもなっている「ほら吹き兵士」ピュルゴポリニケスは、最初の幕でしかその虚栄心が強く不謹慎な側面を見せず、寄生者アルトトログスはピュルゴポリニケスの功績を誇張し、ますます馬鹿げた主張を作り出し、ピュルゴポリニケスはそれを疑問視することなく受け入れる。これら二人は、プラウトゥスのコメディに頻繁に登場する尊大な兵士と必死の寄生者の定型的なキャラクターの完璧な例である。
プラウトゥスが提供したユーモア、例えば「駄洒落、言葉遊び、意味の歪曲、その他の言葉によるユーモアの形式は、通常、低社会階級に属する登場人物の口から発せられ、彼らの言語や立場に最も適している」と指摘されている。これは、固定されたキャラクター設定が、観客が求める大衆的で分かりやすいユーモアを提供するための理想的な手段であったことを示している。
4.2.2. 賢い奴隷
賢い奴隷がプラウトゥスの発明ではないという証拠も存在する。かつてはA. W. ゴムのような批評家が、巧妙な計画を考案し、出来事を操り、若い主人や友人を指揮するような「真にコミカルな性格を持つ奴隷」はラテン喜劇の創造物であると考えていたが、フィリップ・ハーシュはギリシア喜劇における賢い奴隷の具体的な例を挙げてこれらの考えを否定している。例えば、アテナイオス、アルキフロン、ルキアノスの作品には奴隷の助けを借りた欺瞞が登場し、メナンダーの『Dis Exapaton古代ギリシア語』には、プラウトゥスの『バッキス姉妹』に影響を与えたと思われる賢い奴隷による手の込んだ欺瞞が描かれている。
ハーシュは、ゴムの主張が、現在我々が持っている多くのパピルスが発見される前になされた可能性を認めている。賢い奴隷は必ずしもローマの発明ではなかったが、プラウトゥスは彼独自のスタイルでこの賢い奴隷像を発展させた。より大きく、より積極的な役割、より誇張された言葉遣いと活力を与えることで、プラウトゥスは奴隷を物語の最前線へとさらに押し出した。ずる賢い、あるいは機知に富んだ奴隷によって生み出される秩序の逆転は、ユーモラスな反応を得るのに完璧であり、このキャラクターの特性は物語を前進させるのに非常に効果的であった。
4.2.3. 好色な老人
K.C. ライダーが論じるプラウトゥスのもう一つの重要な定型キャラクターは「セネクス・アマトル」(senex amatorラテン語)である。「セネクス・アマトル」とは、若い娘に情熱を抱き、多かれ少なかれその情熱を満たそうとする老人を指す。プラウトゥスの作品におけるこれらの男性は、『ロバ物語』のデマエネトゥス、『バッキス姉妹』のフィロクセヌスとニコブルス、『小箱の話』のデミフォ、『カシナ』のリュシダムス、『商人』のデミフォ、『スティクス』のアンティフォである。『ほら吹き兵士』のペリプレクトメノスや『綱引き』のダエモネスは「senes lepidiラテン語」(楽しい老人)と見なされ、通常は感情を品位ある範囲に留めている。これらのキャラクターは皆、若い女性との関係を望むという共通の目的を持っているが、プラウトゥスはキャラクターが冗長になりすぎないよう、それぞれ異なる方法でそれを追求させる。彼らの共通点は、彼らの試みが嘲笑の対象となること、動物的な情熱に突き動かされていることを示唆するイメージ、子供じみた行動、そして青春時代の恋愛言葉に戻ってしまう点である。
4.3. 女性登場人物
プラウトゥスの戯曲における女性の役割指定を調べたZ.M. パックマンは、男性の役割指定ほど安定していないことを発見した。「senexラテン語」(老人)は通常、劇の間ずっと「senexラテン語」のままだが、「matronaラテン語」(既婚女性)、「mulierラテン語」(女性)、あるいは「uxorラテン語」(妻)といった指定は時として互換性があるように見える。ほとんどの自由身分の成人女性、既婚者や未亡人は、場面の冒頭では「mulierラテン語」と、単に「女性」として表示される。しかし、プラウトゥスの『スティクス』では、二人の若い女性は「sororesラテン語」(姉妹)、後に「mulieresラテン語」、そして「matronaeラテン語」(夫人)と称されており、これらはすべて異なる意味と含意を持つ。
これらの矛盾があるにもかかわらず、パックマンはプラウトゥスにおける女性の役割指定に一定のパターンを見出そうと試みている。「mulierラテン語」は通常、市民階級で結婚適齢期にあるか、すでに結婚している女性に与えられる。未婚の市民階級の少女は、性的経験の有無にかかわらず「virgoラテン語」と指定された。「ancillaラテン語」は女性の家内奴隷を指す用語であり、「anusラテン語」は高齢の家内奴隷のために予約されていた。社会的身分によって未婚の若い女性は通常「meretrixラテン語」(遊女)と呼ばれ、「lenaラテン語」(養母、あるいはポン引き)はこれらの少女たちを所有する女性である。
4.4. 名前のない登場人物
パックマンと同様に、ジョージ・ダックワースは写本の場面冒頭の記述を用いて、プラウトゥスの名前のない登場人物に関する自身の理論を支持している。プラウトゥスの20の戯曲には約220の登場人物が登場するが、そのうち30は場面冒頭の記述にも本文にも名前が記されておらず、約9人の登場人物は古代の記述には名前があるものの、現代の版では名前が欠落している。これは、プラウトゥスの全登場人物の約18%が名前を持たないことを意味する。ほとんどの非常に重要な登場人物には名前がある一方で、名前のない登場人物のほとんどは重要度が低い。しかし、例外もあり、『カシナ』の主要人物は本文中のどこにも名前が言及されていない。また、プラウトゥスは数言しか話さないキャラクターに名前を与えることもあった。一つの説明としては、一部の名前が長年にわたって失われたため、とも考えられる。
5. 言語とスタイル
プラウトゥスは彼のコメディにおいて、独特の言語的特徴と修辞的装置を駆使した。
5.1. 口語的・古風な特徴
プラウトゥスはオウィディウスやウェルギリウスに見られるような規範化されたラテン語とはかけ離れた、口語的なスタイルで執筆した。この口語的なスタイルは、彼が日常的に慣れ親しんでいた話し言葉であり、それゆえに多くのラテン語学習者にとっては馴染みの薄いものである。プラウトゥスの言語の特異性をさらに高めるのは、テキストに見られる不規則性の不整合性である。
プラウトゥスの語法は、彼の時代の口語を使用しており、後の古典ラテン語期から見ると独特で非標準的である。彼の作品は「形式にとらわれず、(中略)演説や詩の形式的な規則性よりも、日常会話の気楽な調子を再現しようとした」と指摘されている。したがって、書記や学者を悩ませてきた多くの不規則性は、おそらくプラウトゥスが耳にした無造作で訓練されていない日常的な使用法を反映しているに過ぎない。プラウトゥスの作品における古風な形式の全体的な使用を見ると、それらが約束、合意、脅迫、プロローグ、または演説の中で一般的に現れることがわかる。プラウトゥスの古風な形式は、韻律的に都合が良いだけでなく、彼の最初の観客に文体的効果を与えた可能性もある。
古典的な観点から見て不規則または廃れたと見なされる、最も注目すべき言語的特徴のいくつかを以下に挙げる。
- 一部の動詞の非短縮形の使用。例: 「mavoloラテン語」(好む)に対し、後の「maloラテン語」。
- 古典ラテン語では使われない、二人称単数命令形の動詞の語尾に「-eラテン語」の使用。例: 「dic(e)ラテン語」(言え)。
- 「maxumusラテン語」、「proxumusラテン語」、「lacrumareラテン語」などの単語における、後の「-iラテン語」の代わりに「-uラテン語-」の保持、および紀元前150年頃以降は「-veラテン語-」が好まれる「r」「s」「t」の前の「-voラテン語-」の保持(例: 「vostrumラテン語」に対し、後の「vestrumラテン語」)。
- 現在受動態および半受動態の不定詞の語尾に「-ierラテン語」の使用(例: 「exsurgierラテン語」に対し、「exsurgīラテン語」)。
- 「sumラテン語」の形が先行する単語と結合されること(プロデリジョン)。例: 「bonumstラテン語」(それは良い)に対し、「bonum estラテン語」(それは良い)。
- 二人称単数動詞形の最終「-sラテン語」と、疑問詞「-neラテン語」が結合された際の最終「-eラテン語」の脱落。例: 「viden?ラテン語」(わかるか?)に対し、「videsne?ラテン語」(わかるか?)。
- 第二変化の名詞語尾における短い「-ŏラテン語」の保持に対し、後の「-ŭラテン語」。
- 多くの単語における、後の「c-ラテン語」の代わりに「qu-ラテン語」の保持(例: 「quomラテン語」に対し、「cumラテン語」)。
- 二音節の属格単数語尾「-āīラテン語」と、「-aeラテン語」の併用。
- 代名詞「mēdラテン語」「tēdラテン語」「sēdラテン語」(対格と奪格)における長母音後の最終「-dラテン語」の保持(前母音語の前に使用され、「-d」なしの形も存在する)。
- 代名詞に時折付加される最終「-pteラテン語」、「-teラテン語」、または「-metラテン語」。
- 対格複数形および時折主格複数形語尾としての「-īsラテン語」の使用。
これらはプラウトゥスの戯曲に現れる(後世の視点からの)最も一般的な言語的特徴であり、その一部はテレンティウスにも見られる。これらを認識することは彼の作品を読み解く上で役立ち、初期ローマの言語と相互作用についての洞察を与える。
5.2. 表現技法
プラウトゥスは、劇中で自身を表現する特定の方法を用いており、これらの表現方法は彼の執筆スタイルに独特の魅力をもたらしている。表現方法は必ずしも作家固有のものではないが、その作家の特徴を示している。この特徴的な表現方法の二つの例として、ことわざの使用と、劇中におけるギリシア語の使用が挙げられる。
プラウトゥスは多くの戯曲でことわざを用いた。ことわざは、法律、宗教、医学、職業、工芸、航海といった特定の分野に関連付けられることがあった。プラウトゥスのことわざやことわざ的表現は数百に上る。それらは単独で現れることもあれば、スピーチの中に織り込まれることもある。プラウトゥスのことわざの最も一般的な登場の仕方は、独白の終わりである。プラウトゥスは、この方法を劇的な効果のために用い、ある点を強調する。
プラウトゥスの戯曲に織り込まれ、ことわざの使用と同じくらい一般的なのが、劇の本文におけるギリシア語の使用である。J. N. ホーは、プラウトゥスがギリシア語を使用するのは芸術的な目的であり、単にラテン語のフレーズが韻律に合わないためではないと示唆している。ギリシア語は食品、油、香水などを描写する際に使用される。これは、英語における「garçonガルソンフランス語」や「rendezvousランデブーフランス語」といったフランス語の用語の使用に似ている。これらの言葉は、言語にフランス的な魅力を与えるように、ギリシア語はラテン語を話すローマ人に同じような効果を与えた。奴隷や身分の低い登場人物がギリシア語を多く話す。これに対する一つの可能な説明は、多くのローマの奴隷がギリシア出身の外国人であったことである。
プラウトゥスは、登場人物に合う場所であれば、他の言語の文章も組み込むことがあった。注目すべき例は、『カルタゴ人』におけるカルタゴ語の2つの祈祷文の使用である。これはカルタゴ人長老ハンノによって唱えられ、セム語派言語学においてカルタゴ語の母音の発音を保存している点で重要である。ギリシア語とは異なり、プラウトゥス自身がおそらくカルタゴ語を話すことはなく、観客も理解できなかっただろう。祈祷文の本文は、おそらくカルタゴ人から提供され、プラウトゥスはハンノの登場人物の真正性と異国情緒を強調するためにそれを取り入れた。
5.3. ユーモアと言葉遊び
プラウトゥスのコメディは、駄洒落や言葉遊びに富んでおり、それは彼の詩作の重要な要素となっている。例えば、『ほら吹き兵士』におけるスケレドルス(Sceledreラテン語)と「罪」(scelusラテン語)の言葉遊びはよく知られた例である。いくつかの言葉遊びは、語られる内容を強調するために用いられ、またいくつかは言語の芸術性を高めるために存在する。しかし、多くはジョーク、特に「とんちんかんクイズ」のために作られており、「ノックノック、誰だ?」のパターンを特徴とする。プラウトゥスは、後にウィリアム・シェイクスピアも行ったように、言葉の意味を考案したり変更したりすることを特に好んだ。
5.4. 韻律と音楽性
プラウトゥスの戯曲の言語の芸術性をさらに強調し、高めているのは、韻律の使用である。韻律とは、簡単に言えば劇のリズムである。プラウトゥスが強勢のある語句に重きを置いたのか、韻脚に重きを置いたのかについては大きな議論がある。プラウトゥスは、ローマの観客向けに脚色したギリシア語の原典の韻律には従わなかった。彼は多くの種類の韻律を用いたが、最も頻繁に用いたのはイアンボスのセナーリウスとトロカイオスのセプテナーリウスであった。G. B. コンテは、プラウトゥスがギリシアの韻律よりも「カンティカ」(canticaラテン語、歌われる部分)の使用を好んだと指摘している。プラウトゥスでは見られるこの「カンティカ」という音楽劇の要素は、テレンティウスには見られない最大の特徴である。
5.5. 活気と即興性
「セルヴス・カリドゥス」(賢い奴隷)は、プラウトゥスの多くの戯曲において、物語の背景説明の役割を果たす。奴隷は他のどの登場人物よりもはるかに多くの独白を担当し、その多くはユーモア、教訓、または何らかの背景説明のために用いられる。プラウトゥス喜劇の重要な要素であるユーモア、卑俗さ、そして「不釣り合い」な要素は、奴隷が独白や観客への直接的な語りかけを通じて、観客を「ジョーク」や劇の遊び心に引き込むための不可欠な道具となる。彼は単なる背景説明や理解の源であるだけでなく、劇のユーモア、つまり劇の遊び心との「繋がり」を提供している。賢い奴隷は、観客の注意を完全に引きつけ、嘘や罵倒にもかかわらず「観客の完全な同情を得る」キャラクターである。彼は、独白、命令形、頭韻法といった、執筆と話術の両方において具体的かつ効果的な言語ツールを駆使してこれを実現している。
プラウトゥスの奴隷が用いる独白(またはモノローグ)の特定の種類は「プロローグ」である。N. W. スレーターによると、これらのプロローグは単に情報を提供するだけでなく、「はるかに重要な機能」を持っている。賢い奴隷が劇中で他の登場人物に対して権力を主張するもう一つの方法は、命令形の多用である。この種の言葉は、主人を懇願する哀れな立場に引き下げるような「強制的な逆転」のために用いられる。命令形は、奴隷と主人の間の通常の関係を完全に逆転させるために使用され、「通常のローマ社会で権威と尊敬を享受する者たちは地位を追われ、嘲笑され、社会の最も低い階層の者たちが台頭する(中略)謙虚な者たちが事実上高められる」状況を生み出す。
5.6. 食事
プラウトゥスの戯曲で最も頻繁に言及される食材は肉であり、特定の肉が言及される場合、最も多いのは豚肉で、次に魚が挙げられる。
6. 遺産と影響
プラウトゥスの作品は、知的・学術的な批評家からしばしば粗野だと評価されたものの、後世の文学、特にシェイクスピアやモリエールといった二人の文学の巨人への影響は計り知れない。
歴史を通じて劇作家たちは、登場人物、プロット、ユーモア、その他のコメディ要素においてプラウトゥスからインスピレーションを得てきた。彼の影響は、アイデアの類似性から、劇中に織り込まれた文字通りの翻訳まで多岐にわたる。人間性の不条理、そしてその不条理から生まれるコメディと悲劇に対するプラウトゥスの明らかな理解は、彼の死後数世紀にわたって後続の劇作家たちを刺激し続けた。こうした継承者の中で最も有名なのがシェイクスピアであり、プラウトゥスは彼の初期のコメディに大きな影響を与えた。
6.1. 中世と初期ルネサンスにおける受容
プラウトゥスの作品は9世紀には読まれていたようだが、その形式は複雑すぎて完全には理解されておらず、当時の人々には彼の作品が散文で書かれているのか韻文で書かれているのかさえ不明であった。
『アンフィトルオ』は、プラウトゥスの最も有名な作品の一つとして、長年にわたり広く読まれてきた。中世では最も人気のあるプラウトゥス劇であり、ルネサンス期には公に上演され、最初に英語に翻訳されたプラウトゥス劇でもあった。
プラウトゥスの戯曲の影響は16世紀初頭にも及んだ。限られた記録によると、イングランドにおけるプラウトゥス劇の大学での最初の上演は、1522年から1523年にかけてオックスフォードで行われた『ほら吹き兵士』であった。クイーンズ・カレッジの「マグナム・ジョーナーレ」には、1522年か1523年のいずれかに「comoedia Plautiラテン語」(プラウトゥスの喜劇)への言及がある。これは、ジョン・リーランドの詩にある上演日に関する記述と一致する。また、『ほら吹き兵士』の次の上演は、1564年にウェストミンスター・スクールによって行われたことが記録されている。その他の記録からは、『メナエクムス兄弟』の上演についても知られている。我々の知る限りでは、トマス・ウルジー枢機卿の邸宅で、セント・ポール・スクールの生徒たちによって1527年には上演されていた。
6.2. 後世の劇作家への影響
シェイクスピアはプラウトゥスがギリシアのモデルから借りたように、プラウトゥスから多くの要素を借用した。C. L. バーバーは、「シェイクスピアは、プラウトゥスの粗野で狭く、樹脂のような天才とは全く異なる、彼特有の寛大な創造性によって具現化されたエリザベス朝の生活を、ローマのファルスの形式に流し込んだ」と述べている。
プラウトゥスとシェイクスピアの作品で最も類似しているのは、それぞれ『メナエクムス兄弟』と『間違いの喜劇』である。シェイクスピアはプラウトゥスから「プロット、出来事、そして登場人物の類似点」を直接引き出し、古典劇作家の作品から疑いなく影響を受けていた。しかし、H. A. ワットは、二つの劇が「完全に異なる状況下で書かれ、両極端に遠い観客に提供された」という事実を認識することの重要性を強調している。
『メナエクムス兄弟』と『間違いの喜劇』の違いは明確である。『メナエクムス兄弟』では、プラウトゥスは双子の兄弟という一組の双子しか用いていない。一方シェイクスピアは、二組の双子を用いているが、これが「シェイクスピアの状況の力を希薄にしている」と指摘する見解もある。シェイクスピアがこのアイデアを、双子の主人と双子の奴隷の両方が登場するプラウトゥスの『アンフィトルオ』から得た可能性も示唆されている。双子の登場は、エリザベス朝コメディの定型的な状況であるとされている。
エリザベス朝とプラウトゥスの技法の融合について、T. W. ボールドウィンは、「『間違いの喜劇』は、『メナエクムス兄弟』が持つ、コメディの古典的な構造に特徴的な小規模な統一性を持っていない」と記している。ボールドウィンは、シェイクスピアがプラウトゥスよりも劇の構造においてはるかに広い領域を扱っていると指摘している。シェイクスピアは、その心が家や家庭に限定されず、外のより大きな世界、そしてその世界で彼らが果たすであろう役割に目を向ける観客のために執筆していた。
シェイクスピアとプラウトゥスの観客のもう一つの違いは、シェイクスピアの観客がキリスト教徒であったことである。『間違いの喜劇』の終わりでは、キリスト教の女子修道院長が争いに介入することで劇の世界が正常に戻る。一方、『メナエクムス兄弟』は「超自然的な要素がほとんど完全に欠如している」。プラウトゥスの劇の登場人物が、都合の悪い状況を魔術のせいにするようなことは決してなかっただろう。これはシェイクスピアではごく一般的である。
主人と賢い召使いの関係も、エリザベス朝コメディの一般的な要素である。シェイクスピアはしばしば、登場人物が互いを際立たせるための引き立て役(フォイル)を登場させる。エリザベス朝のロマンティック・コメディでは、複数の結婚やカップルの結びつきで終わることが一般的である。これはプラウトゥスのコメディには見られない特徴である。『間違いの喜劇』では、エゲーオンとアイミーリアは引き離され、アンティフォラスとアドリアーナは対立し、アンティフォラスとルチアーナはまだ出会っていない。しかし、最終的には全てのカップルが幸せに結ばれる。エリザベス朝とプラウトゥスの様式を組み合わせることで、シェイクスピアは独自のコメディを創造し、両方のスタイルを用いている。
シェイクスピアは、プラウトゥスの劇に頻繁に見られるような冒頭の独白も用いている。彼は『間違いの喜劇』に、『メナエクムス兄弟』のそれに似たタイプの「悪役」をも登場させている。そのキャラクターを医師から教師へと変えているが、狡猾で教養のある人物である点は共通している。これらの要素のいくつかは、『十二夜』や『夏の夜の夢』といったシェイクスピアの多くの作品にも現れており、彼の創作に深い影響を与えている。
後世の劇作家たちもまた、プラウトゥスの定型的な登場人物を借用した。その中でも最も重要なプラウトゥスの残響の一つは、寄生者の定型キャラクターである。その最高の例は、シェイクスピアの太った臆病な騎士ジョン・ファルスタッフである。J. W. ドレーパーが指摘するように、大食いのファルスタッフは、『ほら吹き兵士』のアルトトログスのような寄生者と多くの特徴を共有している。両キャラクターは、食べ物と次の食事がどこから来るかに執着している。しかし、彼らはこれらの贈り物を得るためにお世辞にも頼り、両キャラクターとも自分のパトロンを空虚な賞賛で埋め尽くすことを厭わない。ドレーパーは、ファルスタッフが誇張された軍人でもあると指摘するが、「ファルスタッフは非常に複雑なキャラクターであるため、相互に連動する複数のタイプを組み合わせたものである可能性が高い」と述べている。
シェイクスピア劇だけでなく、プラウトゥスの寄生者は最初期の英国喜劇の一つにも登場する。『ラルフ・ロイスター・ドイスター』の登場人物マシュー・メリーグリークは、食べ物を探し、卑屈に振る舞うだけでなく、主人の願望を達成しようと試みる点で、プラウトゥスの寄生者と奴隷の両方の伝統を受け継いでいる。この劇自体が、プラウトゥスのコメディ『ほら吹き兵士』から大きく借用している、あるいはそれを基にしていると見なされることが多い。
H. W. コールは、テレンティウスと共にプラウトゥスの影響をストーニーハースト・ページェントで論じている。ストーニーハースト・ページェントは、1609年以降にランカシャーで書かれたとされる旧約聖書を題材とした劇の写本である。コールは特に『ナアマンのページェント』におけるプラウトゥスの影響に焦点を当てている。この劇作家は、伝統的な中世の宗教劇のスタイルから脱却し、プラウトゥスの作品に大きく依拠している。全体として、劇作家はプラウトゥスの現存する20編の戯曲のうち18編、およびテレンティウスの現存する6編の戯曲のうち5編を参照している。このことから、『ナアマンのページェント』の作者がプラウトゥスについて深い知識を持ち、彼から著しい影響を受けていたことが明らかである。
エドワーデスの『デイモンとピュティアス』やトマス・ヘイウッドの『シルバー・エイジ』、そしてシェイクスピアの『間違いの喜劇』にも、プラウトゥスの模倣が見られる。ヘイウッドは時としてプラウトゥスの全節を翻訳した。翻訳されただけでなく模倣されたことにより、プラウトゥスはエリザベス朝時代のコメディに大きな影響を与えた。
プロット、あるいはより正確にはプロット装置という点において、プラウトゥスは後の劇作家にとってインスピレーションの源であり、脚色の可能性も提供した。プラウトゥスが彼の劇に重ねた多くの欺瞞は、観客にファルスに近いジャンルの感覚を与え、シェイクスピアやモリエールによって書かれた多くのコメディに登場する。例えば、賢い奴隷はモリエールの二つの劇『守銭奴』(L'Avareラヴァールフランス語)と『恋のもつれ』(L'Etourdiレトゥルディフランス語)において重要な役割を果たす。両作品では、『ほら吹き兵士』のパラエストリオと同様に、プロットを動かし、策略を生み出している。これらの類似した登場人物は、プラウトゥスの多くの劇を推進する原動力となっている種類の欺瞞を構築しており、これは単なる偶然ではない。
6.3. 現代の脚色と研究
20世紀以降もプラウトゥスの作品は現代のメディアで脚色され、学術研究の対象となっている。彼の作品を基にしたミュージカルには、『ローマで起こった奇妙な出来事』(ラリー・ゲルバートとバート・シェヴラヴ脚本、スティーヴン・ソンドハイム作詞・作曲)がある。
エーリッヒ・シーガルが1968年に著した『ローマの笑い:プラウトゥスのコメディ』(Roman Laughter: The Comedy of Plautus英語)は、プラウトゥスの作品に関する学術的な研究書である。
イギリスのテレビシットコム『アップ・ポンペイ!』は、プラウトゥスの戯曲から状況や定型的な登場人物を借用している。最初のシリーズでは、ウィリー・ラシュトンがプラウトゥス役を演じ、エピソード中で時折登場してコミカルなコメントを提供する。
7. エディションと批評研究
プラウトゥスの作品の重要な現代版と、それに関する主要な批評・歴史研究を以下に示す。
- 『T. Macci Plauti Comoediae ex recensione Georgii Goetz et Friderici Schoellラテン語』、7巻、ライプツィヒ、B. G. トイブナー出版、1893-6年。
- プラウトゥス『綱引きその他』(ペンギン・ブックス、2007年)
- プラウトゥス『黄金の壷その他』(ペンギン・ブックス、2004年)
- リッチリン、エイミー『ローマと神秘的な東方:プラウトゥスによる三つの劇』(カリフォルニア大学出版局、2005年)
8. 関連項目
- 演劇の歴史
- メナンダー
- モリエール
- ラテン語の韻律
- 第二次ポエニ戦争
- ウィリアム・シェイクスピア
- プブリウス・テレンティウス・アフェル
- 古代ローマの演劇