1. 概要
スウェーデンの著名な天文学者であるベルティル・リンドブラッド(Bertil Lindbladスウェーデン語、1895年11月26日 - 1965年6月25日)は、銀河系の回転メカニズム解明に決定的な貢献をしたことで知られている。彼は恒星の観測を通じて、我々の銀河系が回転していることを初めて明確な証拠とともに示し、その構造と力学に関する理解を深めた。また、恒星分類やスペクトル研究、そして「リンドブラッド共鳴」として彼の名が冠された現象の発見など、多岐にわたる業績を残した。スウェーデン王立科学アカデミーの教授およびストックホルム天文台の台長を務め、国際天文学連合の会長やノーベル財団の評議員長など、科学界の要職を歴任した。彼の研究は、その後の天文学、特に銀河研究の進展に大きな影響を与えた。
2. 生涯
ベルティル・リンドブラッドの生涯は、スウェーデンにおける学術と科学の発展に深く関わっていた。
2.1. 出生と初期の人生
ベルティル・リンドブラッドは、1895年11月26日にスウェーデンのエレブルー(Örebroスウェーデン語)で生まれた。彼の息子であるペル・オーロフ・リンドブラッドもまた天文学者となった。
2.2. 教育
リンドブラッドは、エレブルー高等普通学校(Örebro högre allmänna läroverkスウェーデン語)で中等教育を修了した後、1914年にウプサラ大学に入学した。彼は1917年に哲学修士(filosofie magisterスウェーデン語)の学位を、1918年に哲学准博士(filosofie licentiatスウェーデン語)の学位を取得した。そして、1920年には博士号を取得し、同大学の助教授(docentスウェーデン語)となった。
2.3. 経歴
1927年から、リンドブラッドはスウェーデン王立科学アカデミーの教授およびストックホルム天文台の台長を務めた。台長としての職務において、彼はストックホルム中心部の旧天文台から、サルツィヨーバーデン(Saltsjöbadenスウェーデン語)に新設されたサルツィヨーバーデン天文台への移転事業を監督し、この新施設は1931年に開所した。
3. 主要な研究と業績
リンドブラッドは、天文学の分野において数々の重要な科学的貢献と発見を行い、後世に大きな影響を与えた。
3.1. 銀河回転理論
リンドブラッドの最も重要な業績は、銀河系の回転理論に関する研究である。彼は恒星の見かけの運動を注意深く観測することで、天の川銀河の回転を研究した。彼は、太陽が位置する銀河系外縁部の恒星の回転速度が、銀河系中心からの距離とともに減少するという結論を導き出した。この推論は、1926年に彼が宇宙空間における恒星の二方向への動きを銀河系の自転効果として説明したことで、天の川銀河が回転しているという明確な証拠を初めて提示したものである。この発見は、ハーロー・シャプレーによる銀河系における太陽の位置の予測を裏付けるものであり、1927年にはオランダのヤン・オールトによってこの理論が証明され、さらに明確なものとされた。
3.2. 恒星分類とスペクトル研究
リンドブラッドは、恒星の特性に関する研究も行った。彼はスペクトル分析を用いて、巨星と主系列星を区別する方法を確立するなど、恒星の分類と理解に貢献した。
3.3. リンドブラッド共鳴
リンドブラッドの研究は、回転する恒星やガスの降着円盤に見られる特定の共鳴現象に彼の名前が冠されるきっかけとなった。これらの現象は「リンドブラッド共鳴」と呼ばれ、銀河の渦巻腕の形成など、銀河の構造と力学を理解する上で重要な概念となっている。
4. 受賞および栄誉
リンドブラッドは、その卓越した科学的業績に対し、数多くの賞を受賞し、彼の名を冠した天体も存在する。
4.1. 主な受賞歴
彼は以下の主要な科学賞を受賞している。
- ヤンセン・メダル(フランス科学アカデミーより、1938年)
- ジュール・ジャンサン賞(フランス天文学会の最高賞、1949年)
- 王立天文学会ゴールドメダル(1948年)
- ブルース・メダル(1954年) [http://www.phys-astro.sonoma.edu/brucemedalists/Lindblad/ ブルースメダルの受賞者紹介(英文)]
4.2. 顕彰と命名
彼の功績を称え、以下の天体や記念物が命名されている。
- 月のクレーター:リンドブラッド・クレーター(Lindblad (crater)英語)
- 小惑星:(1448) リンドブラディア(1448 Lindbladia英語)
5. 影響
リンドブラッドの銀河回転理論は、その後の天文学、特に銀河研究に計り知れない影響を与えた。彼の研究は、天の川銀河の構造と力学に関する現代的な理解の基礎を築いた。彼が提示した銀河回転の明確な証拠と、銀河系中心からの距離に応じた回転速度の変化という概念は、ヤン・オールトによるさらなる研究の出発点となり、銀河の差動回転の発見へとつながった。また、リンドブラッド共鳴の概念は、渦巻銀河の渦巻腕の形成メカニズムを説明する上で不可欠な要素となり、銀河の進化モデルの構築に貢献した。彼の業績は、天文学史における画期的な進歩として位置づけられている。
6. 科学界での活動と役職
リンドブラッドは、自身の研究活動に加えて、国際的な科学界においても指導的な役割を果たした。彼は1948年から1952年まで国際天文学連合(IAU)の会長を務め、世界の天文学研究の連携と発展に貢献した。また、1965年にはノーベル財団の評議員長という要職も務めたが、これは短期間であった。これらの役職を通じて、彼は科学政策の形成や研究資金の配分など、広範な科学コミュニティに影響を与えた。