1. 幼少期とキャリア初期
マルティン・ヤルヴェオヤは、エストニアの政治家であるトーマス・ヤルヴェオヤの息子として生まれた。幼少期からモータースポーツの世界に足を踏み入れる前に、彼は柔道でその才能を発揮した。
1.1. 柔道選手としての経歴
ヤルヴェオヤは20年以上にわたる柔道の経験を持ち、その間にエストニア選手権で5度のチャンピオンに輝くという輝かしい実績を残した。柔道で培われた規律と集中力は、後のラリーキャリアにおいて彼を支える重要な要素となった。
1.2. ラリー競技への参入と初期活動
2006年、ヤルヴェオヤはラリー競技にコ・ドライバーとして参入した。キャリアの初期には、いとこのケン・ヤルヴェオヤや叔父のタルモ・ヤルヴェオヤといった親戚のドライバーとコンビを組み、地域の選手権や国内選手権で経験を積んだ。
2010年、ヤルヴェオヤはカール・クルーダのコ・ドライバーとしてヨルダン・ラリーでワールドラリー選手権(WRC)デビューを果たした。当初はプライベート参戦であったが、着実に経験を重ねた。2014年にはWRC-2に参戦し、ラリー・フィンランドとラリー・スウェーデンで優勝を飾り、年間ランキング5位という好成績を収めた。
2. 世界ラリー選手権 (WRC) でのキャリア
ヤルヴェオヤのワールドラリー選手権におけるキャリアは、オィット・タナックとのパートナーシップによって飛躍的に発展した。

2.1. オィット・タナックとのパートナーシップ
2016年12月、ヤルヴェオヤはMスポーツと契約を締結し、当時DMACK・ワールドラリーチームに所属していたオィット・タナックとの新たなパートナーシップを結んだ。このコンビはすぐに結果を出し、2017年のラリー・イタリア・サルディニアでWRC初優勝を飾った。
2018年からは、ヤルヴェオヤとタナックはトヨタ・ガズー・レーシングWRTに移籍し、その後ヒュンダイ・モータースポーツへと活躍の場を移した。彼らの関係は現在も良好であり、世界ラリー選手権における強力なコンビとして知られている。
2.2. チャンピオンシップ優勝と主要な勝利
ヤルヴェオヤとタナックのコンビは、2019年のワールドラリー選手権でその実力を最大限に発揮した。この年、彼らはラリー・スウェーデン、ラリー・チリ、ラリー・デ・ポルトガル、ラリー・フィンランド、ラリー・ドイチュラント、ウェールズ・ラリーGBといった複数のラリーで優勝を飾った。そして、ラリー・カタルーニャでは最終戦を残してドライバーズ/コ・ドライバーズチャンピオンの座を獲得し、その年を世界王者として終えた。
彼らのワールドラリー選手権における勝利は、2017年の初優勝以来、以下の通りである。
# | イベント | シーズン | ドライバー | 車両 |
---|---|---|---|---|
1 | 2017年ラリー・イタリア・サルディニア | 2017 | オィット・タナック | フォード・フィエスタWRC |
2 | 2017年ラリー・ドイチュラント | 2017 | オィット・タナック | フォード・フィエスタWRC |
3 | 2018年ラリー・アルゼンチン | 2018 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
4 | 2018年ラリー・フィンランド | 2018 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
5 | 2018年ラリー・ドイチュラント | 2018 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
6 | 2018年ラリー・トルコ | 2018 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
7 | 2019年ラリー・スウェーデン | 2019 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
8 | 2019年ラリー・チリ | 2019 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
9 | 2019年ラリー・デ・ポルトガル | 2019 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
10 | 2019年ラリー・フィンランド | 2019 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
11 | 2019年ラリー・ドイチュラント | 2019 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
12 | 2019年ウェールズ・ラリーGB | 2019 | オィット・タナック | トヨタ・ヤリスWRC |
13 | 2020年ラリー・エストニア | 2020 | オィット・タナック | ヒュンダイ・i20クーペWRC |
14 | アークティック・ラリー | 2021 | オィット・タナック | ヒュンダイ・i20クーペWRC |
15 | 2022年ラリー・イタリア・サルディニア | 2022 | オィット・タナック | ヒュンダイ・i20 N ラリー1 |
16 | 2022年ラリー・フィンランド | 2022 | オィット・タナック | ヒュンダイ・i20 N ラリー1 |
17 | 2022年イープル・ラリー | 2022 | オィット・タナック | ヒュンダイ・i20 N ラリー1 |
18 | 2023年ラリー・スウェーデン | 2023 | オィット・タナック | フォード・プーマ・ラリー1 |
19 | 2023年ラリー・チリ | 2023 | オィット・タナック | フォード・プーマ・ラリー1 |
20 | 2024年ラリー・イタリア・サルディニア | 2024 | オィット・タナック | ヒュンダイ・i20 N ラリー1 |
3. 競技記録と統計
マルティン・ヤルヴェオヤのラリーキャリア全般にわたる詳細な競技結果を以下に示す。
3.1. WRCシーズン別成績
ワールドラリー選手権における彼の年ごとの成績、獲得ポイント、および所属チームでの活動を要約する。
年 | エントラント | 車両 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | WDC | ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2010 | ワールドラリーチームエストニア | スズキ・スイフトS1600 | SWE | MEX | JOR 22 | TUR 31 | NZL | POR 27 | BUL 18 | FIN | GER 30 | JPN | FRA | NC | 0 | |||
ホンダ・シビックタイプR R3 | ESP 28 | |||||||||||||||||
カール・クルーダ | スズキ・スイフトS1600 | GBR Ret | ||||||||||||||||
2011 | ME3ラリーチーム | シュコダ・ファビアS2000 | SWE | MEX 15 | POR 13 | JOR 11 | ITA 21 | ARG | GRE 23 | FIN 27 | GER 22 | AUS | FRA | ESP 28 | NC | 0 | ||
カール・クルーダ | フォード・フィエスタS2000 | GBR 28 | ||||||||||||||||
2012 | カール・クルーダ | フォード・フィエスタS2000 | MON | SWE | MEX | POR | ARG | GRE | NZL | FIN 12 | GBR 21 | FRA | ITA Ret | ESP 23 | NC | 0 | ||
シュコダ・ファビアS2000 | GER Ret | |||||||||||||||||
2013 | MMモータースポーツ | フォード・フィエスタR5 | MON | SWE | MEX | POR | ARG | GRE | ITA | FIN Ret | GER 18 | AUS | FRA | ESP | GBR | NC | 0 | |
2014 | プリンツスポーツ | フォード・フィエスタS2000 | MON | SWE 11 | MEX | POR 12 | ARG | FIN 10 | GER | AUS | FRA | ESP 24 | GBR 16 | 28位 | 1 | |||
タガイ・レーシング・テクノロジー | プジョー・208 T16 | ITA 15 | POL Ret | |||||||||||||||
2015 | ME3ラリーチーム | シトロエン・DS3 R5 | MON | SWE | MEX | ARG | POR 26 | ITA Ret | POL 14 | FIN | GER | AUS | FRA | ESP | GBR | NC | 0 | |
2016 | ドライブDMACKトロフィーチーム | フォード・フィエスタR5 | MON | SWE | MEX | ARG | POR Ret | ITA 11 | POL 23 | FIN Ret | GER | CHN C | FRA | ESP | GBR | AUS | NC | 0 |
2017 | MスポーツWRT | フォード・フィエスタWRC | MON 3 | SWE 2 | MEX 4 | FRA 11 | ARG 3 | POR 4 | ITA 1 | POL Ret | FIN 7 | GER 1 | ESP 3 | GBR 6 | AUS 2 | 3位 | 191 | |
2018 | トヨタ・ガズー・レーシングWRT | トヨタ・ヤリスWRC | MON 2 | SWE 9 | MEX 14 | FRA 2 | ARG 1 | POR Ret | ITA 9 | FIN 1 | GER 1 | TUR 1 | GBR 19 | ESP 6 | AUS Ret | 3位 | 181 | |
2019 | トヨタ・ガズー・レーシングWRT | トヨタ・ヤリスWRC | MON 3 | SWE 1 | MEX 2 | FRA 6 | ARG 8 | CHL 1 | POR 1 | ITA 5 | FIN 1 | GER 1 | TUR 16 | GBR 1 | ESP 2 | AUS C | 1位 | 263 |
2020 | ヒュンダイ・シェル・モビスWRT | ヒュンダイ・i20クーペWRC | MON Ret | SWE 2 | MEX 2 | EST 1 | TUR 17 | ITA 6 | MNZ 2 | 3位 | 105 | |||||||
2021 | ヒュンダイ・シェル・モビスWRT | ヒュンダイ・i20クーペWRC | MON Ret | ARC 1 | CRO 4 | POR 21 | ITA 24 | KEN 3 | EST 31 | BEL 6 | GRE 2 | FIN 2 | ESP Ret | MNZ | 5位 | 128 | ||
2022 | ヒュンダイ・シェル・モビスWRT | ヒュンダイ・i20 N ラリー1 | MON Ret | SWE 20 | CRO 2 | POR 6 | ITA 1 | KEN Ret | EST 3 | FIN 1 | BEL 1 | GRE 2 | NZL 3 | ESP 4 | JPN 2 | 2位 | 205 | |
2023 | Mスポーツ・フォードWRT | フォード・プーマ・ラリー1 | MON 5 | SWE 1 | MEX 9 | CRO 2 | POR 4 | ITA 35 | KEN 6 | EST 9 | FIN Ret | GRE 4 | CHL 1 | EUR 3 | JPN 6 | 4位 | 174 | |
2024 | ヒュンダイ・シェル・モビスWRT | ヒュンダイ・i20 N ラリー1 | MON 4 | SWE 41 | KEN 8 | CRO 4 | POR 2 | ITA 1 | POL 40 | LAT 3 | FIN Ret | GRE 3 | CHL 3 | EUR 1 | JPN Ret | 3位 | 200 |
3.2. 各ラリーシリーズでの詳細成績
WRC-2、JWRC、SWRCといった様々なラリーシリーズにおける詳細な競技結果および順位を示す。
3.2.1. WRC-2成績
年 | エントラント | 車両 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | WDC | ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2013 | MMモータースポーツ | フォード・フィエスタR5 | MON | SWE | MEX | POR | ARG | GRE | ITA | FIN Ret | GER 5 | AUS | FRA | ESP | GBR | 29位 | 10 | |
2014 | プリンツスポーツ | フォード・フィエスタS2000 | MON | SWE 1 | MEX | POR 4 | ARG | FIN 1 | GER | AUS | FRA | ESP 7 | GBR 5 | 5位 | 90 | |||
タガイ・レーシング・テクノロジー | プジョー・208 T16 | ITA 4 | POL Ret | |||||||||||||||
2015 | ME3ラリーチーム | シトロエン・DS3 R5 | MON | SWE | MEX | ARG | POR 11 | ITA Ret | POL 3 | FIN | GER | AUS | FRA | ESP | GBR | 25位 | 15 | |
2016 | ドライブDMACKトロフィーチーム | フォード・フィエスタR5 | MON | SWE | MEX | ARG | POR Ret | ITA 3 | POL 10 | FIN Ret | GER | CHN C | FRA | ESP | GBR | AUS | 18位 | 16 |
3.2.2. JWRC成績
年 | エントラント | 車両 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | WDC | ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2010 | ワールドラリーチームエストニア | スズキ・スイフトS1600 | TUR 6 | POR 2 | BUL 5 | GER 3 | FRA | 4位 | 59 | |
ホンダ・シビックタイプR R3 | ESP 6 |
3.2.3. SWRC成績
年 | エントラント | 車両 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | WDC | ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2011 | ME3ラリーチーム | シュコダ・ファビアS2000 | MEX 4 | JOR 2 | ITA 6 | GRE 8 | FIN 7 | GER 5 | FRA | ESP 7 | 6位 | 64 |
4. 人物
マルティン・ヤルヴェオヤは、私生活において日本の元大関である把瑠都と親交があることでも知られている。彼の趣味や人間関係は、競技以外の側面でも多様な繋がりを持っていることを示している。
5. 受賞歴と栄誉
マルティン・ヤルヴェオヤは、そのキャリアを通じて数々の栄誉に輝いている。2020年には、パートナーであるオィット・タナックと共にエストニア年間最優秀アスリートに選出され、その功績が国から認められた。この賞は、エストニアにおけるスポーツ界の最高峰の栄誉の一つとされている。
6. 外部リンク
- [http://wrc.com/en/wrc/drivers/co-drivers/co-driver/martin--j%C3%A4rveoja/page/893-94-893--.html?h=2017/drivers/6264 WRC.comでのプロフィール]
- [http://ewrc-results.com/coprofile/10878-martin-jarveoja/ eWRC-results.comでのプロフィール]
- [https://www.instagram.com/martinjarveoja/ マルティン・ヤルヴェオヤ 公式Instagram]