1. 幼少期と背景
ラロンデ・ゴードンは1988年にトリニダード・トバゴで生まれ、幼少期にアメリカへ移住し、その後陸上競技を再開した。彼の名前は著名なボクサーに由来する。
1.1. 生い立ち
ラロンデ・ゴードンは1988年11月25日にトリニダード・トバゴのトバゴ島にあるロウランズで生まれた。7歳の時に家族と共にアメリカのニューヨーク市へ移住した。幼少の頃から陸上競技に取り組んでいたが、2003年頃に10代で一時的に競技を中断した。その後、モホーク・バレー・コミュニティ・カレッジ在学中の2009年に、大学を代表して競技に臨むことを目指し、本格的に陸上競技のトレーニングを再開した。当初は200mと400mに出場していたが、400mには当初苦手意識を持っていたものの、最終的にこの種目に集中することを選択した。モホーク・バレー・コミュニティ・カレッジを卒業後、モーガン州立大学に進学し、同大学の代表として競技を続けた。
1.2. 名前の由来
彼の「ラロンデ」という名前は、カナダのプロボクサーで元WBC世界ライトヘビー級王者のドニー・ラロンドにちなんで名付けられた。ドニー・ラロンドは、ラロンデ・ゴードンが生まれる数ヶ月前の1988年5月29日、トリニダードのポートオブスペインで行われた試合で、トリニダード人ボクサーのレスリー・スチュワートを破っている。
2. 競技キャリア
ラロンデ・ゴードンの競技キャリアは、2009年の陸上競技再開から始まり、オリンピックや世界選手権でのメダル獲得、そしてトリニダード・トバゴの国内記録更新へと発展していった。
2.1. 陸上競技への再開と初期
2009年にモホーク・バレー・コミュニティ・カレッジで陸上競技のトレーニングを本格的に再開したラロンデ・ゴードンは、当初200mと400mの選手として競技活動を始めた。その後、彼は400mに主軸を置くようになった。モホーク・バレー・コミュニティ・カレッジを卒業後、モーガン州立大学に進学し、ここでも競技を継続した。
2.2. 2010年 - 2011年シーズン
2010年、ゴードンは国内選手権に出場し、200mで20秒96、400mで47秒を切る記録を出し、400mではズウェデ・ヒューイットに次ぐ2位となった。同年7月には中央アメリカ・カリブ海競技大会の男子4x400mリレーにズウェデ・ヒューイットと共に参加し、銅メダルを獲得した。さらにコモンウェルスゲームズでは個人種目として400mに出場し、自己ベストとなる46秒33を記録して準決勝に進出した。
翌2011年シーズンには、ラバト国際陸上競技大会で初めて海外大会での優勝を果たし、ウィリアム・コラゾを僅差で破って自己ベストを45秒51に更新した。2011年中央アメリカ・カリブ海選手権では400mの決勝に進出し、リレーでは銀メダルを獲得した。この年、彼は国内選手権ではより短い距離の短距離走に焦点を当て、200mで3位、4x100mリレーで優勝を飾った。
2.3. 2012年シーズン:オリンピックでの躍進
2012年シーズンは室内競技で好調なスタートを切り、ニューヨークで開催されたニューバランスゲームズの400mで、当時世界最高の記録となる46秒43をマークして優勝した。同年3月のイスタンブール世界室内選手権では、男子400mの予選でレーン侵害により失格となった。しかし、レニー・クオ、ジェリーム・リチャーズ、ジャリン・ソロモンらと共に構成された男子4x400mリレーチームでは1走を務め、決勝で当時の室内トリニダード・トバゴ新記録となる3分06秒85を樹立し、アメリカとイギリスに次いで銅メダルを獲得した。これにより、トリニダード・トバゴは1993年以来19年ぶり、史上2度目の世界室内選手権4x400mリレーでのメダル獲得を果たした。全種目を通じても、トリニダード・トバゴが世界室内選手権でメダルを獲得したのは、これが史上3つ目の快挙であった。
屋外シーズンに入ると、ニューヨークの「ロード・トゥ・ロンドン」シリーズ大会で3つの自己ベストを更新した。5月には100mで10秒45、200mで20秒62を記録し、6月には400mで45秒33をマークして優勝した。同年開催された国内選手権では、ディフェンディングチャンピオンであったレニー・クオを400mで破り優勝を飾り、さらに4x400mリレーでは3分00秒45という新たな国内記録の樹立に貢献した。
ゴードンは当初、オリンピックの400m個人種目における「A標準」記録を達成していなかったため、リレー種目での代表に選出されていた。しかし、彼の母親が飛行機代を支払い、7月にオマハで開催された全米クラブ選手権に出場。そこで45秒02を記録して優勝し、見事に「A標準」を突破した。この結果を受け、彼は2012年ロンドンオリンピックへの準備のためイギリスに向かった。
ロンドンオリンピックでは、準決勝で予想を上回る自己ベストの44秒58を記録し、最速の予選通過タイムでメダル候補としての存在感を示した。決勝ではその記録をさらに更新する44秒52で銅メダルを獲得。これにより、ウェンデル・モトリーが1964年に銀メダルを獲得して以来、48年ぶりにトリニダード・トバゴの選手として2人目の400mオリンピックメダリストとなった。この活躍に勢いづいた彼は、リレーチームのメンバーを鼓舞し、ジャリン・ソロモン、エイド・アレイン=フォート、ディオン・レンドレと共に4x400mリレーの予選で3分00秒38の国内新記録を樹立して決勝に進出した。決勝ではさらに速い2分59秒40を記録し、イギリスを抑えて銅メダルを獲得した。これにより、1964年東京オリンピック以来、48年ぶり史上2度目となるトリニダード・トバゴの4x400mリレーチームによるオリンピックメダル獲得に貢献した。
2.4. 2013年 - 2014年シーズン
2013年8月のモスクワ世界選手権で自身初の世界選手権に出場した。この大会の約2ヶ月前に20秒26の自己ベストを記録していた200mでは準決勝で敗退した。男子4x400mリレーでは2走を務め、6位という成績を収めた。これは2005年ヘルシンキ大会での決勝失格を塗り替える、当時のトリニダード・トバゴにおける4x400mリレーの最高成績となった。
2014年3月にはソポト世界室内選手権の400mに出場し、5位入賞を果たした。同年5月には世界リレーの男子4x400mリレーで1走を務め、2分58秒43のトリニダード・トバゴ新記録樹立に貢献し、銅メダルを獲得した。同年開催されたコモンウェルスゲームズでは、400mで自己ベストを更新し、個人種目の400mと4x400mリレーの両方で銅メダルを獲得した。
2.5. 2015年シーズン:世界選手権銀メダル
2015年7月15日、リエージュ国際の男子300mで32秒21を記録し、1992年にイアン・モリスが樹立した32秒27のトリニダード・トバゴ記録を0秒06更新した。同年8月の北京世界選手権では、男子400mで準決勝に進出し44秒70を記録したが、組4着(全体9位)に終わり、全体8位の選手とは0秒06差で決勝進出を逃した。しかし、男子4x400mリレーでは予選でアンカー、決勝で2走を務め、1走レニー・クオ、3走ディオン・レンドレ、4走マシェル・セデニオと共に、2分58秒20という新たなトリニダード・トバゴ新記録を樹立し、2位でフィニッシュした。これは、世界選手権におけるトリニダード・トバゴの4x400mリレーチームとして史上初のメダルとなる銀メダル獲得に貢献した。
2.6. 2016年シーズン
2016年3月のポートランド世界室内選手権では、男子400mで前回大会に続きファイナリストとなったものの、47秒62で6位に終わった。男子4x400mリレーでは決勝のみに出場し2走を務め、ジャリン・ソロモン、エイド・アレイン=フォート、ディオン・レンドレらと共に3分05秒51の室内トリニダード・トバゴ新記録を樹立し、銅メダル獲得に貢献した。
同年8月のリオデジャネイロオリンピックには、前回大会の銅メダリストとして男子400mと4x400mリレーに臨んだ。400mでは準決勝で敗退し、決勝に進むことはできなかった。4x400mリレーでは予選で2走を務め、ジャリン・ソロモン、ディオン・レンドレ、マシェル・セデニオらと共に2分58秒84を記録して組3着に入り、予選を突破したかに見えた。しかし、1走と2走のバトンパスの際にレーン侵害があったとして失格となった。
2.7. 2017年シーズン:世界選手権金メダル
2017年2月4日、アーモリートラック招待の男子300mで32秒37の室内中央アメリカ・カリブ海新記録を樹立し、自身の持つ記録を2年ぶりに0秒10更新した。さらに同年7月19日のリエージュ国際男子300mでは31秒92を記録し、自身の持つトリニダード・トバゴ記録を2年ぶりに0秒29更新した。
同年8月のロンドン世界選手権では、男子400mは前回大会に続き準決勝で敗退した。しかし、男子4x400mリレーでは予選と決勝でアンカーを務め、決勝ではジャリン・ソロモン、ジェリーム・リチャーズ、マシェル・セデニオらと共に、大会7連覇がかかっていたアメリカとほぼ同タイムでバトンを受け取った。ゴードンは2位を保ったままホームストレートへ進み、最後はアメリカのアンカーであるフレッド・カーリーを抜き去り、2分58秒12のトリニダード・トバゴ新記録を樹立して1位でフィニッシュした。これにより、4x400mリレーにおいてオリンピックおよび世界選手権を含め、トリニダード・トバゴ史上初の金メダル獲得という歴史的快挙に貢献した。
2.8. 2018年シーズン
2018年3月のバーミンガム世界室内選手権では、男子4x400mリレーでアンカーを務め、3分02秒52の室内トリニダード・トバゴ記録を樹立し、4位に入賞した。同年4月にはコモンウェルスゲームズに出場し、400mでは予選敗退となった。4x400mリレーでは予選に出場し、決勝進出に貢献したが、ゴードン自身は決勝には出場しなかった(決勝でトリニダード・トバゴは3分02秒85で4位に入賞した)。
3. 自己ベスト
ラロンデ・ゴードンの屋外および室内における主要な短距離種目の自己ベスト記録は以下の通りである。
種目 | 記録 | 年月日 | 場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|
屋外 | ||||
100m | 10秒45 | 2012年5月12日 | {{Map:title=ニューヨーク|q=ニューヨーク|position=left}} | |
200m | 20秒26 | 2013年6月23日 | {{Map:title=ポートオブスペイン|q=ポートオブスペイン|position=left}} | |
300m | 31秒92 | 2017年7月19日 | {{Map:title=リエージュ|q=リエージュ|position=left}} | トリニダード・トバゴ記録 |
400m | 44秒52 | 2012年8月6日 | {{Map:title=ロンドン|q=ロンドン|position=left}} | |
室内 | ||||
200m | 20秒49 | 2017年1月28日 | {{Map:title=ボストン|q=ボストン|position=left}} | |
300m | 32秒37 | 2017年2月4日 | {{Map:title=ニューヨーク|q=ニューヨーク|position=left}} | 元室内トリニダード・トバゴ記録 |
400m | 45秒17 | 2014年2月8日 | {{Map:title=ボストン|q=ボストン|position=left}} | 室内トリニダード・トバゴ歴代2位 |
4. 主要大会成績
ラロンデ・ゴードンのキャリアにおける主要な国際大会での結果を以下の表に示す。記録欄の記録は当時のものを示す。
年 | 大会 | 場所 | 種目 | 結果 | 記録 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
2010 | 中米カリブ競技大会 | {{Map:title=マヤグエス|q=マヤグエス|position=left}} | 4x400mリレー | 3位 | 3分04秒07 | 2走 |
コモンウェルスゲームズ | {{Map:title=デリー|q=デリー|position=left}} | 400m | 準決勝 | 46秒33 | ||
2011 | 中央アメリカ・カリブ海選手権 | {{Map:title=マヤグエス|q=マヤグエス|position=left}} | 400m | 決勝 | DNF | 途中棄権 |
4x400mリレー | 2位 | 3分01秒65 | 1走 | |||
2012 | 世界室内選手権 | {{Map:title=イスタンブール|q=イスタンブール|position=left}} | 400m | 予選 | DQ | レーン侵害 |
4x400mリレー | 3位 | 3分06秒85 | 1走、室内トリニダード・トバゴ記録 | |||
オリンピック | {{Map:title=ロンドン|q=ロンドン|position=left}} | 400m | 3位 | 44秒52 | 自己ベスト | |
4x400mリレー | 3位 | 2分59秒40 | 1走、トリニダード・トバゴ記録 | |||
2013 | 中央アメリカ・カリブ海選手権 | {{Map:title=モレリア|q=モレリア|position=left}} | 200m | 2位 | 20秒28 | |
世界選手権 | {{Map:title=モスクワ|q=モスクワ|position=left}} | 200m | 準決勝 | 21秒14 | ||
4x400mリレー | 6位 | 3分01秒74 | 2走 | |||
2014 | 世界室内選手権 | {{Map:title=ソポト|q=ソポト|position=left}} | 400m | 5位 | 46秒39 | |
世界リレー | {{Map:title=ナッソー|q=ナッソー|position=left}} | 4x400mリレー | 3位 | 2分58秒43 | 1走、トリニダード・トバゴ記録 | |
コモンウェルスゲームズ | {{Map:title=グラスゴー|q=グラスゴー|position=left}} | 400m | 3位 | 44秒78 | ||
4x400mリレー | 3位 | 3分01秒51 | 1走 | |||
2015 | 世界リレー | {{Map:title=ナッソー|q=ナッソー|position=left}} | 4x400mリレー | 7位 | 3分03秒10 | 1走 |
北中米カリブ選手権 | {{Map:title=サンホセ|q=サンホセ (コスタリカ)|position=left}} | 400m | 優勝 | 44秒89 | ||
世界選手権 | {{Map:title=北京|q=北京|position=left}} | 400m | 準決勝 | 44秒70 | ||
4x400mリレー | 2位 | 2分58秒20 | 2走、トリニダード・トバゴ記録 | |||
2016 | 世界室内選手権 | {{Map:title=ポートランド|q=ポートランド (オレゴン州)|position=left}} | 400m | 6位 | 47秒62 | |
4x400mリレー | 3位 | 3分05秒51 | 2走、室内トリニダード・トバゴ記録 | |||
オリンピック | {{Map:title=リオデジャネイロ|q=リオデジャネイロ|position=left}} | 400m | 準決勝 | 45秒13 | ||
4x400mリレー | 予選 | DQ | 2走、レーン侵害 | |||
2017 | 世界リレー | {{Map:title=ナッソー|q=ナッソー|position=left}} | 4x400mリレー | 4位 | 3分03秒17 | 4走 |
世界選手権 | {{Map:title=ロンドン|q=ロンドン|position=left}} | 400m | 準決勝 | 45秒20 | ||
4x400mリレー | 優勝 | 2分58秒12 | 4走、トリニダード・トバゴ記録 | |||
2018 | 世界室内選手権 | {{Map:title=バーミンガム|q=バーミンガム|position=left}} | 4x400mリレー | 4位 | 3分02秒52 | 4走、室内トリニダード・トバゴ記録 |
コモンウェルスゲームズ | {{Map:title=ゴールドコースト|q=ゴールドコースト (クイーンズランド州)|position=left}} | 400m | 予選 | 49秒07 | ||
4x400mリレー | 予選 | 3分05秒84 | 3走、決勝進出(予選のみ出場。決勝のトリニダード・トバゴは4位) |
5. 評価と影響
ラロンデ・ゴードンは、トリニダード・トバゴの陸上競技界において、その記録更新と歴史的快挙を通じて多大な影響を与えた選手として評価されている。彼の功績は、国内記録の書き換えに留まらず、国際舞台におけるトリニダード・トバゴの存在感を大きく高めることにつながった。
5.1. 国内記録への貢献
ラロンデ・ゴードンは、キャリアを通じてトリニダード・トバゴの複数の国内記録を樹立または更新することに貢献した。
- 男子300mでは、2015年7月15日に32秒21を記録し、1992年にイアン・モリスが樹立した32秒27の記録を更新。さらに2017年7月19日には31秒92を記録し、自身の記録をさらに短縮した。
- 室内300mでも、2017年2月4日に32秒37を記録し、当時の室内中央アメリカ・カリブ海新記録を樹立した。
- 4x400mリレーにおいては、屋外では2012年ロンドンオリンピック予選での3分00秒38、決勝での2分59秒40、2014年世界リレーでの2分58秒43、そして2015年世界選手権での2分58秒20、2017年世界選手権での2分58秒12と、度々国内記録を更新する主要メンバーであった。
- 室内4x400mリレーでは、2012年世界室内選手権での3分06秒85、2016年世界室内選手権での3分05秒51、2018年世界室内選手権での3分02秒52と、こちらも継続的に国内記録を更新する重要な役割を担った。
また、男子400m室内では45秒17という記録を持ち、これは室内トリニダード・トバゴ歴代2位の記録である。
5.2. 国内陸上競技における歴史的意義
ラロンデ・ゴードンの功績は、単なる記録の更新にとどまらない。彼はトリニダード・トバゴの陸上競技史において、いくつかの重要な「初」や「節目」をもたらした。
- 2012年ロンドンオリンピック男子400mでの銅メダルは、ウェンデル・モトリーが1964年東京オリンピックで銀メダルを獲得して以来、48年ぶりとなるトリニダード・トバゴ人選手によるこの種目でのオリンピックメダル獲得であり、史上2人目の快挙であった。
- 同大会の4x400mリレーでの銅メダルも、1964年東京オリンピックでの銅メダル以来、48年ぶり史上2度目となるトリニダード・トバゴのリレーチームによるオリンピックメダル獲得であった。
- 2017年ロンドン世界選手権での4x400mリレーにおける金メダルは、オリンピックおよび世界選手権を通じて、トリニダード・トバゴの4x400mリレーチームとして史上初の金メダル獲得という歴史的偉業であった。この勝利は、陸上強国であるアメリカを破っての優勝であり、国際的な評価を大きく高めた。
これらの功績は、トリニダード・トバゴの陸上競技界に大きな自信と希望をもたらし、次世代の選手たちにとっても大きなインスピレーションとなった。彼の活躍は、祖国のスポーツ文化の発展と国民の誇りの醸成に大きく貢献したと言える。