1. 名前と系譜
二代目中村七之助は、本名を波野 隆行なみの たかゆき日本語といい、歌舞伎の屋号である中村屋一門に属する歌舞伎役者である。現在の歌舞伎名跡「中村七之助」の当代にあたる。
彼の家系は歌舞伎の世界において少なくとも7代前まで遡ることができ、19世紀初頭に活躍した三代目尾上菊五郎や十一代目市村羽左衛門の血を引いている。父は十八代目中村勘三郎(当時は五代目中村勘九郎)、母は七代目中村芝翫の娘である波野好江。兄は六代目中村勘九郎で、義姉には女優の前田愛がいる。また、伯母には女優の波乃久里子がおり、父方の母方の曽祖父は六代目尾上菊五郎である。七代目尾上梅幸や二代目尾上九朗右衛門、二代目大川橋蔵は父方の大伯父にあたる。七代目尾上菊五郎、七代目清元延寿太夫、丹羽貞仁は父(および伯母)の従兄弟であり、寺島しのぶ、五代目尾上菊之助、二代目尾上右近は父方の母方の再従兄弟にあたる(お互いの祖父母同士が兄弟のため)。母方の叔父には八代目中村芝翫が、従弟には六代目中村児太郎がいる。
2. 生い立ちと教育
中村七之助は1983年(昭和58年)5月18日、東京都に、後の十八代目中村勘三郎となる五代目中村勘九郎の次男として誕生した。2歳年上の兄である六代目中村勘九郎とは幼少期から共に歌舞伎の舞台に立ち、その成長の様子はドキュメンタリー番組でも度々取り上げられてきた。
彼は文京区立第五中学校を卒業後、堀越高等学校に進学し、2002年3月に同校を卒業している。
3. 歌舞伎でのキャリア
中村七之助は、歌舞伎役者として幼少期からその才能を開花させ、幅広い役柄をこなすことで知られている。
3.1. 初舞台と初期の活動
1986年(昭和61年)9月、歌舞伎座での『檻』の祭りの子役で初お目見えを果たした。翌1987年(昭和62年)1月には、同じく歌舞伎座で上演された『門出二人桃太郎』の弟桃太郎役で二代目中村七之助を名乗り、正式に初舞台を踏んだ。この初舞台では、兄の勘太郎(現:六代目中村勘九郎)が兄桃太郎を演じ、二人の実の祖父である十七代目中村勘三郎が爺役、七代目中村芝翫が婆役を務めるという、家族総出の舞台となった。
初舞台に先立つ1986年には、様々なプロモーションイベントが行われた。4月23日には中村勘太郎・中村七之助初舞台記者会見が開催され、9月27日には岡山県岡山市の吉備津神社で舞台成功祈願と鳴釜神事が行われた。翌9月28日には香川県高松市の女木島(鬼ヶ島)を訪問し、鬼が住んでいたとされる洞窟を見学したほか、高松市役所を訪れ市長と面会した。10月21日には『門出二人桃太郎』の衣装を着用してPR用スチール撮影が行われ、10月24日には「猿若祭」として浅草寺仲見世でのお練りと懇親会が開催された。このお練りには、父方の祖父である十七代目中村勘三郎、母方の祖父である七代目中村芝翫、父である五代目中村勘九郎(当時)、伯父である二代目澤村藤十郎が幼い兄弟と共に参加した。12月3日にはフジテレビで初舞台挨拶廻りが行われ、12月8日には歌舞伎座劇場前で猿若祭初春大歌舞伎の切符前売り初日御挨拶が行われた。
若手歌舞伎役者として、彼は「21世紀で最も将来有望な若手歌舞伎役者の一人」と評されてきた。父や兄と共に、平成中村座の公演を通じて海外の様々な劇場でも歌舞伎を披露している。また、毎年浅草公会堂で行われる浅草歌舞伎にも出演しており、これは若い世代に歌舞伎への興味を促すことを目的とした公演である。1994年には現代劇『スカパン』にも出演した。

3.2. 主要な歌舞伎の役柄と演技
中村七之助は、歌舞伎役者として立役(男性役)と女方(女性役)の両方をこなす幅広い演技力を持つことで知られている。特に女方としては、ほっそりとした容姿と、やや寂しげで美しい風情が魅力と評されている。
4. 映画・テレビジョンでのキャリア
中村七之助は、歌舞伎の舞台に留まらず、映画やテレビドラマ、その他の放送番組でも幅広く活躍している。
4.1. 映画出演
中村七之助の映画デビュー作は、2003年公開のハリウッド映画『ラスト サムライ』であり、この作品で彼は明治天皇役を演じた。その後も、綿矢りさの小説を原作とした2004年の映画『インストール』ではコウイチ役を、2005年には漫画を原作とする不条理コメディ映画『真夜中の弥次さん喜多さん』で江戸時代の薬物中毒から回復中の喜多八役を演じ、その歌声も披露した。
その他の出演映画には、2008年の『シネマ歌舞伎 連獅子』、そして2013年公開のスタジオジブリのアニメーション映画『かぐや姫の物語』では御門の声を担当している。
4.2. テレビジョン出演
中村七之助は、数々のテレビドラマに出演しており、特にNHKの大河ドラマには複数回出演している。
- 1987年:NHK『ばら色の人生』
- 1988年:NHK大河ドラマ『武田信玄』 - 幼少期の武田義信(太郎)役
- 1992年 - 1994年:フジテレビ『金曜ドラマシアター』→『金曜エンタテイメント 旅は道連れ世は情けねェ!』 - 五十嵐亮太役
- 1995年1月2日:テレビ東京『豊臣秀吉 天下を獲る!』 - 竹千代役
- 1999年:NHK大河ドラマ『元禄繚乱』 - 大石主税役(父である十八代目中村勘三郎が大石内蔵助を演じ、親子で親子役を演じた)
- 2005年12月27日:日本テレビ年末大型時代劇『河井継之助~駆け抜けた蒼龍~』 - 鈴木虎太郎役
- 2010年9月17日:TBS金曜ドラマ『うぬぼれ刑事』最終話「赤い彗星」 - 桜市太郎役
- 2019年:NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』 - 三遊亭圓生役
- 2019年10月6日 - 10月27日:NHK BSプレミアム『令和元年版 怪談牡丹燈籠』 - 萩原新三郎役
- 2021年1月2日:NHK正月時代劇『ライジング若冲 天才 かく覚醒せり』 - 主演・伊藤若冲 / 桝屋源左衛門役(永山瑛太とのダブル主演)
- 2021年12月4日・11日:NHK BSプレミアム / NHK BS4K『忠臣蔵狂詩曲 No.5 中村仲蔵 出世階段』 - 瀬川錦次のちの初代 市川染五郎役
- 2023年2月4日:NHK総合『大河ドラマが生まれた日』 - 佐田啓二役
- 2023年:NHK大河ドラマ『どうする家康』 - 石田三成役
テレビのバラエティ番組では『さんまのSUPERからくりTV』に出演したほか、ドキュメンタリー番組では『アンテナ22』、『ボクらの時代』、『勘三郎が泣いた!勘太郎挙式&感動秘話~さよなら歌舞伎座SP』などに出演。2015年3月25日から2017年3月29日まではBS-TBSの『美しい日本に出会う旅』で旅人・語りを務めた。ラジオでは2021年4月からABCラジオの『Sky presents 中村七之助のラジのすけ』でMCを務めている。また、幼少期には兄と共にロッテの「チョコパイ」や「クレープアイス」のCMに出演し、2014年にはブラザー工業の「PRIVIO」、2016年にはリーブ21のCMで兄・勘九郎と共演している。
5. 人物
中村七之助の趣味はゲーム、カラオケ、スニーカー蒐集である。特にカラオケは非常に好きだと公言しており、映画『真夜中の弥次さん喜多さん』ではその歌声を披露している。
堀越高等学校在学中には、同級生に俳優の松本潤や松田龍平がおり、現在でも彼らとの交流が続いている。歌舞伎役者の中では、堀越高校で1学年下だった二代目尾上松也と親交が深く、カラオケ仲間の一人でもある。
2006年にテレビ番組『ウチくる!?』に出演した際には、叔父である九代目中村福助にまつわる逸話や、渡辺えりの現代劇に出演した際に父から「頼むぞ、お前がしっかりしないと俺が怒られるんだ」と半ば泣きつかれたエピソードなどを語った。
自身の性格については、「僕、割と冷静なんです。そのお役をやっているときはのめりこみますが、舞台から下りたらスッと自分に戻る。でも、兄(勘九郎)は役に入り込む。」と述べている。
彼は阪神タイガースの熱心なファンであることを度々公言しており、2022年6月19日には自身のラジオでアシスタントを務めるヒロド歩美と共にABCラジオの「ABCフレッシュアップベースボール~阪神対DeNA戦~」で実況ゲストを務めた。
歌舞伎役者としての憧れと目標は、五代目坂東玉三郎であると語っている。
6. 事件・事故
2005年(平成17年)1月、中村七之助は東京都文京区で、泥酔した状態でタクシーに無銭乗車したうえ、運転手の通報で駆けつけた警察官に対して暴行を加えたとして、大塚警察署に公務執行妨害の容疑で現行犯逮捕された。この事件は、父である十八代目中村勘三郎の襲名を目前に控えた祝賀パーティーからの帰途で発生したものであり、歌舞伎役者の逮捕としては1871年に市川権十郎が殺人容疑で逮捕されて以来の出来事と報じられた。
この不祥事により、中村七之助は3か月間の謹慎処分を受け、2005年3月に予定されていた父の襲名披露公演への参加が禁じられるなど、その後の活動に大きな影響を与えた。
7. 受賞歴
中村七之助は、その演技力と功績に対し、以下の賞や名誉ある認定を受けている。
- 2009年:重要無形文化財(総合認定)に認定され、伝統歌舞伎保存会会員となる。
- 第20回読売演劇大賞 杉村春子賞
- 2015年:第36回松尾芸能賞・新人賞
- 2015年:第1回森光子の奨励賞(兄の六代目中村勘九郎と共同受賞)
- 2021年:第38回浅草芸能大賞奨励賞