1. 生い立ちと教育
1.1. 幼少期と家族背景
小高和剛は1978年7月8日に生まれ、その生涯を通じて東京都に居住している。私立の男子中学校を卒業した。幼少期は友人が少なく、放課後はアニメを見て過ごすことが多かったと語っているが、内心では同級生の間で人気者になりたいと願っていたという。彼が最初にプレイしたビデオゲームは『レッキングクルー』、『クルクルランド』、『パックマン』であった。彼はゲームをプレイすることを非常に好み、大学在学中にはゲームストアでアルバイトをしていた。
1.2. 教育歴
私立の男子中学校を卒業後、学業は努力すれば結果が出ると考えて真面目に取り組んでいたが、やがてその意欲を失いかけた。しかし、日本大学芸術学部で映画を学べる機会を知り、再び熱意を取り戻す。同大学の映画学科を専攻し、映画学の学位を取得して卒業した。大学の同期には声優の小野大輔がいた。
2. 経歴
小高和剛のキャリアは、映画の世界を目指すことから始まり、その後にゲーム業界へと転向し、『ダンガンロンパ』シリーズの成功を経て、自身のスタジオを設立するに至る。
2.1. 初期キャリア形成
日本大学芸術学部では映画監督を目指す学生が大半であり、小高も周囲と同様に就職の道をあまり考えていなかった。そんな中、大学の教授からゲーム『クロックタワー3』に収録するムービー撮影の仕事を紹介され、映画監督の深作欣二のもとで助監督を務めることとなる。これが彼にとって初めてのテレビゲーム関連の仕事となったが、当時の仕事内容はあくまで映画制作の一環であり、ゲームの仕事という意識はさほどなかったという。しかし、その仕事環境は後に彼が「地獄」と表現するほど非常に厳しいものであり、この経験を機に小高は映画監督という道を再考し始める。
当初のキャリアプランは映画の脚本家を目指すことであったが、後に別の業界へと方向転換した。小高は「何かオリジナルなものを作りたい」という強い願望を抱いており、映画よりもビデオゲームの方がそれが容易だと感じていた。その後も自主製作映画を撮り続けたが、その傍らで知人の繋がりからゲームシナリオの仕事を受けるようになる。映画制作に行き詰まりを感じる一方で、ゲームシナリオの仕事が順調に進んだことを受け、次第にゲームの分野に軸足を置き始めた。彼はアトラスとスパイクの両方に就職を申し込んだ。当時、アトラスはストーリーのあるゲームのラインナップが豊富であったため、小高はスパイクに入社することを選んだ。スパイクの方がオリジナルゲームを制作する機会が多いと考えたからである。最初に単独でシナリオを担当した『探偵 神宮寺三郎シリーズ』の携帯アプリ版や小説作品が高い評価を得る。しかし、請負で仕事をしているだけでは自身の望むオリジナル作品を制作できないと考えた小高は、スパイク(後のスパイク・チュンソフト)に入社した。
スパイクに入社後、すぐにオリジナル作品を制作したいと考えていたものの、当初は外注作品の担当に回された。この時期に『名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵』のシナリオを執筆し、同作の好評をきっかけにオリジナル企画を提出できるようになった。しかし、企画はなかなか通らず、最終的にアニメやライトノベル的な要素とメフィスト系の要素を組み合わせた企画を提出した。これが後の『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』の原型となり、ついに制作のゴーサインが出た。
2.2. スパイク・チュンソフト時代
スパイク(後のスパイク・チュンソフト)に在籍中、小高は高校生たちが閉鎖された環境でバトルロイヤル形式のデスゲームを繰り広げるという探偵ゲームのアイデアを抱いた。この初期コンセプトは「Distrust」というタイトルで知られ、『ダンガンロンパ』と類似していたが、あまりにも残虐すぎるとして一度はボツとなった。しかし、コンセプトを調整した後、彼はこのアイデアを会社に再提案し、ゲームは制作段階に入り、『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』として結実した。
『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』はPlayStation Portable向けに2010年11月25日に発売され、発売初週で25,564本を売り上げた。発売から約3ヶ月後には85,000本の売上を達成し、スパイク・チュンソフトのCEOが成功と評価するほどのヒット作となった。当初、小高自身は5万本程度の売り上げに終わると予想していたが、口コミによって予想を大きく上回る成功を収めた。この成功を受け、シリーズは2つの続編(『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』、『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』)、スピンオフのシューティングゲーム(『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』)、テレビアニメ化(『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』)、そして様々な小説や漫画へと展開した。小高は、『ダンガンロンパ』シリーズのシナリオライティングを中心に、漫画『グレン5』の原作執筆など、活動の場を広げた。2017年にスパイク・チュンソフトを退社した。
2.3. トゥーキョーゲームス設立
スパイク・チュンソフトを退社後、小高は同時期に退社した6人の開発者たち、すなわち打越鋼太郎、小松崎類、しまどりるら『ダンガンロンパ』シリーズの主要スタッフと共に、2018年9月にトゥーキョーゲームスを設立した。小高によれば、会社の目標は新しい知的財産(IP)を創造し、スタッフそれぞれが自身のインディーゲームを制作できるようにすることであった。彼はこの会社を「ビジネスであると同時に、クラブ活動のようなもの」とも表現している。また、将来的に『ダンガンロンパ』シリーズに再び関わりたいという意向も示している。
2.4. トゥーキョーゲームスでの活動
トゥーキョーゲームス設立後、同社から最初の作品として2020年6月にリリースされたのが『デスカムトゥルー』である。この作品では小高がディレクターとシナリオを担当した。同年9月には『ワールドエンドクラブ』がリリースされ、彼はクリエイティブディレクターを務めた。
2021年11月には、スパイク・チュンソフトとの共同開発となるダークファンタジーミステリーゲーム『超探偵事件簿 レインコード』が発表され、2023年6月30日に発売された。この作品では、小高は原案、企画、シナリオを担当し、北山猛邦と共に執筆している。また、2025年には『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』が発売予定で、本作ではディレクターとシナリオを担当する。さらに、2025年発表予定の『TRIBE NINE』では原案を担当している。
3. 創作哲学と影響
3.1. 創作哲学
小高の創作に対する哲学は、物語の中心にキャラクターを据えることにあり、自身が好きではないキャラクターは書けないと語っている。しかし、物語の制作プロセスをキャラクターの考案から始めることはしない。彼は、そうすることで自身の創作が制限されてしまうと感じているため、まずは魅力的なシナリオを構築することから始め、その上にキャラクターを肉付けしていくというアプローチを取る。彼は、物語の前提(プロミス)が数文で要約できることを好む。これは、ゲームが観客からのより大きな没入を必要とするため、シナリオが彼らを物語に引き込む鍵となると考えているからである。
彼は人々に新鮮だと感じさせる物語を創造することを望んでいるが、自身の作品にはある種の構造が存在すると認識しており、既存の構造に逆らう物語を創造する作家を高く評価している。また、物語が何のために書かれているのかを常に意識し、物語に意味を持たせることを重視している。その証として、彼が伝えたいことはすべて『ダンガンロンパ』の中に詰め込まれていると公言している。
小高が手掛ける物語は、人間性の陰惨な行為、特に殺人を主題とすることが多い。彼は物語における殺人の軽快さを好み、それを極端なブラックジョークに例えている。また、小高の作品に登場するキャラクターは、プレイヤーとの繋がりを容易にするため、記憶喪失の設定を持つことが多い傾向にある。
3.2. 主な影響源
小高の作品には、彼の創作プロセスに影響を与えた他の作家や作品への多くの言及が見られる。彼は執筆に行き詰まった際、映画やアニメを鑑賞したり、漫画を読んだりすることで気分転換を図り、それらの物語の中で彼が興味を引かれる要素に注意を払っていると述べている。
小高は、主要な影響源としてデヴィッド・リンチ、クエンティン・タランティーノ、そしてコーエン兄弟といった映画監督を挙げている。また、幾原邦彦の脚本を高く評価しており、彼もまた小高に大きな影響を与えた人物の一人である。さらに、小高は須田剛一のゲームのファンであり、須田との対談の中で、彼のゲームが自身や同僚たちにインスピレーションを与えたと語っている。その影響は具体的に、ゲーム『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』に須田のゲーム『トワイライトシンドローム』へのオマージュが込められている点にも見て取れる。
4. 主な作品
4.1. ゲーム作品
小高和剛が企画、シナリオ、監督などで参加した主要なビデオゲーム作品と、それぞれの作品における彼の役割は以下の通りである。
年 | タイトル | 役割 |
---|---|---|
2002 | 『クロックタワー3』 | ムービー助監督、副企画者、原コンセプトムービー |
2007 | 『ドラゴンボールZ Sparking! METEOR』 | 企画 |
2008 | 『探偵 神宮寺三郎シリーズ』 | シナリオ |
2008 | 『爆走デコトラ伝説 BLACK』 | シナリオ |
2009 | 『名探偵コナン&金田一少年の事件簿 めぐりあう2人の名探偵』 | シナリオ |
2009 | 『ドラゴンボール レイジングブラスト』 | 企画 |
2010 | 『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』 | 企画、シナリオ |
2012 | 『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』 | シナリオ |
2013 | 『ダンガンロンパ 1・2 Reload』 | 企画、シナリオ |
2014 | 『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』 | 総括企画者、シナリオ、挿入歌作詞 |
2015 | 『スクール オブ ラグナロク』 | 世界設定、シナリオ |
2016 | 『霧切草』 | プロデューサー |
2017 | 『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』 | 原案、メインシナリオ、企画 |
2020 | 『デスカムトゥルー』 | ゲームディレクター、シナリオ |
2020 | 『ワールズエンドクラブ』 | クリエイティブディレクター |
2023 | 『超探偵事件簿 レインコード』 | 原案、企画、シナリオ |
2025 | 『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』 | ディレクター、シナリオ |
2025 | 『TRIBE NINE』 | 原案(発表予定) |
4.2. 文学・漫画作品
小高和剛が執筆または原作を担当した小説および漫画作品のリストである。
- 小説**
- 『探偵 神宮寺三郎 新宿の亡霊』(2006年11月24日、上下巻)
- 『探偵 神宮寺三郎 輝かしいミライ』(2007年2月13日)
- 『ダンガンロンパ/ゼロ』(2011年9月16日~10月14日、上下巻)
- 『ダンガンロンパ 幕之内 最悪の日』(2013年)
- 『ダンガンロンパ小高 ~『ダンガンロンパ』を作りながらの890日~』(2017年)
- 漫画**
- 『グレン5』(2013年10月号~2015年4月号、『月刊コミックジーン』連載) - 原作
- 『ダンガンロンパ害伝 キラーキラー』(2016年4月号~2017年5月号、『別冊少年マガジン』連載) - シナリオ
- 『ギャンブラーズパレード』(2018年45号~2019年30号、『週刊少年マガジン』連載) - 原作
4.3. アニメ作品
小高和剛がシナリオ監修、脚本、ストーリー原案などで参加したアニメーション作品のリストである。
年 | タイトル | 役割 |
---|---|---|
2013 | 『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』 | シナリオ監修、オープニングテーマ「Never Say Never」「モノクマおんど」作詞 |
2015 | 『うーさーのその日暮らし 夢幻編』 | 第11話脚本 |
2016 | 『ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-』 | シナリオ原案、総指揮 |
2020 | 『アクダマドライブ』 | ストーリー原案 |
2022 | 『トライブナイン』 | 原案 |
4.4. その他の作品
小高和剛が関与した、上記以外の分野での作品活動を以下に記述する。
- コラム**
- 『絶対絶望小高』(『週刊ファミ通』連載、2014年8月21日・28日合併号~2017年1月26日号)
- 音楽**
- 『モノクマおんど』(作詞、2013年、アニメ『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』オープニングテーマ)
5. 評価と影響
5.1. 批評的評価と社会への影響
小高和剛が手掛けた主要作品、特に『ダンガンロンパ』シリーズは、批評家や一般大衆から高い評価を受けている。シリーズは、その独特な世界観、予測不能なプロットツイスト、そして「希望と絶望」という根源的なテーマを深く掘り下げることで、アドベンチャーゲームやビジュアルノベルのジャンルにおいて革新的な作品として認識されている。当初の売上予測を大きく上回る成功を収めたことは、その口コミの力と、斬新な物語が広く受け入れられたことを示している。
小高の作品に頻繁に登場する「人間の残虐性」や「殺人」といったテーマを「極端なブラックジョーク」として描くスタイルは、賛否を呼びつつも、多くのプレイヤーに強烈な印象を与え、議論を巻き起こしてきた。また、キャラクターに記憶喪失を設定することで、プレイヤーが物語に感情移入しやすいように工夫するなど、ユーザー体験を考慮したシナリオ構成も特徴である。これにより、『ダンガンロンパ』は単なるゲームに留まらず、アニメや小説、漫画といった多様なメディア展開を成功させ、広く大衆文化に影響を与えた。
5.2. 業界への影響
小高和剛は、ゲーム業界において特にそのシナリオライティングと独特な世界観構築の才能で知られている。『ダンガンロンパ』シリーズの成功は、当時のスパイク・チュンソフトにとって大きな財産となり、同社のブランドイメージ確立に貢献した。
彼が2017年に退社し、打越鋼太郎、小松崎類らと共にトゥーキョーゲームスを設立したことは、新たな知的財産(IP)の創出と、クリエイターがより自由に作品を制作できる環境の追求という点で、業界内で注目された。この動きは、既存の大手企業に留まらず、クリエイター主導の小規模スタジオが新たな挑戦をすることの可能性を示した。彼の作品に影響を受けたクリエイターも少なくなく、特にミステリーやサスペンス、キャラクターの深掘りに焦点を当てた作品に、彼の創作哲学の影響が見られることがある。小高の活動は、ゲーム、文学、アニメーションといった関連産業分野の発展に寄与し、後進のクリエイターたちにも具体的な影響を与え続けている。
6. 外部リンク
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