1. 概要
木村一基(Kimura Kazukiきむら かずき英語、1973年6月23日生まれ)は、日本の将棋のプロ棋士であり、現在の段位は九段である。彼は元王位のタイトル保持者であり、主要タイトル戦において**史上最年長となる46歳3ヶ月での初タイトル獲得**という歴史的な記録を打ち立てたことで知られる。
本記事では、木村一基の幼少期からプロ入りに至るまでの道のり、プロ棋士としての主要な活動と業績、そして彼の「粘り」と評される独自の棋風や「中年の星」といった愛称が生まれた背景にある人物像について詳述する。
2. 幼少期と奨励会時代
木村一基の将棋との出会いから、プロ棋士になるための厳しい修練を経てプロ入りするまでの経緯について述べる。
2.1. 生い立ちと将棋との出会い
木村一基は1973年6月23日に千葉県四街道市で生まれた。将棋を覚えたのは幼稚園に通っていた頃で、友人の家でその奥深さに触れたのがきっかけだった。その後、小学2年生からは地元の将棋クラブに定期的に通い始め、将棋への情熱を深めていった。
2.2. 奨励会入会とプロ入り
木村は後に自身の師匠となる佐瀬勇次九段と、二枚落ちのハンデ戦を通じて初めて出会った。佐瀬九段の自宅で指導を受け始めるようになり、時には佐瀬門下の先輩である中井広恵女流六段とも練習対局を重ねた。
1985年には、小学6年生として出場した第10回小学生将棋名人戦でベスト8に進出する実績を残した。同年、佐瀬九段の門下として日本将棋連盟奨励会に入会した。
奨励会では比較的順調に進級し、1990年秋には高校2年生で三段に昇段した。しかし、そこからプロ棋士の証である四段昇段までには6年以上の歳月を要し、1997年4月1日に正式にプロ棋士となった。
3. プロ棋士としての活動
プロ棋士としてデビューしてからの木村一基の主な実績、昇段の記録、タイトル戦における活躍、そして彼が受けた数々の栄誉について詳しく解説する。
3.1. 主な記録
木村一基はプロ棋士としてのキャリアにおいて、数々の重要な記録を打ち立ててきた。
2017年12月21日には、公式戦で通算600勝を達成した。これは史上52人目の快挙である。
3.2. 昇段履歴
木村一基の公式な昇段記録は以下の通りである。
- 1985年: 6級
- 1988年: 初段
- 1997年4月1日: 四段
- 1999年4月1日: 五段
- 2001年12月17日: 六段
- 2003年4月1日: 七段
- 2007年4月1日: 八段
- 2017年6月26日: 九段
3.3. タイトル戦
木村一基はこれまでに主要タイトル戦に9回登場し、そのうち1期でタイトルを獲得している。
2019年6月、木村は第60期王位戦の挑戦者決定戦で羽生善治九段を破り、豊島将之王位への挑戦権を獲得した。豊島王位との七番勝負では、序盤の2連敗で苦しい立ち上がりとなったが、そこから2連勝でタイに追いついた。第5局を落とし、再びカド番に追い込まれるも、最後の2局を連勝し、4勝3敗で悲願の王位タイトルを獲得した。この勝利は、木村にとって初めての主要タイトル獲得であり、46歳3ヶ月での初タイトル獲得は、1973年に有吉道夫が樹立した37歳6ヶ月という記録を更新する**史上最年長記録**となった。
2020年6月から8月にかけて行われた第61期王位戦では、挑戦者の藤井聡太に0勝4敗で敗れ、王位のタイトルを失冠した。
2021年9月から10月には、第69期王座戦で永瀬拓矢王座に挑戦したが、1勝3敗で敗れ、タイトル獲得はならなかった。
3.4. その他の棋戦優勝
主要タイトル戦以外では、プロとしてのキャリアにおいて2回の優勝実績がある。
3.5. 表彰・受賞
木村一基は、その将棋界での長年の活躍に対し、日本将棋連盟から数々の将棋大賞を受賞している。
3.5.1. 将棋大賞
これまでに受賞した将棋大賞は以下の通りである。
- 1997年度(第25回): 新人賞
- 1998年度(第26回): 勝率一位賞
- 2000年度(第28回): 勝率一位賞、最多対局賞、最多勝利賞
- 2008年度(第36回): 敢闘賞
- 2019年度(第47回): 特別賞
3.5.2. 獲得賞金・対局料
木村一基はプロ入り後、年間獲得賞金・対局料ランキングで9回トップ10入りを果たしている。
年 | 金額 | 順位 |
---|---|---|
2005 | 2286.00 万 JPY | 8位 |
2007 | 2384.00 万 JPY | 8位 |
2008 | 2958.00 万 JPY | 6位 |
2009 | 2942.00 万 JPY | 5位 |
2011 | 2052.00 万 JPY | 7位 |
2014 | 1634.00 万 JPY | 10位 |
2019 | 3209.00 万 JPY | 7位 |
2020 | 2338.00 万 JPY | 8位 |
2021 | 2245.00 万 JPY | 7位 |
上記金額は、1月1日から12月31日までの公式戦から得られた賞金および対局料の合計である。
4. 棋風・人物
木村一基の将棋における独自のスタイルと、彼の人間性が将棋界や一般大衆に与えた影響について分析する。
4.1. 棋風
木村一基の将棋は、その**「粘り」**と評される独特の棋風が特徴である。どのような苦しい局面においても決して諦めず、最後の最後まで勝利の可能性を追求するその指し方は、多くのファンを魅了してきた。彼自身も、「粘りは最善の頑張り」と語っており、その信念が将棋に表れている。
4.2. 愛称・エピソード
木村一基は、2019年に46歳で王位タイトルを獲得した際、その年齢での偉業達成から**「中年の星」**という愛称で呼ばれるようになった。これは、多くの人々に夢と希望を与えた象徴的な出来事として記憶されている。彼の諦めない姿勢や、親しみやすい人柄を示すエピソードは、将棋界のみならず、社会全体に勇気を与えている。彼の人間性は、タイトル獲得時の喜びのコメントや、日頃のファンサービスなどにも表れており、多くの人々から愛される存在である。