1. 概要
清水玲子(清水玲子しみず れいこ日本語、1963年3月26日 - )は、日本の漫画家、イラストレーターである。主にサイエンス・フィクション作品や、その独特な画風で知られている。代表作には『月の子 MOON CHILD』、『輝夜姫』、『秘密 -トップ・シークレット-』などがあり、しばしばクローン技術、人肉食、近親相姦といったタブーとされるテーマを作品に取り入れている。また、『タロットカード』のイラストレーションである「ミラクルタロット」デッキの作者としても知られる。
2. 初期生い立ちと背景
清水玲子は、日本の漫画家としてのキャリアを築く前に、幼少期から青年期にかけての成長過程と学歴を通じて、その後の創作活動の基盤を形成した。
2.1. 出生地と育ち
清水玲子は1963年3月26日に東京都で生まれた。その後、1972年に小学3年生の時からは熊本県熊本市で育った。この幼少期の環境が、彼女の感受性や創作の源泉に影響を与えたと考えられる。
2.2. 学歴
清水玲子は熊本県立熊本商業高等学校を卒業している。高校卒業後には一度就職したが、漫画家になるという夢を諦めきれず、1982年に退職し、本格的に漫画家としての道を志すことになった。
3. 経歴
清水玲子の漫画家としてのキャリアは、1983年のデビューから始まり、特定の出版社や雑誌を中心に活動を展開してきた。また、彼女の作風は他の著名な漫画家から影響を受け、自身もアシスタントを育成するなど、多岐にわたる活動を行っている。
3.1. デビュー
清水玲子は1982年に『フォクシー・フォックス』で「第9回ララまんがハイ・スクール(LMHS)」佳作を受賞した。翌1983年、白泉社の漫画雑誌『LaLa』2月大増刊号に掲載された『三叉路物語(ストーリー)』でプロの漫画家としてデビューを果たした。
3.2. 影響を受けた作家
清水玲子の漫画家としての作風や表現には、日本の著名な漫画家である萩尾望都などの作品から大きな影響を受けたとされている。彼女は萩尾望都との対談も経験しており、その芸術的潮流が自身の作品に反映されている。
3.3. アシスタント
清水玲子の元でアシスタントを務めた人物には、後に漫画家としてデビューした杜真琴がいる。彼女は多くの作品で清水玲子の制作を支え、その経験を自身のキャリアに活かしている。
3.4. 主な発表媒体
清水玲子は主に白泉社から作品を発表しており、主要な発表雑誌は『LaLa』である。長編連載作品の多くは『LaLa』で連載され、また『MELODY』でも『秘密 -トップ・シークレット-』シリーズなどを連載している。
4. 作品
清水玲子の漫画作品は、そのSF要素、独特な芸術スタイル、そしてしばしばタブーとされるテーマへの挑戦によって特徴づけられる。初期の短編から長期にわたる連載作品まで、多岐にわたるジャンルと内容を展開している。
4.1. 初期作品とシリーズ
清水玲子の初期キャリアは、デビュー作や短編作品、そして特定のキャラクターを繰り返し登場させるスター・システムを用いたシリーズによって形成された。
- 『フォクシー・フォックス』(1982年、『LaLa』9月号、白泉社)
- 『三叉路物語』(1983年、『LaLa』2月大増刊、白泉社)
- 『キス ミー バンパネラ』(1983年、『LaLa』7月大増刊、白泉社)
- 『男の子女の子』(1983年、『LaLa』12月大増刊、白泉社)
- 『清水玲子の今昔物語』(1984年、『LaLa』12月号、白泉社)
- 『100万ポンドの愛』(1984年、『LaLa』5月大増刊、白泉社)
- 『チェンジ』(1984年、『LaLa』8月大増刊、白泉社)
- 『ヒューネラル マーチ』(1984年、『LaLa』12月大増刊、白泉社)
- 『ノアの宇宙船』(1985年、『Wendy』1号、白泉社)
- 『お伽話のユダ』(1985年、『LaLaDX』1号、白泉社)
- 『もうひとつの神話』(1985年、『LaLaDX』3号、白泉社)
- 『天女来襲』(1985年、『LaLa』7月号、白泉社)
- 『ナポレオン・ソロ』(1986年、『LaLa』1月号、白泉社)
- 『ネオ・ドーベルマン』(1986年、『Wendy・SPRING』号、白泉社)
- 『世紀末に愛されて』(1986年、『Cindy・SUMMER』号、白泉社)
- 『夢のつづき』(1988年、『LaLa』4月号、白泉社)
- 『8月の長い夜』(1988年、『LaLa SUMMER CLUB』、白泉社)
「ジャック&エレナシリーズ」は、複数の作品に同一のキャラクターが登場するスター・システムが特徴のシリーズである。
- 『メタルと花嫁』(1985年、『LaLa』2月大増刊)
- 『ミルキーウェイ1』(1986年、『LaLa』4・5月号)
- 『竜の眠る星』(1986年 - 1988年、『LaLa』)
- 『ミルキーウェイ2』(1987年、『LaLaDX』秋の号)
- 『月下美人』(1988年、『LaLa』6月号)
- 『千の夜』(1989年、『LaLa SUMMER CLUB』)
- 『天使たちの進化論』(1990年、『LaLa AUTUMN CLUB』)
- 『22XX』(1993年、『増刊LaLa』9・10月号)
4.2. 主要連載作品
清水玲子の代表的な長編連載漫画作品は、その深遠なテーマと独特の世界観で多くの読者を魅了してきた。
4.2.1. 月の子 MOON CHILD
『月の子 MOON CHILD』は、1988年から1992年にかけて『LaLa』で連載された清水玲子の代表作の一つである。コミックスは全13巻、文庫版は全8巻が刊行されている。この作品は、そのSF的な設定と繊細な心理描写で評価され、英語圏ではCMX Mangaによってライセンスされている。
4.2.2. 輝夜姫
『輝夜姫』は、1993年から2005年まで『LaLa』で連載された長編作品であり、コミックスは全27巻が刊行されている。この作品は、クローン技術をテーマに、人間の尊厳や生命の倫理を深く掘り下げた物語として知られる。2002年には、第47回小学館漫画賞(少女部門)を受賞した。
4.2.3. 秘密 -トップ・シークレット-
『秘密 -トップ・シークレット-』は、1999年から2012年まで『MELODY』で連載されたSFサスペンス作品である。コミックスは全12巻、新装版も全12巻が刊行されている。このシリーズは、脳に刺激を与えることで死者の記憶を再生するMRI捜査をテーマにしており、猟奇殺人や社会問題に深く踏み込んだ内容が特徴である。2013年からは、その前日譚となる『秘密 -トップ・シークレット- season0』が連載されており、2021年7月現在で外伝が既刊10巻、そして『season0』は2025年2月までに12巻まで刊行が予定されている。本作は2007年と2008年に文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出され、2011年には第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞している。また、トーハンのコミック販売ランキングでも2009年5月までに4度ランクインするなど、商業的にも成功を収めている。
4.3. その他の代表的な作品
清水玲子は、主要な連載作品以外にも、多くの短編や独立した作品を発表している。
- 『パピヨン』(1993年、『LaLa』3・4月号、白泉社)
- 『サイレント』(1993年、『LaLa』7月号、白泉社)
- 『MAGIC』(1996年、『LaLa』9・10月号、白泉社)
- 『WILD CATS』(1997年 - 2000年、『LaLa』、コミックス全1巻)
- 『Deep Water〈深淵〉』(2013年 - 2014年、『MELODY』、白泉社)
4.4. テーマと芸術的スタイル
清水玲子の作品は、一貫してSF要素を強く持ち、クローン技術や記憶再生といった最先端科学技術を題材にしている。特に『輝夜姫』ではクローン技術、『秘密 -トップ・シークレット-』では脳のMRI捜査による記憶再生が物語の核となっている。
彼女の作品には、人肉食、近親相姦、猟奇殺人といった社会的にタブー視されるテーマが頻繁に登場する。これらのテーマは、読者に強い衝撃を与える一方で、人間の倫理や道徳、生命の尊厳といった普遍的な問いを投げかける。清水玲子自身は、人肉食について「みんながハッピーエンドになるなんて嘘くさい。生き物は生き物を食べて生きるし、生きること、成長することには『犠牲』が伴うという感覚がある。(『22XX』について)だから『人が人を食べる』ということにも他の人ほど抵抗がないのかもしれない。むしろ犠牲を引き継いで生命を繋げていくという感覚の方が強い。親は子のこやしであり、礎になっていくもの」と述べており、その思想が作品の根底にある。
また、彼女は「スター・システム」を多用し、同一のキャラクターを複数の作品に登場させることで、作品間の繋がりや深みを増している。作中には性的に際どい描写も多いが、具体的に描くことは避け、示唆する程度に留めることで、読者の想像力を刺激する独特の表現手法を用いている。
清水玲子の芸術的スタイルは、その繊細で美しい描線と、時にグロテスクな描写を厭わない大胆さが特徴である。彼女の絵は、物語のSF的、幻想的な雰囲気を一層引き立て、読者を独特の世界観に没入させる力を持っている。
5. 受賞歴と評価
清水玲子は、その長年の創作活動を通じて、数々の著名な賞を受賞し、高い評価を受けている。
5.1. 主要な受賞歴
- 第47回小学館漫画賞(少女部門)**:2002年に『輝夜姫』で受賞。
- 第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞**:2011年に『秘密 -トップ・シークレット-』で受賞。
5.2. その他の評価・受賞
清水玲子の作品は、主要な賞の受賞以外にも、公的な機関や商業的な観点からも高く評価されている。
- 文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品**:『秘密 -トップ・シークレット-』は、2007年と2008年の2度にわたり審査委員会推薦作品に選出された。
- トーハンコミック販売ランキング**:『秘密 -トップ・シークレット-』は、2009年5月までに4度、このランキングに掲載されるなど、商業的な成功も収めている。
6. その他の創作活動
清水玲子は漫画作品の執筆以外にも、イラストレーションや画集の出版、CDドラマへの関与など、多岐にわたる創作活動を展開している。
6.1. イラストレーションプロジェクト
彼女は漫画以外の分野でもイラストレーションを手がけており、特に「ミラクルタロット」デッキのイラストレーションは有名である。このタロットカードは、彼女の独特な芸術スタイルが反映された作品として知られている。また、『ナマケモノのスキューバダイビング』(1996年 - 1998年、『PUTAO』、白泉社)といった作品も発表している。
6.2. 画集
清水玲子の美しいイラストレーションは、複数の画集として出版されている。
- 『清水玲子イラスト集 ARIA[アリア]』(白泉社、1990年5月2日発行)
- 『清水玲子画集・2 WALTZ[ワルツ]』(白泉社、1995年7月1日発行)
- 『清水玲子画集 輝夜姫』(白泉社、2002年10月7日発行)
6.3. CDドラマ
清水玲子の作品は、CDドラマ化もされている。
- 『輝夜姫』(2003年7月23日発売、HCD、ティー・エヌ・ケー)
- このCDドラマには、CD-ROMイラストムービーも同時収録されており、漫画の世界観を音と映像で楽しむことができる。
7. メディア出演
清水玲子は、テレビ番組への出演や、作品制作に関するインタビューなどを通じて、自身の創作活動や思想を一般に紹介している。
7.1. テレビ出演
2017年3月2日には、NHK Eテレの番組『浦沢直樹の漫勉』に出演した。この番組では、自身の代表作の一つである『秘密 -トップ・シークレット-』の製作過程が収録された映像を見ながら、漫画家の浦沢直樹と対談し、創作の裏側や技法について語った。
7.2. インタビューと出版物
清水玲子に関するインタビュー記事や評論は、様々な出版物で取り上げられている。
- 藤本由香里『少女まんが魂 現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集』(白泉社、2000年12月)
- 少女マンガ評論家・藤本由香里によるインタビューが掲載されている。
- 藤本由香里『達人が選ぶ女性のための まんが文庫100』(白泉社、2004年9月)
- 清水玲子が尊敬する萩尾望都との対談が収録されている。
- 白泉社PR誌「COMiCATE(コミケイト)」NO.37(1994年7月)
- 「特集:徹底分析!清水玲子の秘密」と題して、彼女の作品世界を深く掘り下げた記事が掲載された。
8. 私生活
清水玲子は一児の母であり、2005年7月に女児を出産している。