1. 経歴
アレキサンダー・ディナーシュタインは、幼少期に囲碁と出会い、その才能を開花させた。その後、韓国での研修を経て、ロシア人初のプロ棋士という歴史的な偉業を成し遂げた。
1.1. 幼少期と囲碁との出会い
ディナーシュタインは1980年にロシアのカザンで生まれ育った。彼は6歳だった1986年に父親から囲碁を学び始めた。当初はチェスも学んでいたが、10歳になる頃にはチェスをやめ、囲碁に深く没頭するようになった。この頃から、ヴァレリー・シクシンを新たな師として囲碁の研鑽を積んだ。彼の幼少期の環境は、イヴァン・デトコフやヴァレリー・ソロヴィヨフといった強力なロシアの囲碁棋士に囲まれており、これが彼の成長を促した。
1.2. 韓国への移住とプロ棋士への道
囲碁を学び始めてから10年後の1996年、ディナーシュタインは韓国棋院のチョン・プンジョの招きを受け、ソウルでの囲碁留学を決意した。1997年に韓国へ移住し、最大規模の囲碁道場の一つで生活を始めた。彼はこの道場で、後にプロ棋士として名を馳せる多くの若い韓国棋士たちと共に研鑽を積んだ。その中には、朴永訓(彼とは1998年に一度対局して勝利している)、パク・チウン、イ・チャンウン、コ・グンテなどが含まれる。
1.3. プロ入段と歴史的意義
2002年、アレキサンダー・ディナーシュタインは韓国棋院においてプロ棋士として入段し、スベトラーナ・シックシナと共にロシア人としては初めての囲碁プロ棋士となった。この入段は「特別推薦」という形で認められたもので、非アジア系棋士としては極めて稀な偉業である。この歴史的な出来事は、囲碁がアジア圏外でも高い水準で確立され、国際的な競技としての地位を築きつつあることを象徴するものであった。プロ入段後、彼は西洋の囲碁プレイヤーへの指導にも積極的に取り組み始めた。2008年には三段に特別昇段した。
2. 主な実績
アレキサンダー・ディナーシュタインは、そのキャリアを通じて数々の優れた実績を達成し、特にヨーロッパの囲碁界で圧倒的な強さを示した。
2.1. ヨーロッパ選手権
彼はヨーロッパ囲碁選手権において、前例のない7回の優勝を記録している。その優勝年は以下の通りである。
- 1999年
- 2000年
- 2002年
- 2003年
- 2004年
- 2005年
- 2009年
2.2. その他のヨーロッパタイトル
ヨーロッパ囲碁選手権以外にも、ディナーシュタインは複数の主要なヨーロッパの囲碁大会で優勝している。
- ヨーロッパ應昌期杯: 2001年、2002年
- ヨーロッパ囲碁王座: 2002年、2006年、2008年
- ヨーロッパマスターズ: 2005年、2007年
また、2000年には全国アマ最強戦で準優勝の成績を収めている。
2.3. 世界棋戦への出場
ディナーシュタインは、数々の世界的な囲碁大会にヨーロッパ代表として出場し、注目すべき戦績を残している。
- トヨタ&デンソー杯囲碁世界王座戦:
- 2002年: 兪斌に敗れる。
- 2004年: 坂井秀至に敗れる。
- 2006年: 李昌鎬に敗れる。
- 2008年: 李捷に勝利するも、張栩に敗れる。
- LG杯世界棋王戦:
- 2002年: マイケル・レドモンドに敗れる。
- 2004年: 王立誠九段(日本のトップ棋士の一人)に勝利するも、趙漢乗に敗れる。
- 2006年: 周鶴洋に敗れる。
- 応昌期杯世界プロ囲碁選手権戦:
- 2004年: 周俊勲に敗れる。
- 世界囲碁選手権富士通杯:
- 2006年: 趙治勲に敗れる。
- 2008年: 孔傑に敗れる。
李昌鎬と対局するディナーシュタイン(右)。 2008年に開催された第1回ワールドマインドスポーツゲームズでは、男子団体戦のロシアチームの一員として出場し、予選リーグではチームおよび個人で4勝3敗の成績を収めた。
3. 貢献と活動
競技者としての活躍に加え、アレキサンダー・ディナーシュタインは囲碁の普及と教育にも尽力しており、特に西洋の囲碁界に大きな影響を与えている。
3.1. 囲碁教育活動
プロ棋士となって以来、ディナーシュタインは西洋の囲碁プレイヤーを対象とした囲碁教育活動に力を入れている。彼の主要な教育プロジェクトの一つに、オンライン囲碁サーバーKGSで運営されている「インセーリーグ」がある。これは、アマチュアの強いプレイヤーがプロ棋士を目指す「院生」のような環境を西洋のプレイヤーに提供することを目的としている。彼はまた、KGS上で個別の囲碁レッスンも提供しており、西洋の囲碁人口の育成に貢献している。
3.2. Goama誌および出版物
ディナーシュタインは、囲碁雑誌「Goama」の編集主幹を2006年から務めている。この雑誌は、西洋の囲碁愛好家向けに、専門的な解説や最新情報を提供している。また、彼は囲碁の棋力測定テストや、囲碁のスタイルを分析するテストの開発にも携わった。さらに、囲碁プレイヤー向けのソーシャルネットワークの立ち上げにも関与しており、囲碁コミュニティの発展に多角的に貢献している。