1. 概要

ニコラ・カラバティッチ(Nikola Karabaticニコラ・カラバティッチフランス語、Никола Карабатићニコラ・カラバティッチセルビア語、1984年4月11日生)は、フランスの元プロハンドボール選手である。彼はハンドボール史上最も偉大な選手の一人と広く評価されている。
フランス代表チームの一員として、オリンピックで3つの金メダル(2008年北京、2012年ロンドン、2020年東京)、世界選手権で4つの金メダル(2009年、2011年、2015年、2017年)、欧州選手権で4つの金メダル(2006年、2010年、2014年、2024年)を獲得した。これらのメダル獲得数は、彼が主要な国際大会で絶対的な記録を保持していることを示している。
クラブキャリアでは、モンペリエHB(2003年)、THWキール(2007年)、FCバルセロナ(2015年)でEHFチャンピオンズリーグ優勝を経験している。また、IHF年間最優秀選手に2007年、2014年、2016年の3回選出されており、これは男子選手としては最多タイ記録である。2011年にはフランスのスポーツ紙『レキップ』が選出する「レキップ・チャンピオン・オブ・チャンピオンズ」を受賞し、2024年にはEHFの殿堂入りを果たした。
2. 人物と生い立ち
ニコラ・カラバティッチは、その多文化的な背景と、キャリアにおける重要な出来事や論争によって注目されている。
2.1. 出生と家族背景
ニコラ・カラバティッチは1984年4月11日、旧ユーゴスラビアのセルビア、ニシュで生まれた。彼の父親はクロアチア人のブランコ・カラバティッチ(Branko Karabatićクロアチア語)で、彼自身もプロのハンドボール選手であった。ブランコはクロアチアのトロギルとマリナの間にあるヴルシネ村出身である。母親のラドミラ(Radmilaセルビア語)はセルビアのアレクシナツ出身のセルビア人である。ブランコはニシュのジェレズニチャル・ハンドボールチームでプレーしていた時にラドミラと出会った。
ニコラが3歳半の時、父親がフランスでコーチの職を得たため、一家はフランスに移住した。彼の弟であるルカ・カラバティッチもまたプロのハンドボール選手であり、兄弟は共にフランス代表として活躍している。
2.2. 私生活と論争
ニコラ・カラバティッチは、母国語であるフランス語とセルビア・クロアチア語に加え、英語、ドイツ語、スペイン語を話すことができる多言語話者である。
2012年9月30日、彼は八百長事件に関与したとして、妻と弟のルカと共に逮捕された。この事件はハンドボール界に大きな波紋を広げたが、彼はその後も選手としてのキャリアを継続し、輝かしい功績を残し続けた。
3. 選手キャリア
ニコラ・カラバティッチの選手キャリアは、フランス、ドイツ、スペインのトップクラブでの成功と、フランス代表としての前例のない国際的な栄誉によって特徴づけられる。
3.1. クラブキャリア
カラバティッチはフランスのトップクラブであるモンペリエHBでプロキャリアをスタートさせた。モンペリエでは、2002年、2003年、2004年、2005年にフランスリーグ優勝を果たし、2003年にはEHFチャンピオンズリーグも制覇した。
2005年にはドイツのTHWキールに移籍し、2006年、2007年、2008年、2009年にドイツリーグ優勝に貢献した。特に2007年にはEHFチャンピオンズリーグで優勝し、クラブの黄金期を支えた。
2009年夏にドイツを離れ、再びモンペリエHBに戻り、2010年、2011年、2012年にさらに3度のフランスリーグタイトルを獲得した。
2013年2月から6月にかけてはペイ・デックスUCで短期間プレーした後、FCバルセロナに移籍。バルセロナでは2014年と2015年にスペインリーグ優勝、2015年には自身3度目となるEHFチャンピオンズリーグ優勝を経験した。また、2013年と2014年にはIHFスーパーグローブを制覇した。
2015年からはパリ・サンジェルマン・ハンドボールに所属し、2024年までプレーした。パリ・サンジェルマンでは、2016年、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年、2022年、2023年、2024年とフランスリーグで複数回の優勝を飾った。
ニコラ・カラバティッチが獲得した主なクラブタイトルは以下の通りである。
- EHFチャンピオンズリーグ:
- 優勝: 2003年、2007年、2015年
- 準優勝: 2008年、2009年、2017年
- IHFスーパーグローブ: 2013年、2014年
- EHFヨーロッパスーパーカップ: 2007年
- フランスリーグ: 2002年、2003年、2004年、2005年、2010年、2011年、2012年、2016年、2017年、2018年、2019年、2020年、2021年、2022年、2023年、2024年
- フランスカップ: 2001年、2002年、2003年、2005年、2010年、2012年、2018年、2021年、2022年
- フランスリーグカップ: 2004年、2005年、2010年、2011年、2012年、2017年、2018年
- フランススーパーカップ: 2010年、2011年、2015年、2016年、2019年、2023年
- ドイツリーグ: 2006年、2007年、2008年、2009年
- ドイツカップ: 2007年、2008年、2009年
- ドイツスーパーカップ: 2005年、2007年、2008年
- スペインリーグ: 2014年、2015年
- スペインカップ: 2014年、2015年
- スペインスーパーカップ: 2013年、2014年
- ASOBALカップ: 2013年、2014年
- カタルーニャスーパーカップ: 2013年、2014年
- ピレネーリーグ: 2004年
3.2. 代表キャリア
カラバティッチは2002年から2024年までフランス代表として活躍し、国際舞台で数々の金字塔を打ち立てた。彼が獲得したメダルは計17個に上り、そのうち11個が金メダルという驚異的な記録は、ハンドボール界における絶対的な記録である。
- オリンピック:
- 金メダル: 2008年北京、2012年ロンドン、2020年東京
- 銀メダル: 2016年リオデジャネイロ
- 世界選手権:
- 金メダル: 2009年(クロアチア)、2011年(スウェーデン)、2015年(カタール)、2017年(フランス)
- 銀メダル: 2023年(ポーランド/スウェーデン)
- 銅メダル: 2005年(チュニジア)、2019年(ドイツ/デンマーク)
- 欧州選手権:
- 金メダル: 2006年(スイス)、2010年(オーストリア)、2014年(デンマーク)、2024年(ドイツ)
- 銅メダル: 2008年(ノルウェー)、2018年(クロアチア)
彼は2006年に欧州選手権で初の金メダルを獲得し、2008年と2018年には銅メダルを獲得した。世界選手権では2005年と2019年に銅メダルを獲得している。2007年の世界選手権ではフランスが4位に終わったものの、彼はオールスターチームに選出された。また、2004年の欧州選手権でもオールスターチームに選ばれている。
4. 記録と受賞歴
ニコラ・カラバティッチは、その傑出したパフォーマンスにより、数多くの個人賞と功績を積み重ねてきた。
4.1. 主要大会記録
カラバティッチの主要国際大会における個人成績は以下の通りである。
Tnmt | GP | Gls | Sh | G% | 7G | 7S | As | AG | St | Bl | 2M | RC | Pl |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2004 EC | 7 | 35 | 71 | 49 | 8 | 13 | 21 | 56 | 4 | 3 | 4 | 0 | 6th |
2004 OG | 7 | 20 | 39 | 51 | 2 | 2 | 16 | 36 | 2 | 1 | 5 | 0 | 5th |
2005 WC | 9 | 43 | 71 | 61 | 5 | 5 | 20 | 63 | 8 | 4 | 5 | 0 | 3rd |
2006 EC | 8 | 40 | 72 | 56 | 0 | 1 | 14 | 54 | 10 | 4 | 4 | 0 | 1st |
2007 WC | 10 | 50 | 86 | 58 | 0 | 2 | 24 | 74 | 13 | 4 | 7 | 1 | 4th |
2008 EC | 8 | 44 | 89 | 49 | 7 | 14 | 26 | 70 | 6 | 5 | 2 | 0 | 3rd |
2008 OG | 8 | 37 | 69 | 54 | 2 | 3 | 34 | 71 | 7 | 6 | 2 | 0 | 1st |
2009 WC | 10 | 45 | 80 | 56 | 0 | 0 | 36 | 81 | 8 | 9 | 2 | 0 | 1st |
2010 EC | 8 | 40 | 73 | 55 | 0 | 0 | 25 | 65 | 5 | 4 | 6 | 0 | 1st |
2011 WC | 10 | 51 | 80 | 63 | 0 | 0 | 34 | 85 | 4 | 10 | 2 | 0 | 1st |
2012 EC | 6 | 9 | 34 | 26 | 0 | 0 | 11 | 20 | 3 | 1 | 1 | 0 | 11th |
2012 OG | 8 | 26 | 48 | 54 | 0 | 0 | 34 | 60 | 3 | 15 | 3 | 0 | 1st |
2013 WC | 7 | 25 | 38 | 66 | 0 | 0 | 12 | 37 | 3 | 10 | 3 | 0 | 6th |
2014 EC | 8 | 32 | 51 | 63 | 0 | 0 | 44 | 76 | 3 | 6 | 4 | 0 | 1st |
2015 WC | 9 | 33 | 56 | 59 | 0 | 0 | 26 | 59 | 8 | 14 | 9 | 0 | 1st |
2016 EC | 7 | 26 | 47 | 55 | 0 | 0 | 21 | 47 | 5 | 3 | 2 | 0 | 5th |
2016 OG | 8 | 26 | 40 | 65 | 0 | 0 | 21 | 47 | 4 | 4 | 2 | 0 | 2nd |
2017 WC | 9 | 31 | 53 | 58 | 0 | 0 | 42 | 73 | 7 | 5 | 4 | 0 | 1st |
2018 EC | 8 | 30 | 46 | 65 | 0 | 0 | 33 | 63 | 3 | 3 | 3 | 0 | 3rd |
2019 WC | 6 | 4 | 15 | 27 | 0 | 0 | 15 | 19 | 1 | 1 | 3 | 0 | 3rd |
2020 EC | 3 | 8 | 13 | 62 | 0 | 0 | 5 | 13 | 0 | 2 | 0 | 0 | 14th |
2020 OG | 8 | 22 | 34 | 65 | 0 | 0 | 29 | 51 | 1 | 1 | 3 | 0 | 1st |
2022 EC | 8 | 15 | 36 | 42 | 0 | 0 | 22 | 37 | 2 | 3 | 3 | 0 | 4th |
2023 WC | 7 | 8 | 18 | 44 | 0 | 0 | 12 | 20 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2nd |
2024 EC | 8 | 16 | 27 | 59 | 0 | 0 | 22 | 38 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1st |
- Tnmt: トーナメント
- GP: 試合出場数
- Gls: ゴール数
- Sh: シュート数
- G%: ゴール成功率
- 7G: 7mスローゴール数
- 7S: 7mスローシュート数
- As: アシスト数
- AG: アシスト+ゴール数
- St: スティール数
- Bl: ブロック数
- 2M: 2分間退場数
- RC: レッドカード数
- Pl: 代表チーム順位
- 太字はキャリアハイ
クラブにおける年度別成績は以下の通りである。
年 | リーグ | チーム | 試合 | フィールド 得点 | 率 | 7m | 合計 | 警告 | 退場 | 失格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2004-05 | フランス D1 | モンペリエ | 25 | 86/97 | .887 | 2/2 | 88/99 | 8 | 11 | 0 |
2009-10 | 19 | 83/100 | .830 | 0/0 | 83/100 | 6 | 10 | 0 | ||
2010-11 | 22 | 106/140 | .757 | 6/6 | 112/146 | 7 | 4 | 0 | ||
2011-12 | 26 | 76/124 | .613 | 0/0 | 76/124 | 10 | 7 | 0 | ||
2012-13 | 9 | 54/82 | .659 | 0/0 | 54/82 | 2 | 5 | 1 | ||
ペイ・デックス | 13 | 80/126 | .635 | 0/0 | 80/126 | 0 | 1 | 0 | ||
2012-13計 | 22 | 134/208 | .644 | 0/0 | 134/208 | 2 | 6 | 1 | ||
2013-14 | ASOBAL | FCバルセロナ | 28 | 110/153 | .719 | 13/16 | 123/169 | - | ||
2014-15 | 24 | 96/143 | .671 | 3/3 | 99/146 | - | ||||
2015-16 | フランス D1 | PSG | 18 | 77/133 | .579 | 0/0 | 77/133 | 8 | 9 | 1 |
2016-17 | 25 | 98/158 | .620 | 0/0 | 98/158 | 7 | 9 | 0 | ||
2017-18 | 22 | 80/131 | .611 | 0/0 | 80/131 | 7 | 8 | 0 | ||
2018-19 | 16 | 29/52 | .558 | 0/0 | 29/52 | 1 | 4 | 0 | ||
フランスD1:9年 | 195 | 769/1143 | .673 | 8/8 | 777/1151 | 56 | 68 | 2 | ||
ASOBAL:2年 | 52 | 206/296 | .696 | 16/19 | 222/315 | - |
- 各年度の太字はリーグ最高記録を示す。
- フランスD1の2003-04年シーズン以前は公式記録がないため、通算記録は2004-05年シーズン以降のものを反映している。
4.2. 個人賞と功績
ニコラ・カラバティッチが獲得した主な個人賞と功績は以下の通りである。
- IHF年間最優秀選手:
- 受賞: 2007年、2014年、2016年
- 2位: 2009年、2010年、2015年
- 3位: 2011年
- フランス代表チームでの受賞:
- 世界選手権MVP: 2011年、2017年
- 欧州選手権MVP: 2008年、2014年
- 欧州選手権得点王: 2008年
- オリンピックオールスターセンターバック: 2012年、2016年
- 世界選手権オールスターセンターバック: 2009年、2015年
- 欧州選手権オールスターセンターバック: 2010年
- 世界選手権オールスターレフトバック: 2007年
- 欧州選手権オールスターレフトバック: 2004年
- トゥールノワ・ド・フランス最優秀選手: 2007年、2011年
- クラブでの受賞:
- チャンピオンズリーグ
- 最優秀ストライカー: 2007年(89ゴール)
- オールスターチーム: 2014年
- フランス
- フランスリーグ最優秀選手: 2010年、2013年、2017年
- フランスリーグベストレフトバック: 2004年、2005年
- フランスリーグベストセンターバック: 2010年、2016年、2017年
- フランススーパーカップ最優秀選手: 2010年
- ドイツ
- ドイツ年間最優秀選手: 2007年、2008年
- ドイツリーグシーズン最優秀選手: 2006-07年、2007-08年
- ドイツリーグベストレフトバック: 2006年、2007年、2008年
- ドイツオールスターゲーム最優秀選手: 2007年
- スペイン
- スペインリーグ最優秀選手: 2014年、2015年
- チャンピオンズリーグ
- その他:
- フランス年間スポーツマン: 2011年
- EHF殿堂入り: 2024年
5. 評価とレガシー
ニコラ・カラバティッチは、ハンドボール史上最高の選手の一人として揺るぎない地位を確立している。彼のキャリアは、一貫した卓越性、多大なタイトル獲得、そしてゲームへの深い影響力によって特徴づけられる。
彼はオリンピック、世界選手権、欧州選手権の全てで金メダルを獲得した数少ない選手の一人であり、フランス代表として獲得した主要国際大会のメダル数(17個中11個が金メダル)は絶対的な記録である。この実績は、彼がハンドボール界の「レジェンド」として語り継がれる理由の一つである。
2007年、2014年、2016年に3度IHF年間最優秀選手に選ばれたことは、彼が長期間にわたり世界のトップレベルを維持し続けたことの証である。また、EHF殿堂入りは、彼の功績が欧州ハンドボール界において永続的なものとして認められたことを意味する。
彼のプレースタイルは、強力なシュート、卓越したパス能力、そして戦術的な洞察力を兼ね備えており、攻守両面でチームの中心として機能した。特に、試合の流れを読む能力と、プレッシャーのかかる場面での決定力は、多くの重要な勝利に貢献した。
カラバティッチのレガシーは、単なる記録やタイトルに留まらない。彼はハンドボールというスポーツの魅力を世界に広め、多くの若手選手にインスピレーションを与えた。彼の存在は、ハンドボールの歴史において、間違いなく最も輝かしい章の一つとして記憶されるだろう。
6. 外部リンク
- [http://www.nikolakarabatic.com/ 公式サイト]