1. 概要
ロバート・A・ブラスト(Robert A. Blust英語、白樂思Bái Lèsī中国語、1940年5月9日 - 2022年1月5日)は、アメリカ合衆国の言語学者であり、歴史言語学、辞書学、民族学など多岐にわたる分野で活躍しました。彼はハワイ大学マノア校の言語学教授を務め、特にオーストロネシア語族研究の第一人者として、この分野に計り知れない貢献をしました。彼の研究は、言語の多様性の保護、特に消滅危機言語の記録と保存に焦点を当て、文化理解の深化にも大きな影響を与えました。
2. 生涯
ロバート・A・ブラストの生涯は、学術的な探求とオーストロネシア語族への深い献身によって特徴づけられました。
2.1. 出生と幼少期
ブラストは1940年5月9日にオハイオ州シンシナティで生まれました。4歳の時にカリフォルニア州ロングビーチに移り、そこで幼少期を過ごしました。
2.2. 教育
彼はハワイ大学マノア校で教育を受け、1967年に人類学の学士号を、1974年には言語学の博士号を取得しました。
2.3. 初期キャリア
博士号取得後、ブラストは1976年から1984年までオランダのライデン大学で教鞭を執りました。その後、ハワイ大学マノア校の言語学部に戻り、2005年から2008年まで同学部の学科長を務めました。彼はアメリカ言語学会のフェローでもありました。
3. 主な学術活動
ロバート・A・ブラストの学術活動は、オーストロネシア語族に関する広範な研究と、その成果をまとめた数々の重要な著作によって特徴づけられます。
3.1. オーストロネシア語族研究
ブラストは、広大なオーストロネシア語族に関する研究で最もよく知られています。彼は2018年まで、オーストロネシア語族を専門とする学術誌『オーシャニック・リンギスティクス』の書評編集者を務めました。彼のこの分野への貢献は多岐にわたり、特に網羅的な『オーストロネシア比較辞書』(1995年)や、タオ語と英語の辞書(2003年)などが挙げられます。彼の代表作の一つである2009年の『オーストロネシア語族』は、音韻論、統語論、形態論、音変化、分類など、オーストロネシア語族のあらゆる側面を網羅した初の単著として評価されています。
3.2. 主要な著作と出版物
ブラストの著作は、オーストロネシア言語学の基礎を築く上で不可欠なものとなっています。
- 『オーストロネシア比較辞書』(1995年): オーストロネシア語族の比較研究における画期的な業績であり、この広大な語族の再構築に大きく貢献しました。
- 『タオ語辞書』(2003年): 1,100ページを超える大作で、消滅危機言語であるタオ語に関する最も包括的な辞書の一つです。この辞書は、台湾諸語の中でも特に完成度が高いとされています。
- 『オーストロネシア語族』(2009年): オーストロネシア語族全体の音韻論、統語論、形態論、音変化、分類など、あらゆる側面を包括的に扱った初の単著であり、この分野の標準的な参考書となっています。
3.3. 現地調査
ブラストは、広範な現地調査を通じて、オーストロネシア語族に関する貴重なデータと知見を収集しました。彼はサラワク州、パプアニューギニア、台湾など、様々な地域で97ものオーストロネシア語族言語について調査を行いました。特に台湾では、タオ語、カバラン語、パゼッハ語、アミス語、パイワン語、サイシャット語といった台湾諸語に関する現地調査を実施しました。彼のタオ語辞書は、その詳細さと網羅性において、台湾諸語の辞書の中でも傑出した存在です。
3.4. その他の研究関心
言語学の主要な研究以外にも、ブラストは虹と竜の文化的および言語的側面について深い関心を持っていました。これらのテーマに関する彼の研究は、神話や民間伝承における言語と文化の複雑な関係を探るものでした。
4. 私生活と死
ロバート・A・ブラストは、2022年1月5日にハワイ州ホノルルで81歳で死去しました。彼は13年間にわたる癌との闘病の末に亡くなりました。
5. 学術的貢献と影響
ロバート・A・ブラストは、オーストロネシア言語学の分野に計り知れない学術的貢献をしました。彼の包括的な研究、特に『オーストロネシア比較辞書』や『オーストロネシア語族』といった著作は、この広大な語族の理解と分類の基礎を築きました。
彼の研究は、特に消滅危機言語の記録と保存において重要な役割を果たしました。タオ語のような少数民族言語の詳細な辞書や文法書を編纂することで、彼はこれらの言語が直面する消滅の危機に対し、貴重な言語学的・文化的な遺産を後世に残すことに貢献しました。彼の現地調査は、世界各地の言語多様性を文書化し、文化遺産を保存するための重要な基盤を提供しました。ブラストの業績は、現在も多くの研究者に影響を与え続けており、オーストロネシア言語学における彼の評価は揺るぎないものです。
6. 関連項目
- オーストロネシア語族
- オーストロネシア仮説
7. 外部リンク
- [https://acd.clld.org/ Austronesian Comparative Dictionary (ACD)] by Robert Blust, Stephen Trussel, & Alexander D. Smith (ウェブ版)