1. Overview
日本の映画監督、入江悠は、革新的な視点と社会への深い洞察を特徴とする作品で知られている。彼は、自身の生い立ちや学生時代の経験を基盤に、低予算ながらも高い評価を得た『SR サイタマノラッパー』シリーズでブレイクスルーを果たし、その後も社会派作品からエンターテインメント大作まで幅広いジャンルを手がけている。彼の作品は、社会の不条理や人間の内面を鋭く描き出し、観客に強い影響を与え続けている。本稿では、彼のキャリアの発展、主要な作品群、そして映画制作以外の多岐にわたる活動に焦点を当て、その功績と独自の制作姿勢を詳細に記述する。
2. 来歴
入江悠のキャリアは、自身の出身地である埼玉県深谷市を舞台にした作品で注目を集め、その後多様なジャンルの作品を手がけるまでに発展した。このセクションでは、彼の幼少期から学生時代、そして映画監督としての地位を確立するまでの歩みを時系列に沿って追う。
2.1. 生い立ちと教育
入江悠は1979年11月25日に神奈川県横浜市で生まれた。3歳から19歳までの幼少期と青春期を埼玉県深谷市で過ごした。埼玉県立熊谷高等学校を卒業後、日本大学藝術学部映画学科に進学し、映画制作の道を志す。大学では監督コースを専攻し、2003年に同大学を卒業した。彼の叔父は画家の入江観である。学生時代から短編映画を制作しており、2002年の『OBSESSION』は翌年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター部門に入選した。また、2003年の『SEVEN DRIVES』も同映画祭の2004年オフシアター部門に入選するなど、早い時期からその才能が評価され始めた。2004年には『部屋の片隅で、愛をつねる』で第2回うえだ城下町映画祭のグランプリを受賞している。
2.2. 初期作品とブレイクスルー
大学卒業後、入江悠はVシネマの監督としてキャリアを積んだ。2007年には、ソフトエロティック作品である『くりいむレモン 魔人形【マ・ドール】』(Cream Lemon 7英語)や、AV女優のMihiro(みひろ)が主演を務めたエロティックコメディ『水着スパイ SPY GIRLS』(Swimsuit Spy - SPY GIRLS英語)を監督した。
転機が訪れたのは2009年、彼が監督した長編映画『SR サイタマノラッパー』(8000 Miles英語)が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2009オフシアター・コンペティション部門でグランプリを受賞したことである。この作品は、深谷市(劇中では「福谷」と表記)郊外に住む4人の友人がラップスターになることを夢見る物語であり、ほとんどがアマチュアのキャストで構成されていたが、AV女優のMihiroも出演した。この成功により、入江は日本映画監督協会新人賞を受賞し、映画監督としての地位を確立した。また、同作は第38回モントリオール・ヌーヴォ国際映画祭への招待や、池袋シネマ・ロサでの初日レイトショー歴代動員記録1位、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のシネマランキング2009」でのベスト1位など、高い評価を得た。
その後、『SR サイタマノラッパー』とその続編『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』は、2010年に第9回ニューヨーク・アジアン・フィルムフェスティバルで招待上映され、さらに後者は第14回富川国際ファンタスティック映画祭(韓国)でも招待上映された。2011年には『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』が第10回ニューヨーク・アジアン・フィルムフェスティバルとJapan Cutsフィルムフェスティバルの共催企画で招待上映され、第15回富川国際ファンタスティック映画祭(韓国)および第31回ハワイ国際映画祭でも招待上映された。2012年公開の『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』も香港国際映画祭に正式招待されるなど、国際的な評価を確固たるものにした。2018年には、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター部門審査員を務めた。
3. 作品
入江悠は、監督および脚本家として、多岐にわたるジャンルの映画、テレビドラマ、ウェブドラマ、Vシネマ、ミュージックビデオを手がけている。彼の作品は、社会的なテーマを扱ったものから、エンターテインメント性の高いものまで幅広い。
3.1. 映画
入江悠が監督した主な長編映画作品は以下の通りである。
- 『JAPONICA VIRUS ジャポニカ・ウイルス』(2006年)
 - 『SR サイタマノラッパー』シリーズ
- 『SR サイタマノラッパー』(2009年)
 - 『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(2010年)
 - 『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(2012年)
 
 - 『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(2011年)
 - 『同期』(2011年、WOWOW ドラマW作品特別上映)
 - 『タマフルTHE MOVIE ~暗黒街の黒い霧~』(DVD、2012年)
 - 『日々ロック』(2014年)
 - 『ジョーカー・ゲーム』(2015年)
 - 『太陽』(2016年)
 - 『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年)
 - 『ビジランテ』(2017年)
 - 『ギャングース』(2018年)
 - 『AI崩壊』(2020年)
 - 『シュシュシュの娘』(2021年)
 - 『聖地X』(2021年)
 - 『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』(2023年)
 - 『あんのこと』(2024年)
 - 『室町無頼』(2025年予定)
 
3.2. 短編映画
入江悠が監督した主な短編映画作品は以下の通りである。
- 『涅槃の腕』(2000年)
 - 『OBSESSION』(2002年)
 - 『SEVEN DRIVES』(2003年)
 - 『部屋の片隅で、愛をつねる』(2004年)
 - 『行路I』(2005年)
 - 『AZM48 the movie ビギンズナイト』(2011年)
 - 『週末Not yet ショートフィルム』(Not yet/2011年)
 - 『KAZUKO'S CASE』(主演:田畑智子/2011年)
 - 『パパは冒険家 The Wedding is in three days』(主演:柏木由紀/2013年)
 - 『狂人日記』(主演:水澤紳吾/2014年)
 - 『The 5 Second Later Man』(主演:渡辺大/ネスレチャンネル 2014年)
 
3.3. テレビドラマ
入江悠が監督した主なテレビドラマ作品は以下の通りである。
- 『同期』(WOWOW ドラマW/出演:松田龍平、竹中直人 ほか/2011年2月20日放送)
 - 『ブルータスの心臓』(フジテレビ系/出演:藤原竜也、加藤あい ほか/2011年4月17日放送)
 - 『クローバー』(テレビ東京系 ドラマ24/出演:賀来賢人、有村架純 ほか/2012年4月 - 6月放送)
 - 『ネオ・ウルトラQ』(WOWOW/2013年1月12日 - 放送)
 - 『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系 ドラマ24/2013年4月 - 6月放送)
 - 『天魔さんがゆく』(TBS系 ドラマNEO/出演:堂本剛、川口春奈 ほか/2013年7月 - 9月放送)
 - 『ふたがしら』(WOWOW 連続ドラマW/出演:松山ケンイチ、早乙女太一 ほか/2015年6月 - 7月放送)
 - 『ふたがしら2』(WOWOW 連続ドラマW/2016年9月 - 10月放送)
 - 『SRサイタマノラッパー マイクの細道』(テレビ東京系/2017年1月 - 4月放送)
 - 『ネメシス』(日本テレビ 日曜ドラマ/出演:櫻井翔、広瀬すず、江口洋介 ほか/2021年4月 - 6月放送)
 - 『鵜頭川村事件』(WOWOW 連続ドラマW/出演:松田龍平 ほか/2022年8月 - 9月放送)
 
3.4. ウェブドラマ
入江悠が監督した主なウェブドラマ作品は以下の通りである。
- 『飛鳥クリニックは今日も雨』(配信未定、Lemino) ※2024年撮影、当初は2025年1月配信予定
 
3.5. Vシネマ
入江悠が監督した主なVシネマ作品は以下の通りである。
- 『水着スパイ SPY GIRLS』(2007年)
 - 『くりいむレモン 魔人形【マ・ドール】』(2007年)
 
3.6. ミュージックビデオ
入江悠が監督した主なミュージックビデオ作品は以下の通りである。
- Not yet「週末Not yet 入江悠監督ver」(2011年)
 - スネオヘアー「期待はずれの空模様」(2011年)
 - チームしゃちほこ「ザ・スターダストボウリング」(2012年)
 - 柏木由紀「Birthday wedding」(2013年)
 - P.O.P「[https://www.youtube.com/watch?v=xJu4jAQ0AmY Watch me]」(2014年)
 - AI「僕らを待つ場所」(2020年)
 
4. その他の活動と著書
入江悠は映画やテレビの制作活動に加えて、メールマガジンの主宰や書籍の執筆など、多岐にわたる活動を行っている。
4.1. メールマガジン
入江悠は、映画をテーマとしたメールマガジン「僕らのモテるための映画聖典」を主宰している。「映画でモテる!」をキーワードに、映画の魅力を多角的に伝えることを目的としている。このメールマガジンはポッドキャストも展開しており、映画監督、脚本家、俳優、ラッパーなど、各分野のプロフェッショナルが寄稿しており、「その道のプロならではの独自視点」が特徴として評価されている。また、毎年恒例のトークイベントでは、「日本モテデミー賞」と題し、「映画と俳優の演技を「モテ」という観点から顕彰するまったく新しい映画賞」を実施している。2018年には、自身の監督作品である『ギャングース』に関するイベントも開催された。
4.2. 書籍
入江悠が執筆または監修した書籍は以下の通りである。
- 『SR サイタマノラッパー』(太田出版、2010年)
 - 『SR サイタマノラッパー -日常は終わった。それでも物語は続く- 』(角川メディアハウス、2012年)
 - 『SRサイタマノラッパー』(角川文庫、2012年)
 - 『日々ロック』(原作:榎屋克優、集英社、2014年)
 
5. 受賞歴
入江悠は、そのキャリアにおいて数々の映画賞を受賞、またはノミネートされている。
| 年 | 賞 | 部門 | 作品名 | 結果 | 
|---|---|---|---|---|
| 2009 | ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 | オフシアター・コンペティション部門 | 『SR サイタマノラッパー』 | グランプリ | 
| 2009 | 日本映画監督協会新人賞 | - | 『SR サイタマノラッパー』 | 受賞 | 
| 2012 | 日本映画プロフェッショナル大賞 | 作品賞 | 『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 | 受賞 | 
| 2021 | 日本映画批評家大賞(第30回) | 脚本賞 | 『AI崩壊』 | 受賞 | 
| 2025 | ヨコハマ映画祭(第46回) | 監督賞 | 『あんのこと』 | 受賞 | 
| 2025 | 日本アカデミー賞(第48回) | 優秀脚本賞 | 『あんのこと』 | 受賞 | 
| 2025 | ブルーリボン賞(第67回) | 監督賞 | 『あんのこと』 | 受賞 |