1. 生涯
崔夢龍の生涯は、ソウルでの出生から始まり、ハーバード大学での博士号取得を経て、全南大学校での教職を皮切りにソウル大学校での長年の教育・研究活動に至るまで、学術的な道を歩んだ。
1.1. 出生と成長背景
崔夢龍は1946年9月13日にソウルで生まれた。
1.2. 学歴
ソウル大学校で学士号および修士号を取得した後、アメリカ合衆国のハーバード大学に進学し、1984年に「A Study of Youngsan River Valley Culture(栄山江流域文化の研究)」という論文で人類学の博士号(PhD)を取得した。ハーバード大学では、著名な考古学者であるK.C. Chang(張光直)に師事した。
1.3. 初期キャリア
1972年に全南大学校で専任講師として教職に就き、学界でのキャリアを開始した。その後、1981年からはソウル大学校に移籍し、同大学の教授として長年にわたり教育と研究に貢献した。
2. 学術活動と研究
崔夢龍はソウル大学校教授として長年教鞭を執り、無文土器時代や古代国家形成に関する広範な考古学的研究を行い、韓国上古史学会の創設に貢献するなど、学術界で指導的な役割を果たした。
2.1. ソウル大学校教授としての活動
1981年にソウル大学校に移籍して以来、長く同大学の考古美術史学科(後に人文大学考古美術史学科)の教授を務めた。1980年代後半には人文大学の学部長補佐も兼任し、教育行政面でも貢献した。2012年2月29日にソウル大学校教授を定年退任し、名誉教授に任命された。
2.2. 主な研究分野
崔夢龍の研究は、広範な韓国考古学の時代とテーマを網羅している。特に、無文土器時代の文化、文明の形成過程、古代都市や国家の興隆に関する考古学的調査に注力した。彼は、多数の考古学的発掘調査報告書において、その成果を公表してきた。
2.3. 学会活動とリーダーシップ
崔夢龍は韓国の学術界において指導的な役割を果たした。1987年には韓国上古史学会を創設し、初代会長に就任。1995年までその職を務め、学会の基盤確立と発展に尽力した。
3. 主要な活動と貢献
崔夢龍は学術研究の枠を超え、ソウル大学校博物館長、文化財委員として国家の文化財政策に貢献し、また長年にわたり国史教科書の編纂にも深く関与した。
3.1. ソウル大学校博物館長
1995年から1999年までソウル大学校博物館の館長を務めた。この期間中、彼は博物館の運営と展示活動を指揮し、学術研究の成果を一般に公開する役割を担った。
3.2. 文化財委員としての活動
1999年からは韓国の遺産委員会(the National Heritage Committee of Korea)の委員を務め、国家の文化財保護政策や学術調査に専門知識を提供し、その発展に貢献した。
3.3. 歴史教科書編纂への参加
崔夢龍は、高等学校の国史教科書の編纂に20年以上にわたり関与し、韓国の歴史教育に深く携わってきた。2015年11月3日、朴槿恵政権下で中学校および高等学校の歴史教科書が国史編纂委員会による国定教科書へと転換される決定がなされた際、彼はその代表執筆陣の一人に選ばれた。
4. 著書と出版物
崔夢龍は、韓国考古学に関する多数の単著、編著、翻訳書を出版し、また学術雑誌に多くの重要な論文を発表している。
4.1. 単著
- 『전남고고학 지명표』、전남매일 신문사 출판국、1975年
- 『도시의 기원』、백록출판사、1977年
- 『인류문화의 발생과 전개』、동성사、1983年
- 『A Study of the Yŏngsan River Valley Culture -the rise of chiefdom society and state in ancient Korea-』、동성사、1984年
- 『韓國古代史의 諸問題』、서울大學校人文大學考古美術史學科、1987年
- 『고고학에의 접근』、신서원、1990年
- 『Jaemi Innun Gogohak Yeohaeng』 [Interesting Archaeological Tourism]、Hakyeon Munhwasa、Seoul、1991年
- 『한국문화의 원류를 찾아서』、학연문화사、1993年
- 『도시.문명.국가』、서울대학교 출판부、1997年
- 『흙과 인류』、주류성、2000年
- 『최근의 고고학 자료로 본 한국고고학.고대사의 신연구』、2006年
- 『인류문명발달사』、주류성、2007年
- 『청동기.철기시대와 고대사회의 복원』、주류성、2008年
- 『한국상고사연구 여적』、주류성、2008年
- 『韓國考古學 硏究의 諸問題』、주류성출판사、2011年
- 『인류문명발달사(개정5판)』、주류성、2013年
- 『고구려와 중원문화』、주류성、2014年
- 『한국고고학연구 -세계사속에서의 한국-』、주류성、2014年
- 『인류문명발달사(개정6판)』、주류성、2015年
- 『한국선사시대의 문화와 국가의 형성』、주류성、2016年
- 『중국 고고학 -중요주제, 항목별로 본 중국 문화사 서설-』、주류성、2018年
4.2. 編著および翻訳書
- ネッド・ウダル(崔夢龍 訳)『신고고학의 개요』、동성사、1984年
- ブライアン・フェイガン(崔夢龍 訳)『인류의 선사시대』、을유문화사、1987年
- ジョナサン・ハース(崔夢龍 訳)『원시국가의 진화』、민음사、1989年
- 崔夢龍 他『韓國の考古學』、講談社、1989年
- 崔夢龍 他『백제사의 이해』、학연문화사、1991年
- 崔夢龍 他『한국선사고고학사』、까치、1991年
- 崔夢龍 他『한강유역사』、민음사、1993年
- 崔夢龍 他『러시아의 고고학』、학연문화사、1994年
- チャールズ・レッドマン(崔夢龍 訳)『문명의 발생』、민음사、1995年
- コンラート・シュピンドラー(崔夢龍 訳)『5천년 전의 남자』、청림출판사、1995年
- 崔夢龍 他『고고학과 자연과학』、서울대학교 출판부、1996年
- 崔夢龍 他『한국의 문화유산』、한국문화재보호재단、1997年
- 崔夢龍 他『한국고대국가 형성론』、서울대학교 출판부、1997年
- 崔夢龍 他『인물로 본 고고학사』、한울、1997年
- 崔夢龍 他『백제를 다시 본다』、주류성、1998年
- 崔夢龍 他『고고학 연구방법론』、서울대학교 출판부、1998年
- 崔夢龍 他『한국지석묘 연구 이론과 방법』、주류성、2000年
- 崔夢龍 他『단군』、서울대학교 출판부、2001年
- 崔夢龍 他『한국사1』、탐구당、2002年
- 崔夢龍 他『한국사3』、탐구당、1997年
- 崔夢龍 他『한국사4』、탐구당、1997年
- 崔夢龍 他『시베리아 선사고고학』、주류성、2003年
- 崔夢龍 他『동북아 청동기시대 문화 연구』、주류성、2004年
- 崔夢龍 他『한성시대의 백제와 마한』、주류성、2005年
- 崔夢龍 他『경기도의 고고학』、주류성、2007年
- 崔夢龍 他『21세기 한국고고학1』、주류성、2008年
- 崔夢龍 他『21세기 한국고고学2』、주류성、2009年
- 崔夢龍 他『21세기 한국고고学3』、주류성、2010年
- 崔夢龍 他『21세기 한국고고学4』、주류성、2011年
- 崔夢龍 他『21세기 한국고고学5』、주류성、2012年
- 崔夢龍 他『세계사속에서의 한국』、주류성、2016年
- 河廷竜 訳『百済をもう一度考える』、図書出版周留城、ソウル、2004年
4.3. 主要論文
- 「Yeongsan-gang Yuyeok-eui Seonsa Yujeok Yumul [Prehistoric Sites and Artifacts Discovered form the Yeongsan-gang River Valley]」『Yeoksa Hakbo [Journal of History]』73号、1973年、67-87頁。
- 「전남지방소재 지석묘의 형식과 분류」『역사학보』78号、1978年。
- 「전남지방 지석묘 사회と 계급의 발생」『한국사연구』35号、1981年。
- 「도시·문명·국가 -미국 고고학연구의 일동향-」『역사학보』92号、1981年。
- 「한국고대국가형성에 대한 일고찰 -위만조선의 예-」『김철준박사화갑기념사학논총』、1983年。
- 「한성시대 백제의 도읍지와 영역」『진단학보』60号、1985年。
- 「삼국시대 전기의 전남지방문화」『진단학보』63号、1987年。
- Rhee Song-nai と共著「Emergence of Complex Society in Prehistoric Korea」『Journal of World Prehistory』6巻1号、1992年、51-95頁。
- 「Trade in Wiman State Formation」C. Melvin Aikens and Song-nai Rhee 編『Pacific Northeast Asia in Prehistory』Washington State University, Pullman、1992年。
- 「Origin and Distribution of Korean Dolmens」『Hanguk Sanggosa Hakbo [Journal of the Korean Ancient Historical Society]』39号、1999年。
- 「Dolmens of Korea, Archaeology」『Ethnology & Anthropology of Eurasia』2号、2000年。
- Choi Mong-Lyong と Rhee Song-Nai 共著「Korean Archaeology for the 21st century -From Prehistory to State Formation」『Seoul Journal of Korean Studies』14号、2002年。
- 「한성시대의 백제와 마한」『문화재』36号、2003年。
- 「고고학으로 본 마한」『마한·백제문화』16号、2004年。
5. 論争と辞任
2015年、崔夢龍は国定歴史教科書の代表執筆者に選定されたが、女性記者に対するセクシャルハラスメント疑惑が浮上し、その責任を取って辞任するという論争に巻き込まれた。
5.1. 国定教科書執筆者に関する論争
2015年11月3日、朴槿恵政権下で国定歴史教科書の導入が決定され、崔夢龍は国史編纂委員会からその代表執筆者の一人に選定された。しかし、この報道の直後、取材のために汝矣島の自宅を訪れた女性記者に対し、セクシャルハラスメントにあたる不適切な言動をしたと報じられた。この疑惑に対し、崔夢龍は2015年11月6日に就任辞退を表明し、女性記者への不適切言動について謝罪した。この事件は、国定教科書を巡る社会的な議論に大きな影響を与え、彼の公的な役割からの不名誉な辞任につながった。
6. 退任と名誉教授
崔夢龍は2012年2月29日にソウル大学校教授職を定年退任した。その後、ソウル大学校考古美術史学科の名誉教授に任命され、現在に至る。
7. 評価と影響
崔夢龍は、韓国の考古学界において「韓国考古学の父」と称されるほどの重要な人物である。彼の長年にわたる研究は、無文土器時代から古代国家の形成に至るまでの韓国の先史時代および古代史の理解に多大な貢献をした。特に、栄山江流域文化の研究は、彼の博士論文のテーマにもなり、この地域の歴史的意義を明らかにする上で重要な役割を果たした。また、韓国上古史学会の創設や国史教科書編纂への関与など、学術界の組織化や教育の発展にも貢献した。しかし、2015年のセクシャルハラスメント疑惑とそれに伴う公職からの辞任は、彼のキャリアにおける負の側面として記憶されている。
8. 関連項目
- K.C. Chang
- 金元龍
- 無文土器時代
- 朝鮮の先史時代
- 原三国時代
- 三国時代 (朝鮮半島)
- 鄭智海