1. 概要
アルベルト・ジョー・スアレス・スベーロ(Albert Joe Suarez Suberoスペイン語、1989年10月8日 - )は、ベネズエラ出身のプロ野球選手(投手)。右投右打。現在はMLBのボルティモア・オリオールズに所属している。
かつてはMLBのサンフランシスコ・ジャイアンツ、NPBの東京ヤクルトスワローズ、KBOリーグのサムスン・ライオンズでもプレーした経験を持つ。日本語メディアでは「アルバート」と表記されることも多い。
2. 幼少期と背景
アルベルト・スアレスはベネズエラボリバル州シウダーグアヤナで生まれた。彼の実弟であるロベルト・スアレスもまた、同じくプロ野球選手であり、投手としてMLBで活躍している。
3. 経歴
アルベルト・スアレスのプロ野球選手としてのキャリアは、マイナーリーグでの活動から始まり、メジャーリーグ、日本プロ野球、KBOリーグ、そしてベネズエラウィンターリーグと多岐にわたる。
3.1. マイナーリーグ時代
スアレスは2006年7月2日にアマチュア・フリーエージェントとしてタンパベイ・レイズと契約し、プロ入りを果たした。2008年にはルーキー級のプリンストン・レイズでプロデビューし、11試合(9先発)に登板して防御率3.92、0勝2敗を記録した。2009年にはロウA級のハドソンバレー・レネゲーズで2先発し、防御率2.79、1勝0敗の成績を残したが、この年にトミー・ジョン手術を受けている。
2010年に復帰し、GCLレイズとシングルA級のボーリンググリーン・ホットロッズで合計15試合(14先発)に登板し、防御率3.38、2勝5敗を記録した。同年11月19日には、レイズの40人枠に追加された。2011年にはGCLレイズとハイA級のシャーロット・ストーンクラブズで8試合に登板し、防御率2.15、1勝1敗。2012年にはシャーロットで25先発し、防御率4.08、5勝9敗の成績だった。同年8月31日にレイズから指定FAとなり、9月3日にウェーバーをクリアしてダブルA級のモンゴメリー・ビスケッツに配属された。2013年にはモンゴメリーで2先発し、防御率1.42を記録。同年11月4日にFAとなったが、11月12日にレイズとマイナー契約で再契約した。2014年にはシャーロットとモンゴメリーで合計14先発し、防御率3.60、4勝6敗の成績を残したが、メジャー昇格は果たせなかった。同年オフの11月8日にFAとなった。
2014年11月24日、ロサンゼルス・エンゼルスとマイナー契約を結び、春季キャンプへの招待を受けた。2015年のシーズンはダブルA級のアーカンソー・トラベラーズで開幕を迎え、27先発で防御率2.98、11勝9敗という好成績を挙げ、テキサスリーグのミッドシーズン・オールスターに選出された。同年11月6日にFAとなった。
3.2. サンフランシスコ・ジャイアンツ時代 (MLBデビュー)
2015年11月18日、サンフランシスコ・ジャイアンツとマイナー契約を結び、メジャーリーグの春季キャンプに招待された。2016年の開幕は傘下のAAA級サクラメント・リバーキャッツで迎え、AAA級では1勝2敗、防御率2.88の成績だった。同年5月6日にメジャー契約を結んでアクティブ・ロースター入りし、自身初のメジャー昇格を果たした。
2016年5月8日、コロラド・ロッキーズ戦でメジャーデビュー。リリーフとして1イニングを無失点に抑えた。同年5月11日のトロント・ブルージェイズ戦では、13回表に満塁のピンチをホセ・バティスタをポップフライに打ち取って切り抜け、自身初のメジャー勝利を挙げた。同年6月1日にはアトランタ・ブレーブス戦でメジャー初先発登板し、5イニングを投げて3失点。この試合では、イアン・クロルから内野安打を放ち、メジャー初安打と初打点を記録した。ルーキーシーズンは22試合(先発12試合)に登板し、3勝5敗、防御率4.29を記録した。
2017年は18試合に登板し、0勝3敗1セーブ、防御率5.12、34奪三振を記録した。同年12月1日にジャイアンツからノンテンダーFAとなったが、12月10日にジャイアンツとマイナー契約で再契約した。
3.3. アリゾナ・ダイヤモンドバックス時代

(2018年3月19日)
2017年12月14日に行われたルール・ファイブ・ドラフトでアリゾナ・ダイヤモンドバックスから指名され、移籍した。
2018年3月24日に指定FAとなり、3月27日にマイナー契約で傘下のAAA級リノ・エーシズへ配属された。この年はリノで63.1イニングを投げて防御率4.97、51奪三振を記録した。同年10月11日にFAとなった。
3.4. 日本プロ野球 (NPB) 時代

(2019年2月10日)
2018年12月25日、スコット・マクガフと共に東京ヤクルトスワローズと契約した。背番号は70。
2019年4月25日、対読売ジャイアンツ戦(明治神宮野球場)に先発登板し、6回を94球、被安打3、無失点の好投でNPB初勝利を挙げた。しかし、5月15日の広島東洋カープ戦で上半身のコンディション不良を訴え1回で降板。2軍での復帰は8月、1軍での復帰は9月と遅れ、結果的にこのシーズンはわずか4試合の登板にとどまった。シーズン終了後、翌年の再契約が発表され、背番号も43に変更された。
2020年は12試合に先発登板し、4勝4敗、防御率2.67という成績を残した。同年10月19日の対阪神タイガース戦(阪神甲子園球場)では、実弟のロベルト・スアレスが阪神の投手として登板。この試合はプロ野球史上初の「外国人兄弟投手が同一試合に登板」という歴史的な出来事となった。両者とも好投し、試合は引き分けに終わった。同年11月16日、推定年俸5200.00 万 JPYと出来高払いでヤクルトに残留することが発表された。
2021年はシーズン途中からリリーフに配置転換された。同年10月3日の対広島東洋カープ戦では、NPB初セーブを記録。この日、阪神の守護神である弟ロベルトもセーブを記録したため、プロ野球史上初の「外国人兄弟投手が同日にセーブを挙げる」という珍しい記録を達成した。ヤクルトは日本シリーズに進出し、スアレスも2試合に登板し、合計2.2イニングを無失点に抑えるなど、チームの優勝に貢献した。ヤクルトが4勝2敗で20年ぶり6度目の日本シリーズ優勝を決め、スアレス自身も初の日本シリーズ優勝を経験した。同年12月2日、ヤクルトの保留者名簿から外れ、退団が決定した。
3.5. KBOリーグ時代
2021年12月7日、KBOリーグのサムスン・ライオンズとの2022年シーズン契約が発表された。
2022年は30試合(先発29試合)に登板し、6勝8敗、防御率2.49を記録した。チームの得点力不足やリリーフ投手が逆転されるなどの不運が重なり、勝ち星は伸びなかったものの、防御率はリーグ4位、投球回数(173.2回)はリーグ8位(チーム最多)、奪三振(159)はリーグ6位、WHIP(1.16)はリーグ9位、クオリティ・スタート(19回)はリーグ7位と、先発投手として十分に役割を果たした。サムスンは内容を評価し、2023年も推定年俸130.00 万 USDの1年契約で再契約した。
2023年は19試合に先発登板して4勝を挙げていたが、8月6日のLGツインズ戦で左ふくらはぎの筋損傷の故障を負い、途中降板した。回復に約1カ月を要すると診断されたため、チームは新外国人投手の獲得を決定し、8月10日にウェーバー公示されて退団した。
3.6. MLB復帰後
2023年9月15日、ボルティモア・オリオールズとマイナー契約を結んだ。2024年シーズンはAAA級のノーフォーク・タイズで開幕を迎えた。
2024年4月17日、オリオールズのメジャーリーグロースターに追加された。同日の試合で先発登板し、2017年9月26日以来となるメジャーでの初打者から三振を奪い、5.2イニングを無失点に抑える好投を見せた。同年4月22日にはロサンゼルス・エンゼルス相手に4対2で勝利した試合でさらに5.2イニングを無失点に抑え、2016年6月23日以来となる約8年ぶり(2,860日ぶり)のメジャー勝利を挙げた。これは1950年代以降でトラビス・ブラックリーの2,906日に次ぐ2番目に長い間隔での勝利となった。3試合連続無失点先発の記録は、8月24日のヒューストン・アストロズ戦でホセ・アルトゥーベに先頭打者本塁打を打たれて途切れたが、チームは3対2で勝利した。最終的にレギュラーシーズンでキャリアハイとなる133.2イニングを投げ、9勝7敗、防御率3.70の成績でシーズンを終えた。
3.7. ベネズエラウィンターリーグでの活動
スアレスは、オフシーズンにベネズエラウィンターリーグにも参加している。2011年にはナベガンテス・デル・マガジャネスに所属し、2017年と2023年にはレオネス・デル・カラカスでプレーした。
4. 選手としての特徴
投球スタイルは、最速で160 km/hに達する強力な速球を軸としている。主な球種には、ツーシーム、スライダー、カーブ、チェンジアップがある。
5. 私生活
実弟のロベルト・スアレスもまたプロ野球選手であり、同じく投手としてMLBで活躍している。KBOリーグのサムスン・ライオンズ時代には、かつて東京ヤクルトスワローズでチームメイトだったデービッド・ブキャナンと再会し、またホセ・ピレラとは友人関係であった。
6. 記録と表彰
アルベルト・スアレスのプロ野球キャリアにおける主要な成績、個人記録、および特筆すべき達成事項を以下にまとめる。
6.1. 年度別成績
年度 | 登板 | 先発 | 完投 | 完封 | 無四球 | 勝利 | 敗戦 | セーブ | ホールド | 勝率 | 打者 | 投球回 | 被安打 | 被本塁打 | 与四球 | 敬遠 | 与死球 | 奪三振 | 暴投 | ボーク | 失点 | 自責点 | 防御率 | WHIP | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2016 | SF | 22 | 12 | 0 | 0 | 0 | 3 | 5 | 0 | 1 | .375 | 355 | 84.0 | 84 | 11 | 26 | 5 | 4 | 54 | 1 | 0 | 42 | 40 | 4.29 | 1.31 |
2017 | 18 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1 | 0 | .000 | 135 | 31.2 | 28 | 4 | 11 | 2 | 1 | 34 | 1 | 0 | 18 | 18 | 5.12 | 1.23 | |
2019 | ヤクルト | 4 | 4 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | .500 | 68 | 17.2 | 11 | 1 | 5 | 0 | 1 | 12 | 0 | 0 | 3 | 3 | 1.53 | 0.91 |
2020 | 12 | 12 | 0 | 0 | 0 | 4 | 4 | 0 | 0 | .500 | 285 | 67.1 | 56 | 4 | 27 | 1 | 6 | 52 | 2 | 0 | 25 | 20 | 2.67 | 1.23 | |
2021 | 24 | 13 | 0 | 0 | 0 | 5 | 3 | 1 | 3 | .625 | 339 | 77.0 | 82 | 9 | 32 | 0 | 5 | 70 | 1 | 0 | 32 | 31 | 3.62 | 1.48 | |
2022 | サムスン | 30 | 29 | 0 | 0 | 0 | 6 | 8 | 0 | 0 | .429 | 714 | 173.2 | 151 | 7 | 50 | 0 | 4 | 159 | 6 | 0 | 61 | 48 | 2.49 | 1.16 |
2023 | 19 | 19 | 0 | 0 | 0 | 4 | 7 | 0 | 0 | .364 | 479 | 108.0 | 129 | 3 | 32 | 0 | 2 | 88 | 6 | 0 | 54 | 47 | 3.92 | 1.49 | |
2024 | BAL | 32 | 24 | 0 | 0 | 0 | 9 | 7 | 0 | 1 | .563 | 565 | 133.2 | 130 | 17 | 43 | 1 | 3 | 108 | 2 | 1 | 56 | 55 | 3.70 | 1.29 |
MLB:3年 | 72 | 36 | 0 | 0 | 0 | 12 | 15 | 1 | 2 | .444 | 1055 | 249.1 | 242 | 32 | 80 | 8 | 8 | 196 | 4 | 1 | 116 | 113 | 4.08 | 1.29 | |
NPB:3年 | 40 | 29 | 0 | 0 | 0 | 10 | 8 | 1 | 3 | .556 | 692 | 162.0 | 149 | 14 | 64 | 1 | 12 | 134 | 3 | 0 | 60 | 54 | 3.00 | 1.32 | |
KBO:2年 | 49 | 48 | 0 | 0 | 0 | 10 | 15 | 0 | 0 | .400 | 1193 | 281.2 | 280 | 10 | 82 | 0 | 9 | 247 | 12 | 0 | 115 | 95 | 3.04 | 1.29 |
- 2024年度シーズン終了時
6.2. 年度別守備成績
年度 | 球団 | 投手 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
試合 | 刺殺 | 補殺 | 失策 | 併殺 | 守備率 | ||
2016 | SF | 22 | 8 | 15 | 1 | 3 | .958 |
2017 | 18 | 5 | 3 | 0 | 0 | 1.000 | |
2019 | ヤクルト | 4 | 0 | 2 | 0 | 1 | 1.000 |
2020 | 12 | 7 | 10 | 0 | 0 | 1.000 | |
2021 | 24 | 5 | 16 | 0 | 3 | 1.000 | |
2022 | サムスン | 30 | 15 | 27 | 2 | 4 | .955 |
2023 | 19 | 6 | 18 | 0 | 2 | 1.000 | |
2024 | BAL | 32 | 9 | 15 | 1 | 2 | .960 |
MLB | 72 | 22 | 33 | 2 | 5 | .965 | |
NPB | 40 | 12 | 28 | 0 | 4 | 1.000 | |
KBO | 49 | 21 | 45 | 2 | 6 | .971 |
- 2024年度シーズン終了時
6.3. 記録
6.3.1. NPBにおける記録
初記録
- 投手記録
- 初登板・初先発登板・初勝利・初先発勝利:2019年4月25日、対読売ジャイアンツ6回戦(明治神宮野球場)、6回無失点
- 初奪三振:同上、3回表に坂本勇人から空振り三振
- 初セーブ:2021年10月3日、対広島東洋カープ22回戦(MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島)、9回裏に5番手で救援登板・完了、1回無失点
- 打撃記録
- 初打席:2019年4月25日、対読売ジャイアンツ6回戦(明治神宮野球場)、2回裏に菅野智之から空振り三振
- 初安打:2019年5月2日、対横浜DeNAベイスターズ6回戦(横浜スタジアム)、3回表に今永昇太から右前安打
7. 背番号
スアレスがプロ野球キャリアを通じて使用した背番号の変遷は以下の通りである。
- 56(ジャイアンツ:2016年 - 2017年)
- 70(ヤクルト:2019年)
- 43(ヤクルト:2020年 - 2021年)
- 57(サムスン:2022年 - 2023年)
- 49(オリオールズ:2024年 - )
8. 登場曲
スアレスが打席またはマウンドに登場する際に使用した登場曲は以下の通りである。
- 「La Cadera」La Melodia Perfecta, シャーレーン & Mozart La Para(2019年 - 2021年)
- 「Sapés comme jamais (feat. Niska) - Pilule bleue」GIMS(2021年)
- 「Acordeão」Tiësto, MOSKA(2021年)