1. 生い立ちと教育
エマニュエル・マタディは1991年4月15日にリベリアの首都モンロビアで生まれた。幼少期をリベリアで過ごしたが、リベリア内戦の影響により7歳の時にアメリカへ移住した。
1.1. 高校時代
アメリカ移住後、ミネソタ州セントポールのジョンソン・シニア高校に進学した。当初はアメリカンフットボールを中心にスポーツに取り組んでいたが、高校2年生の時から陸上競技に本格的に取り組み始めた。2009年には、ミネソタ州高校リーグのクラスAA男子100mで優勝を果たすなど、学業とスポーツの両面で優れた成績を収めた。
1.2. 大学時代
高校卒業後、ルイビル大学に進学し、その後ミネソタ州立大学マンケート校に転校した。ミネソタ州立大学マンケート校在学中には、2015年5月のNCAA2部選手権において、男子100mを10秒21(+2.4 m/s)、男子200mを20秒54(0.0 m/s)でそれぞれ制し、2冠を達成するなど、大学陸上競技界で主要な業績を上げた。
2. 陸上競技キャリア
高校時代に陸上競技に転向し、大学で全国タイトルを獲得した後、プロ選手として国際舞台でリベリアを代表する活躍を見せている。
2.1. 陸上競技への転向と初期の活躍
マタディは高校時代にアメリカンフットボールから陸上競技へと転向し、その才能を開花させた。2009年にはミネソタ州高校リーグの100mでチャンピオンとなり、大学時代にはミネソタ州立大学マンケート校でNCAA2部の100mと200mで全国タイトルを獲得するなど、初期のキャリアから優れた成績を収めた。
2.2. 国際大会での代表活動
2016年6月11日以降、リベリア代表選手として国際大会に出場することが可能となり、その約10日後にはアフリカ陸上競技選手権大会に初のリベリア代表として出場した。以降、主要な国際大会でリベリアを代表する選手として活躍している。
2.2.1. オリンピック競技大会
マタディはこれまでに3度のオリンピックに出場している。
- 2016年リオデジャネイロオリンピック: リベリア選手団の旗手を務めた。男子100mでは10秒31(-0.5 m/s)で予選敗退、男子200mでは自己ベストに迫る20秒49(+0.3 m/s)のリベリア新記録を樹立したが、こちらも予選敗退に終わった。
- 2020年東京オリンピック: 男子100mに出場し、予選で10秒25を記録したが、準決勝には進めなかった。
- 2024年パリオリンピック: 男子100mに出場し、準決勝で10秒18を記録したが、決勝には進めなかった。また、男子4×100mリレーにも出場し、予選で38秒97を記録した。開会式ではテルマ・デイヴィスと共にリベリア選手団の旗手を務めた。
2.2.2. 世界陸上競技選手権大会
マタディは世界陸上競技選手権大会にも複数回出場し、短距離走で好成績を収めている。
- 2017年ロンドン大会: 男子100mで準決勝に進出し、10秒20を記録した。これはアフリカ人選手として3人目の準決勝進出だった。
- 2019年ドーハ大会: 男子100mで準決勝に進出し、10秒28を記録した。
- 2022年ユージーン大会: 男子100mで準決勝に進出し、10秒12を記録した。
- 2023年ブダペスト大会: 男子100mで準決勝に進出し、10秒04を記録した。
- 2024年グラスゴー室内大会: 男子60mで準決勝に進出し、6秒58を記録した。
2.2.3. アフリカ陸上競技選手権大会
アフリカ陸上競技選手権大会では、メダルを獲得するなど主要な成果を上げている。
- 2016年ダーバン大会: リベリア代表として初出場。男子100mで10秒24(+2.4 m/s)を記録し5位に入賞した。男子200mではウェイド・バンニーキルクらに次ぐ20秒55(+1.8 m/s)で銅メダルを獲得した。
- 2022年ポートルイス大会: 男子100mで10秒08を記録し6位に入賞した。
- 2024年ドゥアラ大会: 男子4×100mリレーに出場し、予選で40秒00を記録した。
2.2.4. アフリカ競技大会
- 2023年アクラ大会: 男子4×100mリレーで38秒73を記録し、銅メダルを獲得した。
3. 自己ベストと国内記録
マタディは複数の種目で自己ベストを更新し、リベリア国内記録(NR)も保持している。
屋外
- 100m - 9秒91(+1.2 m/s、2024年、ゲインズビル、フロリダ州)NR
- 9秒93w(+2.8 m/s、2017年、サンマルコス、テキサス州)※追い風参考記録
- 200m - 20秒07(+2.0 m/s、2023年、オースティン、テキサス州)
- 400m - 46秒30(2022年、サンアントニオ、テキサス州)
室内
- 60m - 6秒52(2022年、ルイビル、ケンタッキー州)NR
- 200m - 21秒13(2016年、アルバカーキ、ニューメキシコ州)
リベリア国内記録(NR)
- 100m: 9秒91(2024年)
- 60m: 6秒52(2022年)
- 200m: 20秒49(2016年8月16日、リオデジャネイロ)
4. 主な大会成績
年 | 大会 | 場所 | 種目 | 結果 | 記録 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
2016 | アフリカ選手権 | ダーバン | 100m | 5位 | 10秒24 (+2.4 m/s) | |
200m | 3位 | 20秒55 (+1.8 m/s) | ||||
オリンピック | リオデジャネイロ | 100m | 予選4組6着 | 10秒31 (-0.5 m/s) | ||
200m | 予選3組5着 | 20秒49 (+0.3 m/s) | リベリア記録 | |||
2017 | 世界選手権 | ロンドン | 100m | 準決勝2組6着 | 10秒20 (-0.2 m/s) | |
2019 | 世界選手権 | ドーハ | 100m | 準決勝3組7着 | 10秒28 (+0.1 m/s) | |
2021 | オリンピック | 東京 | 100m | 予選5組5着 | 10秒25 (-0.2 m/s) | |
2022 | アフリカ選手権 | ポートルイス | 100m | 6位 | 10秒08 (+1.0 m/s) | |
世界選手権 | ユージーン | 100m | 準決勝1組3着 | 10秒12 (+0.1 m/s) | ||
2023 | 世界選手権 | ブダペスト | 100m | 準決勝2組4着 | 10秒04 (-0.3 m/s) | |
2024 | 世界室内選手権 | グラスゴー | 60m | 準決勝1組4着 | 6秒58 | |
アフリカ競技大会 | アクラ | 4×100mリレー | 3位 | 38秒73 | ||
アフリカ選手権 | ドゥアラ | 4×100mリレー | 予選1組3着 | 40秒00 | ||
オリンピック | パリ | 100m | 準決勝1組8着 | 10秒18 (+0.3 m/s) | ||
4×100mリレー | 予選2組7着 | 38秒97 |
5. その他の活動
陸上競技選手としてのキャリア以外にも、エマニュエル・マタディは2018年12月にアメリカのプロレス団体WWEのトライアウトを受験するなど、多岐にわたる活動に関心を示している。
6. 評価と影響

エマニュエル・マタディは、リベリア内戦という困難な背景を乗り越え、国際的な陸上競技選手として成功を収めた人物である。彼は、母国リベリアの旗手としてオリンピックの開会式に登場するなど、スポーツを通じてリベリアを世界に知らしめる役割を果たしている。その業績と、逆境に立ち向かう姿勢は、リベリア国内だけでなく、世界中の人々に希望とインスピレーションを与えている。マタディは、単なるアスリートに留まらず、リベリアの若者たちにとってのロールモデルであり、スポーツが持つ社会的な影響力と、個人の成長の可能性を示す象徴となっている。