1. 生い立ちと背景
エルダル・ガスモフの幼少期、家族背景、教育経験、そして早期の音楽的才能は、彼の後のキャリアに大きな影響を与えた。
1.1. 誕生と家族
ガスモフは1989年6月4日にバクーで生まれた。彼の家族は、アゼルバイジャンの著名な俳優を輩出してきた伝統を持つ。具体的には、アゼルバイジャン名誉芸術家である俳優アッバス・ミルザ・シャリフザデと、ソビエト連邦人民芸術家である女優マルズィイヤ・ダヴドヴァのひ孫にあたる。また、アゼルバイジャン人民芸術家である女優フィランギズ・シャリフォヴァの孫でもある。このような芸術的な家族背景は、彼の音楽的才能を育む上で重要な環境を提供した。
1.2. 教育と初期の音楽的才能
ガスモフは非常に幼い頃から歌唱を始め、アゼルバイジャンやロシアの様々な都市で開催されたコンサートに多数参加した。2001年から2005年にかけては、専門的な音楽訓練を受け、ピアノの演奏を習得した。
彼はバクー・スラヴ大学を国際関係学と地域地理学の二重専攻で卒業した。2010年からは同大学の大学院で国際関係学を研究している。また、彼の語学力も特筆すべき点であり、母語であるアゼルバイジャン語に加えて、ロシア語とドイツ語を流暢に話し、英語も堪能である。
2. 音楽キャリア
ガスモフの音楽キャリアは、ユーロビジョン・ソング・コンテストでの輝かしい優勝を筆頭に、その後の活発なリリースや様々な専門分野での活動によって特徴づけられる。
2.1. ユーロビジョン・ソング・コンテスト2011への参加

ガスモフは、2011年ユーロビジョン・ソング・コンテストのアゼルバイジャン代表選考である「Milli Seçim Turu 2011」に参加した。彼は予選6組で10ポイントを獲得し、イルガラ・イブラヒモヴァの12ポイントに次ぐ2位で準決勝に進出した。2011年2月11日の決勝では、他の4人のアーティストと共に準決勝を突破し、ニガル・ジャマルと共にアゼルバイジャン代表としてユーロビジョン・ソング・コンテスト2011に出場する権利を獲得した。

2人は「Ell & Nikki」という名義で、スウェーデンのステファン・オルンとサンドラ・ビュルマン、そしてイギリスのイアン・ファーカソンが作曲した「Running Scared」を歌った。この曲は、ドイツのデュッセルドルフで開催された本大会で221ポイントを獲得し、見事優勝を飾った。
2.2. ユーロビジョン後の活動
ユーロビジョン優勝後、ガスモフとジャマルは、優勝曲をプロモーションするために多くの国々を巡り、パフォーマンスを行った。アゼルバイジャンでは、彼らの2011年大会での勝利を記念して、1アゼルバイジャン・マナトの額面の記念切手が15,000枚発行された。
2012年には、ガスモフはデンマーク代表選考の審査員として選ばれた5人のアゼルバイジャン人ミュージシャンの一員となった。同年1月には、ユーロビジョン優勝後初のシングルとなる「Birlikdə nəhayət」(「At last together」の意)をリリース。さらに、前年の優勝を受けて、バクーで開催されたユーロビジョン・ソング・コンテスト2012で共同司会を務めた。
2012年7月17日には、新曲「I'm Free」のアコースティックバージョンを発表し、公式ビデオは同年9月に公開された。この楽曲のオリジナルバージョンは、著名なアゼルバイジャンのDJ/プロデューサーであるALIGEEが参加しており、エグゼクティブ・レコードおよび音楽プロデューサーのファリッド(Phareed)ママドフとアリ(ALIGEE)アバスベイリによってAzeriLife Music Entertainmentのスタジオで制作された。
2.3. その他の専門的活動
ガスモフは音楽活動以外にも、様々な専門分野で活躍している。2012年10月には、自身のソーシャルネットワークアカウントで、彼が修士号を取得したバクー・スラヴ大学から国際関係のコースを教えるために採用されたことを発表した。
さらに、2021年から2022年にかけては、テレビ番組「The Voice of Azerbaijan」のシーズン2でコーチを務めた。彼の指導を受けた参加者ナディル・ルスタムリは優勝し、ユーロビジョン・ソング・コンテスト2022にアゼルバイジャン代表として出場し、16位に入賞した。
3. ディスコグラフィ
エルダル・ガスモフは、ユーロビジョン・ソング・コンテストでの成功以降、多くのシングルをリリースしている。
3.1. シングル
以下は、年代別に発表されたシングルの一覧と、それぞれの楽曲のピークチャート順位である。
年 | シングル | オーストリア | ベルギー (フランダース) | ベルギー (ワロン) | ドイツ | アイスランド | アイルランド | オランダ | ルーマニア | ロシア | スロバキア | スイス | イギリス | アルバム |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2011 | "Running Scared" (with ニガル・ジャマル) | 22 | 37 | 7 | 33 | 2 | 41 | 59 | 99 | 10 | 50 | 11 | 61 | Play With Me (ニガル・ジャマルのアルバム) |
2012 | "Birlikdə nəhayət" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 非アルバムシングル |
"I'm Free" (with Aligee) | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
2013 | "Music's Still Alive" (with ニガル・ジャマル) | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
"Heartbreaker" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Waiting" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | Waiting | |
"Ангелы" (with SoSmile Project) | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 非アルバムシングル | |
2014 | "Onu Sən De" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
"Ice and Fire" (with Zlata Ognevich) | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"In Your Head" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Anladım" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
2015 | "The One" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
"Gülümse" (with Rustam) | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Closer" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
2016 | "Sevgi Alovlandirandir" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
"1&Only" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
2017 | "Tell Me About Love" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
"Son Nəfəsim Ol" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Чи Була Любов" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Duman" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Yeni il gəlir" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
2018 | "I Miss You" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
2019 | "Rising Up" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
"Novruz Gəlir" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Məsafələr" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"I'll Find A Way" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
"Bax Uçuram" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
2020 | "Until the End" (with VoColor) | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
"Catch If You Fall" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | ||
2023 | "Break Free" | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | |
4. 遺産と影響
エルダル・ガスモフのユーロビジョン・ソング・コンテストでの優勝は、アゼルバイジャンにとって歴史的な快挙であり、国際的な舞台で同国の音楽文化を広く知らしめる上で決定的な役割を果たした。彼の勝利は、国内の音楽シーンに大きな刺激を与え、若手アーティストに国際的な成功への夢を与えた。
また、ガスモフは単なる歌手としてだけでなく、教育者やテレビ番組のコーチとしても活動することで、後進の育成にも貢献している。バクー・スラヴ大学での国際関係の教鞭や、「アゼルバイジャンの声」での指導は、彼の音楽的才能と知性を社会的に還元する姿勢を示している。彼の多言語能力と学術的背景は、国際的な交流の場でアゼルバイジャンの文化大使としての役割を果たす上で、彼をより一層特別な存在にしている。ガスモフは、音楽を通じてアゼルバイジャンと世界の架け橋となる文化的アイコンとして、今後もその影響力を拡大していくことが期待される。
5. 関連項目
- アゼルバイジャンのポピュラー音楽
- アゼルバイジャンのジャズ