1. Overview
エルマール・ガシモフ(Elmar Qasimovアゼルバイジャン語、1990年11月2日 - )は、アゼルバイジャン出身の男子柔道選手。階級は100kg級。2度のオリンピック出場経験を持ち、特に2016年のリオデジャネイロオリンピックでは銀メダルを獲得した。また、2017年の世界柔道選手権大会では銅メダル、ワールドマスターズでは2015年と2016年に2連覇を達成するなど、数々の国際大会で実績を残している。強豪選手を次々と破る柔道スタイルで知られる。
2. 生い立ちと背景
エルマール・ガシモフは、フルネームをElmar İlqar oğlu Qasımovエルマール・イルガル・オグル・ガシモフアゼルバイジャン語といい、1990年11月2日、かつてアゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国の一部であったヒルダラン(Xırdalanアゼルバイジャン語)で生まれた。1999年から柔道を始め、その才能を開花させていった。
3. キャリア
エルマール・ガシモフの柔道キャリアは、ジュニア時代から国際舞台での活躍が顕著であった。
3.1. ジュニア時代
ガシモフは2007年にキャリアで初めて成功を収め、U-20アゼルバイジャン選手権で銀メダル、U23アゼルバイジャン選手権で銅メダルを獲得し、同年のアゼルバイジャン選手権でも3位に入った。2008年には国際大会への出場を開始し、U-20世界選手権(90kg級)で7位の成績を収めた。特に2009年には、アルメニアの首都エレバンで開催されたヨーロッパジュニア選手権で優勝し、決勝ではのちにライバルとなるルカシュ・クルパレクを破った。この優勝はアゼルバイジャン国内で広く知られるようになり、エレバンでアゼルバイジャンの国歌が演奏されたことは特筆すべき出来事であった。しかし、同年開催された世界ジュニアでは5位にとどまった。
3.2. シニア時代と主要大会
シニアでのキャリアを始めたガシモフは、2009年の世界柔道選手権大会(100kg級)で伏兵ながら日本の穴井隆将を破るなどして5位に入賞した。2010年の世界選手権では7位。2011年にはワールドマスターズで5位、ワールドカップ・サンパウロとワールドカップ・タシュケントでそれぞれ3位に入った。
2012年のヨーロッパ柔道選手権大会では3位。2013年にはグランプリ・サムスンで3位、ヨーロッパ選手権で5位、グランドスラム・バクーで3位、ワールドマスターズで3位と安定した成績を残した。2014年にはグランプリ・トビリシで3位、ヨーロッパ選手権では決勝でルカシュ・クルパレクに敗れて銀メダルを獲得したものの、その後グランプリ・ブダペストで3位、グランドスラム・チュメニで優勝を飾った。

2015年はガシモフにとって飛躍の年となった。グランプリ・トビリシとグランプリ・サムスンで優勝、地元のグランドスラム・バクーで2位となった。さらに、ワールドマスターズでは世界チャンピオンであるチェコのルカシュ・クルパレクを技ありで破り優勝を果たした。同年にはグランプリ・青島とグランプリ・チェジュ、グランドスラム・東京でそれぞれ3位に入賞した。
また、2015年に開催された第1回ヨーロッパ競技大会では、アゼルバイジャン選手団の旗手を務めた。この大会の100kg級ではポルトガルのジョルジ・フォンセカに一本負けを喫し、1/16決勝で敗退した。
2016年のヨーロッパ選手権(ロシア・カザン)では5位に終わったが、その後出場したワールドマスターズでは2連覇を達成した。2017年にはグランドスラム・バクーで2位、イスラム諸国連帯競技大会で2位、世界選手権では準決勝で日本のウルフ・アロンに敗れたものの、銅メダルを獲得した。
2018年にはヨーロッパオープン・ミンスクで優勝、グランドスラム・アブダビで2位、グランプリ・タシュケントで優勝と再び好成績を収めた。2019年のグランプリ・アンタルヤでは3位。同年開催された世界選手権では銅メダル決定戦でアロン・ウルフに残り33秒で敗れ、惜しくも5位に終わった。また、2019年のヨーロッパ競技大会では銅メダルを獲得し、グランドスラム・大阪では2位となった。2020年のグランドスラム・デュッセルドルフでは3位に入賞し、2022年のグランドスラム・アンタルヤでも3位となっている。
3.3. オリンピック出場
ガシモフは2012年と2016年の2度のオリンピックに出場している。
2012年のロンドンオリンピックでは、初戦で当時の世界チャンピオンであったカザフスタンのマクシム・ラコフを破る健闘を見せたが、最終的には7位にとどまった。

世界ランキング1位で迎えた2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、大きな期待が寄せられた。初戦でロンドンオリンピック金メダリストのロシアのタギル・ハイブラエフを破るなど順調に勝ち進んだ。しかし、決勝では再び長年のライバルであるルカシュ・クルパレクに一本負けを喫し、惜しくも銀メダルに終わった。この銀メダルは、アゼルバイジャン柔道界における重要な成果となった。
4. 柔道スタイル
エルマール・ガシモフの柔道スタイルは、その得意技である肩車と、主に後の先で繰り出す小外掛が非常に特徴的である。彼の技術は、相手の動きを利用して効果的な反撃を行うことに長けており、強豪選手を相手に数々の勝利を収めてきた。身長は188 cmと、100kg級の選手としては恵まれた体格を持つ。
5. 主な戦績
エルマール・ガシモフの主要な国際大会での戦績は以下の通り。
開催年 | 大会名 | 階級 | 成績 |
---|---|---|---|
2008 | 世界ジュニア柔道選手権大会 | 90kg級 | 7位 |
2009 | 世界柔道選手権大会 | 100kg級 | 5位 |
2009 | ヨーロッパジュニア選手権 | 100kg級 | 優勝 |
2009 | 世界ジュニア柔道選手権大会 | 100kg級 | 5位 |
2010 | 世界柔道選手権大会 | 100kg級 | 7位 |
2011 | ワールドマスターズ | 100kg級 | 5位 |
2011 | ワールドカップ・サンパウロ | 100kg級 | 3位 |
2011 | ワールドカップ・タシュケント | 100kg級 | 3位 |
2012 | ヨーロッパ柔道選手権大会 | 100kg級 | 3位 |
2012 | ロンドンオリンピック | 100kg級 | 7位 |
2013 | グランプリ・サムスン | 100kg級 | 3位 |
2013 | ヨーロッパ選手権 | 100kg級 | 5位 |
2013 | グランドスラム・バクー | 100kg級 | 3位 |
2013 | ワールドマスターズ | 100kg級 | 3位 |
2014 | グランプリ・トビリシ | 100kg級 | 3位 |
2014 | ヨーロッパ選手権 | 100kg級 | 2位 |
2014 | グランプリ・ブダペスト | 100kg級 | 3位 |
2014 | グランドスラム・チュメニ | 100kg級 | 優勝 |
2015 | グランプリ・トビリシ | 100kg級 | 優勝 |
2015 | グランプリ・サムスン | 100kg級 | 優勝 |
2015 | グランドスラム・バクー | 100kg級 | 2位 |
2015 | ワールドマスターズ | 100kg級 | 優勝 |
2015 | グランプリ・青島 | 100kg級 | 3位 |
2015 | グランプリ・チェジュ | 100kg級 | 3位 |
2015 | グランドスラム・東京 | 100kg級 | 3位 |
2016 | ヨーロッパ選手権 | 100kg級 | 5位 |
2016 | ワールドマスターズ | 100kg級 | 優勝 |
2016 | リオデジャネイロオリンピック | 100kg級 | 2位 |
2017 | グランドスラム・バクー | 100kg級 | 2位 |
2017 | イスラム諸国連帯競技大会 | 100kg級 | 2位 |
2017 | 世界柔道選手権大会 | 100kg級 | 3位 |
2018 | ヨーロッパオープン・ミンスク | 100kg級 | 優勝 |
2018 | グランドスラム・アブダビ | 100kg級 | 2位 |
2018 | グランプリ・タシュケント | 100kg級 | 優勝 |
2019 | グランプリ・アンタルヤ | 100kg級 | 3位 |
2019 | ヨーロッパ競技大会 | 100kg級 | 3位 |
2019 | 世界柔道選手権大会 | 100kg級 | 5位 |
2019 | グランドスラム・大阪 | 100kg級 | 2位 |
2020 | グランドスラム・デュッセルドルフ | 100kg級 | 3位 |
2022 | グランドスラム・アンタルヤ | 100kg級 | 3位 |
6. 評価と影響
エルマール・ガシモフは、その柔道キャリアを通じて、多くの国際大会で一貫して好成績を収めてきた。特に、2016年リオデジャネイロオリンピックでの銀メダル獲得は、アゼルバイジャンの柔道界にとって歴史的な功績となった。彼は、世界チャンピオンやオリンピック金メダリストといった強豪選手を打ち破る能力を示し、その実力は国際柔道連盟(IJF)のランキングでも度々上位を維持する形で証明されてきた。2015年のヨーロッパ競技大会で旗手を務めたことは、彼が単なるアスリートに留まらず、アゼルバイジャンを代表する存在として広く認識されていることを示している。彼の活躍は、アゼルバイジャンにおける柔道の人気向上と若手選手の育成にも良い影響を与えている。