1. 生涯と教育
エンリコ・ボンビエリは、その学問的旅路をイタリアで開始し、幼少期から数学への深い関心を示した。
1.1. 生い立ちと背景
ボンビエリは1940年11月26日にイタリアのミラノで生まれた。彼は結婚しており、成人した娘がいる。若かりし頃には、アルプス山脈で野生のランなどの植物を探すことを趣味としていた。
1.2. 教育
ボンビエリは16歳であった1957年に最初の数学論文を発表した。1963年、22歳でミラノ大学においてジョヴァンニ・リッチの指導のもと数学の博士号(Laurea)を取得した。その後、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジでハロルド・ダベンポートのもとで研究を行った。
2. 経歴
ボンビエリの数学者としてのキャリアは、イタリアの著名な学術機関での教職から始まり、後にアメリカ合衆国の名門研究機関へと移った。
2.1. 職歴
期間 | 役職 | 所属機関 |
---|---|---|
1963年 - 1965年 | 助教授 | カリアリ大学 |
1965年 - 1966年 | 正教授 | カリアリ大学 |
1966年 - 1974年 | 教授 | ピサ大学 |
1974年 - 1977年 | 教授 | ピサ高等師範学校 |
1977年 - 2011年 | 教授 | プリンストン高等研究所 数学部門 |
2011年 - 現在 | 名誉教授 | プリンストン高等研究所 数学部門 |
ボンビエリは、数学界へのプロボノ活動でも知られており、外部の評価委員会での活動や、パー・エンフロの不変部分空間問題に関する論文のような極めて複雑な原稿の査読に携わった。これらの活動は、数学研究の質と厳密性を維持する上で不可欠な役割を果たしている。
3. 主要な研究と業績
エンリコ・ボンビエリは、数学の複数の分野において画期的な研究と重要な学術的業績を達成した。
3.1. 解析的整数論
ボンビエリは解析的整数論において中心的な貢献を行った。彼の研究成果には、ユーリ・リンニクが1941年に導入した大篩法の主要な応用の一つであるボンビエリ・ヴィノグラドフの定理がある。この定理は、ディリクレの算術級数定理における素数の算術級数中の分布に関する誤差項を平均化することで、大幅に改善するものであり、未だ証明されていない一般化されたリーマン予想の代わりとして用いられることもある。
3.2. ディオファントス幾何学
ボンビエリはディオファントス幾何学の分野でも研究を行った。彼の業績には、シーゲルの補題や、特定の数に対する無理数性の有効な測度に関する研究が含まれる。
3.3. 複素解析と群論
複素解析学の分野では、単葉関数における局所ビーベルバッハ予想の解決に貢献した。群論においては、リー群に関する業績があり、特に標数3のリー型有限群の一意性の証明を完成させた。これは、発表当時、有限単純群の分類における未解決のステップの一つであった。
3.4. 極小曲面と偏微分方程式
ボンビエリは極小曲面に関連する偏微分方程式の研究にも深く関わった。1969年には、エンニオ・デ・ジョルジ、エンリコ・ジュスティと共に、8次元を超える空間におけるベルンシュタイン問題を解決した。
3.5. 漸近篩法
1976年、ボンビエリは「漸近篩法」として知られる技術を開発した。この技法は、解析的整数論における重要なツールとなり、様々な数学的問題に応用されている。
3.6. 有限単純群の分類
ボンビエリは有限単純群の分類に貢献した。特に、1980年に標数3におけるリー型有限群の一意性の証明を完成させた。これは、当時の有限単純群の分類における未解決のステップの一つを埋めるものであった。
4. 受賞と栄誉
エンリコ・ボンビエリは、その卓越した数学的業績が認められ、数々の主要な賞を受賞し、学界で多くの栄誉を得ている。
4.1. フィールズ賞
1974年、ボンビエリはバンクーバーで開催された国際数学者会議でフィールズ賞を受賞した。この受賞は、彼の大篩法に関する研究と、それが素数分布に応用された功績によるものである。
4.2. その他の主要な賞
ボンビエリはフィールズ賞の他にも、以下の主要な国際賞を受賞している。
- 1966年 - カッチョッポリ賞
- 1980年 - バルザン賞
- 2006年 - ピタゴラス賞
- 2010年 - キング・ファイサル国際賞(テレンス・タオと共同受賞)
- 2020年 - クラフォード賞(数学部門)
4.3. 学術機関会員と栄誉
ボンビエリは、数多くの著名な学術機関の会員または外国人会員として選出されている。
- 1976年 - 国立リンチェイ科学アカデミー会員
- 1984年 - フランス科学アカデミー会員
- 1995年 - アカデミア・エウロペーア会員
- 1996年 - 米国科学アカデミー会員
- 2002年 - イタリア共和国功労勲章「大十字騎士」章を受章。
5. 数学界への貢献
ボンビエリは、数学界の学術的発展とコミュニティのために多大な奉仕活動と献身を示してきた。彼は外部の評価委員会で活動し、査読者として、特にパー・エンフロの不変部分空間問題に関する論文のような極めて複雑な原稿の審査に携わった。これらの活動は、数学研究の質と厳密性を維持する上で不可欠な役割を果たしている。
6. 個人的な関心
ボンビエリは数学以外の分野でも多様な関心を持っている。彼は若い頃、アルプス山脈で野生のランやその他の植物を探すことを趣味としていた。また、料理の腕前も高く、本格的な画家でもある。旅行の際には常に絵の具と筆を持ち歩いている。かつてはケンブリッジ大学のチェスチームのメンバーでもあった。最近の絵画では、IBMのチェスコンピュータ「ディープ・ブルー」がガルリ・カスパロフを破った歴史的な対局の重要な局面を、巨大なチェス盤と湖畔の風景として描いている。
7. 主要著作
エンリコ・ボンビエリは、単独または共同で数多くの重要な論文や書籍を執筆している。
7.1. 単独執筆
- Le Grand Crible dans la Théorie Analytique des Nombres (Seconde Édition), Astérisque 18, Paris 1987.
7.2. 共同執筆
- E. Bombieri, J. Vaaler, "On Siegel's lemma", Inventiones Mathematicae, Volume 73, Issue 1, 1983, pages 11-32.
- E. Bombieri, J. Mueller, "On effective measures of irrationality for ra/b and related numbers", Journal für die reine und angewandte Mathematik, Volume 342, 1983, pages 173-196.
- B. Beauzamy, E. Bombieri, P. Enflo, H. L. Montgomery, "Product of polynomials in many variables", Journal of Number Theory, 1990, pages 219-245.
- Enrico Bombieri and Walter Gubler, Heights in Diophantine Geometry, Cambridge U. P., 2006.
8. 関連項目
エンリコ・ボンビエリの研究は、いくつかの重要な数学的概念や定理にその名を残している。
- ボンビエリ・ノルム
- ボンビエリ・ヴィノグラドフの定理
- ディオファントス幾何学におけるボンビエリ・ラング予想