1. 概要
イェニー・ウォルフ(Jenny Wolfドイツ語、1979年1月31日 - )は、ドイツの元スピードスケート選手である。女子500mの世界記録保持者として知られ、ISUワールドカップでは500m種目で史上最多の優勝記録を樹立した。また、2010年バンクーバーオリンピックの女子500mで銀メダルを獲得するなど、長年にわたり世界のトップスプリンターとして活躍した。
2. 生涯と初期のキャリア
イェニー・ウォルフは1979年1月31日に旧東ドイツの東ベルリンで生まれた。身長は1.72 m、体重は72 kg。ウォルフは短距離専門のスピードスケート選手として才能を発揮し、初期のオリンピック出場では、2002年ソルトレイクシティオリンピックの500mで10位、2006年トリノオリンピックの同種目で6位と、徐々に順位を上げていった。
3. 主な成績
イェニー・ウォルフは、その競技キャリアを通じて数々の重要な業績と記録を打ち立て、特に500mと100mの短距離種目で圧倒的な強さを見せた。
3.1. オリンピック
ウォルフは複数回の冬季オリンピックに出場し、メダルを獲得した。
- 2002年ソルトレイクシティオリンピック:女子500mで10位。
- 2006年トリノオリンピック:女子500mで6位。
- 2010年バンクーバーオリンピック:女子500mで銀メダルを獲得。この大会では、世界記録保持者として金メダルが有力視されていたが、韓国の李相花にわずか0.05秒差で敗れた。
- 2014年ソチオリンピック:女子500mで6位に入賞し、現役最後のオリンピック出場となった。
3.2. 世界選手権
世界選手権大会では、ウォルフはその実力を遺憾なく発揮し、複数のメダルを獲得した。
3.2.1. 世界距離別選手権
ウォルフは世界距離別スピードスケート選手権大会の女子500m種目で特に優れた成績を収めた。
- 2007年 ソルトレイクシティ:500mで金メダル。
- 2008年 長野市:500mで金メダルを獲得し、連覇を達成。
- 2009年 バンクーバー:500mで金メダルを獲得し、3連覇を達成。
- 2011年 インツェル:500mで再び金メダルを獲得。この大会では李相花を破り、金メダルを手にした。
3.2.2. 世界スプリント選手権
世界スプリントスピードスケート選手権大会では、総合種目で以下のような成績を収めた。
- 2008年 ヘーレンフェーン:総合で金メダル。
- 2009年 モスクワ:総合で銀メダル。
- 2010年 帯広市:総合で銅メダル。
3.3. スピードスケート・ワールドカップ
ウォルフはスピードスケート・ワールドカップシリーズにおいて、女子500m種目で圧倒的な強さを誇った。
彼女は1998-1999シーズンに初めてワールドカップに参加した。2005年-2006年シーズンに500mで初の総合優勝を果たすと、その後6年連続でそのタイトルを守り続けた。
また、ウォルフは100m種目にも強く、2005-2006シーズンからその種目が廃止されるまでの全シーズンで総合優勝を達成し、4連覇を記録した。しかし、100mはオリンピックの正式種目ではないため、彼女の専門分野ではありながら、オリンピックでのメダル獲得には繋がらなかった。
2010年11月13日には、ベルリンで行われたワールドカップの500mで優勝し、この種目でのワールドカップ通算40勝目を挙げた。これは、伝説的なアメリカのスピードスケート選手ボニー・ブレアが持っていた39勝という記録を上回る、史上最多の勝利数である。
2012-2013シーズン終了時点でのワールドカップの累計ポイントは12389点で、これは女子選手の中で最も多い記録である。
3.4. 世界記録
イェニー・ウォルフは、女子500mスピードスケートの世界記録を複数回更新し、長期間にわたりその記録を保持した。
- 2007年3月10日、ソルトレイクシティで開催されたISU世界距離別選手権大会の500m2本目のレースで、37秒04を記録し、当時の女子500m世界記録を更新した。
- 同年11月16日、再びソルトレイクシティで開催されたワールドカップ大会で、37秒02を記録し、自身の持つ世界記録をさらに短縮した。
- 2009年12月11日、またしてもソルトレイクシティで行われたワールドカップ大会で、37秒00を記録し、自身の世界記録を0.02秒縮めて更新した。
この記録は2007年3月10日から2012年1月29日まで保持された。彼女が保持していた女子500mの世界記録は、2012年に中華人民共和国の于静によって更新された。また、彼女が保持していた2x500mの世界記録は、2013年12月28日にアメリカのヘザー・リチャードソンによって更新された。
4. 引退
イェニー・ウォルフは、2014年のソチオリンピックを最後にプロのスピードスケート選手としてのキャリアを引退した。
5. 評価と影響
イェニー・ウォルフは、その驚異的な短距離でのスピードと一貫したパフォーマンスにより、現代スピードスケート界を代表する選手の一人として高く評価されている。女子500mにおけるワールドカップ総合6連覇や史上最多の40勝という記録は、彼女がこの種目において並外れた支配力を有していたことを示している。また、長年にわたり世界記録を保持し続けたことは、彼女が技術と体力において当時の最高水準にあったことの証である。オリンピックでの銀メダル獲得は、彼女のキャリアにおける重要なハイライトであり、ドイツスピードスケート界に多大な貢献をした。ウォルフは、その努力と成果によって、後進の選手たちに大きな影響を与え、世界のトップアスリートとしての地位を確立した。