1. 生い立ちとユース時代
ネディム・レミリは、ハンドボール一家に生まれ、幼少期からその才能を開花させた。
1.1. 出生と家族背景
レミリは1995年7月18日、パリ南東郊外のコミューンであるクレテイユ(ヴァル=ド=マルヌ県)で生まれた。彼の父親であるカメル・レミリもまたハンドボール選手であり、キャリアの全てをUSクレテイユ・ハンドボールで過ごし、1989年にはLNHディヴィジオン・アン(フランス1部リーグ)で優勝を経験している。父親はUSクレテイユの役員も務めている。また、彼の兄弟であるメイアンもSOロモランタンやUSクレテイユ・ルシタノスでプレーするなど、レミリ家はスポーツ、特にハンドボールと深いつながりを持っている。
1.2. ユースアカデミーと初期の成長
ネディム・レミリは10歳の時、父親が所属していたUSクレテイユ・ハンドボールのアカデミーに入団し、ハンドボールを始めた。アカデミー在籍中から多くの才能を発揮し、16歳になる頃には身長が1.95 mに達するなど、身体的な成長も著しかった。この時期、レミリは将来のプロキャリアの基礎を築き、フランスのハンドボール界における有望な若手選手として注目されるようになった。
2. プロクラブ経歴
ネディム・レミリは、フランス国内のクラブでキャリアをスタートさせた後、ポーランドやハンガリーの強豪クラブへと移籍し、国際的な舞台で活躍の場を広げた。
2.1. USクレテイユ (2012-2016)
2012年10月12日、レミリは17歳でUSクレテイユ・ハンドボールのトップチームにデビューした。相手はUSDKダンケルクとのリーグ戦だった。同年、クレテイユはフランスの2部リーグであるHandball D2に降格する。しかし、フランスの主要なクラブからの関心にもかかわらず、レミリは2013年にUSクレテイユと初のプロ契約を結んだ。
翌2013-14シーズン、レミリはHandball D2でUSクレテイユの中心選手となり、チームのLNHディヴィジオン・アンへの復帰に大きく貢献した。2015-16シーズンには、USクレテイユで目覚ましいパフォーマンスを披露し、リーグのオールスターゲームに選出され、さらにはフランス男子ハンドボール代表にも招集され、2016年欧州男子ハンドボール選手権に出場する機会を得た。

2.2. パリ・サンジェルマン・ハンドボール (2016-2022)
2016年3月、レミリは多くのクラブからのオファーの中で、フランスの強豪パリ・サンジェルマン・ハンドボールと2020年までの契約を結んだ。この移籍は、彼のキャリアにおける大きな転機となった。パリ・サンジェルマンでは、国内リーグでの優勝に貢献し、欧州チャンピオンズリーグでも上位進出を果たすなど、チームの成功に欠かせない選手として活躍した。
2.3. ワームザ・インダストリア・キエルツェ (2022-2023)
2021年6月、レミリはポーランドのクラブであるワームザ・インダストリア・キエルツェ(旧KSキエルツェ)と4年契約を結んだ。彼は元チームメイトのブノワ・クンクードとともに2022年シーズンオフに同クラブに加わった。この移籍は、レミリにとって新たなリーグでの挑戦となった。
2.4. ベスプレームKSE (2023-現在)
ワームザ・インダストリア・キエルツェでの短い活動期間を経て、レミリは現在の所属クラブであるハンガリーのベスプレームKSEへ移籍した。ここでは、引き続きチームの主軸として活躍しており、国内外の大会で重要な役割を担っている。
3. フランス代表経歴
ネディム・レミリは、ユース・ジュニア世代からフランス代表に選出され、成人代表においても主要な国際大会で数々の栄光を手にしてきた。
3.1. ユース・ジュニア代表
レミリは2011年から2013年にかけてフランスU-19男子ハンドボール代表として活動し、その後2014年から2015年にはフランスU-21男子ハンドボール代表に選出された。ユース世代での活動中に、彼は2015年男子ジュニア世界ハンドボール選手権に招集されたが、肩の負傷により大会への出場を断念せざるを得なかった。皮肉にも、フランスはこの大会で世界チャンピオンの座を獲得した。
3.2. 成人代表デビューと主要大会
レミリは2016年の欧州男子ハンドボール選手権でフランス男子ハンドボール代表に初招集され、成人代表デビューを果たした。
2017年世界男子ハンドボール選手権では、自国開催ということもあり、フランス代表は優勝を飾った。レミリはこの大会でベストライトバックに選出され、その名を世界に知らしめた。
COVID-19パンデミックにより1年延期された2020年東京オリンピックのハンドボール競技では、彼の多才さがギヨーム・ジル監督に評価され、トーナメントを通じてセンターハーフの位置でプレーした。フランスはこの大会で金メダルを獲得し、レミリ個人も大会のベストセンターハーフに選ばれた。
その後もレミリは代表の主要選手として活躍を続け、2023年世界男子ハンドボール選手権ではベストセンターバックに選出され、2024年欧州男子ハンドボール選手権では大会MVPを獲得するなど、国際舞台での存在感を不動のものとしている。
3.3. 多才なプレースタイルと重要な役割
ネディム・レミリの最大の特徴は、ライトバックとセンターバックという複数のポジションを高いレベルでこなせる多才さである。このポリバレントなプレースタイルにより、彼はチームの戦術において非常に重要な役割を担っている。特に、2020年東京オリンピックのハンドボール競技では、センターハーフとして起用され、チームの攻撃を牽引した。彼のパスセンス、シュート能力、そして守備への貢献は、フランス代表が国際大会で成功を収める上で不可欠な要素となっている。
4. 功績と受賞
ネディム・レミリは、クラブとフランス代表の両方で多くの輝かしい功績を残し、個人としても数々の栄誉に輝いている。
4.1. チーム功績
- フランス代表
- オリンピック金メダル: 2020 東京
- 世界男子ハンドボール選手権優勝: 2017 フランス
- 欧州男子ハンドボール選手権銅メダル: 2018 クロアチア
- クラブ
- LNHディヴィジオン・アン昇格: 2013-14シーズン(USクレテイユ・ハンドボール所属時)
4.2. 個人賞と栄誉
- 欧州男子ハンドボール選手権MVP: 2024年
- 世界男子ハンドボール選手権オールスターチーム(ベストライトバック): 2017年
- 世界男子ハンドボール選手権オールスターチーム(ベストセンターバック): 2023年
- オリンピックオールスターチーム(ベストセンターバック): 2020年
- IHF男子クラブ世界選手権MVP: 2024年
- LNHディヴィジオン・アンベストセブン: 2015年
- LNHディヴィジオン・アン有望選手: 2015年
5. プレースタイル
ネディム・レミリは、その多才さと身体能力を活かしたプレースタイルが特徴である。主にライトバックとしてプレーするが、必要に応じてセンターバックもこなすことができる。彼の強みは、高い決定力を持つシュートと、チームメイトを活かす正確なパスワークである。また、身長の高さと体重の重さを活かした守備能力も高く、攻守にわたってチームに貢献する。特に、試合展開を読む能力に長けており、戦術的な柔軟性をもってチームの攻撃を組み立てる中心的な役割を担うことができる。
6. キャリア統計
以下は、ネディム・レミリのLNHディヴィジオン・アンにおける年度別の成績である。
年 | チーム | 試合 | フィールド得点 | 率 | 7m | 合計 | 警告 | 退場 | 失格 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2012-13 | クレテイユ | 12 | 20/42 | .476 | 0/0 | 20/42 | 1 | 0 | 0 |
2014-15 | 8 | 24/54 | .444 | 0/0 | 24/54 | 0 | 2 | 0 | |
2015-16 | 23 | 127/229 | .555 | 1/2 | 128/231 | 9 | 13 | 0 | |
2016-17 | PSG | 24 | 72/138 | .522 | 5/6 | 77/144 | 3 | 14 | 0 |
2017-18 | 25 | 108/194 | .557 | 2/5 | 110/199 | 10 | 18 | 0 | |
2018-19 | 26 | 122/204 | .598 | 4/8 | 126/212 | 4 | 11 | 0 | |
フランスD1:6年 | 118 | 473/861 | .549 | 12/21 | 485/882 | 27 | 58 | 0 |
- 各年度の太字はリーグ最高