1. 生涯と背景
ガーディニアの幼少期から兵役までの初期の人生は、彼の演技キャリアの基盤を築いた。
1.1. 誕生、幼少期、そして移住
ヴィンセント・ガーディニアは、本名ヴィンチェンツォ・スコニャミリオ(Vincenzo Scognamiglioイタリア語)として、1920年1月7日にイタリア王国(現イタリア)カンパニア州のナポリ県エルコラーノで生まれた。彼はエリサ(旧姓アウシエッロ)とジェンナーロ・エットーレ・フェデリコ・スコニャミリオ(またはジェンナーロ・ガーディニア・スコニャミリオ)の長男だった。1922年11月、彼が3歳になる直前に一家は米国へ移民し、ニューヨーク市のブルックリン区に定住した。
彼の父親は、イタリア語のメロドラマを上演する劇団を設立した。ガーディニアは幼少期から、ニューヨーク市内およびその周辺のイタリア系アメリカ人が多い地域で、この家族劇団の舞台に立っていた。彼は後に「題名は変わるが、通常は問題を起こして家出し、その後許しを乞う息子や娘についての話だった」と語っている。5歳で劇団にデビューし、靴磨きの少年役を演じた。10代のうちに性格俳優としての役割をこなすようになり、1960年まで劇団の一員として活動を続けた。これは彼がブロードウェイで初めて英語の役を演じてから5年後のことである。
1.2. 初期キャリアと兵役
ガーディニアは1940年代から役者としての活動を開始し、1945年の映画『Gメン対間諜』(The House on 92nd Street英語)で映画デビューを果たした。また、『第87警察』(Cop Hater英語)や『橋からの眺め』(A View from the Bridge英語)など、他の映画でも端役を演じた。彼の初の英語での役は1955年、ブロードウェイの舞台『In April Once』での海賊役だった。翌年の1956年、36歳でオフ・ブロードウェイデビューを飾り、『黄金の腕』(The Man with the Golden Arm英語)でピギー役を演じた。
また、ガーディニアは第二次世界大戦中に米陸軍に所属し、兵役を務めた。後に、映画『殺人狂想曲』(Little Murders英語)での自身の役を「転換点」と語っている。彼はアクターズ・スタジオの終身会員でもあった。
2. 俳優としてのキャリア
ガーディニアの俳優としてのキャリアは、舞台、映画、テレビの各媒体で多岐にわたり、その卓越した演技力で多くの賞を獲得した。
2.1. 舞台活動
ヴィンセント・ガーディニアは、ブロードウェイおよびオフ・ブロードウェイの舞台で輝かしいキャリアを築いた。彼はその演技が高く評価され、オビー賞を1960年と1969年の2度にわたって受賞している。
特に1972年には、ニール・サイモン作の『The Prisoner of Second Avenue』での演技が絶賛され、ピーター・フォークとの共演でトニー賞の助演男優賞(Tony Award for Best Featured Actor in a Play英語)を受賞した。また、1979年にはミュージカル『Ballroom』での演技が評価され、トニー賞の主演男優賞(Tony Award for Best Actor in a Musical英語)にノミネートされた。オフ・ブロードウェイでは、1960年の『Machinal』と1969年の『Passing Through From Exotic Places』で「最も優れた演技賞」(Most Distinguished Performance Award by an actor英語)を2度受賞している。
2.2. 映画活動
ガーディニアの映画キャリアは幅広く、数々の印象的な役柄を演じた。彼はアカデミー助演男優賞に2度ノミネートされている。最初は1973年に、ロバート・デ・ニーロ主演の野球映画『バング・ザ・ドラム・スローリー』(Bang the Drum Slowly英語)でのダッチ・シュネル役である。2度目は1987年の『月の輝く夜に』(Moonstruck英語)で、シェールやニコラス・ケイジと共演し、コズモ・カストリーニ役を演じた。
彼の代表作には、1974年の『狼よさらば』(Death Wish英語)とその1982年の続編『狼よさらばII』(Death Wish II英語)でチャールズ・ブロンソン演じるポール・カーシーと対峙するフランク・オチョア刑事役がある。また、ミュージカル映画『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(Little Shop of Horrors英語)では、リック・モラニス演じる主人公の陰険な花屋の雇い主、ムシュニク氏を演じた。
その他の注目すべき出演作には、『殺人会社』(Murder Inc.英語、1960年)、『ハスラー』(The Hustler英語、1961年)、『フロント・ページ』(The Front Page英語、1974年)、『Greased Lightning』(1977年)、『天国から来たチャンピオン』(Heaven Can Wait英語、1978年)、そして彼の最後の映画出演作となった『ニューヨークのいたずら』(The Super英語、1991年)などがある。彼はハリウッド映画だけでなく、出生地であるイタリアやフランスの映画にも多数出演している。
2.3. テレビ活動
テレビドラマにおいても、ヴィンセント・ガーディニアは幅広い役柄を演じ、その存在感を示した。1990年には、ヒューム・クローニンと共演したHBO制作のテレビ映画『Age-Old Friends』での演技により、エミー賞の助演男優賞を受賞した。
彼の最も記憶に残るテレビでの役柄の一つは、人気シットコム『オール・イン・ザ・ファミリー』(All in the Family英語、1973年 - 1974年)でアーチー・バンカーの隣人フランク・ロレンツォを演じたことである。このシリーズでは、初期のエピソードで隣人のジム・ボウマン役、後にはスウィングをする夫婦の一員カーティス・レンプリー役も演じている。また、1983年のミニシリーズ『ケネディ』(Kennedy英語)では、J・エドガー・フーヴァーを演じた。
1975年には『刑事コジャック』のシーズン3、エピソード13「A House of Prayer, a Den of Thieves」に、元ニューヨーク市警の刑事でコジャック警部補の親友ヴィンス・ラガーディア役で出演した。この役柄とストーリーは、ガーディニア主演の新シリーズのパイロット版として検討されたが、CBSには採用されなかった。
その他にも、『原子力潜水艦シービュー号』(Voyage to the Bottom of the Sea英語)のエピソード「Escape From Venice」や、『トワイライトゾーン』(1985年)、『スパイ大作戦』(Mission: Impossible英語、1966年)、『マニックス』(Mannix英語)、『鬼警部アイアンサイド』(Ironside英語)、『ライフルマン』(The Big Valley英語)、『逃亡者』(The Fugitive英語)など、数々の人気テレビ番組で記憶に残る演技を披露した。
3. 私生活
ヴィンセント・ガーディニアは生涯独身であり、子供はいなかった。彼は弟のラルフ・フランク・スコニャミリオ(1925年9月30日 - 2018年1月31日)によって見送られた。
4. 死去と遺産
ヴィンセント・ガーディニアの突然の死は、演劇界に衝撃を与え、彼の遺産はその後も長く称えられている。
4.1. 死去
1992年12月、ヴィンセント・ガーディニアはトム・デュラックのコメディ『Breaking Legs』に出演するためペンシルベニア州フィラデルフィアに滞在していた。彼は、このオフ・ブロードウェイのヒット作でレストランオーナーのルー・グラツィアーノ役を演じる3週間の公演をフォレスト・シアターで開始するところだった。これは、1991年5月のニューヨーク公演から彼が演じてきた役であった。
1992年12月9日午前1時頃、最終プレビュー公演の数時間後、ガーディニアは演出家のジョン・ティリンジャー、プロデューサーのエリオット・マーティン、共演者たちと夕食を共にした後、ホテルの自室に戻った。マーティンによれば、ガーディニアは体調不良の兆候を全く見せず、「陽気な夜だった」という。翌朝、ガーディニアが公演を宣伝するためのラジオインタビューに現れなかったため、広報担当のアイリーン・ガンディと共演者のヴィンス・ヴィヴェリトが異変を察知した。彼らがガーディニアのホテルの部屋に到着すると、応答がなかったため、ホテルは技術者を派遣してドアを開けた。ガーディニアは、服を着て電話を握りしめたまま心臓発作で死亡しているのが発見された。享年72歳であった。
その日の夜、演劇界の「ショーは続けなければならない」という伝統に従い、ガーディニアの死からわずか数時間後に、舞台の公式開幕公演が行われた。劇団は、そのオープニング公演をガーディニアの追悼に捧げた。その後、ハリー・ガーディノが彼のレストランオーナー役を引き継いだ。遺体は地元ニューヨークに埋葬された。
4.2. 追悼と記念
ヴィンセント・ガーディニアの功績と記憶を称えるため、様々な追悼活動が行われた。彼が死去まで居住していたブルックリン区のベンソンハースト地区にある16番街の一部は、彼の名誉を称え「ヴィンセント・ガーディニア大通り」(Vincent Gardenia Boulevard英語)と命名されている。
また、生前の1989年には、地元ブルックリンのフェスティバルで「ブルックリンのキング」(King of Brooklyn英語)の称号が彼に与えられた。これらの記念は、彼の故郷に対する貢献と、エンターテイメント業界における彼の遺産を永く伝えるものとなっている。
5. 出演作品
ヴィンセント・ガーディニアは、多数の映画やテレビ作品に出演し、幅広い役柄を演じた。
5.1. 映画
公開年 | タイトル | 役柄 | 備考 |
---|---|---|---|
1945 | Gメン対間諜 (The House on 92nd Street英語) | ドイツ人スパイ訓練生 | ノンクレジット |
1958 | 第87警察 (Cop Hater英語) | ダニー・ギンプ | |
1960 | 殺人会社 (Murder, Inc.英語) | 弁護士ラズロ | |
1961 | パリッシュ (Parrish英語) | 端役 | ノンクレジット |
1961 | 機関銃を捨てろ (Mad Dog Coll英語) | ダッチ・シュルツ | |
1961 | ハスラー (The Hustler英語) | バーテンダー | |
1962 | 橋からの眺め (A View from the Bridge英語) | リペリ | |
1965 | 第三の日 (The Third Day英語) | プレストン | |
1970 | 愛の贈りもの (Jenny英語) | ミスター・マーシュ | |
1970 | パパはどこ? (Where's Poppa?英語) | コーチ・ウィリアムズ | |
1971 | 殺人狂想曲 (Little Murders英語) | キャロル・ニュークウィスト | |
1971 | タバコのなくなる日 (Cold Turkey英語) | クインシー・L・ワップラー市長 | |
1972 | 殺人者にラブ・ソングを (Hickey & Boggs英語) | パパダキス | |
1973 | バング・ザ・ドラム・スローリー (Bang the Drum Slowly英語) | ダッチ・シュネル | アカデミー助演男優賞候補 |
1973 | コーザ・ノストラ (Lucky Luciano英語) | チャールズ・ポレッティ大佐 | |
1974 | 狼よさらば (Death Wish英語) | フランク・オチョア刑事 | |
1974 | フロント・ページ (The Front Page英語) | ピート・ハートマン保安官 | |
1975 | 霧の中の殺人者 (The Manchu Eagle Murder Caper Mystery英語) | ビッグ・ダディ・ジェサップ | |
1975 | La banca di Monateイタリア語 | サンティーノ・パレアリ | |
1976 | House of Pleasure for Women英語 | ミスター・チップス | |
1976 | ビッグ・バイオレンス (The Big Racket英語) | ペペ | |
1976 | Luna di miele in treイタリア語 | ジャーナリストのフランキー | |
1977 | ファイヤー・セール (Fire Sale英語) | ベニー・フィカス | |
1977 | Greased Lightning (Greased Lightning英語) | コットン保安官 | |
1978 | 天国から来たチャンピオン (Heaven Can Wait英語) | クリム警部補 | |
1979 | リベンジャー (Firepower英語) | フランク・ハル | |
1979 | 悪魔のファミリー (Home Movies英語) | バード医師 | |
1979 | Sensitività (Sensitivitàイタリア語) | 老画家 | |
1979 | Goldie and the Boxer (Goldie and the Boxer英語) | ダイヤモンド | |
1979 | That's Life (That's Life英語) | ||
1980 | ドリーム・マーチャント/ 夢を売る男 (The Dream Merchants英語) | ピーター・ケスラー | |
1980 | ラスト・フライト・オブ・ノアズ・アーク (The Last Flight of Noah's Ark英語) | ストーニー | |
1982 | 狼よさらばII (Death Wish II英語) | フランク・オチョア刑事 | |
1983 | Odd Squad英語 | ブリッグ将軍 | |
1985 | 映画の作り方教えます (Movers & Shakers英語) | ソール・グリッツ | |
1986 | リトル・ショップ・オブ・ホラーズ (Little Shop of Horrors英語) | ムシュニク氏 | |
1987 | 月の輝く夜に (Moonstruck英語) | コズモ・カストリーニ | アカデミー助演男優賞候補 |
1988 | Cheeeese英語 | ボンジュール | |
1988 | Cavalli si nasceイタリア語 | イル・プリンチペ | |
1989 | スキン・ディープ (Skin Deep英語) | バーニー(バーテンダー) | |
1989 | ミスター・サンデー (A Month of Sundays英語) | ||
1991 | ニューヨークのいたずら (The Super英語) | ビッグ・ルー・クリツキ | 最終映画出演作 |
5.2. テレビ
放映年 | タイトル | 役柄 | 備考 |
---|---|---|---|
1954-1957 | スタジオ・ワン (Studio One英語) | 廷吏、1stムーバー、ディック | 「十二人の怒れる男」他 |
1958 | Decoy | ブル | S1 E19「The Challenger」 |
1959 | Naked City (Naked City英語) | ||
1961 | Tallahassee 7000 | ||
1961 | アンタッチャブル (The Untouchables英語) | ジェイク・ペトリー | S3 E1「The Troubleshooter」 |
1961 | ベン・ケーシー (Ben Casey英語) | ||
1965 | ライフルマン (The Big Valley英語) | ジョン・サンプル、ブリッグス | S1 E1「Palms of Glory」他 |
1965 | 原子力潜水艦シービュー号 (Voyage to the Bottom of the Sea英語) | ベリーニ | S2 E5「Escape from Venice」 |
1967 | 逃亡者 (The Fugitive英語) | ビル・ギブス警部 | S4 E20「There Goes the Ball Game」 |
1967 | マニックス (Mannix英語) | エディ・コルティナ | S1 E2「Skid Marks on a Dry Run」 |
1967 | アイ・スパイ (I Spy英語) | メラード博士 | S2 E23「Get Thee to a Nunnery」 |
1967 | ラット・パトロール (The Rat Patrol英語) | センティス大佐 | S1 E27「Take Me to Your Leader Raid」 |
1967 | ザ・モンキーズ (The Monkees英語) | ブルーノ | S1 E17「The Case of the Missing Monkee」 |
1967 | ガンスモーク (Gunsmoke英語) | チャールズ・シェパード | S12 E24「Noose of Gold」 |
1967-1968 | スパイ大作戦 (Mission: Impossible英語) | ヴィトー・ルガーナ、ルー・パルマ | S2 E11,12「The Council」、S3 E5「The Execution」 |
1968 | 鬼警部アイアンサイド (Ironside英語) | ロイ・ファーバー | S1 E22「Something for Nothing」 |
1971 | 警部マクロード (McCloud英語) | バーニー・スウィートウォーター | S2 E2「Top of the World, Ma!」 |
1972 | 命がけの青春/ ザ・ルーキーズ (The Rookies英語) | ソール | S1 E8「Dirge for Sunday」 |
1972 | Love American Style (Love American Style英語) | ミスター・クーパーマン | S4 E4「Love and the Girlish Groom」 |
1972 | Maude (Maude英語) | モーターマン判事 | S1 E6「The Ticket」 |
1973-1974 | オール・イン・ザ・ファミリー (All in the Family英語) | フランク・ロレンツォ | 過去にはジム・ボウマン、カーティス・レンプリーも演じた |
1975 | 刑事コジャック (Kojak英語) | ヴィンス・ラガーディア | S3 E13「A House of Prayer, a Den of Thieves」 |
1977 | メアリー・タイラー・ムーア・ショー (The Mary Tyler Moore Show英語) | フランク・コールマン | S7 E24「The Last Show」 |
1979 | 伝説のボクサー/ ロッキー・マルシアーノ (Marciano英語) | ||
1979 | ゴールディとチャンピオン (Goldie and the Boxer英語) | ||
1980 | ドリーム・マーチャント/ 夢を売る男 (The Dream Merchants英語) | レイ・ストーラー | 全8エピソードで主演 |
1980-1981 | Breaking Away (Breaking Away英語) | レイ・ストーラー | 主演(全8話) |
1982 | 敏腕刑事メアリー (Muggable Mary, Street Cop英語) | ||
1983 | ケネディ (Kennedy英語) | J・エドガー・フーヴァー | |
1985 | N.Y.市警ブラス (Brass英語) | ||
1985 | トワイライトゾーン (The Twilight Zone英語) | ハリー・フォーク | S1 E3「Healer」 |
1987 | Un siciliano in Siciliaイタリア語 | ||
1989 | Age-Old Friends (Age-Old Friends英語) | エミー賞受賞 | |
1990 | The Tragedy of Flight 103: The Inside Story (The Tragedy of Flight 103: The Inside Story英語) | ||
1990 | レイ・ブラッドベリ・シアター (The Ray Bradbury Theater英語) | ||
1990 | L.A.ロー 七人の弁護士 (L.A. Law英語) | マレー・メルマン | 7エピソード |
1991 | American Experience - Coney Island (American Experience - Coney Island英語) |