1. 生い立ちと教育
江啓臣は1972年3月2日に台湾省台中県豊原鎮(現:台中市豊原区)で生まれた。幼少期から中学校までを故郷の台中市で過ごした後、国立政治大学で外交学を学んだ。
その後、アメリカ合衆国に留学し、ピッツバーグ大学で公共国際事務の修士号を、サウスカロライナ大学で国際関係学の博士号を取得した。彼の博士論文のテーマは「グローバル化と現代政治経済における国家の役割:1980年代と1990年代の台湾とインド」であった。
1.1. 軍務
江啓臣は中華民国の義務兵役を履行した。彼は陸軍の特殊部隊である第101両棲偵察大隊に所属し、伍長の階級で名誉除隊した。
2. 学術的経歴
政治家としてのキャリアを始める前、江啓臣は学術分野で活動していた。彼は東呉大学政治学科で専任の助理教授、後に専任の副教授を務めた。
また、台湾経済研究院では副研究員、国際処副処長、国際処代理処長など複数の役職を歴任した。さらに、中華台北APEC研究中心の副執行長や、太平洋経済協力会議中華民国委員会の副秘書長も務めた。
3. 政治経歴
江啓臣の政治経歴は、行政院新聞局長への就任から始まり、その後立法委員を4期務め、中国国民党主席、そして現在の立法院副院長に至るまで、多岐にわたる。
3.1. 行政院新聞局長
2010年、馬英九政権下で行政院新聞局長に任命された。当時、彼は「少年胡志強」と呼ばれ、その若さと手腕が注目された。
2011年4月、立法委員選挙への出馬のため、新聞局長を辞任した。後任には楊永明が就任した。この選挙では、彼を含め5人の元新聞局長が立候補した。
3.2. 立法委員
江啓臣は2012年の選挙で初めて立法委員に当選し、その後2016年、2020年、2024年と4期連続で再選を果たした。彼は第8期から第11期まで立法委員を務めている。
2015年には、立法院の憲法改正委員会の5人の招集人の一人に選ばれた。2016年には、劉世芳と共に外交・国防委員会の招集人としての職務を分担した。
3.3. 中国国民党主席
2020年1月25日、呉敦義の辞任を受けて、江啓臣は2020年中国国民党主席選挙への立候補を表明した。同年3月7日に行われた選挙では、ベテランの郝龍斌を破り、中国国民党主席に選出された。彼は2020年3月9日に主席に就任し、党の改革を推進することを誓った。
在任中、江啓臣は両岸関係において重要な立場を表明した。2021年3月には、香港での抗議活動や台湾人が政治的自由を重んじる価値観を挙げ、「一国二制度」が台湾にとって実行可能なモデルではないと明確に否定した。また、2019年9月4日には香港の民主活動家である黄之鋒や朱凱廸と会談し、香港の民主化運動への支持を表明した。彼は「九二共識」の見直しにも前向きな姿勢を示した。
2021年9月25日に行われた国民党主席選挙では再選を目指して立候補したが、朱立倫と張亜中に次ぐ3位に終わり、同年10月5日に朱立倫が後任として主席に就任した。
3.4. 立法院副院長
2024年1月13日の総統・立法委員選挙で、江啓臣は4期目の立法委員に当選した。その後、2024年2月1日に行われた立法院副院長選挙で、中国国民党の指名を受け、54票の過半数を得て第11期立法院の副院長に選出された。現在もこの職を務めている。
3.5. 台中市長選挙への出馬
2017年10月、江啓臣は台中市長選挙への出馬意向を表明し、盧秀燕に次いで中国国民党から二人目の立候補表明者となった。しかし、2018年2月に行われた国民党の台中市長予備選挙のための世論調査では、盧秀燕に僅差で敗れ、候補者指名を獲得することはできなかった。
4. 思想と政治的立場
江啓臣は学術的な背景を持つ政治家であり、特に国際政治経済学の分野に精通している。彼の政治的立場は、台湾の民主主義と自由を強く擁護する姿勢によって特徴づけられる。
両岸関係においては、中華人民共和国が提唱する「一国二制度」モデルに対し、香港での状況を例に挙げ、台湾にとって受け入れられないものであると明確に反対している。彼はまた、「九二共識」についても見直しに前向きな姿勢を示しており、党内における対中政策の議論に新たな視点をもたらした。
香港の民主化運動に対しては、積極的に支持を表明し、現地の活動家との会談も行っている。これは、彼の政治的自由と人権に対する強いコミットメントを示している。彼の政治哲学は、台湾の主権と民主的価値観の維持を重視し、国際社会における台湾の地位向上を目指すものである。
5. 個人生活と家族
江啓臣は劉盛良元立法委員の娘と結婚しており、二人の子供がいる。
彼の民族的背景は客家系である。先祖は乾隆時代に広東省潮州府潮陽県貴山都に住んでいた江敦厚が台湾に渡り、現在の台中市清水区に定住した。その子孫は苗栗県苗栗市、頭屋郷、珠蘭郷、台中市の新集落、豊原区などに居住している。彼らの祖先は福建省漳州府詔安県から来ており、客家族に属する。
江啓臣の家族には、政界や社会に影響力を持つ人物が複数いる。
- 祖父:江水源(元豊原市東陽里里長)
- 父:江海泉
- 叔父:江秋桂(元豊原市農会理事長)
- 岳父:劉盛良(元立法委員)
- 堂叔父:江春男(司馬文武の筆名で知られる。元国家安全会議副秘書長)
- 堂伯公:江漢津(二二八事件の被害者)
- 妻舅:劉哲彰(現職新北市議員)
6. 評価と影響
江啓臣は、その学術的背景と若さ、そして中国国民党主席としての改革への意欲から、台湾政界において注目される存在である。
6.1. 肯定的評価
彼は行政院新聞局長や立法委員としての実務経験に加え、中国国民党主席という要職を務めたことで、党の若返りと改革を象徴する人物として評価された。特に、香港の民主化運動への支持表明や「一国二制度」への明確な反対姿勢は、台湾の民主主義と自由を守る立場を鮮明にしたものとして肯定的に受け止められている。また、学術的な知見を政治に活かす姿勢も評価されている。
6.2. 批判と論争
提供された情報源には、江啓臣に対する具体的な批判や論争に関する詳細な記述は見られない。
6.3. 受賞歴と注目
2021年2月18日、江啓臣はアメリカのタイム誌が毎年発表する「次世代の100人」(Time 100 Next)に選出された。これは、彼が台湾の若手政治家として国際的にも注目されていることを示している。
