1. 概要
藤浪晋太郎は、大阪府堺市南区出身のプロ野球選手(投手)である。NPBの阪神タイガースで10シーズンプレーした後、MLBへ移籍し、オークランド・アスレチックス、ボルチモア・オリオールズ、ニューヨーク・メッツを経て、現在はシアトル・マリナーズ傘下に所属している。高校時代には大阪桐蔭高校のエースとして春夏連覇を達成し、「浪速のダルビッシュ」と称された。プロ入り後も、その長身から繰り出される速球と多彩な変化球で注目を集め、NPBでは最多奪三振のタイトルを獲得。MLBでは日本人投手史上最速となる165.1 km/hを記録した。しかし、プロキャリアを通じて制球難に苦しみ、その原因については様々な議論が交わされたが、科学的なアプローチや肉体改造を通じて克服に努めてきた。
2. 生涯とアマチュア時代
藤浪晋太郎は、幼少期から野球に打ち込み、その非凡な才能と身体能力は早くから注目された。高校時代には全国的な注目を集めるエースとして活躍し、数々の記録を打ち立てた。
2.1. 幼少期と教育
藤浪晋太郎は1994年4月12日に大阪府堺市南区で生まれた。小学1年生で「竹城台少年野球部」に入団し野球を始めた。幼少時代は父親と共に読売ジャイアンツの試合をテレビで見ていた影響で、巨人ファンであった。
堺市立宮山台中学校時代は「大阪泉北ボーイズ」に所属し、主に投手を務め、球速は最速142 km/hを記録していた。中学3年時にはAA世界野球選手権大会(現18U野球ワールドカップ)の日本代表に選出され、世界大会に出場した。小学校卒業時で180.2 cm、中学校卒業時で194 cmの身長があった。また、2歳から中学3年まで水泳を続け、泳力検定1級を取得している。学生時代の得意教科は英語で、幼少期から英語教室に通い、中学3年で英語検定準2級を取得した。
2.2. 高校時代(大阪桐蔭高校)


2010年に大阪桐蔭高校へ進学し、1年夏からベンチ入り、2年春からエースとなった。1年後輩にあたる森友哉とバッテリーを組み、3年春のセンバツでは史上初の全5試合で150 km/h以上を計測し優勝に貢献した。
同年夏の甲子園では、準決勝の明徳義塾戦を9回2安打無失点8奪三振、決勝の光星学院戦では9回2安打無失点、決勝史上最多タイの14奪三振、決勝史上最速となる153 km/hを記録する2日連続の2安打完封投球で勝利し、史上7校目の春夏連覇を達成した。準決勝、決勝の連続完封は20年ぶりの快挙であった。甲子園での通算成績は76回を投げて防御率1.07、90奪三振を記録している。
2.3. 国際アマチュアキャリア
高校時代の2012年秋には、第25回AAA世界野球選手権大会の日本代表に選出された。この大会では2次ラウンドの3連投を含む計4試合で24と1/3回を投げて防御率1.11の成績を残し、ベストナインに相当する「オールスターチーム」に選出された。さらにこの大会での活躍などから、後に国際野球連盟の2012年18歳以下男子年間最優秀選手に選ばれた。10月のぎふ清流国体でも仙台育堂高校と同時優勝し、松坂大輔を擁した横浜高校以来となる史上3校目の「高校三冠」を達成した。
3. プロキャリア
藤浪晋太郎は、日本プロ野球(NPB)の阪神タイガースで輝かしいデビューを飾り、一時はリーグを代表する投手となった。しかし、キャリアの途中で制球難に苦しみ、苦難の時期を経験した。その後、MLBへの挑戦を果たし、新たな舞台で再起を図っている。
3.1. 日本プロ野球(NPB)
阪神タイガースでの10年間は、華々しい活躍と苦悩が交錯する時期であった。
3.1.1. 阪神タイガース
阪神タイガースでのキャリアは、高卒新人としては異例の速さで始まった。
3.2. メジャーリーグベースボール(MLB)
NPBでの経験を経て、藤浪はメジャーリーグという新たな舞台に挑戦した。
3.2.1. MLB移籍と初期適応
2022年12月1日、阪神タイガースは藤浪のポスティングシステムを利用したMLBへの移籍を容認した。これにより、MLBの球団は30日間彼と交渉する権利を得た。代理人はスコット・ボラスが務めた。
3.2.2. オークランド・アスレチックス
2023年1月13日、藤浪はオークランド・アスレチックスと1年総額325.00 万 USD(約4億3900万円)の契約を結んだ。背番号は「11」となった。
この年、藤浪は開幕ロースター入りを果たし、4月1日のロサンゼルス・エンゼルス戦でMLB初登板したが、2回1/3を投げて8失点という結果に終わり、敗戦投手になった。その後も先発で失点を重ねたため、4月25日にブルペンへ配置転換された。リリーフとしては成績が改善し、アスレチックスでの最後の20登板では防御率3.32、21と2/3回で22奪三振を記録した。特に6月以降は、19と1/3回を投げて20奪三振、防御率3.26と好投。6月18日のレッドソックス戦では1回無失点と好投し、20日から11試合連続無四球という成績を残した。7月の月間成績は7試合登板で2勝1敗1ホールド、防御率2.25だった。
3.2.3. ボルチモア・オリオールズ

2023年7月19日、藤浪は投手イーストン・ルーカスとのトレードでボルチモア・オリオールズへ移籍した。背番号は「14」となった。
7月21日のタンパベイ・レイズ戦で7回に2番手(リリーフ)として移籍後初登板したが、先頭打者のホセ・シリに初球高めのストレート(159 km/h (99 mph)・約159.9 km/h)を投げたが、それをうまく捉えられソロ本塁打を打たれた。だが後続の打者を抑え1回を投げきり、1被本塁打1奪三振1失点でマウンドを降りた。8月7日に行われたメッツ戦の8回に救援登板し、移籍後初のホールド、日本人投手最速となる165 km/h (102.6 mph)(約165.1 km/h)を記録した。8月13日のシアトル・マリナーズ戦では、延長10回に登板し、プロ入り後、日米通じて初となるセーブを記録した。9月5日にはロサンゼルス・エンゼルス戦で2度目のセーブを挙げた。オリオールズでの30登板では、防御率4.85、29と2/3回で32奪三振を記録した。シーズン終了後の11月2日にFAとなった。
3.2.4. ニューヨーク・メッツ
2024年2月14日、藤浪はニューヨーク・メッツと1年総額335.00 万 USD(約5億300万円)の契約を結んだ。背番号は再び「19」となった。
3月24日、オープン戦から制球難に苦しみ、5登板で防御率12.27と結果を残せず、AAA級シラキュース・メッツへのマイナー降格が発表された。5月14日にメジャー昇格するも、右肩痛を理由として同日に故障者リスト入りした。6月5日から60日間の故障者リストに移行。AAAでは14試合に登板して1勝0敗、防御率10.95。12と1/3回を投げ27四死球だった。7月26日にメジャー選手登録の40人枠から外され、DFAとなった。そのままMLBで投げることは無かった。オフの11月1日にFAとなった。
3.2.5. シアトル・マリナーズ
2025年1月17日、藤浪はシアトル・マリナーズとマイナー契約を結び、スプリングトレーニングへの招待も含まれることが発表された。メジャーでプレーした場合の年俸は135.00 万 USDとなる。
4. 国際大会キャリア
藤浪晋太郎は、ユース世代からシニア代表まで、複数の国際大会で日本代表としてプレーした経験を持つ。
彼はまず、ユース世代の投手として2009年U-16世界選手権と2012年U-18世界選手権で侍ジャパンの一員として活躍した。
プロ入り後も、2014 MLB Japan All-Star Seriesの日本代表に選出された。また、2017 ワールド・ベースボール・クラシックでは日本代表として1度登板し、中国戦で4奪三振を記録する一方で、1四球と1死球を与えた。
5. 投球スタイルと特徴
藤浪晋太郎の投球は、その恵まれた身体的特徴と独特のフォームから繰り出される速球が最大の武器である。しかし、キャリアを通じて制球難という課題に直面し、その原因と克服への取り組みは常に注目されてきた。
5.1. 身体的特徴と投球フォーム
藤浪は恵まれた体格を持ち、身長は0.2 m (6 in)(約198 cm)、体重は98 kg (215 lb)(約97.5 kg)とされている。スリークォーターの投球フォームからボールを繰り出す。長身を活かしボールに角度をつけることよりも、打者との距離の近さを意識しているという。
5.2. 球種と球速
主な球種は、平均球速約158.4 km/h(2023年シーズン)、最速165.1 km/h(日本人投手歴代最高球速記録)の動く速球(フォーシーム、ツーシーム)である。これら速球とスライダーに近いカットボールで全投球の9割を占める。その他に平均約141 km/hのスプリット、スライダー、カーブも使用する。スプリットは高い空振り率を誇る。
5.3. 制球難と分析
藤浪はプロキャリアを通じて制球難が課題とされており、NPBでの10シーズンでは9イニングあたり4.2四球を許している。MLBに移籍した2023年には、その四球率は9イニングあたり5.1に悪化した。
この不調の原因として「イップスの発症である」とする声が複数挙がり、様々な憶測を呼んだ。特に2017年は右打者の内角への制球に苦しみ、右打者の頭部付近への死球をきっかけに乱闘騒ぎを引き起こした他、二軍でも頭部死球による危険球退場を経験した。
これに対し、一部の野球解説者・評論家は藤浪の制球難をイップスと断定することに否定的な立場を示している。阪神OBである江本孟紀は、2016年の時点で心の問題ではなく走り込み不足が要因であることを指摘していた。桑田真澄は2018年3月に行った藤浪との対談で「藤浪くんに足りないのは技術力」と述べている。また、谷繁元信、落合博満、2019年秋季キャンプから臨時コーチとして藤浪を直接指導している山本昌なども、制球難における要因はメンタル面ではなくあくまで技術面の問題であると指摘している。
藤浪本人は自身の制球難について「技術的根拠がなくフィーリングだけでやってきた」ことが要因である可能性に自ら言及している。前述の乱闘を引き起こした際には、試合中に捕手の梅野隆太郎に対して「直球のリリースの感覚がないんです」と告白していたことを明かしている。2017年のシーズンオフに取り組んだ本格的な動作解析により、疲労の蓄積や筋肉量の増大などによって「体の使い方のズレ」が生じていることが判明。その結果、体を正しく操るための技術が不足していることが制球難の要因であると結論付けられるに至った。それ以降は各年のオフ期間を中心に、様々な科学的・理論的アプローチから身体機能を解析・分析し「安定して立ち返れる場所」、新たな「技術的根拠」の確立に取り組んでいる。また、ダルビッシュ有やクレイトン・カーショウらとの合同自主トレでは、大幅な肉体改造などにも取り組んだ。
藤浪の制球難による与死球は他球団や選手からも警戒されており、藤浪が先発時には相手チームは右打者の主力選手をスタメンから下げる他、右打者に左の代打を連発されている。
6. 人物像とその他の活動
藤浪晋太郎は、野球選手としての顔だけでなく、多趣味で勤勉な一面も持っている。
6.1. 家族と趣味
藤浪の愛称は「フジ」である。幼少の頃から、勤勉で地道な努力を弛まない性格であり、読書も好きで、野球関係の本以外にも東野圭吾や山田悠介の小説を好んでいる。2014年からはアコースティックギターを始め、2015年の春季キャンプではキャンプ地にも持ち込んでいる。
毎シーズンオフの自主トレーニングのスタート場所には母校・大阪桐蔭高のグラウンドを選んでおり、「自分自身の原点。いい時の経験、苦しかった時の経験を思い出す場所に立ち返るところから始めたい」と語っている。また、自主トレなどで同校グラウンドを訪れる際には、当高校野球部監督の西谷浩一が大好物である、スナック菓子の「ベビースターラーメン」を差し入れすることが毎年恒例であり、さらに同菓子を差し入れる数量は年々増加する一方となっている(2016年・600袋、2017年・750袋、2018年・780袋、2019年・800袋)。なお2019年1月には、「ベビースターラーメン」の製造会社・おやつカンパニーよりこの話題提供の貢献が認められて、同社から藤浪へ感謝状と非売の御礼品などが贈られている。
阪神では梅野隆太郎、岩貞祐太、岩崎優らと親交が深い。他球団では前田健太、大瀬良大地、大谷翔平、則本昂大、ダルビッシュ有らと親交があり、オフには合同での自主トレーニングも度々行なっている。
6.2. メディアと社会活動
藤浪は複数のCMに出演している。上新電機のCMには2014年2月から2018年1月まで出演し、チームメイトの能見篤史・西岡剛(後に上本博紀・梅野隆太郎、岩貞祐太と共演)と共に出演した。阪神所属の選手では史上最年少(19歳)でCMデビューを果たした。また、阪神電気鉄道の「阪神沿線物語」第2話(2014年2月22日 - )では、物語の主人公である佐藤江梨子・神田伸一郎(ハマカーン)などが登場するシーンの一部に、甲子園球場で登板した試合の映像が使用された。
単独で取り上げられた主なテレビ番組には、アスリートの魂(2013年6月10日、NHK BS1)、情熱大陸(2014年4月20日、毎日放送)がある。阪神在籍中の選手では4人目、生え抜きの選手では初めて『情熱大陸』に出演した。
2021年1月26日にはInstagramアカウントを開設し、ファンとの交流も行っている。
7. 記録と受賞歴
藤浪晋太郎は、NPBとMLBの両方で数々の記録を樹立し、多くの賞を受賞してきた。
7.1. NPB記録と受賞歴
7.1.1. タイトル
- 最多奪三振:1回(2015年)
7.1.2. 表彰
- 月間MVP:1回(2013年8月)
- セ・リーグ連盟特別表彰:1回(新人特別賞:2013年)
- オールスターゲームMVP:1回(2015年第1戦)
- ヤナセ・阪神タイガースMVP賞:1回(2013年)
- サンスポMVP大賞:3回(2013年 - 2015年)
- 関西スポーツ賞:1回(2016年)
7.1.3. NPB初記録
7.2. MLB記録と受賞歴
7.2.1. 初記録
7.3. 特別記録
- 7者連続奪三振:2014年8月1日、対横浜DeNAベイスターズ13回戦(阪神甲子園球場) ※球団タイ記録
- セ・リーグクライマックスシリーズ最年少勝利投手:20歳6か月、2014年10月15日、対読売ジャイアンツ1回戦(東京ドーム)、7回1失点
- ポストシーズン球団最年少勝利投手:同上
- 32回連続無失点:2015年
- 1イニング4奪三振:2016年7月29日、対中日ドラゴンズ16回戦(阪神甲子園球場)、7回表に高橋周平・堂上直倫・松井雅人(振り逃げ)・大島洋平から ※史上19人目(セ・リーグ11人目、他球場で横浜DeNAベイスターズの石田健大も対広島東洋カープ15回戦〈MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島〉の7回裏に記録しており同日2人は史上初)
- 投手による満塁本塁打:2018年9月16日、対横浜DeNAベイスターズ20回戦(横浜スタジアム)、3回表に田中健二朗から左越満塁本塁打 ※1999年のバルビーノ・ガルベス以来、21世紀初
- 開幕投手:2回(2021年、2022年)
- オールスターゲーム出場:4回(2013年、2014年、2015年、2016年)
- NPB通算1000奪三振:2022年9月9日、対横浜DeNAベイスターズ23回戦(横浜スタジアム)、4回裏に宮﨑敏郎から空振り三振 ※史上154人目、史上8番目の速さ
- 日本人投手歴代最高球速:165.1 km/h(2023年8月7日、対ニューヨーク・メッツ戦)
8. 関連項目
- 大阪府出身の人物一覧
- 阪神タイガースの選手一覧
- メジャーリーグベースボールの選手一覧 F
- 日本出身のメジャーリーグベースボール選手一覧
- 大谷・藤浪世代