1. 初期生い立ちとユース経歴
ルシアーノ・ナルシンは1990年9月13日にオランダのアムステルダムで生まれた。彼のルーツはインド系スリナム人の家系にある。幼少期よりサッカーを始め、ユース時代にはゼーブルヒア、AZ、アヤックスなどの名門クラブの育成組織に所属した。2006年から2008年まではSCヘーレンフェーンのユースチームでプレーし、プロのキャリアを築くための基礎を固めた。
2. クラブ経歴
ルシアーノ・ナルシンは、オランダのエールディヴィジのクラブでプロデビューを果たした後、プレミアリーグを含む複数の国のクラブで経験を積んだ。
2.1. SCヘーレンフェーン
2008年、ナルシンはSCヘーレンフェーンと2013年までの契約を結び、プロキャリアをスタートさせた。同年10月29日には、トロン・ソリード監督のもと、エールディヴィジのフィテッセ戦(0-2で敗戦)で公式デビューを果たし、負傷したダニエル・プラニッチに代わって出場した。その1ヶ月後にはFCトゥウェンテとのアウェイ戦(0-6で敗戦)にも出場した。2009-10シーズンには2試合に出場するに留まったが、翌2010-11シーズンにはロン・ヤンス監督のもとで頭角を現した。彼のドリブルスキル、スピード、そしてパスの動きがエールディヴィジで大きな注目を集め、ロイ・ベーレンスをレギュラーから外すほどの存在となった。
2011-12シーズンには、ナルシンは20アシストを記録し、その年のエールディヴィジで最多アシスト王に輝いた。この活躍が評価され、2012年7月15日、SCヘーレンフェーンはPSVアイントホーフェンとナルシンの移籍について合意した。移籍金は410.00 万 EURであった。
2.2. PSVアイントホーフェン
PSVアイントホーフェンでの最初のシーズンの前半、ナルシンは6ゴール5アシストを記録し、PSVは13試合中11勝を挙げて首位を快走した。しかし、シーズン後半にはNACブレダ戦で深刻な靭帯損傷を負い、残りのシーズンを棒に振ることになった。2013年10月に復帰を果たしたものの、ディック・アドフォカート監督に代わって就任したフィリップ・コクー監督はナルシンをリスクとして見なし、出場機会は多くなかった。
しかし、2014-15シーズンの王者アヤックス戦では、メンフィス・デパイの同点ゴールをアシストした後、自らもゴールを決め、3-1での勝利に貢献し、怪我からの完全復活を印象付けた。2015年4月18日には、ヘーレンフェーン戦でルーク・デ・ヨングの先制点をアシストし、自らも追加点を挙げるなど4-1の勝利に貢献。これにより、PSVは2008年以来となる22回目のエールディヴィジ優勝を果たした。さらに、2015-16シーズンにもエールディヴィジ連覇に貢献した。
2.3. スウォンジー・シティ
2017年1月12日、ナルシンはプレミアリーグのスウォンジー・シティへ移籍金400.00 万 GBPで加入し、2年半契約を結んだ。スウォンジーではワトフォード戦で決勝ゴールを挙げるなど、最初の2年間は定期的に試合に出場した。しかし、チームがEFLチャンピオンシップに降格した2018-19シーズンは、わずか2試合の出場にとどまり、ほとんど出場機会を得られなかった。この状況についてナルシンは、「監督は僕を使いたいと言ってくれたが、クラブのオーナーが許さなかった」とコメントしている。2019年5月18日、クラブは契約満了に伴うナルシンの退団を発表した。
2.4. フェイエノールト
スウォンジー・シティとの契約満了後、2019年7月5日にフェイエノールトと2年契約を締結した。同年8月8日には、2019-20 UEFAヨーロッパリーグ予選3回戦のFCディナモ・トビリシ戦で移籍後初ゴールを記録し、チームの4-0での勝利に貢献した。
2.5. その後のクラブ経歴
2021年1月22日、ナルシンは半年間の期限付き移籍でFCトゥウェンテへ移籍した。その後、2021-22シーズンにはオーストラリアのAリーグ・メンに所属するシドニーFCでプレーした。2022-23シーズンにはポーランドのエクストラクラサに所属するミエジュ・レグニツァに在籍し、リーグ戦29試合に出場して5ゴールを記録した。また、同シーズン中にミエジュ・レグニツァのセカンドチームであるミエジュ・レグニツァIIで1試合に出場している。2023年からはキプロス・ファーストディビジョンのネア・サラミス・ファマグスタFCでプレーしている。
3. 代表経歴
ルシアーノ・ナルシンは、オランダの年代別代表で活躍した後、A代表に招集された。U-21代表でのプレーを経て、2012年2月にはベルト・ファン・マルワイク監督により、イングランドとの親善試合のために初めてオランダ代表のシニアチームに招集された。同年5月7日には、UEFA EURO 2012の暫定メンバー36名に選出された。これは、A代表未経験の選手9人のうちの1人であった。
公式ではないが、バイエルン・ミュンヘンとの親善試合で国際試合デビューを果たし、この試合で1ゴールを挙げた。彼はEURO 2012の最終登録メンバー23名に選出され、2012年5月30日のスロバキア代表との親善試合で正式にA代表デビューを飾った。
2012年8月15日、ベルギーとの親善試合(2-4で敗戦)でA代表初得点を記録した。また、2014 FIFAワールドカップ予選では、ブラジル大会出場に貢献し、負傷するまでの4試合で1ゴール3アシストを記録した。しかし、この負傷によりワールドカップ本戦への出場は叶わず、彼の出場枠はレロイ・フェルが引き継いだ。
4. プレースタイル
ルシアーノ・ナルシンは主に右ウィンガーとしてプレーするが、左ウィンガーや攻撃的ミッドフィールダーの両サイドもこなすことができる多才な選手である。利き足は右足である。彼のプレースタイルの特徴としては、卓越したドリブルスキル、爆発的なスピード、そして正確なパス能力が挙げられる。これらの能力を駆使して、相手ディフェンスを突破し、攻撃の起点となる役割を担う。
5. 個人成績
ルシアーノ・ナルシンのクラブおよび代表における個人成績を以下に示す。
5.1. クラブ成績
クラブ成績の表において、「ナショナルカップ」の列にはKNVBカップ、FAカップ、ポーランド・カップ、キプロス・カップでの出場が含まれる。「リーグカップ」の列にはEFLカップが含まれる。また、「その他」の列には、UEFAヨーロッパリーグ、ヨハン・クライフ・スハール、UEFAチャンピオンズリーグ、AFCチャンピオンズリーグでの出場が含まれる。
クラブ | シーズン | リーグ | ナショナルカップ | リーグカップ | その他 | 通算 | ||||||
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ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
SCヘーレンフェーン | 2008-09 | エールディヴィジ | 2 | 0 | 0 | 0 | - | - | 2 | 0 | ||
2009-10 | エールディヴィジ | 2 | 0 | 1 | 0 | - | - | 3 | 0 | |||
2010-11 | エールディヴィジ | 24 | 5 | 2 | 0 | - | - | 26 | 5 | |||
2011-12 | エールディヴィジ | 34 | 8 | 5 | 4 | - | - | 39 | 12 | |||
通算 | 62 | 13 | 8 | 4 | - | - | 70 | 17 | ||||
PSV | 2012-13 | エールディヴィジ | 18 | 6 | 2 | 0 | - | 6 | 0 | 26 | 6 | |
2013-14 | エールディヴィジ | 20 | 0 | 1 | 0 | - | 3 | 0 | 24 | 0 | ||
2014-15 | エールディヴィジ | 32 | 6 | 3 | 1 | - | 11 | 1 | 46 | 8 | ||
2015-16 | エールディヴィジ | 30 | 8 | 2 | 0 | - | 8 | 1 | 40 | 9 | ||
2016-17 | エールディヴィジ | 15 | 1 | 2 | 1 | - | 6 | 1 | 23 | 3 | ||
通算 | 115 | 21 | 10 | 2 | - | 34 | 3 | 160 | 26 | |||
Jong PSV | 2013-14 | エールステ・ディヴィジ | 3 | 3 | - | 3 | 3 | |||||
スウォンジー・シティ | 2016-17 | プレミアリーグ | 13 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | - | 13 | 0 | |
2017-18 | プレミアリーグ | 18 | 1 | 4 | 1 | 2 | 0 | - | 24 | 2 | ||
2018-19 | EFLチャンピオンシップ | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | - | 2 | 0 | ||
通算 | 33 | 1 | 4 | 1 | 2 | 0 | - | 39 | 2 | |||
フェイエノールト | 2019-20 | エールディヴィジ | 15 | 2 | 2 | 2 | - | 9 | 1 | 26 | 5 | |
2020-21 | エールディヴィジ | 9 | 1 | 0 | 0 | - | 2 | 0 | 11 | 1 | ||
通算 | 24 | 3 | 2 | 2 | - | 11 | 1 | 37 | 6 | |||
トゥウェンテ | 2020-21 | エールディヴィジ | 17 | 1 | 0 | 0 | - | 0 | 0 | 17 | 1 | |
シドニーFC | 2021-22 | Aリーグ・メン | 10 | 1 | 0 | 0 | - | 4 | 0 | 14 | 1 | |
ミエジュ・レグニツァ | 2022-23 | エクストラクラサ | 29 | 5 | 2 | 0 | - | - | 31 | 5 | ||
ミエジュ・レグニツァII | 2022-23 | IIIリガ | 1 | 0 | - | 1 | 0 | |||||
ネア・サラミス・ファマグスタ | 2023-24 | キプロス・ファーストディビジョン | 37 | 8 | 2 | 0 | - | - | 39 | 8 | ||
キャリア通算 | 331 | 56 | 28 | 9 | 2 | 0 | 49 | 4 | 411 | 69 |
5.2. 代表得点
オランダ代表での得点記録は以下の通り。
6. 獲得タイトル
ルシアーノ・ナルシンが選手として、または所属クラブと共に獲得した主要なタイトルは以下の通り。
クラブ
- PSVアイントホーフェン
- エールディヴィジ: 2014-15シーズン、2015-16シーズン
- ヨハン・クライフ・スハール: 2012年、2015年、2016年
個人
- エールディヴィジ最多アシスト: 2011-12シーズン (22アシスト)
7. 評価と遺産
ルシアーノ・ナルシンは、そのキャリアを通じて特にスピードとアシスト能力で評価されてきた。SCヘーレンフェーン時代には2011-12シーズンにリーグ最多の22アシストを記録し、「アシスト王」としての地位を確立した。これは彼のキャリアにおける特筆すべき業績の一つである。また、PSVアイントホーフェンでは、度重なる怪我からの復帰を経て、2014-15シーズンと2015-16シーズンのエールディヴィジ連覇に貢献し、チームの主要選手として活躍した。特に2014-15シーズンのリーグ優勝決定戦での活躍は、彼の回復力と決定的な場面での貢献度を示すものであった。
