1. 幼少期と初期のキャリア
田中亜土夢のプロデビュー前の成長過程と初期のサッカーキャリアは、地元新潟での経験と、関東の名門高校での育成期間が特徴である。
1.1. 幼少期と教育
田中亜土夢は10歳の頃から本格的にサッカーを始め、地元のクラブで技術を磨いた。中学卒業を控える中、サンフレッチェ広島F.Cのユースセレクションに挑戦したが、最終選考で惜しくも落選した。中学卒業後は故郷の新潟を離れ、群馬県前橋市にある前橋育英高校に進学し、サッカー部に所属した。しかし、高校在学中には全国高等学校サッカー選手権大会に出場する機会には恵まれなかった。
1.2. プロデビューへの準備
前橋育英高校在学中の2005年、田中はJリーグの特別指定選手としてアルビレックス新潟に登録された。これにより、高校のサッカー部でのプレー資格を維持しながら、Jリーグのプロクラブであるアルビレックス新潟の練習や公式戦に参加することが可能となった。この2005シーズン中に、彼はJ1リーグ戦で2試合に出場している。具体的には、同年11月27日に名古屋グランパスとのアウェイ戦でJ1デビューを飾った。高校卒業後の2006年に正式にアルビレックス新潟とプロ契約を結び、本格的なプロサッカー選手としてのキャリアを開始した。
2. クラブキャリア
田中亜土夢は、これまでに日本とフィンランドの複数のプロサッカークラブで活躍してきた。各クラブでの彼の活動は、キャリアの節目となる重要な出来事や功績に彩られている。

2.1. アルビレックス新潟
2006年にアルビレックス新潟に正式入団した田中亜土夢は、同年3月5日のJ1リーグ開幕戦の川崎フロンターレ戦でプロとしての初出場を果たした。また、同年4月8日のヴァンフォーレ甲府戦では、プロ初ゴールを記録した。
2007年9月には、右第5中足骨基部骨折という全治3ヶ月の重傷を負い、長期離脱を余儀なくされた。しかし、2008年には怪我から復帰し、徐々に出場機会を増やしてリーグ戦25試合に出場し、1得点を挙げた。その後約1年半は出場機会に恵まれない時期もあったが、2011年には右サイドハーフのレギュラーに定着し、リーグ戦25試合に出場し、プロ入り後最多となる3得点を記録した。同年12月3日のJ1第34節名古屋グランパス戦で、J1リーグ通算100試合出場を達成した。
2012年には左サイドハーフにポジションを移し、当時チームメイトであった金珍洙と共に攻撃の起点として活躍した。このシーズン、アルビレックス新潟は厳しい残留争いを強いられたが、田中は自身初となるリーグ戦全試合に出場し、自己最多の4得点を記録するなどチームの残留に大きく貢献した。
2013年も引き続き主力として活躍し、新潟日報がアルビレックス新潟のJ1昇格10年を記念して企画した、クラブの10年間のベストイレブンに選出された。シーズン終了後には、ポーランド1部リーグのレヒア・グダニスクやドイツ2部リーグのエネルギー・コットブスといった海外クラブからの移籍話が浮上したが、いずれも実現せず、新潟との契約を更新した。
2014年には自ら志願して背番号を10に変更してプレーした。このシーズン終了後、かねてからの目標であった海外移籍を目指し、長年在籍したアルビレックス新潟を退団した。
2.2. HJKヘルシンキ (第1期)
2015年2月10日、フィンランドのヴェイッカウスリーガに所属する強豪HJKヘルシンキへの加入が発表された。背番号はアルビレックス新潟時代に引き続いて10番を背負った。加入後すぐに順応し、同年2月13日のリーグカップ、ロヴァニエメン・パロセウラ戦でHJKヘルシンキでの初出場を飾り、後半アディショナルタイムに初得点を挙げた。同年4月12日には、ヴェイッカウスリーガでのデビュー戦となるロヴァニエメン・パロセウラ戦でチームの3得点目となるゴールを決め、3対1の勝利に貢献した。
加入初年度の田中は、主にトップ下を務め、リーグ戦33試合中31試合に出場し、8得点を記録した。同年10月には、HJKヘルシンキが契約延長オプションを行使し、2016年シーズンもHJKヘルシンキでプレーすることが決定した。田中は2015年と2016年に、2年連続でフィンランドリーグのベストイレブンに選出されるなど、リーグを代表する選手として活躍した。
2017年4月6日には、開幕戦のヴァーサン・パロセウラ戦で2得点1アシストという目覚ましい活躍を見せた。このシーズン、HJKヘルシンキは国内リーグとカップ戦の2冠を達成し、田中もその主力として大きく貢献した。同年10月25日、HJKヘルシンキは田中が2017年シーズンをもって退団することを発表し、彼は3年間の在籍期間を終えた。
2.3. セレッソ大阪
2018年シーズンより、田中は日本のJ1リーグに所属するセレッソ大阪に完全移籍で加入し、Jリーグに復帰した。2019年シーズンは、リーグ戦での先発出場こそなかったものの、21試合に出場して2得点を記録した。
このシーズン、田中は印象的なプレーを見せた。ルヴァンカップ第4節では、胸トラップから左足でドライブシュートを放ち、決勝点を決めてチームメイトを驚かせた。また、雪が降る中で行われたベガルタ仙台戦では、チームの2点目となるゴールを決めて勝利に貢献した。試合後には「かなり雪が強くなって、グラウンドがフィンランドみたいだったので、当時を思い返しながら、僕にとっては、ホームグラウンドでしたね」とコメントし、フィンランドでの経験が活かされたことを示唆した。リーグ戦第26節のアウェイでの浦和レッズ戦で決めた決勝ゴールは、9月度の月間ベストゴールに選出された。このゴールを決めた際、彼は自身の愛称にちなんで『鉄腕アトムポーズ』を披露した。シーズン終了後、田中はセレッソ大阪との契約を満了し、退団した。
2.4. HJKヘルシンキ (第2期)
2020年3月3日、田中は3年ぶりにHJKヘルシンキへの復帰を果たした。このシーズン、彼はチームのリーグ戦とカップ戦の2冠達成に大きく貢献した。2022年シーズンには、ボランチとしてプレーし、中盤の要としてチームを支えた。
2023年シーズンには、HJKヘルシンキでの公式戦出場数が200試合を突破した。同年11月28日、田中はHJKヘルシンキとの契約を2024年シーズンまで延長することに合意し、クラブでの在籍期間は合計で8シーズン目となることが決定した。しかし、2024年12月には、2024年シーズンをもってHJKヘルシンキを退団することが発表された。
2.5. KTP
2025年1月、田中亜土夢はヴェイッカウスリーガに昇格したばかりのKTPと契約し、移籍が決定した。
3. 代表キャリア
田中亜土夢は、年代別の日本代表として国際舞台での経験を持つ。
3.1. ユース代表
田中はU-19サッカー日本代表に選出され、2006 AFCユース選手権に参加し、5試合に出場した。また、U-20サッカー日本代表としても活躍し、カナダで開催された2007 FIFA U-20ワールドカップに出場した。この大会では3試合に出場し、1得点を記録した。
4. プレースタイル
田中亜土夢は、豊富な運動量を武器とする攻撃的ミッドフィールダーである。アルビレックス新潟在籍時には、主に左右のサイドハーフとしてプレーしていた。彼の特徴は、攻守の素早い切り替えでチームに貢献する能力にあり、当時の柳下正明監督からは「攻守のスイッチを入れる選手」と高く評価されていた。一方で、重要な場面でのボールロストが目立つ試合もあったと指摘されることもある。
セレッソ大阪でプレーした際には、ボールの位置に応じてチーム全体でスライドする戦術を志向するロティーナ監督の下で、その戦術への高い適応能力を示した。ロティーナ監督は、よりゴールが必要な状況では他の選手を起用する可能性があったとしつつも、ボールをキープし、守備面でプレッシャーをかけ、内側へのパスコースを締める能力を持つ田中を高く評価し、彼の戦術的な重要性を語っている。
5. 人物・エピソード
田中亜土夢は、サッカー選手としてだけでなく、その多才な趣味や地域貢献活動、そして親しみやすい人柄でも知られている。
アルビレックス新潟在籍時、彼は地元新潟出身の生え抜き選手としてサポーターから高い人気を誇り、地元企業のCMや広告、さらには自治体や警察の広報活動にも多数起用された。ローカル番組を中心にテレビ出演の機会も多く、2010年3月14日に放送された『やべっちFC~日本サッカー応援宣言~』の「テク-1グランプリ」というJリーグ各クラブの選手がテクニックを競う企画では、チャンピオンに輝いている。
趣味については、2007年のサッカーダイジェスト選手名鑑ではけん玉とスノーボードを挙げていた。近年は水墨画にも親しんでいる。
フィンランドのサッカークラブで長年プレーし、フィンランド文化への造詣が深くなったことから、彼はフィンランドサウナ愛好家としても知られており、日本語でサウナに関するブログを執筆している。田中自身もヘルシンキを「第二の故郷」と語るほど、フィンランドに対する強い愛着を持っている。このフィンランドとの縁から、フィンランド発祥のスポーツであるモルックの日本協会である、日本モルック協会オフィシャル・モルックアンバサダーに2022年8月より就任している。
また、セレッソ大阪の公式YouTubeチャンネルで行われたフリースタイルフットボーラーとのリフティング対決では、フリースタイルフットボールの世界大会で優勝経験のあるSéan Garnierセアン・ガルニエフランス語を驚かせるほどのパフォーマンスを披露し、その技術の高さを見せつけた。彼の兄はサッカー審判員の田中玲匡であり、自身も既婚者である。
6. キャリア統計
クラブ | シーズン | リーグ | 国内カップ | リーグカップ | 大陸大会 | 通算 | ||||||
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ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
アルビレックス新潟 | 2005 | J1リーグ | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | - | 2 | 0 | |
2006 | J1リーグ | 22 | 1 | 1 | 0 | 4 | 1 | - | 27 | 2 | ||
2007 | J1リーグ | 11 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | - | 13 | 1 | ||
2008 | J1リーグ | 25 | 1 | 2 | 0 | 5 | 0 | - | 32 | 1 | ||
2009 | J1リーグ | 5 | 0 | 2 | 0 | 3 | 0 | - | 10 | 0 | ||
2010 | J1リーグ | 10 | 1 | 3 | 3 | 3 | 0 | - | 16 | 4 | ||
2011 | J1リーグ | 25 | 3 | 1 | 0 | 2 | 1 | - | 28 | 4 | ||
2012 | J1リーグ | 34 | 4 | 1 | 0 | 4 | 0 | - | 39 | 4 | ||
2013 | J1リーグ | 33 | 4 | 2 | 1 | 6 | 0 | - | 41 | 5 | ||
2014 | J1リーグ | 33 | 2 | 4 | 1 | 0 | 0 | - | 37 | 3 | ||
合計 | 200 | 17 | 16 | 5 | 29 | 2 | 0 | 0 | 245 | 24 | ||
HJKヘルシンキ | 2015 | ヴェイッカウスリーガ | 31 | 8 | 3 | 2 | 5 | 1 | 6 | 1 | 45 | 12 |
2016 | ヴェイッカウスリーガ | 17 | 5 | 2 | 1 | 5 | 2 | 4 | 2 | 28 | 10 | |
2017 | ヴェイッカウスリーガ | 23 | 3 | 7 | 2 | - | 0 | 0 | 30 | 5 | ||
合計 | 71 | 16 | 12 | 5 | 10 | 3 | 10 | 3 | 103 | 27 | ||
セレッソ大阪 | 2018 | J1リーグ | 6 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 10 | 0 |
2019 | J1リーグ | 21 | 2 | 1 | 0 | 8 | 1 | - | 30 | 3 | ||
合計 | 27 | 2 | 2 | 0 | 8 | 1 | 3 | 0 | 40 | 3 | ||
セレッソ大阪U-23 | 2018 | J3リーグ | 1 | 0 | - | - | - | 1 | 0 | |||
2019 | J3リーグ | 2 | 0 | - | - | - | 2 | 0 | ||||
合計 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | ||
HJKヘルシンキ | 2020 | ヴェイッカウスリーガ | 19 | 5 | 4 | 0 | - | - | 23 | 5 | ||
2021 | ヴェイッカウスリーガ | 16 | 1 | 5 | 1 | - | 7 | 1 | 28 | 3 | ||
2022 | ヴェイッカウスリーガ | 19 | 1 | 1 | 0 | 2 | 0 | 6 | 0 | 28 | 1 | |
2023 | ヴェイッカウスリーガ | 18 | 1 | 1 | 0 | 5 | 2 | 8 | 0 | 32 | 3 | |
2024 | ヴェイッカウスリーガ | 8 | 0 | 2 | 0 | 2 | 0 | 5 | 0 | 17 | 0 | |
合計 | 80 | 8 | 13 | 1 | 9 | 2 | 26 | 1 | 128 | 12 | ||
KTP | 2025 | ヴェイッカウスリーガ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | - | 0 | 0 | |
キャリア通算 | 381 | 43 | 43 | 11 | 56 | 8 | 39 | 4 | 509 | 66 |
- 大陸大会の出場はUEFAチャンピオンズリーグ、UEFAヨーロッパリーグ、AFCチャンピオンズリーグ、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグを含む。
7. 栄誉
田中亜土夢は、そのキャリアを通じて、所属クラブと共に数々のタイトルを獲得し、個人としても栄誉ある賞に輝いている。
7.1. クラブ
- HJKヘルシンキ
- ヴェイッカウスリーガ: 2017、2020、2021、2022、2023
- フィンランド・カップ: 2017、2020
- フィンランド・リーグカップ: 2023
7.2. 個人
- ヴェイッカウスリーガ ベストイレブン: 2016
- やべっちFC「テク-1グランプリ」チャンピオン: 2010年
- アルビレックス新潟 J1昇格10年記念ベストイレブン: 2013年
- Jリーグ月間ベストゴール: 2019年9月