1. 幼少期と背景
アリ・アッバスは1986年8月30日にイラクのバグダードで生まれた。彼のサッカー選手としてのキャリア初期において、特に彼の人生を大きく変える出来事が2007年に発生した。当時20歳だったアッバスは、U-23サッカーイラク代表の一員として、北京オリンピック予選でオーストラリアU-23代表(Olyroos)と対戦するため、オーストラリアのゴスフォードを訪れた。
2007年11月、アッバスはチームメイトのアリ・マンスール、アリ・フドハーイルと共に、試合後にオーストラリアで亡命を試み、世界的な注目を集めた。この亡命の試みは、彼がオーストラリアに定住し、最終的にオーストラリア国籍を取得するきっかけとなった。しかし、彼はイラクサッカー協会との協議の結果、2008年初頭にはイラクに帰国し、バグダードのクラブであるアル・クワ・アル・ジャウィヤに加入した。
2. クラブ経歴
アリ・アッバスのクラブキャリアは、中東とオーストラリア、そして韓国のクラブを渡り歩き、そのプレースタイルと人間性が高く評価された。
2.1. 初期経歴と亡命試み
イラクに帰国後、アッバスはアル・クワ・アル・ジャウィヤでプレーを続けた。その後、2009年2月には、亡命を試みた際に交渉のあったマルコーニ・スタリオンズが、アル・クワ・アル・ジャウィヤとの間でアッバスの完全移籍に関して合意に達し、彼はオーストラリアでの新たな挑戦を始めることとなった。
2.2. マルコーニ・スタリオンズ
マルコーニ・スタリオンズに加入後、アッバスはNSWプレミアリーグの開幕戦で鮮烈なデビューを飾った。マルコーニ・スタジアムで行われたペンリス・ネピーン・ユナイテッド戦で、彼はクラブでの初戦ながら、見事なカーブのかかったフリーキックを決め、チームの2-0の勝利に貢献した。この活躍はチームに勢いをもたらし、彼は2009年シーズンのニューサウスウェールズ州プレミアリーグでチームの2位浮上に貢献した。この活躍が認められ、彼はAリーグのニューカッスル・ユナイテッド・ジェッツとの契約を勝ち取った。
2.3. ニューカッスル・ジェッツ (初回)
アッバスは2009-10 Aリーグシーズン開幕前にニューカッスル・ジェッツのトライアルに参加したが、当時のギャリー・ファン・エグモンド監督の下では契約には至らなかった。しかし、2009年9月18日、ショーン・オントンの負傷に伴う代替選手として、正式にニューカッスル・ジェッツと契約した。2010年2月12日、アデレード・ユナイテッド戦で移籍後初ゴールを記録したが、試合は2-1で敗れた。彼はさらに1シーズン契約を延長し、2010-11 Aリーグシーズン終了までプレーした。その後も契約延長を重ね、2011-12 Aリーグシーズン終了まで在籍した。
2.4. シドニーFC
2012年5月21日、アッバスはシドニーFCと2年契約を結んだことが発表された。当初は左ウイングとして起用され、プレシーズンもそのポジションで過ごしたが、2012-13シーズン序盤にイアン・クルック監督によってセントラルミッドフィールダーへとコンバートされた。2012年11月3日、セントラルコースト・マリナーズ戦で、ヤイロ・ヤウのパスを受け、マシュー・ライアンGKの頭上を越えるボレーシュートでシドニーFCでの初ゴールを決めた。
2014年8月12日、FFAカップ初戦となったメルボルン・シティ戦で、延長戦に2本のペナルティーキックを決め、チームの3-1の勝利に貢献した。試合はフルタイムで1-1だったが、コーリー・ガメイロとテリー・アントニスがペナルティーエリア内でファウルを受け、アッバスはそれぞれ111分と114分にPKを成功させた。
しかし、2014年11月29日、パラマッタ・スタジアムで行われたシドニーダービーで、イアコポ・ラ・ロッカとの激しい衝突により深刻な膝の怪我を負った。この怪我により、彼の前十字靭帯と内側側副靭帯の両方が損傷し、シーズン残りの試合への出場が絶望的となった。彼は405日間の長期離脱を余儀なくされたが、2016年1月9日に古巣のニューカッスル・ジェッツ戦で復帰した。この試合で彼はシドニーの2点目を決め、チームの2-0の勝利に貢献し、ファンから大喝采を浴びた。
2016年5月1日、シドニーFCはアッバスが海外でのキャリアを追求できるよう、彼の退団を発表した。
2.5. 浦項スティーラーズ
2016年5月12日、アッバスは韓国のクラブである浦項スティーラーズと1年半の契約を結んだ。彼はシドニーFC在籍時にAFCチャンピオンズリーグで浦項と2度対戦しており、そのどちらの試合でも印象的なプレーを見せたことで、浦項スティーラーズの目に留まったと言われている。Kリーグでの公式登録名は「アリ」であった。
2.6. ウェリントン・フェニックス
2017年8月23日、アッバスはルイス・フェントンの負傷代替選手として、ウェリントン・フェニックスと2年契約を結んだ。しかし、彼は8試合で合計640分しかプレーできず、2018年1月31日にウェリントン・フェニックスとの双方合意により契約を解消した。
2.7. ニューカッスル・ジェッツ (2度目)
2020年12月、アッバスは再びニューカッスル・ジェッツと1年契約を結び、古巣への復帰を果たした。
3. 代表経歴
アリ・アッバスは、2008年北京オリンピックアジア予選ではイラクの6試合中1試合しか出場していなかったが、当時20歳で2007 WAFF選手権でA代表に初招集された。彼はクラブキャリアをアル・タラバで開始し、2006年7月にアル・クワ・アル・ジャウィヤに加入した。
特筆すべきは、2007年にAFCアジアカップ2007でイラク代表の一員として優勝トロフィーを掲げたことである。これはイラクサッカー史上初の快挙であり、彼のキャリアにおける大きな栄誉となった。
2014年9月には、バーレーン代表とイエメン代表との親善試合に向けて、7年ぶりにイラク代表の招集メンバーに選ばれた。さらに、2016年9月には、2018 FIFAワールドカップ・アジア3次予選のオーストラリア代表戦(パース開催)に向けて、代表チームに招集された。
4. 私生活
アリ・アッバスは2012年1月26日に正式にオーストラリア市民となり、これ以降はAリーグにおける外国籍選手枠の対象外となった。これにより、彼はオーストラリアのクラブでより自由にプレーできるようになった。彼の甥であるモハメド・リダ・ジャリルもまた、イラク代表のサッカー選手である。
5. 栄誉
アリ・アッバスが獲得した主な栄誉は以下の通り。
- 国籍別代表**
- イラク代表
- AFCアジアカップ: AFCアジアカップ2007
- 個人**
- Aリーグ・オールスター: 2014
- イラク代表
6. 統計
6.1. クラブ
| クラブ | シーズン | リーグ | カップ | 大陸大会 | 合計 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
| マルコーニ・スタリオンズ | 2009 | NSWプレミアリーグ | 29 | 8 | - | - | 29 | 8 | ||
| ニューカッスル・ジェッツ | 2009-10 | Aリーグ | 17 | 1 | - | - | 17 | 1 | ||
| 2010-11 | Aリーグ | 24 | 1 | - | - | 24 | 1 | |||
| 2011-12 | Aリーグ | 19 | 2 | - | - | 19 | 2 | |||
| 合計 | 60 | 4 | - | - | 60 | 4 | ||||
| シドニーFC | 2012-13 | Aリーグ | 24 | 1 | - | - | 24 | 1 | ||
| 2013-14 | Aリーグ | 28 | 2 | - | - | 28 | 2 | |||
| 2014-15 | Aリーグ | 7 | 0 | 3 | 3 | - | 10 | 3 | ||
| 2015-16 | Aリーグ | 9 | 2 | 0 | 0 | 4 | 0 | 13 | 2 | |
| 合計 | 68 | 5 | 3 | 3 | 4 | 0 | 75 | 8 | ||
| キャリア合計 | 211 | 32 | 3 | 3 | 4 | 0 | 218 | 35 | ||
7. 外部リンク
- [http://www.ozfootball.net/ark/Players/ABB.html Aussie Footballersでのアリ・アッバスのプロフィール]
- [https://www.newcastlejets.com.au/player/ali-abbas ニューカッスル・ジェッツFC公式サイトでのアリ・アッバスのプロフィール]
- [http://www.football-lineups.com/footballer/17465 football-lineups.comでのアリ・アッバスのプロフィール]
- [https://www.kleague.com/player?id=20160292 Kリーグ公式ウェブサイトでのアリ・アッバスのプロフィール]