1. 概要
ドミートリー・セルゲーエヴィチ・キリチェンコ(Дмитрий Сергеевич Кириченкоロシア語、1977年1月17日生)は、ロシア出身の元サッカー選手であり、現在はサッカー指導者として活動しています。現役時代はストライカーとして活躍し、ロシアの主要クラブで数々のタイトルを獲得しました。彼はロシア・プレミアリーグで通算129ゴールを記録し、歴代3位の得点者として、また377試合に出場し歴代5位の出場数を誇る選手です(いずれも2014年3月10日時点)。特に、UEFA EURO 2004では大会史上最速(当時)となるゴールを記録するなど、記憶に残る活躍を見せました。引退後は指導者の道に進み、複数のクラブでコーチや監督を務めています。
2. 幼少期とプロとしての歩み
ドミートリー・キリチェンコは、ロシアのスタヴロポリ地方に位置するノヴォアレクサンドロフスクで生まれ育ち、そこでサッカーへの情熱を育みました。
2.1. 生い立ちと幼少期
キリチェンコは1977年1月17日に、かつてはロシア・ソビエト連邦社会主義共和国の一部であったノヴォアレクサンドロフスクで誕生しました。彼の幼少期の詳細については情報が限られていますが、この地域でサッカーへの基礎を築いたと考えられています。
2.2. ユースおよび初期プロキャリア
キリチェンコはユース時代に専門的なサッカー教育を受け、プロサッカー選手としての道を歩み始めました。1994年、FCロコモティフ・ミネラーリヌィエ・ヴォードィでキャリアをスタートさせましたが、このシーズンは24試合に出場したものの、得点はありませんでした。翌1995年には、生まれ故郷のクラブであるイスクラ・ノヴォアレクサンドロフスクに在籍し、16試合で9得点を挙げる活躍を見せました。
3. 選手キャリア
ドミートリー・キリチェンコは、その得点能力と攻撃的なセンスで知られ、ロシアのトップリーグで長年にわたり活躍しました。また、ロシア代表としても主要な国際大会に出場し、印象的な記録を残しています。
3.1. クラブキャリア
キリチェンコのプロクラブキャリアは、小規模なクラブから始まり、その得点能力を武器にロシアの強豪クラブへとステップアップしていきました。
3.1.1. 初期クラブでの活躍
1996年、キリチェンコはFCトルペド・タガンログ(当時セカンドディビジョン所属)へ移籍しました。初年度は目立った成績を残せませんでしたが、1997年シーズンには37試合出場で32得点と爆発的な得点力を示し、一躍注目を集める存在となりました。この活躍が認められ、1998年にはトップディビジョンに所属するロスツェルマシュへの移籍が実現しました。
3.1.2. FCロストフ (第一次在籍)
ロスツェルマシュでの最初の在籍期間(1998年-2001年)は、キリチェンコがロシアサッカー界で頭角を現す重要な時期となりました。彼は特に2000年シーズンに14得点を記録し、リーグ得点ランキングでドミトリ・ロスコフに次ぐ2位となるなど、安定した得点力を発揮しました。2001年シーズンには、第14節のクリリヤ・ソヴェトフ・サマーラ戦で自身初のハットトリックを達成するなど、その能力を遺憾なく発揮し、ロシアの有望なストライカーの一人としての地位を確立しました。この期間の活躍が、彼をロシアの強豪クラブへと導くことになります。
3.1.3. CSKAモスクワ
2002年、キリチェンコはロシアの強豪PFC CSKAモスクワへ移籍しました。CSKAでのデビュー戦となった同年3月8日の開幕戦では、いきなり3得点を挙げハットトリックを達成する鮮烈なデビューを飾りました。さらに第19節では古巣のロスツェルマシュ相手にもハットトリックを記録しています。このシーズン、CSKAはリーグ2位に終わったものの、キリチェンコは15得点を挙げ、チームメイトのロラン・グセフと共にロシア・プレミアリーグ得点王に輝きました。
CSKAでは、2003年にロシア・プレミアリーグ優勝、2001-02シーズンにロシア・カップ優勝、2004年にはロシア・スーパーカップ優勝を経験し、主要なタイトルを獲得しました。2003年シーズンは22試合で5得点と一時的に得点数が減少しましたが、2004年シーズンは26試合で9得点と復調の兆しを見せました。
3.1.4. FCモスクワ
2005年、キリチェンコは同じモスクワを本拠地とするFCモスクワへ移籍しました。この移籍後も彼の得点能力は健在で、2005年シーズンにはリーグ戦で14得点を挙げ、自身2度目となるロシア・プレミアリーグ得点王のタイトルを獲得しました。FCモスクワでは2006年までプレーし、計55試合に出場し26得点を記録しました。
3.1.5. サトゥルン・ラメンスコーエ
2007年、キリチェンコはサトゥルン・ラメンスコーエへ移籍しました。同年8月25日に行われたリーグ第22節のFCロコモティフ・モスクワ戦で得点を挙げ、ロシアリーグ(1部)通算100ゴールを達成しました。これは1992年のロシアリーグ移行後、オレグ・ヴェレテンニコフ、ドミトリ・ロスコフに次ぐ3番目の速さでの記録でした。
2008年のUEFAインタートトカップでは、ルクセンブルクのFCエツェーラ・エッテルブリュック戦で4得点、ドイツのVfBシュトゥットガルト戦で1得点を挙げる活躍を見せ、合計5得点で同大会の得点王に輝きました。サトゥルンでは2010年までプレーしましたが、クラブが財政難により解散したため、退団を余儀なくされました。

3.1.6. FCロストフ (第二次在籍) と引退
サトゥルンの解散後、キリチェンコは2011年に、キャリアの初期に名を上げた古巣のFCロストフに2年半の契約で復帰しました。FCロストフでの2度目の在籍期間中、彼はさらに44試合に出場し11得点を記録しました。
2014年3月3日、キリチェンコは現役生活に終止符を打つことを正式に表明し、長きにわたる選手キャリアに幕を下ろしました。引退時、彼はロシア・プレミアリーグの歴代得点者ランキングで129ゴールを記録し、3位に位置していました。また、リーグ戦の出場試合数では377試合で歴代5位でした(いずれも2014年3月10日時点)。
3.2. 代表キャリア
キリチェンコは、2003年から2006年にかけてロシア代表として国際試合に出場し、重要なゴールを記録しました。
3.2.1. UEFA EURO 2004と記録的なゴール
2003年2月12日、キリチェンコはキプロス代表との試合でロシア代表デビューを果たしました。代表初ゴールは2004年4月28日のノルウェー代表戦で記録されました。
2004年、ロシア代表監督ゲオルギー・ヤルツェフによってUEFA EURO 2004のロシア代表メンバーに選出されました。この大会のグループステージ第3節、2004年6月20日に行われたギリシャ代表戦において、試合開始からわずか63秒で先制ゴールを決めました。これは当時の欧州選手権史上最速のゴール記録であり、ロシアは既にグループステージ敗退が決まっていたにもかかわらず、最終的に優勝することになるギリシャに対し2対1で勝利を収めました。この記録は、UEFA EURO 2024でネディム・バイラミがイタリア戦で23秒で得点するまで、欧州選手権の最速ゴール記録として保持されていました。
キリチェンコはロシア代表として通算14試合に出場し、4得点を挙げました。最後の代表戦は2006年5月27日のスペイン代表との親善試合でした。
4. 指導者キャリア
ドミートリー・キリチェンコは選手引退後、その経験を活かし指導者の道に進み、複数のクラブでコーチや監督を務めています。
4.1. コーチおよび監督代行
2014年4月、キリチェンコは古巣であるFCロストフのアシスタントコーチに就任しました。2016年8月6日には、クルバン・ベルディエフ監督の辞任を受けてロストフの暫定監督を務めました。この暫定期間は同年9月9日に終了しました。
その後、2018年11月7日にはFCウファの暫定監督に就任。彼の指揮下でウファはFCスパルタク・モスクワとの初戦に勝利しましたが、その後の6試合では2分け4敗と成績が振るわず、2019年3月27日にウファを双方合意の上で退任しました。
4.2. 正式監督への就任
2017年12月6日、キリチェンコは再びFCロストフに戻り、正式に監督に就任しました。
5. キャリア統計
ドミートリー・キリチェンコの選手キャリアにおける詳細な統計を以下に示します。
5.1. クラブ統計
クラブ | シーズン | リーグ | ロシア・カップ | UEFA主催大会 | その他 | 合計 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||||
FCトルペド・タガンログ | 1996 | セカンドディビジョン | 37 | 7 | - | - | 37 | 7 | ||||||
1997 | セカンドディビジョン | 36 | 32 | - | - | 36 | 32 | |||||||
合計 | 73 | 39 | - | - | 73 | 39 | ||||||||
ロスツェルマシュ | 1998 | トップディビジョン | 23 | 5 | 2 | 1 | - | 25 | 6 | |||||
1999 | 28 | 6 | 2 | 0 | 6 | 0 | - | 36 | 6 | |||||
2000 | 29 | 14 | 1 | 0 | 2 | 1 | - | 32 | 15 | |||||
2001 | 28 | 13 | - | - | 28 | 13 | ||||||||
合計 | 108 | 38 | 5 | 1 | 8 | 1 | - | 121 | 40 | |||||
CSKAモスクワ | 2002 | ロシア・プレミアリーグ | 26 | 15 | 2 | 0 | 1 | 0 | - | 29 | 15 | |||
2003 | 22 | 5 | 4 | 1 | 2 | 1 | 1 | 0 | 29 | 7 | ||||
2004 | 26 | 9 | 5 | 2 | 3 | 0 | 1 | 1 | 35 | 12 | ||||
合計 | 74 | 29 | 11 | 3 | 6 | 1 | 2 | 1 | 93 | 34 | ||||
FCモスクワ | 2005 | ロシア・プレミアリーグ | 26 | 14 | - | - | 26 | 14 | ||||||
2006 | 29 | 12 | 4 | 4 | 4 | 0 | - | 37 | 16 | |||||
合計 | 55 | 26 | 4 | 4 | 4 | 0 | - | 63 | 30 | |||||
サトゥルン | 2007 | ロシア・プレミアリーグ | 27 | 9 | 2 | 1 | - | - | 29 | 10 | ||||
2008 | 17 | 1 | 1 | 0 | 3 | 5 | - | 21 | 6 | |||||
2009 | 27 | 8 | - | - | 27 | 8 | ||||||||
2010 | 28 | 8 | - | - | 28 | 8 | ||||||||
合計 | 99 | 26 | 3 | 1 | 3 | 5 | - | 105 | 32 | |||||
FCロストフ | 2011-12 | ロシア・プレミアリーグ | 19 | 5 | 3 | 0 | - | 2 | 1 | 24 | 6 | |||
2012-13 | 22 | 5 | 4 | 1 | - | 1 | 0 | 27 | 6 | |||||
合計 | 41 | 10 | 7 | 1 | - | 3 | 1 | 51 | 12 | |||||
モルドヴィア・サランスク | 2013-14 | ロシア・フットボール・ナショナルリーグ | 12 | 1 | 2 | 0 | - | - | 13 | 1 | ||||
キャリア通算 | 462 | 169 | 32 | 10 | 21 | 7 | 5 | 2 | 520 | 188 |
5.2. 代表チーム統計
6. タイトルと功績
ドミートリー・キリチェンコは、選手キャリアにおいてクラブと個人で数々のタイトルと功績を残しました。
6.1. クラブタイトル
- ロシア・プレミアリーグ
- 優勝: 2003 (PFC CSKAモスクワ)
- 準優勝: 2002, 2004 (PFC CSKAモスクワ)
- ロシア・カップ
- 優勝: 2001-02 (PFC CSKAモスクワ)
- ロシア・スーパーカップ
- 優勝: 2004 (PFC CSKAモスクワ)
- 準優勝: 2003 (PFC CSKAモスクワ)
6.2. 個人タイトル
- ロシア・プレミアリーグ得点王
- 2002 (PFC CSKAモスクワ)
- 2005 (FCモスクワ)
- UEFAインタートトカップ得点王
- 2008 (サトゥルン・ラメンスコーエ)
- UEFA EURO 2004 マン・オブ・ザ・マッチ
- 2004 (ロシア vs ギリシャ戦)