ヌワンコ・カヌ

2.1. 幼少期とユース時代

カヌは、地元のクラブであるフェデレーション・ワークスでキャリアをスタートさせ、その後イウアニャンウ・ナショナル(現在のハートランドFC)に移籍しました。1993年には、日本で開催された1993 FIFA U-17世界選手権でナイジェリアU-17代表の一員として素晴らしい活躍を見せました。彼はこの大会で5得点を挙げ、ピーター・アノシケ、マヌエル・ネイラと並んで大会得点ランキング2位となり、ナイジェリアの優勝に大きく貢献しました。この目覚ましいパフォーマンスが欧州のクラブの注目を集めることになります。

2.2. アヤックス

1993年、1993 FIFA U-17世界選手権での活躍後、カヌはオランダの強豪AFCアヤックスと契約しました。移籍金は非公開とされています。彼はアヤックスでのデビュー後、チームの主要選手としてすぐに頭角を現し、54試合で25得点を記録しました。

アヤックス時代には、1994-95 UEFAチャンピオンズリーグ決勝でACミランを1-0で破り、途中出場ながらもUEFAチャンピオンズリーグ優勝を経験しました。翌年の1995-96 UEFAチャンピオンズリーグ決勝では、ユヴェントスにPK戦の末敗れましたが、カヌはこの試合に先発フル出場しました。アヤックスでは、リーグ優勝であるエールディヴィジを1993-94、1994-95、1995-96シーズンと3度獲得し、1995 UEFAスーパーカップ、1995 インターコンチネンタルカップでも優勝するなど、初期の欧州キャリアで数々の成功を収めました。

2.3. インテル・ミラノと健康問題

1996年、アヤックスはカヌをセリエAのインテル・ミラノに約470.00 万 USDで売却しました。しかし、この移籍は彼のキャリアに大きな転機をもたらします。同年夏にナイジェリア代表のキャプテンとしてアトランタオリンピック男子サッカーで金メダルを獲得し、準決勝の強豪ブラジル戦では、2-3の劣勢から延長戦で2得点を挙げ、4-3の逆転勝利に導くなど、目覚ましい活躍を見せました。この年、彼はアフリカ年間最優秀選手賞も受賞し、前途洋々に思えました。

しかし、オリンピックからの帰還直後、インテルでのメディカルチェックにより、彼のキャリアを脅かす深刻な心臓弁膜症(大動脈弁が適切に閉じない先天性心疾患)が発見されました。医師からは選手生命の危機が告げられましたが、彼はキリスト教の信仰心に支えられ、困難な時期を乗り越えました。1996年11月には、大動脈弁置換手術に成功し、約15ヶ月間のリハビリを経て1997年4月に復帰を果たしました。

この自身の心臓疾患との闘いの経験は、カヌの人生に大きな影響を与え、彼が社会貢献活動に深く関わるきっかけとなりました。彼は2000年に「カヌ・ハート財団」を設立し、アフリカの恵まれない子どもたちの心臓病治療やホームレス支援に尽力することになります。

2.4. アーセナル

1999年2月、インテル・ミラノでの出場がリーグ戦わずか12試合、1得点に留まった後、カヌはイングランドのアーセナルFCに約415.00 万 GBP(約10億円)で移籍しました。彼のアーセナルでのデビュー戦は、FAカップのシェフィールド・ユナイテッドFC戦でした。試合は1-1の膠着状態の中、シェフィールド・ユナイテッドの選手が負傷したため、相手ゴールキーパーのアラン・ケリー・ジュニアがボールをライン外に蹴り出し、治療の時間を確保しました。通常であればスローインから相手チームにボールを返すのがスポーツマンシップとされますが、この状況を把握していなかったカヌは、レイ・パーラーがケリーに返そうと投げたボールを奪い、右サイドからマルク・オーフェルマルスへセンタリングを上げ、オーフェルマルスがゴールを決めて2-1とリードを奪ってしまいました。

この得点により、一時的に試合はアーセナルの勝利となりましたが、アーセナルFCのアーセン・ベンゲル監督は、このプレーがスポーツマンシップに反する行為であったことを認め、異例の再試合を提案しました。再試合でもアーセナルは2-1で勝利しましたが、カヌのデビューは物議を醸す出来事となりました。

この一件にもかかわらず、カヌのアーセナルでのキャリアはすぐに好転しました。FAカップの次のラウンドであるダービー・カウンティ戦では、途中出場から決勝点を挙げ、クラブでの初ゴールを記録しました。彼はすぐに途中出場からの得点力で知られるようになり、シェフィールド・ウェンズデイ、トッテナム・ホットスパー、アストン・ヴィラといった強豪相手に重要なゴールを決めました。また、1999年のミドルズブラ戦から始めた、チームの愛称「ザ・ガナーズ」にちなんだ2本指の敬礼は、ファンの間で非常に人気を集めました。

1999年には自身2度目となるアフリカ年間最優秀選手賞を受賞しました。1999-2000シーズンには、チェルシー戦で2-0の劣勢からわずか15分間でハットトリックを達成し、3-2の逆転勝利に貢献するなど、50試合で17得点を記録しました。2001年8月にはフラムから約700.00 万 GBPの獲得オファーがありましたが、アーセナルはこれを拒否しました。しかし、ティエリ・アンリの台頭により、カヌの出場機会は徐々に減少し、主に交代選手として起用されるようになりました。

それでも、カヌは2003年のFAカップ優勝に貢献し、2003-04シーズンにはプレミアリーグを無敗で制覇した「インビンシブルズ」(無敵のチーム)の一員となりました。彼はアーセナルで合計197試合に出場し、44得点を挙げました。2004年夏にアーセナルとの契約が満了した後、彼はウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンにフリー移籍しました。2008年に行われた「ガナーズ史上偉大な選手50人」の投票では、13位に選出されるなど、アーセナルファンから絶大な人気を誇る選手として知られています。

2006年夏には、デニス・ベルカンプの記念試合にアーセナルのゲスト選手として出場しました。これはエミレーツ・スタジアムで初めて行われた試合であり、カヌは決勝点を挙げ、このスタジアムで3人目の得点者となりました。試合終了後、カヌは他のアーセナル選手と共に、引退するベルカンプを肩に担ぎ上げ、ファンからスタンディングオベーションを受けました。彼は現在もアーセナルで人気の高い人物であり、エミレーツ・スタジアムに姿を見せるたびに大きな拍手で迎えられています。クラブ在籍中は背番号25を着用しました。

2.5. ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン

2004年夏、アーセナルFCを退団したカヌは、プレミアリーグに昇格したばかりのウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンFCにフリー移籍しました。クラブにとって2年間で2度目のプレミアリーグ昇格であり、カヌはチームの主力選手として、2004年8月14日のブラックバーン・ローヴァーズ戦(1-1の引き分け)でデビューしました。

ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンでの初ゴールは、2004年9月18日のフラム戦で記録しました。この試合の88分に同点ゴールを決め、1-1の引き分けに貢献しました。しかし、2004年11月14日のミドルズブラ戦では、チームが2-1でリードされている状況で、ゴールラインから約1ヤードの距離から低いクロスを枠の上に外すという信じられないようなミスを犯しました。当時のブライアン・ロブソン監督が「どうしてあれを外したんだ？」と口にする様子がテレビで放映され、この「カヌの凡ミス」はシーズン終了後に多くのメディアで「シーズンのミス」として選ばれました。それでも、2004-05シーズンは、ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンにとって記念すべきシーズンとなりました。クラブはクリスマス時点で最下位であったにもかかわらず、プレミアリーグからの降格を免れた史上初のクラブとなったのです。

2005-06シーズンでカヌにとって最も記憶に残る試合の一つは、2005年10月15日にザ・ホーソンズで旧所属クラブのアーセナルFCを迎えた一戦でした。フィリップ・センデロスが17分に先制ゴールを挙げましたが、カヌはハーフタイム直前に同点ゴールを決めました。その後、ダレン・カーターの劇的なゴールにより、ウェスト・ブロムは2-1で勝利しました。これは1973年以来、アーセナルに対する初のホーム戦勝利であり、プレミアリーグで逆転勝利を収めた初の試合でもありました。しかし、このようなハイライトは少なく、ウェスト・ブロムは2005-06シーズン終了時に降格しました。カヌの契約も満了し、更新しないことを選択しました。ウェスト・ブロムでの2年間で、彼は合計58試合に出場(うち16試合は途中出場)し、9得点を記録しました。

2.6. ポーツマス

2006年夏、ウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンFCを退団しフリーエージェントとなったカヌは、2006-07 シーズン開幕直前にポーツマスFCと1年契約を結びました。ポーツマスは前シーズンの後半にハリー・レドナップ監督の復帰により復活を遂げ、年明けに深刻な降格危機に陥っていたものの、4ポイント差で降格を免れていました。

2006-07シーズンの開幕時、ポーツマスは最初の5試合を無敗で終え、無失点を記録しました。カヌは2006年8月19日のブラックバーン・ローヴァーズ戦(プレミアリーグ開幕戦)で途中出場し、ポーツマスでのデビューを果たしました。彼はこの試合で2得点を挙げましたが、ペナルティーキックを外す場面もありました。カヌはその後、シーズンをポーツマスで12得点を挙げ、チームの得点王として終えました。彼はその後、クラブと新たに1年契約を結びました。

ポーツマスでの2シーズン目、カヌはFAカップで重要な役割を果たしました。準決勝のウェスト・ブロムウィッチ・アルビオン戦では1-0の勝利に貢献するゴールを挙げ、決勝のカーディフ・シティ戦でも1-0の勝利を決定づけるゴールを決めました。これにより、彼はキャリア3度目となるFAカップ優勝メダルを獲得しました。

2008-09 シーズンの初ゴールは、UEFAカップのACミラン戦で記録し、チームを2-0とリードさせましたが、最終的には2-2の引き分けに終わりました。彼はその後、ボルトン・ワンダラーズ戦で決勝ゴールを挙げ、チームのプレミアリーグ残留を確定させました。これは彼にとって2008-09シーズン唯一のプレミアリーグゴールでした。

2010年8月、カヌは引退後にコーチとなることを視野に入れ、ポーツマスと再契約しました。彼は3年契約を結び、背番号27を維持しましたが、シーズンを通してレギュラーとしてプレーすることはなく、2得点に終わりました。2011-12 シーズンには出場機会がさらに減少し、主にベンチからの出場となりました。スティーブ・コッテリル監督の退任とマイケル・アップルトン監督の就任後、フィットネスや怪我の問題により、ベンチからも外されることが増えました。

2012年5月までに、ポーツマスは財政難による勝ち点剥奪も相まって降格圏に沈み、最終的にリーグ・ワンへの降格が決定しました。コスト削減のため、管財人はカヌを含む高給取りの選手たちとの契約解除合意を目指しました。2012年7月9日、カヌとアーロン・モコエナがプレシーズン初日のトレーニングに欠席したため、クラブを去ることが発表されました。カヌは未払いの賃金を巡ってポーツマスを提訴すると脅しましたが、2012年7月30日には退団に合意しました。しかし、クラブが彼に支払うべき未払い賃金を巡る紛争は継続すると述べました。最終的に2013年4月、彼はこの訴訟を取り下げ、クラブが彼に支払うべき約300.00 万 GBPの債権を放棄したことを明らかにしました。

3.1. ユース世代

カヌはキャリアの早い段階から、ナイジェリアのユース代表チームで重要な役割を果たしました。1993年に日本で開催された1993 FIFA U-17世界選手権では、ナイジェリアU-17代表の優勝に大きく貢献しました。彼はこの大会で5ゴールを記録し、チームの主要得点源となりました。

さらに、1996年のアトランタオリンピックのサッカー競技では、ナイジェリアU-23代表のキャプテンとして、金メダル獲得という歴史的快挙を達成しました。特に準決勝の強豪ブラジル戦では、2-3の劣勢から終了間際に2得点を挙げ、劇的な4-3の逆転勝利に導き、「黄金のゴール」として語り継がれる一撃を決めました。この勝利はナイジェリア、ひいてはアフリカサッカー界にとって大きな喜びとなりました。

3.2. シニア世代

カヌは1994年にナイジェリアA代表デビューを果たし、スウェーデンとの親善試合で初出場しました。彼はFIFAワールドカップには1998年、2002年、2010年の3大会に出場しました。2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会でナイジェリアがグループリーグ敗退となった後、2010年6月24日に国際キャリアの引退を発表しました。この大会でナイジェリアはアルゼンチンとギリシャに敗れ、韓国とは2-2で引き分けました。

彼はナイジェリア代表として通算86試合に出場し、12得点を記録しました。これはムダ・ラワルと並び、長らくナイジェリア代表の最多出場記録でしたが、2012年にジョセフ・ヨボが87試合出場を達成し、この記録を更新しました。フォワードでありながら、彼はナイジェリア代表で背番号「4」を好んで着用していました。これは、彼が憧れの選手としていたルート・フリットがキャリア晩年にクラブチームで背番号「4」をつけていたことに倣ったもので、カヌを尊敬する選手であるエマニュエル・アデバヨールも同様に代表で背番号「4」をつけていました。2022年には、ナイジェリアの著名なサッカーサイト「[https://betwithmusa.com/nigerias-top-10-football-players-of-all-time/ BetwithMusa.com]」によって、史上最高のナイジェリア人サッカー選手に選出され、その地位がさらに確立されました。

8.1. クラブ

• ナイジェリア・プレミアリーグ：1992-93(ハートランドFC)
• エールディヴィジ：1993-94、1994-95、1995-96(AFCアヤックス)
• UEFAチャンピオンズリーグ：1994-95(AFCアヤックス)、準優勝：1995-96
• UEFAスーパーカップ：1995(AFCアヤックス)
• インターコンチネンタルカップ：1995(AFCアヤックス)
• UEFAカップ：1997-98(インテル・ミラノ)、準優勝：1999-2000
• プレミアリーグ：2001-02、2003-04(アーセナルFC)
• FAカップ：2001-02、2002-03(アーセナルFC)、2007-08(ポーツマスFC)、準優勝：2000-01、2009-10
• FAコミュニティ・シールド：1999(アーセナルFC)

8.2. ナイジェリア代表

• FIFA U-17ワールドカップ：1993(ナイジェリアU-17代表)
• 夏季オリンピック：1996(ナイジェリアU-23代表)
• アフロアジアカップ：1995(ナイジェリア代表)
• アフリカネイションズカップ準優勝：2000
• アフリカネイションズカップ3位：2002、2004、2006、2008

8.3. 個人賞

• アヤックス年間最優秀若手選手賞(マルコ・ファン・バステン賞)：1994-95
• アフリカ年間最優秀選手賞：1996、1999
• BBCアフリカ年間最優秀サッカー選手賞：1997、1999
• FAカップ決勝マン・オブ・ザ・マッチ：2008
• IFFHSレジェンド
• IFFHS歴代アフリカ男子ドリームチーム：2021

10.1. クラブ

10.2. 代表