1. 概要
レソト王国、通称レソトは、アフリカ南部に位置する立憲君主制国家であり、イギリス連邦の一員です。国土全体が南アフリカ共和国に完全に囲まれた世界最南の内陸国であり、「南アフリカの屋根」または「天空の王国」とも呼ばれる山岳国家です。首都はマセルに置かれています。1966年にイギリスから独立し、バストランドという旧称から現在の国名に改められました。
この記事では、レソトの地理的特徴、古代から現代に至る歴史的変遷、立憲君主制と議院内閣制を基盤とする政治体制、農業・鉱業・製造業を中心とする経済構造、そして国民の大多数を占めるバソト人の社会と文化について、中道左派的・社会自由主義的視点を反映し、特に社会的影響、人権擁護、民主主義の発展、マイノリティや社会的弱者への配慮といったテーマを重視して詳述します。HIV/AIDSの蔓延や貧困といった深刻な社会問題に直面しつつも、初等教育の普及や高い識字率を達成するなど、国家の発展に向けた努力が続けられています。
2. 歴史
レソトの歴史は、サン人の初期居住から始まり、モショエショエ1世による部族統一、イギリス保護領バストランド時代を経て、1966年の独立に至ります。独立後はクーデターや政治的不安定を経験しつつも、民主化への道を歩んできました。これらの歴史的過程は、レソトの社会構造、民主主義の発展、そして人権状況に大きな影響を与えてきました。
2.1. 初期の歴史とバストランド
現在のレソトの地域には、元々サン人(ブッシュマン)が居住していましたが、16世紀になると北方からバントゥー系のソト人が移住し、サン人を駆逐してこの地を支配しました。1820年代に入ると、この地方はズールー王国の侵攻に始まるムフェカネ(大壊乱)と呼ばれる動乱期に突入します。そのような中、1822年に即位した初代国王モショエショエ1世は、タバ・ボシウの丘陵に立てこもり、ングワネ人やンデベレ人の侵攻を退け、周辺の諸部族を統合して勢力を拡大しました。彼は1804年頃に自身の氏族を形成し、首長となった人物です。1820年から1823年にかけて、彼と彼の支持者たちはブタ・ブテ山に定住し、かつての敵対勢力とも協力して、1818年から1828年にかけてのシャカ・ズールーの治世下におけるムフェカネに対抗しました。

国家のさらなる発展は、1795年にイギリスがフランスと同盟関係にあったオランダからケープ植民地を奪取した後、そこを離れたイギリスおよびオランダ人入植者との間の紛争や、オレンジ川主権国家およびその後のオレンジ自由国との関係から生じました。モショエショエ1世に招かれたパリ福音宣教協会の宣教師、トマ・アルブッセ、ウジェーヌ・カザリス、コンスタン・ゴセランは、モリジャに派遣され、1837年から1855年にかけてソト語の正書法を開発し、ソト語による印刷物を出版しました。カザリスは通訳および外交顧問として活動し、外交ルートの確立や、侵入してくるヨーロッパ人およびグリクア人に対抗するための銃の入手を助けました。
ケープ植民地からのトレックボーアたちはバストランドの西側国境に到着し、その土地の権利を主張しました。その最初の人物は、1838年にマトラケン地域に定住したヤン・デ・ウィンナールです。流入するボーア人は、2つの川の間およびカレドン川以北の土地を植民地化しようと試み、その土地はソト人によって放棄されたと主張しました。モショエショエはその後、ケープ植民地のイギリス総督ジョージ・トマス・ネイピア卿と条約を結び、ボーア人が定住していたオレンジ川主権国家を併合しました。これに激怒したボーア人たちは1848年の小競り合いで鎮圧されました。1851年、イギリス軍はコロニャマ市でバソト軍に敗北しました。1852年に別のイギリス軍の攻撃を撃退した後、モショエショエはイギリス軍司令官に訴えを送り、外交的に紛争を解決し、その後1853年にバトロコワ族を破りました。1854年、イギリスはこの地域から撤退し、1858年、モショエショエは自由国・バソト戦争として知られる戦争でボーア人と一連の戦いを繰り広げました。その結果、モショエショエは西部の低地の一部を失いました。ボーア人との最後の戦争は1867年に終わり、モショエショエはヴィクトリア女王に訴え、女王は1868年にバストランドをイギリスの保護国とすることに同意しました。
1869年、イギリスはアリワル・ノースでボーア人と条約を結び、バストランドの境界を定めました。この条約により、モショエショエの王国は西側の領土を割譲することで以前の半分の大きさに縮小されました。その後、イギリスはモショエショエの首都タバ・ボシウから北西国境の警察キャンプであるマセルに行政機能を移し、最終的に1871年にバストランドの行政はケープ植民地に移管されました。モショエショエは1870年3月11日に亡くなり、バストランドの植民地時代が始まりました。
2.2. イギリス統治と独立運動
1871年から1884年のケープ植民地時代、バストランドは強制的に併合された他の領土と同様に扱われ、バソト人の屈辱を招き、1880年から1881年にかけてのバソト銃戦争につながりました。この反乱を受け、1884年にバストランドは王室属領(クラウン・コロニー)となり、マセルを首都とするバストランド保護領が復活しました。イギリスは総督による直接統治を行いつつも、国内の実際の権力は伝統的な部族長たちが握る間接統治の形態を取りました。1905年には、マセルと南アフリカの鉄道網を結ぶマセル支線が建設されました。

20世紀初頭になると、民族主義運動が成長し始め、主要な政党が設立されるようになりました。1903年には民族協議会が設立され、自治を求める声が高まりました。1960年には自治が認められ、バソト国民党(BNP)やバストランド会議党(BCP、後のバソト会議党)などの政党が結成されました。1965年に行われた独立準備総選挙では、バソト国民党が勝利し、政権を樹立しました。
このイギリス統治時代は、住民の生活や自治の発展に複雑な影響を与えました。一方で伝統的な社会構造が維持されつつも、他方で植民地行政による経済的・社会的な変化も進行しました。南アフリカへの労働力移出もこの時期に始まり、レソト経済の重要な要素となっていきました。
2.3. 独立以降
1966年10月4日、バストランドはイギリス連邦の一員として独立し、レソト王国となりました。初代国王にはモショエショエ2世が即位し、立憲君主制が採られました。首相には、独立前の選挙で勝利したバソト国民党(BNP)の党首レアブア・ジョナサンが就任しました。
しかし、独立後の政情は不安定でした。1970年に行われた最初の総選挙では、野党のバソト会議党(BCP)が36議席を獲得し、与党BNPの23議席を上回って勝利しました。しかし、ジョナサン首相は権力の移譲を拒否し、自らを首相と宣言してBCPの指導者たちを投獄し、一党独裁体制を敷きました。これに対しBCPは反乱を開始し、その軍事部門であるレソト解放軍(LLA)は、表向きにはパン・アフリカニスト会議(PAC)のアザニア人民解放軍兵士として、リビアで訓練を受けました。1978年、PACのデイヴィッド・シベコ派によって武器と補給を絶たれた178名のLLAは、毛沢東主義者のPAC将校の資金援助によってタンザニアの基地から救出され、ゲリラ戦を開始しました。ある部隊はレソト北部で敗北しましたが、その後もゲリラは散発的な攻撃を続けました。しかし、BCPの指導者ンツ・モケレがプレトリアに赴いたことで、この運動は頓挫しました。1980年代には、亡命したBCPに同情的な一部のバソト人が、レアブア・ジョナサン政権によって殺害の脅迫を受けたり、攻撃されたりしました。1981年9月4日にはベンジャミン・マシロの家族が襲撃され、彼の3歳の孫が死亡しました。その4日後には、『レセリニャナ・ラ・レソト』紙の編集者エドガー・マフロモラ・モツバが2人の友人と共に自宅から拉致され、殺害されました。
ジョナサン政権は当初親南アフリカ政策を採っていましたが、この政変を機に反南アフリカへと転換し、南アフリカ共和国との関係が悪化、経済制裁を受けることになりました。
1986年1月、ジャスティン・メツィング・レハンヤ軍司令官によるクーデターが発生し、ジョナサン政権は打倒されました。レハンヤが軍事評議会議長に就任し、国王モショエショエ2世に執行権を与えましたが、国王はそれまで儀礼的な君主でした。政党活動は禁止されました。しかし、レハンヤとモショエショエ2世の関係は悪化し、1987年、国王はレソト憲法のあり方に関する6ページの覚書(国王により多くの執行権を与える内容で、軍事政権が当初合意していた以上のもの)を提出した後、亡命を余儀なくされました。息子のレツィエ3世が代わりに国王に即位しました。
1991年、軍事政権の議長であったジャスティン・メツィング・レハンヤ少将が追放され、エリアス・フィソアナ・ラマエマ少将が後任となり、1993年にBCPの民主的に選出された政府に権力を移譲しました。モショエショエ2世は1992年に一般市民として亡命先から帰国しました。民主政治への復帰後、レツィエ3世国王はBCP政府に対し、父(モショエショエ2世)を国家元首として復位させるよう説得を試みましたが、成功しませんでした。1994年8月、BCP政府がレソト憲法に従って父モショエショエ2世を復位させることを拒否した後、レツィエ3世は軍事支援によるクーデター(1994年レソトクーデター)を起こし、BCP政府を打倒しました。南部アフリカ開発共同体(SADC)加盟国がBCP政府の復帰交渉を行いました。レツィエ3世が提示した条件の一つは、父を国家元首として復位させることでした。長期にわたる交渉の結果、BCP政府は復帰し、レツィE3世は1995年に父に譲位しましたが、1996年1月15日にモショエショエ2世がマツィエングの牛を見に行くために午前1時に出発し、マルティ山脈を通ってマセルに戻る途中、車が山道から転落するという不慮の交通事故(政府発表による)で57歳で崩御したため、再び王位に就きました。
1997年、与党BCPは指導権争いをめぐり分裂しました。首相ンツ・モケレは新党レソト民主会議(LCD)を結成し、国会議員の過半数がこれに追随したため、新政府を樹立することができました。パカリタ・モシシリがモケレの後を継いで党首となり、LCDは1998年の総選挙で勝利しました。しかし、野党の抗議活動が激化し、1998年8月には王宮前でのデモに発展しました。ボツワナ国防軍の部隊は歓迎されましたが、南アフリカ国防軍の部隊との間には緊張が生じ、戦闘が発生しました。南アフリカ軍が王宮に南アフリカ国旗を掲げたことで、暴動はさらに激化しました。SADC軍が1999年5月に撤退する頃には、首都マセルの大部分が廃墟と化し、南部の州都であるマフェテングとモハレス・フークは商業用不動産の3分の1以上を失いました。
国の選挙制度を見直す任務を負った暫定政治局(IPA)が1998年12月に設立されました。IPAは、野党が国民議会で確実に議席を得られるように比例代表制選挙制度を考案しました。新制度では、既存の選挙で選ばれる80議席を維持し、比例代表制で補充される40議席を追加しました。この新制度の下で2002年5月に選挙が行われ、LCDが54%の票を得て勝利しました。レハンヤ少将による不正行為や暴力の脅威がありました。野党9党が比例代表40議席すべてを獲得し、BNPが最大のシェア(21議席)を占めました。LCDは小選挙区80議席中79議席を獲得しました。BNPは国民議会に参加していますが、再集計を含む選挙に対する法的異議申し立てを行っています。
2014年8月30日、軍事クーデター未遂とされる事件が発生し、当時の首相トーマス・タバネは3日間南アフリカへ逃亡しました。
2020年5月19日、トーマス・タバネは、元妻殺害事件の容疑者として名前が挙がったことによる数ヶ月間の圧力の後、正式にレソト首相を辞任しました。経済学者で元開発計画大臣のモエケツィ・マジョロがタバネの後継者として選出されました。
2020年5月13日、保健省によると、レソトはアフリカで最後にCOVID-19症例を報告した国となりました。
2022年10月28日、サム・マテカネが新たな連立政権を発足させた後、レソトの新首相に就任しました。同年先に結成された彼の繁栄のための革命(RFP)党は、10月7日の総選挙で勝利しました。
これらの政治的混乱は、民主主義の発展を妨げ、人権状況の悪化を招くこともありましたが、国民の民主化への希求や国際社会の関与により、徐々に安定を取り戻しつつあります。しかし、依然として政治的基盤は脆弱であり、国民生活への影響も少なくありません。
3. 地理
レソトは、その地理的な位置と地形が国の自然環境と人々の生活に大きな影響を与えています。国土全体が南アフリカ共和国に完全に囲まれた内陸国であり、世界で最も南に位置する内陸国でもあります。面積は約3.04 万 km2です。
3.1. 地形

レソトの最も顕著な地形的特徴は、国土全体が非常に標高の高い高地に位置していることです。実際に、レソトは世界で唯一、国土全体が標高1000 m以上に位置する独立国家です。最低地点ですら標高1400 mであり、これは世界のどの国よりも高い最低標高です。国土の80%以上が標高1800 mを超えています。
主要な山脈としては、東部国境を形成するドラケンスバーグ山脈と、国内に広がるマロティ山脈があります。南部アフリカの最高峰であるタバナ・ヌトレニャナ山(標高3482 m)もレソト国内、ドラケンスバーグ山脈の一部に位置しています。これらの山々は、壮大な景観を提供する一方で、交通や農業開発の障害ともなっています。
主要な河川としては、国内で最も重要なオレンジ川が挙げられます。オレンジ川はドラケンスバーグ山脈に源を発し、国土を西へと流れ、最終的には大西洋に注ぎます。また、オレンジ川の主要な支流であるカレドン川は、レソトの北西部国境の大部分を形成しており、この流域は比較的標高が低く、農業が盛んで人口も集中しています。首都マセルもカレドン川沿いに位置しています。レソトはこれらの河川の水源地として、下流域の南アフリカ共和国にとって極めて重要な役割を担っています。
国土の約12%が耕作可能地とされていますが、これらの土地は土壌侵食に対して脆弱であり、年間推定4000万トンの土壌が失われているとされています。
3.2. 気候
レソトの気候は、その高い標高の影響を強く受けており、同緯度の他の地域と比較して年間を通じて冷涼です。ケッペンの気候区分では、大部分が温帯夏雨気候(Cwb)または西岸海洋性気候(Cfb)に属し、イタリア北部に似た気候条件です。
気温は、夏季(10月から4月)には首都マセルや周辺の低地で30 °Cに達することもありますが、山岳地帯ではより涼しくなります。冬季(5月から9月)には、低地でも気温が-7 °Cまで下がり、高地では-18 °Cに達することもあります。
降水量は、主に夏季の雷雨としてもたらされます。年間降水量は地域によって異なり、標高の影響を受け、年間500mm程度の地域から1200mmに達する地域もあります。10月から4月にかけての夏季に最も降雨が多く、12月から2月にかけては国土の大部分で月間100mm以上の雨が降ります。一方、冬季は乾燥しており、特に6月は最も降水量が少なく、多くの地域で月間15mm未満となります。高地では5月から9月にかけて雪が降ることが一般的で、標高の高い山頂では年間を通じて降雪が見られることもあります。
3.3. 自然災害

レソトが直面する主要な自然災害の一つは、周期的な干ばつです。これは特に、国民の大多数が自給自足農業または小規模農業に依存している農村部において深刻な影響を及ぼします。干ばつは食糧生産を著しく低下させ、家畜にも被害を与え、結果として多くの人々の生活基盤を脅かします。不適切な農業慣行が干ばつの影響をさらに悪化させることも指摘されています。
2007年には深刻な干ばつが発生し、国際連合はレソト政府に対し、国際機関からの援助を受けるために非常事態宣言を発令するよう勧告しました。また、2018年から2019年にかけての雨季は、開始が通常より1ヶ月遅れただけでなく、降雨量も平均を下回りました。気象ハザードグループ赤外降水観測局(CHIRP)のデータによると、2018年10月から2019年2月までのレソトの降雨量は、平年の55%から80%減となりました。2019年3月、レソト脆弱性評価分析委員会は、干ばつの影響により国内の487,857人が人道支援を必要としていると予測しました。
干ばつは、清潔な水の不足を引き起こし、腸チフスや下痢といった水系感染症のリスクを高めます。また、水汲みのための時間と移動距離が増加することで、女性や少女が身体的・性的暴行の危険に晒されるリスクも高まります。食糧不安や経済的機会の喪失は、都市部への国内移住や、新たな機会を求めて南アフリカへの移住を促す要因ともなっています。2019年7月から2020年6月にかけては、収穫不良とそれに伴う食料価格の上昇により、640,000人が食糧不安の影響を受けると予測されました。
気候変動は、これらの自然災害の頻度や深刻度を増大させる可能性があり、レソトの持続可能な開発にとって大きな課題となっています。政府や国際機関は、干ばつ対策や気候変動適応策に取り組んでいますが、その効果は限定的です。
3.4. 野生生物

レソトの野生生物は、その山岳地帯という特殊な環境に適応した種が多く見られます。国土全体が高地に位置するため、植生は高山植物が中心です。
鳥類については、約339種が記録されており、その中には世界的に絶滅が危惧される10種と、2種の移入種が含まれています。哺乳類は、固有種である絶滅危惧種のシロオネズミ(white-tailed rat)を含む約60種が生息しています。爬虫類は、ヤモリ、ヘビ、トカゲなど17種が知られています。
レソトの植物相は、高山性であり、カツェ植物園では薬用植物のコレクションが収蔵され、マリバマツォ川流域の植物の種子バンクも運営されています。国内には、ドラケンスバーグ高山草原・森林、ドラケンスバーグ山地草原、ハイフェルト草原という3つの陸上エコリージョンが存在します。
保護地域としては、セアラバセベ国立公園が特に重要です。この公園は、南アフリカ共和国のウクハランバ・ドラケンスバーグ公園と共に、マロティ=ドラケンスバーグ公園としてユネスコ世界遺産に登録されており、その独特な生物多様性と景観が国際的に認められています。この地域には、固有種を含む多くの高山植物や動物が生息しており、生態系の保全が重要な課題となっています。過放牧や土地利用の変化などが、野生生物とその生息環境に影響を与えているため、持続可能な利用と保護の両立が求められています。
4. 政治
レソトの政治は、立憲君主制と議院内閣制を基盤として運営されています。独立以来、クーデターや政治的不安定を経験してきましたが、近年は民主的な統治体制の確立に向けた努力が続けられています。しかし、依然として政治的課題も多く抱えています。
4.1. 政体
レソトは立憲君主制を採用しており、国家元首は国王です。現在の国王はレツィエ3世です。国王の地位は主に儀礼的・象徴的なものであり、レソト憲法により政治的実権は有しておらず、政治的活動への積極的な参加も禁じられています。王位は伝統的にセーイソ家によって世襲されています。
行政の最高責任者は首相であり、政府の長として行政権を掌握します。首相は通常、国民議会(下院)の選挙結果に基づき、多数派を形成した政党または連立政権の指導者が国王によって任命されます。現在の首相はサム・マテカネです。内閣は首相によって組閣され、国民議会に対して責任を負います。
4.2. 立法府

レソトの立法府であるレソト王国議会は、両院制を採用しており、上院(Senate)と国民議会(National Assembly)から構成されます。
上院は、全33議席で構成されます。そのうち22議席は主要な部族長が世襲で務めます。残りの11議席は、国王が首相の助言に基づいて任命する議員で占められます。上院は主に、国民議会が可決した法案を審査し、助言を与える役割を担いますが、国民議会に対して強い権限は持っていません。
国民議会(下院)は、国の主要な立法機関であり、より強い権限を有しています。2001年の法改正により、議席数は80から120に増やされました。議員の選出は小選挙区比例代表併用制で行われ、80人が小選挙区から、残りの40人が比例代表制によって選出されます。議員の任期は5年です。国民議会は、法案の審議・可決、予算の承認、内閣の信任・不信任など、国政の重要な意思決定を行います。
立法手続きは、通常、法案が国民議会で審議・可決された後、上院での審議を経て、最終的に国王の裁可を得て成立します。
4.3. 司法府
レソトの司法制度は独立しており、憲法によってその地位が保障されています。法体系は、ローマ・オランダ法とイギリスのコモン・ローの影響を受けた一般法と、バソト人の伝統的な慣習法(特にレロトリ法として成文化されたもの)が混合した二元的な特徴を持っています。
主要な裁判所としては以下のものがあります。
- 控訴裁判所 (Court of Appeal):国内の最高裁判所であり、全ての事項に関する最終的な上訴審理を行います。高等裁判所を含む下級裁判所に対する監督権および審査権を有しています。控訴裁判所の裁判官のほとんどは南アフリカ共和国の法学者です。
- 高等裁判所 (High Court):第一審および上訴審の双方を管轄する主要な裁判所です。重大な民事事件および刑事事件を取り扱います。
- 治安判事裁判所 (Magistrate's Courts):より軽微な民事事件および刑事事件を取り扱う下級裁判所です。
- 伝統的裁判所 (Traditional Courts / Local Courts):主に農村部に存在し、慣習法に基づいて地域社会の紛争解決や軽微な事案を扱います。
裁判は陪審制ではなく、裁判官が単独で、または刑事裁判の場合は他の2人の裁判官をオブザーバーとして加えて判決を下します。
4.4. 主要政党
レソトは複数政党制を採用しており、多くの政党が活動しています。近年の選挙では連立政権が組まれることが一般的です。
2022年10月時点での主要政党は以下の通りです。
- 繁栄のための革命 (Revolution for Prosperity - RFP):2022年3月に実業家のサム・マテカネによって設立された比較的新しい政党。同年の総選挙で第1党となり、56議席(全120議席中)を獲得。マテカネが首相に就任し、連立政権を主導しています。
- 民主会議 (Democratic Congress - DC):社会民主主義を掲げる主要野党。2022年総選挙では29議席を獲得しました。
- 全バソト会議 (All Basotho Convention - ABC):自由主義を掲げる政党で、かつての与党。2022年総選挙では8議席と議席を減らしました。
- 民主同盟 (Alliance of Democrats - AD):RFPとの連立与党の一角。2022年総選挙で5議席を獲得。
- 経済変革運動 (Movement for Economic Change - MEC):RFPとの連立与党の一角。2022年総選挙で4議席を獲得。
- レソト民主会議 (Lesotho Congress for Democracy - LCD):かつての有力政党。1997年から2012年まで与党でしたが、近年は勢力が後退しており、2022年総選挙では3議席でした。
- バソト行動党 (Basotho Action Party - BAP):2021年に元法務大臣でABC副党首だったンコサ・マハオによって設立。2022年総選挙で6議席を獲得。
- 社会革命党 (Socialist Revolutionaries - SR):ABCの元メンバーであるテボホ・モジャペラによって2017年に設立。2022年総選挙で2議席を獲得。
これらの政党は、選挙キャンペーンや議会活動を通じて国の政策決定に影響を与えています。政党間の対立や連携が、レソトの政治情勢を左右する重要な要素となっています。
4.5. 人権
レソト憲法は、表現の自由、結社の自由、報道の自由、集会の自由、信教の自由など、基本的な人権を保障しています。2008年のイブラヒム指数(アフリカのガバナンス評価)では、サハラ以南アフリカ48カ国中12位にランクされるなど、一定の評価も得ています。
しかし、実際の人権状況には依然として多くの課題が存在します。政治的な権利に関しては、過去のクーデターや政治的不安定が影響し、時に制限されることがありました。選挙プロセスの透明性や公正性、野党の活動の自由などが重要な論点となります。
社会的な権利に関しても、貧困、高い失業率、HIV/AIDSの蔓延などが国民の生活を圧迫しており、これらの問題が人権享受の障害となっています。特に、医療アクセスや教育機会の不平等、食糧安全保障の問題などが深刻です。
政府は人権状況の改善に取り組んでいるとされていますが、その実効性については国際社会や国内の人権団体から注視されています。例えば、2022年のフリーダム・ハウスの報告によれば、サム・マテカネ首相政権下でSADCと協力して法改正を進めているものの、汚職の兆候が見られ、待遇改善を求める縫製労働者4万人のデモに対し過剰な武力行使があり、2人の抗議者が死亡した事件などが指摘されています。また、司法制度の遅延や、警察による過剰な力の行使、刑務所の過密状態なども問題点として挙げられることがあります。
4.5.1. 女性に対する暴力問題
レソトにおける女性に対する暴力は、深刻な人権問題の一つです。家庭内暴力(DV)、性的暴力(レイプを含む)、経済的虐待など、様々な形態の暴力が報告されています。
国連の報告によると、レソトは2008年に報告されたレイプ発生率が人口10万人あたり91.6件と、世界で最も高い国の一つでした。2009年の人口保健調査(DHS)では、男性の15.7%が「妻が性交渉を拒否した場合、夫が妻を殴ることは正当化される」と回答し、16%が「夫が性交渉を強要することは正当化される」と回答するなど、暴力容認の風潮も根強く残っています。ある調査では、女性の61%が生涯で何らかの性的暴力を経験し、そのうち22%が物理的な強制による性交渉を報告しています。
これらの暴力の背景には、家父長制的な社会構造、男女間の権力格差、経済的依存、アルコール乱用、そして暴力に対する社会的な受容度などが複雑に絡み合っていると考えられています。HIVの高い罹患率も、性的暴力のリスクと影響をさらに深刻化させています。
レソト政府は、この問題に対処するため、法的・制度的な枠組みの整備を進めています。2006年には「婚姻者平等法」が制定され、夫の婚姻上の権力を廃止し、妻に夫と同等の権利を与えました。しかし、法律の施行や被害者支援体制の整備、加害者への処罰の実効性には依然として課題が多いと指摘されています。
国内の人権団体やNGOは、被害者支援(シェルター提供、カウンセリング、法的支援など)、啓発活動、政策提言などを通じて、女性に対する暴力の撤廃に取り組んでいます。国際社会からの支援も行われていますが、問題の根深さから、継続的かつ包括的な取り組みが不可欠です。世界経済フォーラムの2020年ジェンダーギャップ報告書では、レソトはジェンダー平等で世界88位にランクされており、隣国の南アフリカ(17位)と比較しても低い水準にあります。
5. 行政区画
レソトは、行政管理のため、10の県 (district) に分割されています。各県は県知事 (district administrator) によって率いられています。それぞれの県には、キャンプタウン (camptown) と呼ばれる県都が存在します。
これらの10県は以下の通りです。
- ベレア県 (Berea)
- ブタ・ブテ県 (Butha-Buthe)
- レリベ県 (Leribe)
- マフェテング県 (Mafeteng)
- マセル県 (Maseru)
- モハレス・フーク県 (Mohale's Hoek)
- モコトロング県 (Mokhotlong)
- クァクハスネック県 (Qacha's Nek)
- クティング県 (Quthing)
- タバ・ツェカ県 (Thaba-Tseka)

さらに、これらの県は80の選挙区 (constituencies) に細分化され、それらは129の地方コミュニティカウンシル (community councils) から構成されています。これらの地方行政単位が、地域レベルでの行政サービスや開発計画の実施を担っています。
5.1. 主要都市
レソトの都市は、国土の西側の低地に集中している傾向があります。
- マセル (Maseru):レソトの首都であり、最大の都市です。マセル県に位置し、カレドン川を挟んで南アフリカ共和国と国境を接しています。国の政治、経済、文化の中心地であり、人口は約519,186人(2022年推定)です。政府機関、主要企業の本社、モショエショエ1世国際空港へのアクセス拠点などが集まっています。
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- テヤテヤネング (Teyateyaneng):ベレア県の県都であり、マセルの北東に位置します。人口は約75,115人(2022年推定)。手工芸品、特にタペストリーやモヘア製品の生産で知られています。
- マフェテング (Mafeteng):マフェテング県の県都で、マセルの南に位置します。人口は約57,059人(2022年推定)。農業が主要産業であり、周辺地域の商業的中心地としての役割も担っています。

- フロツェ (Hlotse)(またはレリベ):レリベ県の県都で、マセルの北に位置します。人口は約47,675人(2022年推定)。ダイヤモンド鉱山へのアクセス拠点の一つであり、歴史的な建造物も残っています。

- マプトソエ (Maputsoe):レリベ県に位置し、フロツェの近くにある国境の町です。人口は約32,117人(2022年推定)。南アフリカとの貿易の玄関口であり、工業団地も存在します。
- モハレス・フーク (Mohale's Hoek):モハレス・フーク県の県都で、国土の南部に位置します。人口は約24,992人(2022年推定)。
- マゼノド (Mazenod):マセル県に位置し、首都マセル近郊の町です。人口は約27,553人(2022年推定)。カトリックの重要な拠点であり、印刷所などがあります。
- ラタウ (Ratau):マセル県に位置する比較的人口の多い集落の一つです。人口は約26,582人(2022年推定)。
- キロアネ (Qiloane):マセル県に位置する集落です。人口は約24,093人(2022年推定)。
- マポテン (Mapoteng):ベレア県に位置する町です。人口は約23,926人(2022年推定)。
これらの都市は、それぞれの地域における行政、商業、交通の拠点として機能しています。
6. 対外関係
レソトの外交政策は、その地理的条件(南アフリカ共和国に完全に囲まれている)と経済的脆弱性に大きく影響されています。基本的な外交基調としては、近隣諸国、特に南アフリカ共和国との友好関係を維持しつつ、国際社会との協調を通じて国家の安全保障と経済発展を目指すものです。非同盟中立を宣言しており、特定の大国との軍事同盟は結んでいません。
主要国との二国間関係では、歴史的なつながりからイギリス、経済的支援や開発協力の観点からアメリカ合衆国、ドイツなど西側諸国と良好な関係を築いています。また、近年は中華人民共和国との関係も重要性を増しています(過去には台湾(中華民国)と外交関係を持っていた時期もありましたが、現在は中国と国交を結んでいます)。レソトはパレスチナ国を承認しています。2014年から2018年まではコソボ共和国を承認していました。
多国間外交においては、国際連合(UN)、アフリカ連合(AU)、南部アフリカ開発共同体(SADC)、イギリス連邦などの国際機関や地域機関に積極的に参加し、小国としての発言権確保や国際協力の枠組みを活用しようと努めています。特にSADCは、地域の安定と経済協力において重要な役割を果たしており、レソトもその活動に深く関与しています。
アパルトヘイト時代の南アフリカに対しては公然と反対の立場を取り、多くの南アフリカ難民に政治亡命を認めていました。2019年には、核兵器禁止条約に署名しました。
6.1. 南アフリカ共和国との関係
レソトと南アフリカ共和国の関係は、地理的、経済的、社会文化的に極めて密接かつ複雑です。レソトは国土全体を南アフリカに完全に囲まれており、この地理的条件が両国関係のあらゆる側面に影響を与えています。
政治的関係:歴史的には、アパルトヘイト時代の南アフリカとの間には緊張関係も存在しましたが、アパルトヘイト終結後は概ね良好な関係を維持しています。しかし、レソト国内の政情不安時には、南アフリカがSADCの枠組みを通じて調停や治安維持に関与することもあり、レソトの主権と内政への影響という点で複雑な側面も持ちます。
経済的相互依存:レソト経済は南アフリカに大きく依存しています。
- 労働力輸出:多くのレソト国民が南アフリカの鉱山や農場などで働いており、彼らからの海外送金はレソトの重要な外貨収入源です。
- 貿易:レソトの輸出入の大部分は南アフリカを経由または対象としています。南部アフリカ関税同盟(SACU)のメンバーであり、関税収入の分配もレソトの国家財政にとって不可欠です。
- 通貨:レソトの通貨ロチは南アフリカ・ランドと等価でペッグされており、ランドもレソト国内で広く流通しています。両国は共通通貨地域(CMA)を形成しています。
- 水資源:レソト高原水資源プロジェクト(LHWP)を通じて、レソトは南アフリカに水を供給しており、これはレソトにとって重要な輸出収入源となっています。
社会的・文化的関係:国境を越えた人々の移動は日常的であり、言語(ソト語は南アフリカの公用語の一つでもある)や文化的なつながりも深いです。
主要な協力分野:水資源管理(LHWP)、労働力移動、貿易・投資促進、インフラ整備、安全保障などが挙げられます。
現在の主要な懸案事項:不法移民問題、国境管理、レソト人労働者の権利保護、SACUの将来的なあり方、LHWPの環境・社会への影響などが、両国間の継続的な協議事項となっています。レソトの経済的自立と南アフリカへの過度な依存からの脱却は、レソトにとって長期的な課題です。
6.2. 日本との関係
日本とレソト王国は、1966年10月4日のレソト独立と同時に外交関係を樹立しました。両国関係は概ね良好であり、主に経済開発協力、文化交流、国際場裡における協力などを通じて進展しています。
外交使節:
- 日本はレソトに大使館を設置しておらず、在南アフリカ共和国日本国大使館がレソトを兼轄しています。
- レソトは、2007年に駐日レソト大使館を東京都に開設し、両国間の直接的な外交窓口となっています。
経済関係:
- 貿易規模は大きくありませんが、日本はレソトから主にニジマス(カツェ・ダムで養殖)や衣料品などを輸入し、レソトへは自動車や一般機械などを輸出しています。レソト側の大幅な入超(日本の輸出超過)となっています。
- 日本からの経済協力は、草の根・人間の安全保障無償資金協力や技術協力などを通じて、教育、保健医療、水資源管理、農業開発といった分野で行われています。
文化・人的交流:
- 文化交流は限定的ですが、日本の伝統文化紹介イベントや、レソトの文化紹介などが時折行われています。
- 人的交流も活発とは言えませんが、日本からの観光客やNGO関係者の訪問、レソトからの留学生や研修員の受け入れなどがあります。
- 日本はレソトを含むアフリカ9カ国に対してビザ免除措置を講じており、これが人的交流の円滑化に寄与しています(モロッコ、チュニジア、セネガル、モーリシャス、レソト、エスワティニ、南アフリカ、ボツワナ、ナミビア)。
国際場裡における協力:両国は国際連合などの国際機関において、共通の関心事項について協力関係を維持しています。
発展展望:日本はアフリカ開発会議(TICAD)プロセスを通じてアフリカ諸国との関係強化を図っており、レソトもその対象国の一つです。今後、経済協力の深化、貿易・投資の促進、人的交流の拡大などが期待されます。
6.3. 国際機関への加盟状況
レソトは、国家の規模が小さい内陸国であるという特性から、国際社会との連携を重視し、多くの国際機関および地域機関に加盟して積極的に活動しています。これらの機関への参加は、外交的発言力の確保、経済開発支援の獲得、地域的安定への貢献などを目的としています。
主要な加盟国際機関および地域機関は以下の通りです。
- 国際連合 (United Nations - UN):独立と同時に加盟。各種専門機関(UNESCO、WHO、FAOなど)にも参加し、開発、人権、平和維持などの分野で国際協力の枠組みを活用しています。
- アフリカ連合 (African Union - AU):前身のアフリカ統一機構(OAU)時代から加盟。アフリカ大陸全体の平和、安全保障、経済統合、民主的ガバナンスの推進に関する議論と活動に参加しています。
- 南部アフリカ開発共同体 (Southern African Development Community - SADC):南部アフリカ地域の経済統合と協力を目指す重要な地域機関。レソトにとって、貿易、インフラ整備、水資源管理、政治的安定など、多岐にわたる分野で極めて重要な役割を果たしています。SADCの枠組みを通じて、南アフリカ共和国との関係調整や地域紛争の解決にも関与しています。
- イギリス連邦 (Commonwealth of Nations):旧イギリス植民地であったことから独立と同時に加盟。民主主義、法の支配、人権といった共通の価値観を基盤とする緩やかな連合体であり、技術協力や選挙監視などの支援を受けています。
- 南部アフリカ関税同盟 (Southern African Customs Union - SACU):世界最古の関税同盟の一つ。南アフリカ共和国、ボツワナ、ナミビア、エスワティニと共に加盟。共通関税政策と関税収入の分配メカニズムを通じて、レソトの国家財政に大きく貢献しています。
- 非同盟運動 (Non-Aligned Movement - NAM):特定の軍事ブロックに与しない開発途上国の国際的なフォーラム。小国としての外交的立場を表明する場として活用しています。
- その他、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、世界貿易機関(WTO)など、経済・金融分野の主要な国際機関にも加盟し、経済開発のための支援や融資を受けています。
これらの国際機関での活動を通じて、レソトは国際的な課題解決に貢献するとともに、自国の国益を追求しています。
7. 軍事
レソトの国防力は、レソト防衛軍 (Lesotho Defence Force - LDF) が中心となっています。LDFは、国土の防衛、国内の治安維持支援、そして儀礼的な任務などを主な役割としています。
規模と構成:LDFは陸軍と航空団から構成されています(内陸国であるため海軍はありません)。兵力は約2,000人程度と小規模です。LDFの最高指揮官は「司令官 (Commander)」と呼称されます。
主要任務:
- 国土防衛:他国からの侵略に対する防衛。
- 国内治安維持:警察力では対応困難な大規模な騒擾や災害時における国内秩序の維持、および警察への支援。過去にはクーデターに関与するなど、国内政治に影響力を行使した歴史もあります。
- その他:国境警備、国際平和維持活動への限定的な参加、儀仗任務など。
国防予算と装備:国防予算は国家規模に比して限られています。主要な装備も、軽火器、装甲車両、輸送用ヘリコプターなど、基本的なものが中心です。装備の多くは外国からの供与や購入に依存しています。
歴史的に、LDFは国内政治において一定の役割を果たしてきました。1986年のクーデターでは軍が政権を掌握し、その後も政治的介入が散見されました。近年は民主的な文民統制の確立が課題とされており、SADCなどの地域機関も軍の改革や専門性の向上を支援しています。
7.1. 警察及び安全保障
レソトの国内治安維持は、主に警察組織によって担われています。また、国家安全保障に関する情報収集・分析を行う専門機関も存在します。
レソト騎馬警察隊 (Lesotho Mounted Police Service - LMPS):
- 役割:法と秩序の維持を主要な任務とし、一般的な警察業務(制服警官によるパトロール、犯罪捜査、交通取り締まりなど)を担当します。
- 歴史:1872年に設立された歴史ある組織で、名称の変更はあったものの継続して活動しています。「騎馬警察」という名称は、山岳地帯が多い国土において馬が重要な移動手段であった歴史を反映しています。
- 組織:最高責任者は「警察長官 (Commissioner)」です。ハイテク犯罪、移民問題、野生生物保護、テロ対策などを扱う専門部署も有しています。
レソト国家安全保障局 (Lesotho National Security Service - LNSS):
- 役割:国家安全保障の保護を任務とする情報機関です。国内外の脅威に関する情報の収集、分析、評価を行い、政府に対して報告します。
- 設立と権限:現代的な形態としては、1998年の国家安全保障サービス法によって設立されました。最高責任者は「長官 (Director General)」であり、首相によって任命・罷免されます。
- 位置づけ:国防・国家安全保障省の一部であり、政府に直接報告を行います。
これらの機関は、レソトの国内の安全と秩序を維持するために連携して活動していますが、過去の政治的不安定期には、これらの安全保障機関の役割や中立性が問われることもありました。民主的なガバナンスの下での適切な運営と国民からの信頼確保が重要な課題です。
8. 経済
レソトの経済は、農業、牧畜、製造業、鉱業を基盤とし、国外で働く労働者からの送金や南部アフリカ関税同盟(SACU)からの歳入に大きく依存しています。一人当たりの国民総所得は低く(2023年時点で1160 USD)、後発開発途上国の一つに数えられています。経済発展には、地理的制約、高い失業率、HIV/AIDSの蔓延といった課題が伴いますが、繊維産業の成長や水資源輸出など、一定の成果も見られます。経済発展における労働者の権利、環境問題、富の公平な分配は、社会自由主義的観点から重要な考慮事項です。
8.1. 主要産業
レソト経済を支える主要な産業分野には、伝統的な農牧業、近年成長著しい鉱業(特にダイヤモンド)と製造業(特に衣料・繊維)、そして潜在力を持つ観光業があります。これらの産業は、国の経済成長、雇用創出、外貨獲得において重要な役割を担っていますが、それぞれに発展上の課題も抱えています。
8.1.1. 農牧業
農牧業は、依然として多くの国民の生活基盤を支える重要な産業です。国土の約50%の世帯が自給自足的な作物栽培や家畜飼育によって収入を得ており、農業部門は国の所得の約3分の2を占めています(ただし、これはインフォーマルセクターを含む広義の農業収入を指すと考えられます)。
主要農作物:トウモロコシ、ソルガム(モロコシ)が主な主食作物として栽培されています。その他、小麦、豆類、野菜なども生産されています。しかし、国土の大部分が山岳地帯で耕作に適した土地が限られている(国土の約9-12%)ことや、土壌侵食、周期的な干ばつ、伝統的な農法などの影響で、農業生産性は低い水準にとどまっています。
主要家畜:ヒツジとヤギの飼育が盛んで、これらから得られる羊毛やモヘアは伝統的な輸出品目です。ウシも財産や農耕用として重要視されています。過放牧による植生の悪化や土壌侵食が問題となることもあります。
課題:
- 低い生産性と食糧自給率:国内の食糧需要を満たせず、多くを輸入に頼っています。
- 気候変動の影響:干ばつや異常気象のリスクが増大しています。
- 小規模農家の脆弱性:市場へのアクセス、融資、技術指導などが十分でなく、貧困から抜け出せない農家が多いです。
- 土地所有制度の問題:伝統的な土地利用慣行が、近代的な農業経営の妨げになることもあります。
政府は農業生産性の向上や食糧安全保障の確立に向けた政策を進めていますが、その効果は限定的です。小規模農家の生活向上と持続可能な農業の実現が、レソトの農牧業における大きな課題です。
8.1.2. 鉱業及び製造業
鉱業と製造業は、レソト経済の多角化と外貨獲得において重要な役割を担っています。
鉱業:
主要な鉱物資源はダイヤモンドです。レツェング、モタエ、リクホボン、カオなどの鉱山で採掘が行われています。特にレツェング鉱山は、1カラットあたりの平均価格が世界で最も高い鉱山の一つとして知られ、高品質で大きなダイヤモンド原石を産出することで有名です。1967年には601カラットの「レソト・ブラウン」、2006年には603カラットの「レソト・プロミス」、2008年には478カラット、2018年には910カラットの巨大な原石が発見されています。ダイヤモンド輸出は国の重要な外貨収入源となっていますが、国際市場の価格変動の影響を受けやすいという側面もあります。1957年12月14日、ピーター・H・ニクソンがジャック・スコット大佐の初期探査遠征の一環としてこの地域で活動中に、レツェング・ラ・テラエのキンバーライト・パイプ(メインパイプとサテライトパイプ)を発見しました。
製造業:
レソトの製造業は、特に衣料品および繊維産業が中心です。2000年代初頭にアメリカのアフリカ成長機会法(AGOA)の恩恵を受け、アメリカ市場向けの輸出拠点として急速に発展しました。これにより、多数の雇用(特に女性)が創出され、一時は製造業の労働者数が政府職員数を上回るほどでした。主な生産品目は、Tシャツ、ジーンズ、ニットウェアなどで、Foot Locker、Gap、JCPenney、Levi Strauss、Wal-Martといったアメリカの有名ブランド向けに生産されています。
しかし、国際競争の激化やAGOAの将来的な不確実性、最低賃金や労働条件に関する問題(例:2022年の縫製労働者の待遇改善デモとそれに対する武力行使)などが課題となっています。また、産業の多角化も進んでおらず、衣料・繊維産業への依存度が高い状況です。環境への配慮も、持続可能な発展のためには重要な要素です。
8.1.3. 観光業


レソトは、「天空の王国」とも称されるその壮大な自然景観を活かした観光業の発展に力を入れています。
主要な観光資源:
- マロティ山脈とドラケンスバーグ山脈:ハイキング、トレッキング、ポニートレッキング、登山、バードウォッチングなど、多様なアウトドア活動の機会を提供します。特にマロティ=ドラケンスバーグ公園はユネスコ世界遺産にも登録されており、その自然的・文化的価値が高く評価されています。
- アフリスキー・マウンテン・リゾート:南部アフリカでは数少ないスキーリゾートの一つで、冬季(6月~8月)にはスキーやスノーボードを楽しむことができます。
- カツェ・ダム:レソト高原水資源プロジェクトの一部として建設された巨大ダムで、その規模と景観が観光客を惹きつけています。ボートトリップやマス釣りなども楽しめます。
- マレツニャーネ滝:落差192 mを誇る壮大な滝で、周辺は美しい自然に囲まれています。
- 伝統文化と村:バソト人の伝統的な生活様式、円錐形の帽子「モコロトロ」や色鮮やかな「バソト・ブランケット」、伝統家屋、サン族の岩絵などを体験できる文化村やツアーがあります。モリジャ芸術文化祭のようなイベントも開催されます。
観光客統計と経済効果:観光客数はまだ限定的ですが、主に南アフリカやヨーロッパからの旅行者が訪れています。観光収入は外貨獲得や雇用創出に貢献しており、特に地域社会への経済効果が期待されています。
発展政策と課題:政府は観光インフラの整備(宿泊施設、道路、案内表示など)、マーケティング活動の強化、観光人材の育成などを進めています。しかし、アクセスの悪さ、サービスの質の向上、環境保全と観光開発のバランス、地域住民への利益還元などが課題として挙げられます。持続可能な観光の推進が、レソトの観光業にとって重要なテーマです。
8.2. 労働力輸出と海外送金
レソト経済の重要な特徴の一つが、国民の多く(特に男性)が国外、主に隣国の南アフリカ共和国へ出稼ぎに行き、そこからの送金が国内経済を支えているという点です。
現状と規模:歴史的に、レソトの男性は南アフリカの鉱山(金鉱山やダイヤモンド鉱山など)や農場、建設現場などで働くために移住してきました。一時期は成人男性の大部分が南アフリカで働いていたとされ、現在でもその数は相当数に上ると考えられています(合法・不法滞在者を含む)。近年、南アフリカの鉱業部門の縮小や国内産業の(限定的な)発展により、その規模はかつてほどではないものの、依然として多くの世帯にとって重要な収入源です。
海外送金の経済への影響:
- 国家経済:海外送金は、レソトにとって貴重な外貨準備の源泉であり、国際収支の改善に貢献しています。
- 家計所得:送金は、国内に残る家族の生活費、教育費、医療費などを賄う上で不可欠な役割を果たしています。これにより、貧困の緩和や消費の拡大にも繋がっています。
移住労働者の権利と課題:
- 権利:移住労働者は、時に劣悪な労働条件、低賃金、差別、搾取などの問題に直面することがあります。滞在資格や労働許可に関する問題も抱えがちです。
- 保護:レソト政府や国際機関、NGOは、移住労働者の権利保護や労働条件の改善、安全な送金システムの確保などに取り組んでいます。しかし、特に不法滞在の労働者の場合、保護が十分に行き届かないケースも少なくありません。
- 社会的影響:男性の長期不在は、家族構成や地域社会のあり方にも影響を与えます(例:女性が世帯主となる家庭の増加、育児や介護の負担増など)。また、HIV/AIDSの感染リスクが出稼ぎ労働者とその家族の間で高まることも懸念されています。
南アフリカ経済の変動や移民政策の変更は、レソトからの労働力輸出と送金額に直接的な影響を与えるため、レソト経済の不安定要因の一つともなっています。国内での雇用機会創出と産業育成が、この海外依存を軽減するための長期的な課題です。
8.3. 水資源とレソト高原水資源プロジェクト


レソトは「水の塔」とも呼ばれるほど水資源に恵まれており、この豊富な水を活用した国家的な取り組みがレソト高原水資源プロジェクト(Lesotho Highlands Water Project - LHWP)です。
LHWPの概要:LHWPは、レソト国内の山岳地帯に複数の大規模ダムとトンネルを建設し、オレンジ川水系の水を南アフリカ共和国のハウテン州(ヨハネスブルグやプレトリアを含む経済中心地)へ供給することを目的とした、両国間の共同事業です。このプロジェクトは1986年に開始されました。
段階的な建設状況:プロジェクトは複数のフェーズに分けて進められています。
- フェーズ1A:カツェ・ダムとムエラ水力発電所などが完成。
- フェーズ1B:モハレ・ダムとマツォク導水トンネルなどが完成。
- フェーズ2:ポルイフラ・ダムとコボング揚水発電所の建設などが計画・進行中です。
経済的効果:
- 水輸出収入:南アフリカへの水供給により、レソトは安定的な外貨収入を得ています。これは国家財政にとって非常に重要です。2010年には、電力と水の売却から約7000.00 万 USDの収入がありました。
- 電力生産:ムエラ水力発電所などで発電された電力は、レソト国内の電力需要の大部分を賄い、エネルギー自給率の向上に貢献しています。かつては南アフリカからの電力輸入に頼っていましたが、LHWPによりほぼ自給自足が可能となりました。
- 雇用創出:プロジェクトの建設および運営段階で、多くの雇用機会が創出されました。
- インフラ整備:ダム建設に伴い、道路や通信網などの関連インフラも整備されました。
環境・社会への影響と課題:
- 住民移転:ダム建設により、多くの住民が居住地からの移転を余儀なくされました。補償や再定住支援に関する問題が発生し、社会的な影響が懸念されました。
- 生態系への影響:河川流量の変化、ダム湖の形成などが、下流域の生態系や生物多様性に影響を与える可能性があります。
- 土砂堆積:ダム湖への土砂の流入と堆積は、ダムの貯水容量や寿命に影響を与える長期的な課題です。
- 水利権と国際関係:水資源の配分や価格設定は、南アフリカとの二国間関係において重要な交渉事項であり続けます。
- 汚職問題:過去にはプロジェクトに関連した汚職事件も発生し、透明性やガバナンスの確保が求められました。
LHWPはレソトにとって経済的恩恵が大きい一方で、環境的・社会的な側面への配慮と持続可能な運営が不可欠なプロジェクトです。
8.4. 通貨及び金融
レソトの公式通貨はロチ(loti、複数形:maloti、通貨コード:LSL)です。補助通貨はセンテ(sente、1ロチ=100センテ)です。
為替レート制度:ロチは、南アフリカ共和国の通貨である南アフリカ・ランド(ZAR)と1対1の固定為替レート(ペッグ制)で連動しています。これは、レソトが南アフリカ、エスワティニ、ナミビアと共に形成している共通通貨地域(Common Monetary Area - CMA)の取り決めに基づいています。このペッグ制により、両国間の貿易や投資が円滑に行われる一方、レソトの金融政策は南アフリカの金融政策に大きく影響されることになります。南アフリカ・ランドもレソト国内で法定通貨として広く流通しており、ロチと並行して使用されています。
レソト中央銀行 (Central Bank of Lesotho - CBL):レソトの金融政策の実施、通貨(ロチ)の発行と管理、銀行システムの監督、物価の安定、金融システムの安定維持などを担う中央銀行です。CMAの枠組みの中で、南アフリカ準備銀行との協調も行っています。
金融市場:レソトの金融市場は比較的小規模で、商業銀行が中心となっています。その他、開発金融機関、保険会社、年金基金などが存在します。株式市場は存在しません。金融サービスの普及率や、中小企業への融資アクセスなどが課題として挙げられます。
CMA加盟国としての地位は、為替レートの安定というメリットをもたらす一方で、独自の金融政策の自由度が制限されるというデメリットも伴います。レソト経済の南アフリカへの強い依存関係を反映した通貨・金融システムと言えます。
9. 社会
レソトの社会は、バソト文化を基盤としつつも、高いHIV/AIDS罹患率、貧困、不平等といった深刻な課題に直面しています。教育水準は比較的高いものの、それが必ずしも経済的機会には結びついていない現状もあります。社会的弱者の状況や格差問題への対応は、国の持続的な発展にとって不可欠です。
9.1. 人口統計
2023年現在、レソトの総人口は約230万人と推定されています。
主要な人口統計学的指標:
- 人口増加率:比較的低い水準にあり、HIV/AIDSの蔓延や国外への労働力流出が影響していると考えられます。
- 出生率・死亡率:出生率は依然として高いものの、死亡率も高く、特に乳児死亡率や妊産婦死亡率は改善の余地が大きいです。
- 平均余命:HIV/AIDSの影響で著しく低く、2019年時点で約50.7歳(男性47.7歳、女性54.2歳)と、世界でも最低水準にあります。ただし、近年はわずかながら改善傾向も見られます。
- 年齢別人口構造:若年層の割合が高い、典型的な開発途上国のピラミッド型構造をしていますが、生産年齢人口におけるHIV/AIDSによる死亡が社会経済に大きな影響を与えています。15歳から64歳の人口が約60.2%を占めます。
- 都市化率:約25%が都市部に居住し、75%が農村部に居住しています(2000年代の情報)。都市人口の年間増加率は約3.5%と推定されており、都市への人口集中が進んでいます。
- 人口密度:国土全体では比較的低いですが、耕作可能な低地に人口が偏在しています。
HIV/AIDSの蔓延は、人口動態に深刻な影響を及ぼしており、労働力人口の減少、孤児の増加、医療費の増大など、多岐にわたる社会問題を引き起こしています。
9.2. 民族及び言語
レソトの民族構成は非常に均質的であり、これはアフリカ諸国の中では少数派です。
民族:
- 人口の約99.7%がバントゥー系のソト人(Basotho)で占められています。ソト人はさらに、バフォケン、バトゥルン、バフティ、バクエナ、バタウング、バツォエネン、マテベレといったサブグループに分かれます。
- その他、ヨーロッパ系、アジア系、コサ人などが少数(約1%)居住しています。
この民族的な均質性は、レソトが植民地化によって国境が引かれた他の多くのアフリカ諸国と異なり、単一の主要な文化的民族集団と言語を持つ国民国家に近い性格を持つことを意味します。
言語:
- ソト語(Sesotho):バソト人の母語であり、国の第一公用語です。国民のほぼ全員が話し、日常生活、教育、メディアなどで広く使用されています。
- 英語:第二公用語であり、政府の公式文書、高等教育、ビジネスなどの分野で使用されます。
- その他:少数のズールー語話者やコサ語話者も存在します。
国名「レソト」は「ソト語を話す人々の土地」を意味し、民族と言語が国のアイデンティティと深く結びついていることを示しています。
9.3. 宗教

レソトではキリスト教が広く信仰されており、国民の大多数(2011年12月の推定で95%以上)がクリスチャンです。
宗派別分布(2015年ARDAのデータに基づく):
- カトリック:人口の約49.4%を占め、国内最大の宗派です。マセル大司教区と、その属司教区であるレリベ、モハレス・フーク、クァクハスネックの各司教区によって構成される教会管区があります。これらの司教は全国司教協議会を形成しています。
- プロテスタント:人口の約18.2%を占めます。
- ペンテコステ派:人口の約15.4%を占めます。
- 聖公会:人口の約5.3%を占めます。
- その他のキリスト教諸派:人口の約1.8%を占めます。
その他の宗教と無宗教:
- 非キリスト教の宗教(伝統宗教、イスラム教など):人口の約9.6%を占めます。
- 無宗教:人口の約0.2%を占めます。
キリスト教は、教育や医療といった社会サービスにおいても歴史的に大きな役割を果たしてきました。多くの学校や病院が教会によって運営されています。伝統的な信仰も、特に農村部ではキリスト教と共存する形で影響力を保っています。宗教はレソトの社会と文化に深く根付いており、人々の価値観や生活様式に影響を与えています。憲法は信教の自由を保障しています。
9.4. 教育


レソトは教育への投資を重視しており、GDPに占める教育支出の割合が12%を超えるなど、アフリカの中でも比較的高い水準にあります。その結果、識字率もアフリカで最も高い国の一つとなっています。
主要な教育指標:
- 識字率(15歳以上):2015年の推定で、女性が88.3%、男性が70.1%、全体で79.4%です。特筆すべきは、女性の識字率が男性を17%以上も上回っている点です。これは、伝統的に男子児童が家畜の放牧などの労働力として家計を助ける役割を担ってきたため、就学機会が限られていたことと関連しています。2009年の報告では、成人識字率は82%とされています。
- 就学率:初等教育の就学率は高いですが、中等教育以降は低下する傾向にあります。
教育制度:
- 学制は、初等教育、中等教育、高等教育からなります。
- 義務教育の有無については明確な記述がありませんが、政府は無料の初等教育プログラムを段階的に実施しています。
- 初等教育は「スタンダード」と呼ばれる6年制です。2000年の南部・東部アフリカ教育質監視コンソーシアム(SACMEQ)の調査によると、レソトの小学6年生(平均年齢14歳)の37%が読解レベル4(「意味を理解して読む」)以上でした。
- 公教育が中心ですが、教会が運営する学校も多く、教育システムにおいて重要な役割を果たしています。
高等教育機関:
- レソト国立大学(National University of Lesotho - NUL):国内で唯一の総合大学であり、ローマ市にキャンパスがあります。
- その他、教員養成カレッジや専門学校などが存在します。
教育分野における主要な課題:
- 教育の質:識字率は高いものの、教育内容の質や、国際的な競争力のある人材育成が課題です。
- 教育格差:都市部と農村部、貧富の差による教育機会の格差が存在します。特に、中等教育以降の就学費用が家計の負担となる場合があります。
- HIV/AIDSの影響:教員の罹患や死亡、孤児の増加などが教育システムに影響を与えています。
- 雇用のミスマッチ:教育を受けても、国内に適当な雇用機会が少ないため、若年層の失業や頭脳流出が問題となっています。
インターネットの普及率は低い(国際電気通信連合によると3.4%)ですが、Econet Telecom Lesothoのような企業が低価格帯の携帯電話を通じたメールアクセスを拡大し、教育情報へのアクセス改善に貢献しています。アフリカン・ライブラリー・プロジェクトは、アメリカ平和部隊レソトやブタ・ブテ県教育局と提携し、学校や村の図書館設立に取り組んでいます。
9.5. 保健医療
レソトの保健医療システムは、多くの深刻な課題に直面しており、国民の健康状態は依然として厳しい状況にあります。国連開発計画(UNDP)による人間開発指数では、「低人間開発」国に分類されています(187カ国中160位)。
主要な保健指標:
- 平均寿命:2016年時点で男性51歳、女性55歳。2009年には52歳と報告されており、依然として世界で最も低い水準の一つです。
- 乳児死亡率:約8.3%と高い水準です。
- 妊産婦死亡率:改善が必要な状況です。
主要疾病:
- HIV/AIDS:レソトは世界で2番目にHIV/AIDSの成人(15~49歳)有病率が高い国であり、2018年には23.6%、2021年には22.8%でした。これは国民の健康と社会経済に壊滅的な影響を与えています。多くの子供たちが孤児となり、労働力人口が減少し、医療システムへの負担が増大しています。アパレル産業では、労働者のための疾患予防・治療プログラム「Apparel Lesotho Alliance to Fight AIDS (ALAFA)」が実施されています。
- 結核:HIV感染者の免疫力低下に伴い、結核の罹患率も世界で最も高い水準にあります。
医療サービスシステム:
- 医療施設は、公立病院、診療所(クリニック)、私立医療機関などがありますが、特に専門医療や高度医療へのアクセスは限られています。
- 農村部では医療サービスへのアクセスが困難な場合が多く、地理的な障壁や交通手段の不足が問題となっています。
- 医療従事者(医師、看護師など)の不足も深刻です。
政府の保健政策と国際協力:政府はHIV/AIDS対策、母子保健の改善、結核対策などを重点課題として取り組んでおり、世界保健機関(WHO)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、世界基金などの国際機関や二国間援助機関からの支援を受けています。
その他の課題:
- 医療アクセスの格差:都市部と農村部、貧富の差による医療サービスへのアクセスの不平等が存在します。
- 自殺率:WHOのデータによると、2008年以降、レソトは人口当たりの自殺率が世界で最も高い国の一つです。
- 障害者の状況:2006年の国勢調査では人口の約4%が何らかの障害を持つとされていますが、実数は世界平均の15%に近いと考えられています。障害を持つ人々は、教育、医療、雇用へのアクセスにおいて社会的・文化的な障壁に直面しています。レソトは2008年に国連の障害者権利条約に署名しました。
これらの課題解決のためには、持続的な保健医療システムの強化、予防活動の推進、国際社会との連携強化が不可欠です。
9.6. 貧困と不平等
レソトは、深刻な貧困と高いレベルの所得不平等に苦しんでいます。これらの問題は、国民の生活の質を著しく低下させ、社会の安定と持続的な発展を阻害する大きな要因となっています。
貧困の現状:
- 貧困ライン以下の人口割合:正確な最新データは変動しますが、世界銀行の報告によると、1995年から2003年の間に1日あたり1.25 USD(購買力平価)未満で生活する人口の割合は48%から44%に減少したものの、依然として国民の半数近くが貧困状態にあると推定されています。
- 人間開発指数(HDI)においても、レソトは低位にランクされています。
所得不平等:
- ジニ係数で示される所得格差は非常に大きく、富が一部の層に集中していることを示唆しています。2017年のデータでは54.2と高い数値です。
貧困の原因と様相:
- 高い失業率:特に若年層の失業が深刻で、安定した収入を得る機会が限られています。
- 農業への依存と低い生産性:多くの国民が天候に左右されやすい自給自足的な農業に従事しており、干ばつなどの影響を受けやすいです。
- HIV/AIDSの蔓延:世帯の稼ぎ手を失ったり、医療費が増大したりすることで、多くの家庭が貧困に陥っています。
- 限定的な経済構造:南アフリカへの労働力輸出や一部の産業(繊維、ダイヤモンド)への依存度が高く、経済の変動に対する脆弱性があります。
- 教育と雇用のミスマッチ:教育水準は比較的高いものの、それが国内の雇用機会に結びついていない場合があります。
- 地理的条件:山岳地帯が多く、インフラ整備が遅れている地域では、市場へのアクセスや社会サービスへのアクセスが困難です。
貧困による社会問題:食糧不安、栄養不良、保健医療へのアクセス困難、教育機会の喪失、犯罪の増加、社会的排除など、多岐にわたる問題を引き起こしています。
貧困緩和政策と社会的弱者への支援:レソト政府は、国際機関(世界銀行、IMF、国連など)や二国間援助機関と協力し、貧困削減戦略の策定や社会保護プログラム(食糧支援、現金給付、公共事業など)の実施に取り組んでいます。また、教育や保健医療への投資を通じて、人的資本の強化も目指しています。しかし、これらの政策の効果は、財政的制約、ガバナンスの問題、構造的な課題などにより、必ずしも十分とは言えません。
特に、HIV/AIDS孤児、障害者、高齢者、女性世帯主の家庭など、社会的弱者に対する的を絞った支援策の強化が求められています。
10. 文化
レソトの文化は、国民の大多数を占めるバソト人の伝統的な生活様式、価値観、芸術表現に深く根ざしています。山岳地帯という地理的環境と、歴史的な経緯が独自の文化を育んできました。現代社会においては、都市化やグローバリゼーションの影響を受けつつも、伝統文化を維持・継承しようとする努力が見られます。
10.1. 伝統衣装と工芸

レソトの伝統衣装は、その機能性と象徴性において特筆すべきものです。
- バソト・ブランケット (Basotho blanket):レソトを象徴する最も有名な伝統衣装です。元々は羊毛で作られていましたが、現在はアクリル繊維製のものが主流です。厚手で保温性に優れており、高地の冷涼な気候に適応しています。様々な色や模様があり、デザインにはそれぞれ意味が込められています。結婚式や葬儀といった儀礼の際や、日常的にも男女問わず広く着用されます。その起源は19世紀に遡り、ヨーロッパの毛布が持ち込まれたことがきっかけとされています。主要な製造業者の一つは、南アフリカに工場を持つアランダ社です。
- モコロトロ (Mokorotlo):円錐形の麦わら帽子で、バソト・ハットとも呼ばれます。これもレソトの国民的シンボルの一つであり、レソトの国旗のデザインにも採用されています。日差しや雨を防ぐ実用的な役割に加え、儀礼的な場面でも着用されます。
伝統工芸:
- 陶器:粘土を使った伝統的な陶器作りが行われています。
- 籠細工:草や葦を編んで作られる籠は、日常生活で様々な用途に使われます。
- ビーズ細工:色鮮やかなビーズを使った装飾品も作られています。
- 木彫り:杖や生活用具などに施される木彫りも伝統工芸の一つです。
これらの伝統衣装や工芸品は、レソトの文化遺産として大切にされており、観光客向けの土産物としても人気があります。
10.2. 食文化
レソトの食文化は、地元で採れる食材を活かした素朴で栄養価の高い料理が中心です。アフリカの伝統的な食文化と、イギリス植民地時代の影響を受けた要素が混ざり合っています。
主食:
- パパ (Papa):トウモロコシの粉を練って作る粥状の主食で、南部アフリカ一帯で広く食べられています。「ミーリーズ (mealies)」とも呼ばれます。通常、野菜や肉のソースと一緒に食べられます。
- モトホ (Motoho):ソルガム(モロコシ)を発酵させて作る粥で、レソトの国民食とされています。
- パン:小麦粉を使ったパンも食べられます。
主な料理:
- モロホ (Moroho):葉物野菜(キャベツ、ホウレンソウなど)を炒めたり煮たりした料理で、パパの付け合わせとして一般的です。
- 肉料理:牛肉、羊肉、鶏肉などが食べられます。シチューにしたり、焼いたり(シシェニャマ、sishenyamaとして道端で売られることもある)、乾燥させたりします。
- 豆料理:豆類も重要なタンパク源です。
- その他、カボチャ、ジャガイモなどの野菜もよく使われます。
飲み物:
- 茶:イギリスの影響で紅茶も飲まれます。
- 伝統的なビール:ソルガムやトウモロコシを発酵させて作る自家製のビールがあります。
- 発酵ジンジャービア:レソト名物の一つで、レーズン入りと無しの2種類があり、道端で売られていることもあります。
食事は家族やコミュニティで共にすることが重視され、手で食べるのが伝統的な作法です。都市部では西洋風の食文化も浸透しつつありますが、伝統的な食文化は依然として人々の生活に根付いています。
10.3. 音楽と祭り
レソトの音楽と舞踊は、バソト文化の重要な構成要素であり、人々の生活や儀式と深く結びついています。
伝統音楽:
- 特徴:ポリフォニックな(多声的な)歌唱、コールアンドレスポンス形式、即興性などが特徴です。労働歌、儀式の歌、娯楽のための歌など、様々な種類の歌があります。
- 楽器:
- レコ룰로 (Lekolulo):牧童が使う葦笛の一種。
- セトロトロ (Setolotolo):口琴の一種で、男性が演奏します。
- トモ (Thomo):女性が演奏する弦楽器。
- 太鼓や手拍子もリズムを刻むために用いられます。
伝統舞踊:
- モクベロ (Mokhibo):女性の踊りで、膝をついた状態で上半身をリズミカルに動かすのが特徴です。
- モホボボ (Mohobobo):男性の踊りで、力強い足踏みやジャンプが見られます。
- リトリボ (Litolobonya):結婚式などで踊られる踊りです。
祭り:
- モリジャ芸術文化祭 (Morija Arts & Cultural Festival):レソトで最も有名で大規模な文化祭の一つです。毎年、歴史的な町モリジャ(1833年に最初の宣教師が到着した場所)で開催され、国内外から多くのアーティストや観光客が集まります。伝統音楽、舞踊、演劇、詩の朗読、工芸品の展示販売などが行われ、レソト文化のショーケースとなっています。
- その他、地域の祭りや儀式に関連した音楽や舞踊も各地で行われています。
現代の大衆音楽:伝統音楽の要素を取り入れつつ、ジャズ、ゴスペル、ヒップホップなど、様々なジャンルの影響を受けた現代的なポピュラー音楽も若者を中心に人気があります。
これらの音楽や祭りは、レソトの人々のアイデンティティを表現し、コミュニティの絆を深める上で重要な役割を果たしています。
10.4. スポーツ
レソトで最も人気のあるスポーツはサッカーです。
サッカー:
- 国内リーグ:レソト・プレミアリーグが国内のトップリーグとして運営されています。
- 代表チーム:サッカーレソト代表は、国際大会への出場経験はまだありません(FIFAワールドカップ、アフリカネイションズカップ共)。しかし、南部アフリカ地域の大会などには参加しています。
- 国民の関心は非常に高く、国内外の試合が広く観戦されています。
その他のスポーツ:
- 陸上競技:特に長距離走において、国際レベルで活躍する選手を時折輩出しています。高地トレーニングに適した環境が有利に働くとも言われています。
- ボクシング
- ネットボール:女性に人気があります。
- クリケット:イギリス連邦の影響で、一部で行われています。
伝統スポーツ:
- 馬術に関連した伝統的な競技や、棒術のような武術も存在します。バソト・ポニーは歴史的に戦闘や輸送、農業に使われてきました。
スポーツは、レソトの人々にとって重要な娯楽であり、国民の一体感を高める役割も担っています。しかし、国内のスポーツインフラや育成システムはまだ発展途上であり、国際的な競争力を高めるためにはさらなる投資と支援が必要です。
10.5. メディアと映画
レソトにおけるメディア環境は、国の規模や経済状況を反映して限定的ですが、国民への情報伝達や世論形成において一定の役割を果たしています。
主要メディア:
- ラジオ:最も普及しているメディアであり、情報アクセスの主要な手段です。国営放送局(Lesotho National Broadcasting Service - LNBS)のラジオサービスに加え、複数の民営ラジオ局が存在し、ニュース、音楽、教育番組などを放送しています。
- テレビ:国営放送局LNBSがテレビサービス(Lesotho Television - LTV)を提供しています。衛星放送や南アフリカの放送を受信している世帯もあります。
- 新聞:いくつかの週刊新聞が発行されており、英語とソト語でニュースや論説を掲載しています。日刊紙は限られています。
- インターネット:インターネットの普及率はまだ低いですが、徐々に向上しており、オンラインニュースサイトやソーシャルメディアも情報源として利用されつつあります。
報道の自由:レソト憲法は報道の自由を保障していますが、実際には政府からの圧力や自己検閲が存在すると指摘されることもあります。特に政治的に敏感な問題に関する報道は慎重になる傾向があります。
映画産業:
- レソトの映画産業はまだ小規模で、国内での映画製作は限られています。
- しかし、近年、レソトを舞台にしたり、レソト出身の監督による作品が国際的に注目されるケースも出てきています。
- 映画『ブラックパンサー』(2018年)の監督ライアン・クーグラーは、作中の架空の国ワカンダの描写がレソトに触発されたと述べており、映画の影響でバソト・ブランケットがより知られるようになりました。
- 映画『これは埋葬ではない、これは復活だ』(原題:This Is Not a Burial, It's a Resurrection、2019年)は、レモハン・ジェレマイア・モセス監督による作品で、レソト映画として初めてアカデミー国際長編映画賞にエントリーされ、国際的な映画祭で高い評価を受けました。この作品は、レソトの美しい風景と共に、近代化の波にさらされる伝統的な生活や死生観を描いています。
メディアと映画は、レソトの文化発信や社会問題への意識向上において、今後ますます重要な役割を担うことが期待されます。
10.6. 世界遺産
レソトには、2024年現在、1件のユネスコ世界遺産が登録されています。
- マロティ=ドラケンスバーグ公園 (Maloti-Drakensberg Park)
- 種別:複合遺産(自然遺産と文化遺産の両方の価値を持つ)
- 登録年:2000年(南アフリカ側のウクハランバ・ドラケンスバーグ公園がまず自然遺産として登録)、2013年(レソト側のセアラバセベ国立公園を含む形で拡大登録され、複合遺産となる)
- 概要:この世界遺産は、レソトと南アフリカ共和国の国境をまたがる広大な山岳地帯です。レソト側は主にセアラバセベ国立公園が含まれます。
- 自然的価値:切り立った玄武岩の断崖、深く刻まれた渓谷、高山ツンドラのような植生など、壮大で美しい自然景観を有しています。また、多様な固有種を含む動植物が生息・生育しており、生物多様性のホットスポットの一つとされています。特に、絶滅危惧種の鳥類や高山植物群が重要です。
- 文化的価値:この地域には、数千年前に遡るサン人(ブッシュマン)による多数の岩絵が残されています。これらの岩絵は、サン人の生活、信仰、儀式などを描き出しており、人類の精神文化を知る上で非常に貴重な考古学的資料です。
- 保全状況:両国政府は、この貴重な自然遺産および文化遺産を保護するために協力しています。しかし、過放牧、外来種の侵入、観光開発による影響、気候変動などが脅威となっており、持続可能な管理と保全活動が求められています。
マロティ=ドラケンスバーグ公園は、レソトの自然の豊かさと文化の奥深さを象徴する場所であり、国内外からの観光客にとっても重要な目的地となっています。
11. 交通
レソトの交通網は、山岳地帯という地理的制約から発展が遅れており、国内および国外へのアクセスにおいて課題を抱えています。主要な交通手段は道路交通であり、航空交通と限定的な鉄道交通がそれを補完しています。
11.1. 道路交通
道路はレソト国内で最も重要な交通手段です。
- 道路網:総延長は数千キロに及びますが、その多くは未舗装路であり、特に山間部では雨季に通行が困難になることがあります。主要都市間や南アフリカへ通じる幹線道路は比較的整備が進んでいますが、地方の道路網の改善が課題です。
- 舗装状況:幹線道路を中心に舗装が進められていますが、全道路網に占める舗装率はまだ低いです。
- 主要幹線道路:首都マセルから主要な県都や国境検問所へ向かう道路が中心です。
- 国境通過地点:南アフリカ共和国との間に複数の公式な国境検問所があり、人や物資の往来が行われています。
- 公共交通手段:
- バス:都市間や地方を結ぶ主要な公共交通機関です。
- ミニバスタクシー:乗り合いの小型バスで、国内の短中距離移動に広く利用されています。
- 道路安全問題:交通事故の発生率が高く、道路インフラの不備、車両の整備不良、運転マナーなどが原因として挙げられます。
道路網の整備は、経済発展、地域間格差の是正、社会サービスへのアクセス向上にとって不可欠であり、政府も重点課題の一つとして取り組んでいます。
11.2. 航空交通
航空交通は、特に国際的なアクセスや国内の遠隔地へのアクセスにおいて重要な役割を果たしています。
- モショエショエ1世国際空港 (Moshoeshoe I International Airport):首都マセル近郊(マゼノド)に位置する、レソト唯一の国際空港です。南アフリカのヨハネスブルグへの定期便が運航されており、国際的な玄関口となっています。
- 国内空港・飛行場:国内には、マテカネ空港のような小規模な飛行場や滑走路が各地に点在しており、主にチャーター便や緊急輸送、観光目的などで利用されます。山岳地帯へのアクセス手段として重要です。
- 航空交通の役割:国際的なビジネスや観光客の誘致、国内の僻地への物資輸送や医療搬送などに貢献しています。
空港施設の近代化や国内航空網の整備が、今後の課題です。
11.3. 鉄道交通
レソトの鉄道網は非常に限定的です。
- 路線:国内には、首都マセルと南アフリカ共和国のブルームフォンテーンを結ぶ鉄道路線の一部区間のみが存在します。具体的には、南アフリカの鉄道網からマセル市内にある工業地帯の貨物駅までの約1.6 km(または約1 kmとも)の路線です。
- 役割:主に貨物輸送(特に南アフリカとの間の輸出入品)に利用されています。旅客輸送は行われていません。
- 限界:国内の鉄道網は実質的にこの短い区間のみであり、国内交通における役割は極めて限定的です。広範な鉄道網の建設は、地形的な制約や莫大な費用がかかるため、現実的ではありません。
レソトの交通システムは、南アフリカとの強い結びつきを反映しており、道路交通がその中心を担っています。