1. 生涯と初期のキャリア
ギリェルメのキャリアはブラジルで始まり、若くしてその才能を発揮した。
1.1. 出生とユース時代
ギリェルメは1985年12月12日にブラジルのミナスジェライス州カタグアゼスで生まれた。幼い頃はフットサルに親しみ、10歳の時にゴールキーパーのポジションに転向した。2001年から2002年にかけてはパラナ・サッカー・テクニカル・センター(PSTC)のユースチームに所属し、専門的な指導を受けた。また、U-20ブラジル代表に招集された経験も持つが、試合に出場することはなかった。
1.2. アトレチコ・パラナエンセ時代
プロとしてのキャリアは、パラナ州クリチバを本拠地とするアトレチコ・パラナエンセで始まった。2005年2月13日に行われたカンピオナート・パラナエンセのナシオナル・アトレチコ・クルーベ戦(0-1で敗戦)でプロデビューを果たした。アトレチコ・パラナエンセでは、2007年シーズンにリーグ戦18試合、ブラジルカップ3試合に出場している。ロシアのクラブに移籍する前には、トルコのクラブからもオファーを受けていた。
2. ロコモティフ・モスクワでのキャリア
ギリェルメはFCロコモティフ・モスクワで長期間にわたり活躍し、クラブの成功に大きく貢献した。
2.1. 入団と初期の適応
2007年8月、ギリェルメはロシア・プレミアリーグのFCロコモティフ・モスクワと5年契約を結んだ。これは、ロシアサッカー史上初のブラジル人ゴールキーパーの誕生を意味した。入団当初、背番号は85番を与えられた。2007年シーズンはトップチームでの公式戦出場はなく、リザーブチームで3試合に出場するにとどまった。この期間は、ロシアのサッカーと生活環境への適応に費やされた。

2009年7月12日、ロシア・プレミアリーグ第13節のFCトム・トムスク戦(ホームでの0-0引き分け)でトップチームでの公式デビューを果たした。この試合以降、彼はロコモティフの正ゴールキーパーの座を確立し、2009年シーズンの残り全試合でレギュラー出場した。2010年には、背番号を85番から1番に変更。このシーズンはリーグ戦全30試合に出場し、安定したパフォーマンスを見せた。同年8月19日には、UEFAヨーロッパリーグのFCローザンヌ・スポルト戦でヨーロッパの舞台にデビューした。
2.2. 正GKとしての確立とキャプテン就任
2013年2月、キプロスでの冬季キャンプ中に、当時の監督スラベン・ビリッチによってロコモティフのキャプテンに任命された。同年7月には、ロコモティフのサポーターによる月間最優秀選手投票で「月間最優秀選手」に選ばれるなど、ファンからも絶大な信頼を得た。
2.3. 主要なシーズンと契約更新
2013年1月中旬、ギリェルメはロコモティフとの契約を2016年まで延長した。しかし、2014年7月28日のPFC CSKAモスクワ戦で前十字靭帯の損傷という重傷を負い、約6か月にわたる長期離脱を余儀なくされた。翌春にトップチームに復帰したものの、この2014-15シーズンは彼にとって最も成功したシーズンの一つとなり、ロコモティフはリーグ戦で3位の成績(銅メダル)を収めた。2015年3月には、再びロコモティフの月間最優秀選手に選出されている。
2022年5月23日、ギリェルメはロコモティフと2024年6月までの新契約を締結し、キャリアの晩年までクラブに留まることを選択した。
2.4. クラブからの退団
2024年7月1日、契約満了に伴いロコモティフ・モスクワを退団した。彼は17年間にわたるロコモティフでの長いキャリアに終止符を打った。
3. ロシア代表キャリア
ギリェルメはロシアへの帰化を経て、同国代表チームの重要な一員となった。
3.1. ロシアへの帰化と代表デビュー
ブラジルで生まれ育ったギリェルメは、2015年11月22日にロシア市民権を取得した。同日、彼はリトアニア代表とフランス代表との親善試合に向けてロシア代表に初招集された。2016年3月26日にオトクリティエ・アリーナで行われたリトアニア戦で代表デビューを果たし、ハーフタイムに同試合でデビューしたスタニスラフ・クリツユクと交代して出場した。このデビューは、旧ソビエト連邦圏外から帰化した選手としては初めてロシア代表としてプレーするという、歴史的な瞬間であった。
3.2. 主要国際大会への参加と役割
ギリェルメはUEFA EURO 2016のロシア代表メンバーに選出されたが、大会での出場機会はなかった。2018年5月11日には、2018 FIFAワールドカップのロシア代表予備メンバー(5番目のゴールキーパー)に含まれたが、最終的な本大会のメンバーからは外れた。
FIFAワールドカップ後にイーゴリ・アキンフェエフが代表を引退すると、ギリェルメはアンドレイ・ルニョフと競い合いながら、ロシア代表の正ゴールキーパーの座を担うようになった。UEFA EURO 2020予選では10試合中9試合に出場し、6試合でクリーンシートを達成、わずか8失点という好成績を収めた。また、2020-21ロシア・プレミアリーグでは「年間最優秀ゴールキーパー」に選ばれたにもかかわらず、2021年に開催された本大会のロシア代表には招集されなかった。
4. 人物
ギリェルメは流暢なロシア語を話すことができる。2009年12月12日、自身の誕生日にブラジル人女性と結婚した。また、かつてのブラジル代表ゴールキーパーであるジュリオ・セザルを目標とする選手として挙げている。
5. キャリア統計
| クラブ | シーズン | リーグ | 国内カップ | 大陸大会 | その他 | 通算 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ディビジョン | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | 出場 | 得点 | ||
| アトレチコ・パラナエンセ | 2005 | セリエA | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 2006 | セリエA | 0 | 0 | 0 | 0 | - | 0 | 0 | 0 | 0 | ||
| 2007 | セリエA | 18 | 0 | 3 | 0 | - | 0 | 0 | 21 | 0 | ||
| 通算 | 18 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 21 | 0 | ||
| FCロコモティフ・モスクワ | 2007 | ロシア・プレミアリーグ | 0 | 0 | 0 | 0 | - | - | 0 | 0 | ||
| 2008 | ロシア・プレミアリーグ | 0 | 0 | 0 | 0 | - | - | 0 | 0 | |||
| 2009 | ロシア・プレミアリーグ | 17 | 0 | 0 | 0 | - | - | 17 | 0 | |||
| 2010 | ロシア・プレミアリーグ | 30 | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | - | 33 | 0 | ||
| 2011-12 | ロシア・プレミアリーグ | 40 | 0 | 2 | 0 | 8 | 0 | - | 50 | 0 | ||
| 2012-13 | ロシア・プレミアリーグ | 11 | 0 | 0 | 0 | - | - | 11 | 0 | |||
| 2013-14 | ロシア・プレミアリーグ | 6 | 0 | 0 | 0 | - | - | 6 | 0 | |||
| 2014-15 | ロシア・プレミアリーグ | 19 | 0 | 4 | 0 | 2 | 0 | - | 25 | 0 | ||
| 2015-16 | ロシア・プレミアリーグ | 30 | 0 | 0 | 0 | 8 | 0 | 1 | 0 | 39 | 0 | |
| 2016-17 | ロシア・プレミアリーグ | 29 | 0 | 4 | 0 | - | - | 33 | 0 | |||
| 2017-18 | ロシア・プレミアリーグ | 23 | 0 | 0 | 0 | 7 | 0 | 1 | 0 | 31 | 0 | |
| 2018-19 | ロシア・プレミアリーグ | 30 | 0 | 5 | 0 | 6 | 0 | 1 | 0 | 42 | 0 | |
| 2019-20 | ロシア・プレミアリーグ | 24 | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 1 | 0 | 30 | 0 | |
| 2020-21 | ロシア・プレミアリーグ | 25 | 0 | 4 | 0 | 6 | 0 | 1 | 0 | 36 | 0 | |
| 2021-22 | ロシア・プレミアリーグ | 19 | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | 1 | 0 | 24 | 0 | |
| 2022-23 | ロシア・プレミアリーグ | 3 | 0 | 2 | 0 | - | - | 5 | 0 | |||
| 2023-24 | ロシア・プレミアリーグ | 0 | 0 | 5 | 0 | - | - | 5 | 0 | |||
| 通算 | 306 | 0 | 27 | 0 | 48 | 0 | 6 | 0 | 387 | 0 | ||
| キャリア通算 | 324 | 0 | 30 | 0 | 48 | 0 | 6 | 0 | 408 | 0 | ||
6. タイトルと栄誉
ギリェルメは、そのキャリアを通じて数々のチームタイトルと個人タイトルを獲得している。
6.1. クラブタイトル
- アトレチコ・パラナエンセ
- カンピオナート・パラナエンセ: 2005
- ダラス・カップ: 2004, 2005
- FCロコモティフ・モスクワ
- ロシア・プレミアリーグ: 2017-18
- ロシア・カップ: 2014-15、2016-17、2018-19、2020-21
- ロシア・スーパーカップ: 2019
6.2. 個人タイトル
- ロシア・プレミアリーグ 年間最優秀ゴールキーパー: 2020-21
7. 評価と影響
ギリェルメは、ブラジル出身の帰化選手として、ロシアサッカーにおいて非常に独特で影響力のある地位を確立した。彼は、ロシア・プレミアリーグ初のブラジル人ゴールキーパーとして、その卓越したセーブ能力と安定感で長年にわたりロコモティフ・モスクワの守護神として活躍し、数々のクラブタイトル獲得に貢献した。特に、長期間にわたるトップレベルでの一貫したパフォーマンスは、リーグにおける彼の信頼性と耐久性を示している。
また、旧ソビエト連邦圏外から帰化した選手として初めてロシア代表に選出されたことは、ロシアサッカー界における彼の貢献の大きさを象徴する出来事であった。彼は代表チームの国際大会予選で重要な役割を果たし、イーゴリ・アキンフェエフの引退後の世代交代期において、チームの守備の要として期待された。その貢献は、2020-21シーズンのロシア・プレミアリーグ年間最優秀ゴールキーパー受賞という個人タイトルにも表れている。ギリェルメの存在は、ロシアサッカーの多様性と国際化を象徴するものであり、今後の帰化選手が代表チームで活躍するための道を開いたと言えるだろう。