1. 初期生い立ちと背景
北澤育恵のカーリング選手としてのキャリアは、幼少期からのスポーツ経験と高校時代からの本格的な活動によって築かれた。
1.1. 出生と幼少期
北澤育恵は1996年10月12日に長野県軽井沢町(一部情報源では佐久市)で生まれた。彼女のニックネームは「べーちゃん」または「べぇちゃん」で、これは青森県のゆるキャラ「いくべぇ」に由来するとされている。
1.2. 新体操選手としての経歴
カーリングを始める以前、北澤は中学生時代まで新体操選手として活動していた。この時期に培われた身体能力や柔軟性は、後のカーリング選手としてのプレースタイルにも影響を与えたと考えられる。
1.3. カーリングへの入門
北澤がカーリングを始めたのは14歳の時で、中学時代に新体操から転向した。長野県臼田高等学校の3年生の時に中部電力カーリング部に加入し、高校卒業後には中部電力に入社した。高校時代には、後に中部電力でチームメイトとなる中嶋星奈らと共に「軽井沢ファイヤーボンバー」チームで活動。高校2年時にはスキップとして日本カーリング選手権大会に出場し、2勝を挙げた経験を持つ。
2. 経歴
北澤育恵のカーリングキャリアは、中部電力カーリング部での所属と、チーム内での役割の変遷が特徴的である。
2.1. 所属チームと役割の変化
中部電力カーリング部加入当初、北澤はセカンドのポジションを任されていた。その後、2017年シーズンにはサードへとポジションを移し、さらに2018年シーズンからはセカンドスキップの中嶋星奈のバイス(副スキップ)としてフォースを担当するようになった。この時期には、チームの戦術面で重要な役割を担うようになった。そして2022年からは、チームのスキップを務めている。
2.2. プレースタイル
北澤育恵は、そのプレースタイルにおいて「ソフトウェイトのショットも苦にせず、自身が得意と公言する『速いウェイトのショット』と、柔軟性を合わせ持ったハイブリッドな選手」と評されている。中部電力では、前々スキップの松村千秋や前スキップの中嶋星奈が投げる際にはバイスのポジションも務め、戦術面でチームの参謀としての役割を果たしてきた。
3. 主な成績と大会参加
北澤育恵は、国内大会および国際大会で数々の実績を残している。
3.1. 国内大会
北澤は日本国内の主要なカーリング大会で安定した成績を収め、チームの優勝に貢献してきた。
3.1.1. 日本カーリング選手権大会
日本カーリング選手権大会では、中部電力カーリング部の一員として2度の優勝を経験している。
- 2017年大会では、ラウンドロビンと1位対2位決定戦で藤澤五月率いるロコ・ソラーレに敗れたものの、決勝で藤澤チームを7-5で破り、初の日本選手権優勝を果たした。この優勝を受け、同年9月には2018年平昌オリンピックの日本代表選考を兼ねた日本代表決定戦がロコ・ソラーレ(藤澤五月)と中部電力(松村)の間で行われた。5戦3勝制のこの戦いで、中部電力は最初の2試合を分け合ったものの、その後2連敗を喫し、最終的に1勝3敗で平昌オリンピック出場権を逃した。
- 2018年大会では、準決勝で富士急(小穴桃里)に敗れ、3位となった。
- 2019年大会では、ラウンドロビンを8勝0敗の無敗で通過。再びロコ・ソラーレを1位対2位決定戦で破り決勝に進出。決勝では藤澤五月チームに対し、第5エンドで4点を奪い、第6エンドで3点をスティールするなどして、2度目の日本選手権優勝を飾った。
- 2020年大会では、ラウンドロビンを8勝0敗で無敗通過したものの、1位対2位決定戦でロコ・ソラーレに敗れた。準決勝では北海道銀行フォルティウス(吉村紗也香)に勝利したが、決勝ではロコ・ソラーレに延長エンドの末6-7で惜敗し、準優勝となった。
- 2021年大会では、ラウンドロビンを4勝2敗で通過し3位対4位決定戦に進出。富士急を破ったが、準決勝で北海道銀行フォルティウスに敗れ、3位となった。
- 2022年大会では、ラウンドロビンを6勝2敗で通過し、3位シードでプレーオフに進出。3位対4位決定戦で北海道銀行フォルティウス(吉村紗也香)に12-2で勝利し、準決勝では北海道銀行(田畑百葉)を7-5で破ったが、決勝でロコ・ソラーレに3-7で敗れ、準優勝となった。
- 2023年大会では、ラウンドロビンを6勝2敗の2位で通過したが、1位対2位決定戦でロコ・ソラーレに、準決勝でSC軽井沢クラブ(金井亜翠香)にそれぞれ敗れ、3位となった。
- 2024年大会でも3位に入賞している。
3.1.2. その他の国内大会
- 中部カーリング選手権では、2015年と2017年に優勝、2016年には準優勝を記録している。
- 北海道銀行カーリングクラシックでは、2018年に準優勝、2021年と2022年には3位に入賞している。
- アドヴィックスカップでは、2019年に準優勝を果たした。
3.2. 国際大会
北澤は日本代表として世界選手権や太平洋・アジア選手権に出場し、国際舞台でも活躍している。
3.2.1. 世界女子カーリング選手権大会
3.2.2. 太平洋・アジアカーリング選手権大会
- 2019年大会では、中国の深圳で開催された太平洋・アジアカーリング選手権大会に日本代表として出場。ラウンドロビンを6勝1敗で終え、準決勝で香港を破ったが、決勝で中国の韓雨チームに敗れ、銀メダルを獲得した。
3.2.3. ワールドカーリングツアー大会
北澤のチームは、ワールドカーリングツアーの様々なイベントにも参加し、好成績を収めている。
- 2016-17シーズンには、カナディアン・インズ・ウィメンズ・クラシックでレイチェル・ホーマンに決勝で敗れ、準優勝となった。
- 2018-19シーズンには、北海道銀行カーリングクラシックで決勝に進出し、レッドディアカーリングクラシックと軽井沢国際カーリング選手権大会では準決勝に進出した。
- 2019-20シーズンには、インターナショナル・ベルニーズ・レディース・カップで準決勝に進出した。
- 2022-23シーズンは、カナダでのツアーで特に成功を収め、サヴィル・シュートアウトで準々決勝に進出した。その後、アルバータ・カーリング・シリーズ・メジャーとKWフォールクラシックで連続優勝を果たした。さらに、プレステージ・ホテルズ・アンド・リゾーツ・カーリングクラシック、ドライビング・フォース・デック・インターナショナル・アボッツフォード・キャッシュピール、アルバータ・カーリング・シリーズ第4戦で決勝に進出した。
3.2.4. グランドスラム大会
カーリングの最高峰とされるグランドスラム大会にも出場している。
イベント | 2023-24 | 2024-25 |
---|---|---|
ツアーチャレンジ | T2 | T2 |
カナディアン・オープン | DNP | Q |
マスターズ | DNP | Q |
- T2: ティア2イベント出場
- Q: プレーオフ進出ならず
- DNP: 不参加
3.3. ミックスダブルスカーリング
北澤は混合ダブルスカーリングでも活動しており、2018年3月に開催された日本ミックスダブルスカーリング選手権大会では、SC軽井沢クラブ所属の平田洸介とペアを組み準優勝を果たした。また、臼井慎吾ともペアを組んで活動している。
4. チーム構成の変遷
北澤育恵が選手としてのキャリアを通じて所属したチームのシーズンごとのメンバー構成、ポジション、および主な大会参加記録を以下に示す。
シーズン | スキップ | サード | セカンド | リード | リザーブ | 主な大会 |
---|---|---|---|---|---|---|
2011-12 | 土屋文乃 (s) | 北澤育恵 | 鈴木結海 | 両川萌音 | 上野美優 | JJCC 2011 |
2012-13 | 土屋文乃 (s) | 北澤育恵 | 中嶋星奈 | 両川萌音 | 上野美優 | JJCC 2012 |
2013-14 | 北澤育恵 (s) | 土屋文乃 | 中嶋星奈 | 鈴木結海 | 鈴木みのり | JJCC 2013, JCC 2014 |
2014-15 | 藤澤五月 (s) | 清水絵美 | 松村千秋 | 北澤育恵 | 石郷岡葉純 | JCC 2015 |
2015-16 | 清水絵美 | 松村千秋 (s) | 石郷岡葉純 | 北澤育恵 | KICC 2015 | |
2016-17 | 松村千秋 (s) | 清水絵美 | 北澤育恵 | 石郷岡葉純 | 中嶋星奈 | JCC 2017 |
2017-18 | 松村千秋 (s) | 北澤育恵 | 中嶋星奈 | 石郷岡葉純 | 清水絵美 | JCC 2018 |
2018-19 | 中嶋星奈 (s) | 松村千秋 | 中嶋星奈 (s) | 石郷岡葉純 | 清水絵美 | JCC 2019, WWCC 2019 |
2019-20 | 中嶋星奈 (s) | 松村千秋 | 中嶋星奈 (s) | 石郷岡葉純 | 清水絵美 | PACC 2019 |
2020-21 | 中嶋星奈 (s) | 松村千秋 | 中嶋星奈 (s) | 石郷岡葉純 | 鈴木みのり | JCC 2021 |
2021-22 | 北澤育恵 (s) | 中嶋星奈 | 鈴木みのり | 石郷岡葉純 | 松村千秋 | JCC 2022 |
2022-23 | 北澤育恵 (s) | 中嶋星奈 | 鈴木みのり | 石郷岡葉純 | 松村千秋 | JCC 2023 |
2023-24 | 北澤育恵 (s) | 中嶋星奈 | 江並杏実 | 鈴木みのり | 石郷岡葉純 | JCC 2024 |
(s)...スキップ
5. 個人生活
北澤育恵は、カーリング選手としての活動と並行して、中部電力パワーグリッド佐久営業所に会社員として勤務している。