1. 生涯と背景
アリハーン・トラの生涯は、中央アジアの激動の時代と密接に結びついており、彼の思想と行動は、その地域の歴史に大きな影響を与えた。
1.1. 出生と初期の生涯
アリハーン・トラは1884年3月21日に、当時ロシア帝国領であったキルギスのトクマク(かつてはバラスグンとしても知られる)で生まれた。青年期には、ブハラでクルアーンや医学を深く学んだ。この初期の教育は、彼の後の宗教的および政治的活動の基盤となった。
1.2. ソ連での活動と新疆への移住
1924年、アリハーン・トラはソビエト連邦の治安当局によって、非合法のイスラム教団体を組織した罪で逮捕された。しかし、彼はその後釈放され、1927年にはソ連を脱出して中華民国領の新疆地域、特にカシュガル市に移住した。新疆でも彼の活動は続き、1937年には盛世才によって再び逮捕されたが、1941年には釈放され、グルジャ市でイマームとして活動を開始した。
2. 主な活動と功績
アリハーン・トラの生涯で最も重要な功績は、第二次東トルキスタン共和国の樹立とその指導者としての役割である。彼は民族自決の精神に基づき、東トルキスタンの独立のために尽力した。
2.1. 第二次東トルキスタン共和国の樹立
1944年4月、アリハーン・トラはアブドゥルキリム・アバソフを含む10人の同志と共に、グルジャ市で新疆解放戦線を組織した。この組織の目的は、中華民国の国民政府による支配からの独立と、独立した東トルキスタンの樹立であった。同年11月11日、彼らはソビエト連邦の支援を受けて大規模なイリ反乱を勃発させた。反乱は成功し、翌11月12日には解放戦線がグルジャ市を制圧し、第二次東トルキスタン共和国の独立を宣言した。アリハーン・トラはこの新国家の初代主席に選出された。
2.2. 大統領および軍指導者として
第二次東トルキスタン共和国の初代主席として、アリハーン・トラは政治的リーダーシップを発揮した。1945年4月8日には、国家の防衛を担う東トルキスタン国民軍(イリ民族軍)を創設し、自身も元帥の称号を授与され、その軍事的活動を指揮した。
2.3. 政治的決断
1945年9月、アリハーン・トラが指揮するイリ民族軍は、ウルムチ市への侵攻を開始し、国民革命軍を敗走させるなど連勝を重ねた。しかし、同年10月14日に国民政府とソビエト連邦政府の間で和平交渉が開始され、ヨシフ・スターリンはイリ民族軍に対しウルムチ攻撃を停止するよう命令した。この命令に対し、第二次東トルキスタン共和国の他の政府幹部が従ったのに対し、アリハーン・トラは唯一スターリンの命令に反対し、攻撃継続を主張した。この政治的決断は、彼の独立への強い意志を示すものであった。
3. 失脚と亡命生活
アリハーン・トラの政治的活動は、ソビエト連邦の介入によって突然の中断を余儀なくされ、彼は故郷を離れて亡命生活を送ることとなった。
3.1. ソ連への強制送還と軟禁
1946年6月12日、ウルムチで第二次東トルキスタン共和国と蔣介石率いる国民党との間で和平合意が締結された。この合意は、1945年10月14日に蔣介石の平和的解決提案に基づき、ソ連の仲介で始まった8ヶ月にわたる交渉の末に成立したものであった。しかし、そのわずか6日後の6月18日、アリハーン・トラはKGBによって強制的にソビエト連邦に送還され、ウズベク・ソビエト社会主義共和国のタシュケントに自宅軟禁された。彼は残りの人生を自宅軟禁状態で過ごし、自由を制限された期間を過ごした。
3.2. 執筆活動
タシュケントでの亡命生活と軟禁状態の中、アリハーン・トラは執筆活動に専念した。彼は自身の回顧録である『トルキスタンの悲劇』(Türkistan kaygısıテュルキスタン・カイグスィウイグル語)を執筆した。この作品は、彼の故郷である新疆(東トルキスタン)の歴史と、彼が経験した民族の苦難について記されており、その地域の歴史的、政治的状況を理解する上で重要な資料となっている。また、彼は他にも『Tarihiy Muhammadiy』や『Drifter Saghuniy』といった作品を残している。
4. 死去
アリハーン・トラは1976年2月28日に、軟禁されていたウズベク・ソビエト社会主義共和国のタシュケントで病死した。彼の死は、東トルキスタン独立運動における一つの時代の終わりを告げるものであった。
5. 評価と影響
アリハーン・トラは、第二次東トルキスタン共和国の初代主席として、東トルキスタンの民族自決運動において中心的な役割を果たした。彼はヨシフ・スターリンの命令に唯一反対した人物であり、その独立への強い意志と妥協しない姿勢は、後世において高く評価されている。彼の著書、特に『トルキスタンの悲劇』は、東トルキスタンの歴史と民族の苦難を伝える貴重な記録として、現在も研究者や民族運動の支持者によって参照されている。彼の思想と行動は、その後の東トルキスタンにおける民族意識の形成と、独立を求める運動に大きな影響を与え続けた。
6. 著作
アリハーン・トラが残した主要な著作は以下の通りである。