1. 幼少期
アルトゥール・バフラミ・ダヴチャン (Արթուր Վահրամ Դավթյանアルトゥール・ヴァフラム・ダヴチャンアルメニア語) は、1992年8月8日にアルメニアの首都エレバンで生まれました。彼は1998年、7歳の時に体操競技を始めました。その才能を認められ、2008年には17歳でアルメニア男子体操競技ナショナルチームのメンバーとなりました。アルトゥールには、同じくナショナルチームのメンバーである兄弟のヴァハグン・ダヴチャンがいます。
2. 経歴
ダヴチャン選手は、ジュニア時代からその才能を開花させ、数々の国際大会で頭角を現しました。シニア転向後も、彼の競技キャリアは着実に発展し、オリンピック、世界選手権、ヨーロッパ選手権といった主要大会で目覚ましい成果を上げ、アルメニア体操界の歴史に名を刻むことになります。
2.1. ジュニア時代
2009年、ダヴチャン選手はフィンランドのタンペレで開催されたヨーロッパユースオリンピックフェスティバルに出場しました。この大会で、彼はチームメイトのバハン・ヴァルダニャン、アルトゥール・トヴマシャンと共に、団体種目で23チーム中6位という成績を収めました。個人競技では、個人総合で6位、跳馬で7位、平行棒で6位、つり輪で9位となりました。
その1年後、イギリスのバーミンガムで開催されたジュニアヨーロッパ選手権において、ダヴチャン選手は跳馬で15.462点を獲得し、見事チャンピオンに輝きました。また、つり輪で13.975点を記録して4位、平行棒で9位、あん馬で7位の成績を収めました。
2.2. シニア時代
ダヴチャン選手は2011年、ドイツのベルリンで開催された2011年ヨーロッパ体操競技選手権でシニア部門デビューを果たし、全ての種目に参加しました。この選手権はアルメニアの選手にとって成功を収め、彼は最年少ながら個人総合で20位となりました。他の種目では、予選を通過することはできませんでしたが、跳馬では14位と最高の結果を残しました。
2.2.1. オリンピック
ダヴチャン選手は、これまでに3度の夏季オリンピックに出場しています。
- 2012年ロンドンオリンピック**: 2012年1月にロンドンで開催された国際予選大会に出場し、跳馬で15.450点を獲得して2位、個人総合で84.2点を獲得して12位となり、この結果によりオリンピックへの出場権を獲得しました。しかし、本大会では足の負傷により予選を突破することができませんでした。
- 2016年リオデジャネイロオリンピック**: 跳馬の予選で11位となり、補欠3番手として出場は叶いませんでした。
- 2020年東京オリンピック**: 日本の東京で開催された2020年東京オリンピックの男子跳馬において、銅メダルを獲得しました。これはダヴチャン選手にとって初の個人種目でのオリンピックメダルであり、アルメニアが体操競技で獲得した初のオリンピックメダルでもあります。また、このメダルは2020年東京オリンピックでアルメニア選手団が獲得した最初のメダルとなりました。
- 2024年パリオリンピック**: フランスのパリで開催された2024年パリオリンピックの男子跳馬において、銀メダルを獲得しました。このメダルは2024年パリオリンピックでアルメニア選手団が獲得した最初のメダルとなりました。
2.2.2. 世界選手権および欧州選手権
ダヴチャン選手は、世界体操競技選手権およびヨーロッパ男子体操競技選手権において数々のメダルを獲得しています。
- 2011年ヨーロッパ体操競技選手権**(ベルリン):シニア部門デビュー。個人総合20位、跳馬14位。
- 2013年ヨーロッパ体操競技選手権**(モスクワ):跳馬で銅メダルを獲得。
- 2016年ヨーロッパ男子体操競技選手権**(ベルン):跳馬で銀メダルを獲得。
- 2021年ヨーロッパ体操競技選手権**(バーゼル):あん馬で金メダルを獲得。
- 2022年ヨーロッパ男子体操競技選手権**(ミュンヘン):跳馬で銀メダルを獲得。
- 2022年世界体操競技選手権**(リバプール):跳馬で金メダルを獲得し、世界チャンピオンに輝きました。
- 2023年ヨーロッパ体操競技選手権**(アンタルヤ):跳馬で金メダル、あん馬で銅メダルを獲得。
- 2024年ヨーロッパ男子体操競技選手権**(リミニ):跳馬で銀メダルを獲得。
2.2.3. その他の主要大会と業績
ダヴチャン選手は、オリンピックや世界・ヨーロッパ選手権以外の主要国際大会でも顕著な成績を残しています。
- 2012年FIG体操ワールドカップシリーズ**(ドーハ):跳馬で15.725点を獲得し2位、あん馬で14.575点を獲得し4位となりました。また、この大会でダイアナ・ブリマーと共に、ドーハワールドカップの最優秀若手体操選手に贈られるアスパイア・アカデミー賞を受賞しました。
- 2015年FIG体操ワールドカップシリーズ**(ドーハ):跳馬で金メダル、つり輪で銀メダル、あん馬で銅メダルを獲得しました。
- 2017年FIG体操ワールドカップシリーズ**(ドーハ):跳馬で銀メダル、あん馬で銅メダルを獲得しました。
- 2017年FIG体操ワールドカップシリーズ**(パリ):つり輪で8位、跳馬で6位。
- 2019年ヨーロッパ競技大会**(ミンスク):跳馬で金メダルを獲得し、ヨーロッパ競技大会のチャンピオンとなりました。
- 2019年FIG体操ワールドカップシリーズ**(ドーハ):跳馬で銅メダルを獲得。
- 2021年カイロワールドカップ**(カイロ):あん馬で新しい要素を披露し、この技は彼の名にちなんで「ダヴチャン」と正式に命名され、国際体操連盟に登録されました。
その他、2022年、2023年、2024年のコットブスワールドカップ、2022年、2023年のドーハワールドカップ、2023年、2024年のカイロワールドカップ、2023年のヴァルナチャレンジカップ、2023年のオシエクチャレンジカップなど、数多くのワールドカップシリーズに出場し、安定した成績を収めています。
3. 競技成績
アルトゥール・ダヴチャン選手の主要大会における競技成績は以下の通りです。
年 | 大会 | 団体 | 個人総合 | ゆか | あん馬 | つり輪 | 跳馬 | 平行棒 | 鉄棒 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ジュニア | |||||||||
2009 | ヨーロッパユースオリンピックフェスティバル | 6 | 6 | 5 | 8 | 6 | |||
2010 | |||||||||
ヨーロッパ選手権 | 19 | - | 7 | - | |||||
シニア | |||||||||
2011 | |||||||||
ヨーロッパ選手権 | 20 | ||||||||
世界選手権 | 95 | ||||||||
2012 | オリンピックテストイベント | 36 | 6 | ||||||
ドーハチャレンジカップ | - | ||||||||
オリンピック | 36 | ||||||||
2013 | ドーハチャレンジカップ | - | |||||||
ヨーロッパ選手権 | 8 | - | |||||||
2014 | ドーハチャレンジカップ | - | |||||||
ヨーロッパ選手権 | 35 | ||||||||
世界選手権 | 44 | ||||||||
2015 | ドーハチャレンジカップ | - | - | - | |||||
ヨーロッパ選手権 | 4 | 4 | |||||||
世界選手権 | 32 | ||||||||
2016 | ドーハチャレンジカップ | 4 | |||||||
オリンピックテストイベント | 13 | ||||||||
ヨーロッパ選手権 | - | ||||||||
オリンピック | 予選11位で補欠3番手 | ||||||||
2017 | ドーハワールドカップ | 4 | - | - | 8 | ||||
ヨーロッパ選手権 | 6 | 5 | |||||||
夏季ユニバーシアード | 5 | 4 | 7 | ||||||
パリチャレンジカップ | 8 | 6 | |||||||
世界選手権 | 13 | ||||||||
2018 | |||||||||
ヨーロッパ選手権 | 予選9位で補欠1番手 | ||||||||
世界選手権 | 32 | 9 | 7 | ||||||
2019 | ドーハワールドカップ | - | |||||||
ヨーロッパ選手権 | 8 | ||||||||
ヨーロッパ競技大会 | 5 | 6 | - | ||||||
世界選手権 | 37 | ||||||||
2021 | |||||||||
ヨーロッパ選手権 | - | 6 | |||||||
オリンピック | - | ||||||||
2022 | コットブスワールドカップ | - | |||||||
ドーハワールドカップ | - | ||||||||
カイロワールドカップ | 7 | - | 6 | ||||||
ヨーロッパ選手権 | 6 | - | |||||||
世界選手権 | - | ||||||||
2023 | コットブスワールドカップ | - | |||||||
ドーハワールドカップ | - | ||||||||
カイロワールドカップ | 7 | - | |||||||
ヨーロッパ選手権 | 4 | - | - | ||||||
ヴァルナチャレンジカップ | 6 | - | - | - | 5 | ||||
オシエクチャレンジカップ | - | - | 8 | ||||||
世界選手権 | 個人総合決勝から棄権 | 6 | |||||||
2024 | カイロワールドカップ | - | |||||||
コットブスワールドカップ | - | ||||||||
ヨーロッパ選手権 | - | ||||||||
オリンピック | - | ||||||||
ヴォロニンカップ | - | - | - | - | - | - | |||
2025 | コットブスワールドカップ | - |
4. 評価と影響
アルトゥール・ダヴチャンは、アルメニアの体操競技において、その歴史に名を刻む選手として高く評価されています。彼が獲得したオリンピックメダルは、アルメニア体操界にとって初の快挙であり、国際的な舞台におけるアルメニアのプレゼンスを大きく高めました。特に、2020年東京オリンピックでの銅メダルと2024年パリオリンピックでの銀メダルは、単なるスポーツの勝利に留まらず、アルメニア国民にとっての誇りと希望の象徴となりました。彼の功績は、若い世代の体操選手たちに大きなインスピレーションを与え、アルメニアにおける体操競技の人気と発展に貢献しています。
さらに、あん馬の新技「ダヴチャン」が国際体操連盟に公認されたことは、彼の技術力と創造性が、世界の体操競技の進化に直接的に影響を与えた証です。彼は、アルメニアの厳しい訓練環境の中で、粘り強い努力と卓越した才能によって、世界のトップレベルで戦い続けることを証明しました。ダヴチャン選手の活躍は、スポーツを通じて国家のイメージを向上させ、国際社会におけるアルメニアのポジティブな認知を高める上で重要な役割を果たしています。
